Mag-log in有給休暇開始一日目。早速有給休暇消化案内所。横文字でハローホリデイ、通称ハロホに行ってみることになった。ハロホには公共のものから私的なものもあり、様々なサービスを受けることができるようになっている。
もちろん、有給休暇であるのでその間も給料は出ている。ここぞという時のためにお金も有休も溜めて一気に使い切る豪快な使い道もあるらしいが、そこまで高い給料をもらっているわけではない俺としては自分の給料でできる範囲で休みが楽しめるならそれに越したことはない。
それに、何より休みは仕事と違って何をするにも金がかかる。何でもかんでも過剰労働の対価が有給という数字にカウントされるようになって以来、ぎりぎりの人生しか送っていない。そんな中で有給を盛大に使う……と言っても、やれることに限度はかなりある。
そういった悩みの多い人のために開かれているのが各ハロホのサービスだ。ハロホには政府から補助金が出ていて、有給休暇を積極的に使わせることに協力することでその補助金の多寡が変動するらしい。
そのため、企業としてハロホを運営するサービスも増え、他人を休ませることで金を得る、という癒しの一環としての新たな職業の芽生えも起きたわけだが……やっていることのほとんどはツーリズムやゲームのベータテスターなど、遊びという点で言えば確かに楽しい有休の使い方であろうことはわかるんだが、俺にはピンとこなかった。
そんな中、上司から言われていた通り、厚労省が把握する有給未消化ブラックリストでもそこそこの上位に載り続けていたのをどこから聞きつけたのか、しきりにハロホからの資料やこんなことができます! などのサービス提供の申し出があったのだ。
そこに書いてある特別プランというのが気になったのでこの際、休みを利用して快適な休みが取れるように……あれ、なんかおかしいな。まあいいや。細かいことは気にせずに特別プランを利用させてもらおうと思い電話で予約し、名前を告げたところで大騒ぎが始まった。
どうやらブラックリストに入っている人の有給消化に効果的に貢献した企業はかなりの補助金が下りるとかで、俺が話を聞きたいというだけでも従業員一同お待ちしておりますとの盛大なお迎えの言葉をいただいた次第だ。
早速企業ハロホである株式会社アザーワールドに向かうと、盛大な出迎えという言葉通り、全従業員が立ち上がって「小鳥遊様、お待ちしておりました」と一斉に歓迎された。どうやら、有休をため込めばその分豪華になっていくらしい。もしかしたら400日ぐらい溜めこんでいたら、リムジンでお出迎えサービスなんてされていたのかもしれないな。
「早速ですが小鳥遊様。本日はどのようなプランを選択なさいますか。小鳥遊様でしたらどのようなプランでもご用意することが可能になっております」
パンフレットをずらっと並べて、お好きなものをお受け取りくださいと言わんばかりのラインナップに一瞬たじろぐ。豪華客船123日の旅……それでも残り190日ぐらいあるな。世界二周しろってことだろうか。さすがにそれは飽きる。
それ以外に、無人島生活180日というものもある。文明圏から離れて最低限の支援が受けられるところで、世の中の不条理や生活から離れて何かを悟るために生きていくんだろうか。
「あの、このチラシに挟まっていた特別プランというのはもうなくなってしまったんでしょうか? 」
会社から送られてきていたプランを差し出してみる。すると、担当者の……神崎さんの目の色が変わる。
「そのチラシは……ちょっとお待ちください。確認してまいります」
神崎さんは特別プランのチラシを持ったまま上司に当たる人に確認しに行った様子だ。しばらく他のチラシでも見て待っていよう。
山や海でのサバイバル体験やバンジージャンプ挑戦、近所の遊園地周遊チケットなど、いろんなものがあるな。しかし、どれもピンとこない。この山のように積もった有給休暇というものを消費しなければ俺は仕事に出れない。俺は仕事に戻るために仕事を休まなければいけないのだ。
この不条理……いかにすれば解決できるのか。そして俺は、有休を消化する間、仕事をせずにいられるのか。何かしら仕事をしていないと落ち着かない性分上仕方ないのかもしれないが、すでに仕事をしたくてたまらない自分がいる。
「お待たせしました小鳥遊様。こちらのプラン……ご提案できます」
神崎さんが溜めた後で提案できるとの話らしい。何がどのように特別なのか、その洗いざらいを話してもらおう。
「で、特別プランというのは、いったい何がどう特別なのですか? 」
「こちらのプランですが、限定一名様しかご案内できない特別サービスになっておりまして……実は、異世界に行けます」
