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有給休暇は異世界で
有給休暇は異世界で
Author: 大正

第1話:世は大有休時代

Author: 大正
last update publish date: 2026-04-14 17:14:48

「小鳥遊主任、いい加減有給消化してくれないもんかな。この際長期でお休みを取るでもいいからさ。当社としても毎回厚労省からの通達で君の名前が筆頭に挙がってくるし、ちゃんと本人には仕事を休んできっちり有給休暇を取得してくれるように頼んでいる、と毎回報告しているものの、実際にきみが有休を取ってくれないと困るんだよ」

 上司である係長の中上からの叱責が飛ぶ。今の世の中は効率こそが第一。残業や日曜出勤でいたずらに有給期間を増やし、または有給休暇を消費せずにため込んでおくことはこの際美徳ではなく悪徳とされる時代になっていた。

「もう少しだけ待っていただけませんか。今、私抜きでも仕事が間に合うようにマニュアルの作成の真っ最中で、もう少しでマニュアルの実装テストが終わるところなのです。業務と無関係な人員を配備してくださって、その人員がマニュアルを読んだだけで実行できるようになればそれで私の部下の業務をほぼすべて任せることができるようになります」

「わかった、その手配はしておこう。別部署から適当に一名、一日借りてきてそのマニュアル通りに仕事ができるかどうか試せばいいんだな? 」

 中上がメモを取り、「人員確保、一名、小鳥遊主任と別部署から」と的確にメモを取る。そのメモを取った手を横目でさっと見て、安堵する。これでようやく休めるようになるのかな、と。

「はい、お願いします。そうなればようやく溜まった有休に手を付けることもできるようになる、というところに達することができます」

「しかし、普段の仕事に加えてマニュアル作成までやらせてしまってすまないな。おかげで君の有休はたまりっぱなしだ。本来なら許されないことなのだが……残業ついでに他の仕事まで任せてしまっている現状はよくわかっているつもりだ。君もこの仕事が終わったらゆっくりできるはずだから、その間持たせるように手はずは整えておく。でもまさか、君がそこまで有休を取らずに働いているのは、何か野望でもあるのかね? 有休を盛大に使って世界旅行をしてみたいとか、豪華客船で世界周遊をしてみたかったとか、そういうものが」

 中上としては、きちんと有給休暇を使う意思があるのを今再確認したので、次に厚労省から有休の未使用事故情報がある人へのランクインはなんとか逃せるようになるようにはなるだろう。

「では、失礼します。引継ぎマニュアルの続きを書きに向かいますので。引継ぎマニュアルのほうはでき次第中上係長の共有フォルダにアップロードしておきますので、出来上がり次第お声がけしますのでご一読をお願いします」

「ああ、わかったよ。それでは、仕事がまとまり次第小鳥遊主任には有給休暇をまとめて取得してもらうことになる。その間の仕事のつなぎと部下への仕事マニュアル化、それから……色々だ、とにかく頼んだからね」

 小鳥遊正明、主任、43歳。この二日後、無事にマニュアルの稼働が可能であることを承認され、現場から離れ、長期有給休暇の消化を始める。

 有休残り期間:320日。厚労省有休ブラックリスト上位者の孤独な有給消化が始まる。

「さて、何をしようかな。有休消化と言われてもな。寝て起きて終わるだけでは面白くないし、何か面白い体験でもしたいところだな……そういえば有休消化案内所から、妙なパンフレットが来ていたな。特別プランとか書いてあったがいったい何だろう」

 ◇◆◇◆◇◆◇

 20XX年、国会にて通称、有休強制消化法案が成立した。これまでは買取か消滅で有給休暇を取らずにごまかしていた企業、機関、特別公務員、研究職も含めて、すべての人々はこれまで見逃されていた残業規制の壁や法的前提を取っ払われた。

 その結果、すべての代休や残業時間分を有給休暇に換算され、その有給休暇を強制的に消化させられることになった。残業手当こそ出なくなったものの、残業にかかった時間の二割五分増しの時間を有給休暇として付与する義務が生じた。これにより、カラ残業を行う労働者が激減したため企業の負担も若干減るところがあった。

 それに伴い、これまで有給休暇を消化させたフリをしていた会社などが一斉に検挙され、厚生労働省を筆頭にかなりの数の機関や法人がメディアに取り上げられ、世の人々はこれが労働層に対する社会のアプローチの形として歓迎される運びとなった。

 世間は労働者不足で嘆いている中でこのような法案を通すのはいかがなものか、という企業側からの圧力もあったが、労働者が不足しているからこそ手厚いケアが必要であり、労働者への適切な支援により、長持ちするのは機械も人間も同じである、という労働者擁護の意識が出始めた。

 ちなみにこの法案は特別公務員にも適用されたため、質問通告を待って深夜まで待機している官僚もいなくなり、一部野党では質問ができなくなった結果適切な国会運用ができるようになったという体感もあったため、官僚側からの感想もなかなかいい法案を通してくれた、ということが伝わってくることになった。

 さて、ここで一つ問題が生じることになる。有休をどうやって消化させるのか? という点である。有休である以上好きな時に好きなタイミングで取ることができるため、有休の上限であった40日をはるかに超える長さの有休のため込みが法的に許可され、人々はこれまで残業時間で鎖の長さを自慢していたが、今後はそれが有給日数に変わっただけではないのか? という疑問点が湧くのだろう。

 しかし残業日数は適切に処理していくべし、とのお達しにより、一年分溜めてまとめて旅行に行くであるとか、高級列車で回る国内一周旅行や海外旅行、世界一周旅行などに有給休暇を使い始めるものもあらわれ、世の中は「いかにして質の良い有休を消化するのか? 」というのがトレンドになった。

 巷には有休を効率的に利用するための施設や有休ファイナンシャルプランナーなどの新たな職業も生まれ始め、世の中には有給休暇消化案内所(通称ハローホリデイ)などが作られ、有給休暇をどう過ごしていくのか、というトレンドに対する答えも出回り始めた。

 本記事では今後も参考になる有休の使い方などがあれば順次紹介していくものである。なお、先日の私の有休の使い方はラーメン屋を何軒はしごできるか、ということに一日を費やし、12軒の記録を打ち立てた。大盛りでなければ何とかなるもんだな、と思った次第である。

 ~月刊金銀パール:世は大有休時代! より抜粋~

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