また、溜めた後、話を前に進めてくれた。
「異世界? 異世界ってぇと、アニメや小説で時々話題になるような異世界? 」
「はい、その異世界で合ってます。この場合は異世界に移動していただくので、異世界転移ということになりますね」
「そんなことできるの? 」
「ここだけの話なんですが……できちゃいます」
神崎さんは溜めて話すのがお好きな人らしい。
「詳しい話を聞かせてもらってもいいですか? 本当に行けるなら有休全部使って仕事しに……いえ、遊びに夢中になるかもしれません」
「今仕事しにって言いませんでした? 」
「いえ、気のせいです。それより、詳細をよろしくお願いします」
「そうですか、わかりました。内容は、私たちの企業の力である一つの異世界に旅立ってもらって……そこで自由に暮らしてもらいます」
自由に……ね。制約とかそういうものはないのかな。
「向こうでの活動をするためにお金ですとか、そういうものが必要になるとは思うのですが」
「そこはですね……当社の力で、有休で得た給与を換金してあちらの世界のお金として使ってもらうことができます。およそ相場から言って、こちらで生活する10倍ほどの贅沢ができることになっちゃいます。経済は大事ですからね、そこはしっかりサポートさせていただきます」
異世界で生活するほうが楽に生活ができるってことか。それはありがたいな。仮にほぼ丸一年向こうで生活をするということになっても、生活資金は二カ月分ぐらいしか消費しなくていいってことになるのか。
「しかし、なんで異世界になんて行けるんですか? もっと大っぴらに宣伝すればお客さんも増えるんじゃないでしょうかねえ」
「それはですね……企業秘密だからです」
また溜めて言う。しかし、気軽に異世界旅行か。行ってみるのは悪くないだろうな。
食事を終えた後、宿の部屋に戻る。メリーさんにはちゃんと今日から二人になるけど追加料金が必要かどうかを確認しておく。 どうやら一部屋いくらの計算らしく、よほどうるさくしたり人数を詰め込んだりしない限りは人数としてカウントしないらしい。それにセルフィはまだ子供でもあるし、子供で一人にカウントするのは問題だ、ということのようだ。ここはメリーさんの温情に感謝だな。 部屋に戻り、まだ何もない部屋に移動すると、さっそくセルフィと正面に向かって話し始める。こっちは椅子に座って、セルフィはベッドに腰かけて、足をブランブランさせながらこっちに向いて話しかけ始める。「ご主人様は、私の親戚の人ではないですよね? 」 セルフィが、確信を突いた一言を真っ先に向けてくる。「なぜそう思うんだ? 」「私の親戚は私とみんな肌の色が同じでした。ご主人様は私ほど日焼けしたお肌をしていません。それなのに、どうして親類縁者だと言い張れるのでしょうか。ご主人様の持っていたカンテイのおかげなのでしょうか」 さてネタ晴らしをしていくか。「鑑定の結果なのは間違いない。そして、君が俺とは血のつながりがないのも確かだ。だが、間接的に関係はある」「間接的に……というと、どういう意味なのでしょう」「君の先祖と俺とは同郷……同じ国の生まれなんだ。ここではない、特殊な生まれでな。かくいう俺も、あと300と18日すれば元の国に帰らなければならない」「じゃあ、また私はそれだけの時間が過ぎたら捨てられて奴隷に逆戻りということになるんですか? 」「そうならないように、それまでにセルフィ一人で暮らしていけるように色々教えていくつもりだ。といっても、俺も教わる側ではあるんだが……そこでイアンちゃん」「え、私ですか? 」 自分の話になると思っていなかったイアンちゃんが驚いて自分を指さしている。「冒険者として立派にやり遂げられていくかどうか、イアンちゃん目線で確認してほしい。もし俺かセルフィ、どちらかが冒険者としてや
話し合いが終わり、さっきまでいた店員を呼びに奥へ顔を出す。「すまない、話し合いが終わった。この子を買い取ることにしたい。いくらだ」「そうですか。お決めになりましたか。この子は……正直なところ性格も暗く、まだ幼いのでこれから育つ分も考えると……金貨4枚というところでしょうかね」 指を4本、差し出してきた。「ちなみになんだけど、人が一年間生活するのにいくらぐらいかかる? 」 小声でイアンちゃんに確認する。「そうですね、家がある前提だと金貨2枚ってところでしょうか。なので人一人分としてはかなりお安い値段になってると思いますよ」「なるほど、ここからさらに値切るかが俺の腕にかかってるわけだな」「どうするつもり……あ」 イアンちゃんは気がついたらしい。そう、俺には鑑定がある。奴隷をそれぞれ鑑定して値札をつけさせることによって、商売上の売り文句になるってわけだ。どんなスキルを持っているかわからない奴隷より、はっきりわかっている奴隷のほうが売れ行きが良くなるんじゃないか。「さて、金貨4枚用意できますか? 」「用意できる。それはさておき、ちょっとした商売の話をしないか? 」「ほう、商売ですか。どのようなものをお出しできるのですか? 」「俺は鑑定のスキルを持っている。バアさんたちみたいに固定で居るわけでもなく、それらのスキルを人数分、書き出すことも可能だ」「なるほど、奴隷に値札をつけてくれるってことですか。……それはなかなか魅力的な相談ですね。2人で銀貨1枚ってところでどうですか? 」「それはさすがに安すぎる。出張サービスつけて、3人で銀貨2枚だ。これ以上は譲らん。そっちとしても、奴隷が1人売れてさらに安値で出張鑑定までしてもらえる。これで十分だろ」「んー……そうですね、それで納得しておきますか。では、次々に連れてきても? 」「ああ、さっそく始めよう。紙とペンを頼む。それぞ
奴隷商で茶を出される。ちゃんと商売をしている以上飲み物に何かを混ぜられたりはしていないし、鑑定で鑑定してもただの茶葉……といってもそれなりに値段はするらしいので、これは客だ、と見込まれて出されたことになる。普通なら水か白湯、というところだろう。「さて、まずは奴隷を探しに来た理由を聞こうか」「知り合いの子が昨日奴隷として売られていたのを見た……では理由として薄いか? 」 知り合いではないし、一方的に知っているわけでもない。ただ、出自は俺と同じだろう、ということだけがわかる。そんな微妙な関係だが、知り合いということにしておいたほうがわかりやすいだろう。「いや、よくあることだ。親類縁者が奴隷に落ちていて、救い出すために金を出し合って買い戻すなんてのは日常の内だ。それで奴隷から解放されて、一般人に戻れる奴だっている。買う側としても立派な理由だし、最も多い話ではある。知り合いなことを黙って前を通り、こんな時だけ他人のフリかと罵倒合戦になることだってしょっちゅうある。それに比べれば静かで、そしてまっとうな買い主だと思うね」 冷静に語ってくれる。こっちが商売としては初めてなことも察せられているのだろう。奴隷として買わなくちゃ、と俺が焦っていることも考えると、多少吹っ掛けられる可能性もあるな。ある程度まではRMTで出せるので、手持ちの資金とも勘案してよく考えておこう。「さて……では、昨日仕入れた奴隷を一通り見ていってもらおう。その中にいるんだろう? 」「ああ、見ればわかるはずなので連れてきてほしい」「わかった、ちょっと待っていてくれ」 奥にいったん引っ込むと、中から幾人かの奴隷を連れてきた。奴隷といっても鎖につながれているわけではなく、どうやらシエキジュツ……使役術かな? というスキルにより行動、発言に制限が加えられた状態で存在するため、そういった物理的制約はしなくてよく、反する行動をとろうとした際には強い自己抑制が働き、それにより無理やり押さえつけられるような形で行動が制限されるらしい。 順番に通されてく
翌日、朝日の出とともに目覚める。角部屋で窓にカーテンがないためだが、それにしてもまぶしい部屋だなここ。誰だこんな部屋借りたの……俺か。 二度寝を決め込もうとも考えたが、今日は大事な日だったな。これは寝てはいられないし、微妙に日当たりが良すぎて暑くもなってきそうだ。よし、起きるか。 昨日履いたパンツを、井戸の横に設置されていた、桶と洗濯板で洗う。ここで洗い物していいんだよな……? パンツだけは毎日替えないと気分悪いからな。洗ったパンツは後で干しておこう。 パンツの洗濯が終わったところで部屋に戻って縄を使って……多分、こうしておくためのものなんだろう、という形で干しておく。そもそも服をそう数枚も持つような文化でもなさそうだし、着たきりスズメの人も多いだろう。もしかしたら体をぬぐった後の桶の水で洗濯するような横着者もいるかもしれないしな。 パンツを干したらそのまま顔を洗い、すっきりしたら朝食の時間だ。今日の朝は何かな。同じメニューかな。それとも昨日の残りかな。 食堂に入って朝食を頼むと、朝食も変わらず銅貨8枚。そしてメニューは昨日の残り物。だが、パンが違う。朝食をとる人はそう多くないため、そもそも夕食の残りを提供しているだけにしているらしい。その代わり、パンが多めで白パンをつけてくれた。 店としても、あまりものを出してしまうぐらいなら少しでも消費に手伝ってくれたほうが嬉しいし、これでも利益はちゃんと出ているらしい。パンは店で焼いたものでもないらしく、これも一定量を毎日仕入れているので、もしも売れ残ったら捨てる類のものらしい。 昨日の昼と夕食よりも顎をこき使わずに済んだところで、改めて昨日の奴隷商のところへ出かける。目的は、あの女の子の保護だ。名前も種もわからないが、同じ異世界人として見逃せぬ。一緒に暮らしていくことこそできないだろうものの、せめて奴隷の身分からは解放してやりたい。 だが、そこも本人の意思を確認してからだ。もしかしたら奴隷のままの生活のほうがいいと言い出す可能性だってあるわけだからな。その場合はどうするかな。まずは本人の意見を聞いてから&he
ちゃんと日が落ちる前に南門から街中へ帰る。「お、ちゃんと帰ってきたな、えらいぞ」 門番からはちゃんとお使いできてえらい! と褒められた。40過ぎのおっさんが、だ。でも、新人冒険者には違いないからな。言われたことをきちんと守るのも冒険者の務めなら、今日一日は立派に過ごせたということになる。 にしても、腰を痛めなくてよかったな。最近は歳のせいか、ぎっくりの気配が近寄ってくると、察知できるようになってきたが、今日は中腰仕事を半日してもいつもなら現れるであろうぎっくりの気配がかけらも来なかった。これも異世界転移特典だったりしてな。わはは。 さて、冒険者ギルドに戻って仕事の報告だ。今日の成果をきちんと提出して、その分の報酬をいただかなくてはいけない。 冒険者ギルドに戻り、カウンターへ今日の成果である薬草類とホーンラビットの死体を受付に提出する。「はい、では鑑定していきますね。薬草類は……はい、丁寧に根っこから抜いてくれてありますね。量もそれぞれ問題ありません。ホーンラビットは……綺麗に処理してくれてありますね。ちょっと毛が血で濡れてますけど、このぐらいなら許容範囲です。五体ありますから……はい、OKです。では、ホーンラビット5体、ホルム草16束、ハププ草5束で合計銅貨228枚分になりますので……銀貨2枚、大銅貨2枚、銅貨8枚での支払いになります。問題はありますか? 」「いえ、思ったよりお金になったなと」「そうですね。薬草の品質が良いのと、ホーンラビットが綺麗に血抜きされてるのが高い買取料金の理由ですね。普通は適当に抜いてきていたり、毛皮がボロボロだったりでお金にならないケースがあるんですが、今回はそれらの事情は一切なし、ということでこの金額になります」「そうですか、ではありがたく受け取ります」 食事が三食銅貨8枚として、一泊銀貨1枚だから銅貨80枚分の儲けか。6日繰り返せばショートソード代も捻出できそうだな。いや、明日は奴隷商のところへ行ってあの子を……彼女を救い出す&he
30分待つことなく、武器だけ買いそろえた俺は南門へ向かった。その場で先に待っていたイアンちゃんと合流する。イアンちゃんはさっきより一枚二枚多く着込んだような服装で、頭には軽めの帽子をかぶっていた。 腰にはしっかりナイフを持ち、戦う準備は万端という感じだ。 実際にはもっと重苦しい装備もできたんだろうが、薬草採取ならこのぐらいで大丈夫だろう、という感じだな。「早かったですね。そういえば、武器も持たせずに待ち合わせに来てしまいました。今から急いで武器だけでもそろえに行きますか? 」「いや、アイテムボックスに入れてある。この通り」 アイテムボックスから手の中に滑らかな動きでショートソードを取り出すと、それで納得したのかおおっという声を出して反応する。「あんまり人前でアイテムボックス使いだって見せないほうがいいです。隠しておくほうがいいです」「そうか。あんまり使う人が多くないってことだな」「それもありますが、スリや盗みの犯人だと難癖をつけられることもありますからね。注意してください」 なるほど、俺の財布はこいつのアイテムボックスの中だ、と言いつけるわけか。そのやり口は確かに効果的だな。「じゃあ、外に出ようか。冒険者証を見せれば通行料はいらないんだよね? 」「はいです。私も冒険者証を持ってますから、問題なく通り抜けることができます」 南門を抜け、門を出る際に冒険者証を見せると、登録したてであることを確認される。「日が沈んだら門は閉まるからな。それまでに帰ってくるんだぞ」「はい、お気遣いどうも」「新人が毎回やらかすんでな。新人を見かけたときは一声かけることになっている」 なるほどね。注意喚起ご苦労様。さて、薬草が生えているという茂みのほうまで、少しピクニックと行くか。 行くまでの道中で、冒険者のシステムについてレクチャーしてもらう。冒険者ランクはSSSからFまでの9段階あり、SSSランクには常に一つの冒険者パーティーしか到達できないという厳しい掟と、現段階ではSSSランクは空席であり、空いた椅子をめぐって今S







