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第2話:有給休暇消化案内所

作者: 大正
last update 公開日: 2026-04-14 17:15:06

 有給休暇開始一日目。早速有給休暇消化案内所。横文字でハローホリデイ、通称ハロホに行ってみることになった。ハロホには公共のものから私的なものもあり、様々なサービスを受けることができるようになっている。

 もちろん、有給休暇であるのでその間も給料は出ている。ここぞという時のためにお金も有休も溜めて一気に使い切る豪快な使い道もあるらしいが、そこまで高い給料をもらっているわけではない俺としては自分の給料でできる範囲で休みが楽しめるならそれに越したことはない。

 それに、何より休みは仕事と違って何をするにも金がかかる。何でもかんでも過剰労働の対価が有給という数字にカウントされるようになって以来、ぎりぎりの人生しか送っていない。そんな中で有給を盛大に使う……と言っても、やれることに限度はかなりある。

 そういった悩みの多い人のために開かれているのが各ハロホのサービスだ。ハロホには政府から補助金が出ていて、有給休暇を積極的に使わせることに協力することでその補助金の多寡が変動するらしい。

 そのため、企業としてハロホを運営するサービスも増え、他人を休ませることで金を得る、という癒しの一環としての新たな職業の芽生えも起きたわけだが……やっていることのほとんどはツーリズムやゲームのベータテスターなど、遊びという点で言えば確かに楽しい有休の使い方であろうことはわかるんだが、俺にはピンとこなかった。

 そんな中、上司から言われていた通り、厚労省が把握する有給未消化ブラックリストでもそこそこの上位に載り続けていたのをどこから聞きつけたのか、しきりにハロホからの資料やこんなことができます! などのサービス提供の申し出があったのだ。

 そこに書いてある特別プランというのが気になったのでこの際、休みを利用して快適な休みが取れるように……あれ、なんかおかしいな。まあいいや。細かいことは気にせずに特別プランを利用させてもらおうと思い電話で予約し、名前を告げたところで大騒ぎが始まった。

 どうやらブラックリストに入っている人の有給消化に効果的に貢献した企業はかなりの補助金が下りるとかで、俺が話を聞きたいというだけでも従業員一同お待ちしておりますとの盛大なお迎えの言葉をいただいた次第だ。

 早速企業ハロホである株式会社アザーワールドに向かうと、盛大な出迎えという言葉通り、全従業員が立ち上がって「小鳥遊様、お待ちしておりました」と一斉に歓迎された。どうやら、有休をため込めばその分豪華になっていくらしい。もしかしたら400日ぐらい溜めこんでいたら、リムジンでお出迎えサービスなんてされていたのかもしれないな。

「早速ですが小鳥遊様。本日はどのようなプランを選択なさいますか。小鳥遊様でしたらどのようなプランでもご用意することが可能になっております」

 パンフレットをずらっと並べて、お好きなものをお受け取りくださいと言わんばかりのラインナップに一瞬たじろぐ。豪華客船123日の旅……それでも残り190日ぐらいあるな。世界二周しろってことだろうか。さすがにそれは飽きる。

 それ以外に、無人島生活180日というものもある。文明圏から離れて最低限の支援が受けられるところで、世の中の不条理や生活から離れて何かを悟るために生きていくんだろうか。

「あの、このチラシに挟まっていた特別プランというのはもうなくなってしまったんでしょうか? 」

 会社から送られてきていたプランを差し出してみる。すると、担当者の……神崎さんの目の色が変わる。

「そのチラシは……ちょっとお待ちください。確認してまいります」

 神崎さんは特別プランのチラシを持ったまま上司に当たる人に確認しに行った様子だ。しばらく他のチラシでも見て待っていよう。

 山や海でのサバイバル体験やバンジージャンプ挑戦、近所の遊園地周遊チケットなど、いろんなものがあるな。しかし、どれもピンとこない。この山のように積もった有給休暇というものを消費しなければ俺は仕事に出れない。俺は仕事に戻るために仕事を休まなければいけないのだ。

 この不条理……いかにすれば解決できるのか。そして俺は、有休を消化する間、仕事をせずにいられるのか。何かしら仕事をしていないと落ち着かない性分上仕方ないのかもしれないが、すでに仕事をしたくてたまらない自分がいる。

「お待たせしました小鳥遊様。こちらのプラン……ご提案できます」

 神崎さんが溜めた後で提案できるとの話らしい。何がどのように特別なのか、その洗いざらいを話してもらおう。

「で、特別プランというのは、いったい何がどう特別なのですか? 」

「こちらのプランですが、限定一名様しかご案内できない特別サービスになっておりまして……実は、異世界に行けます」

 また、溜めた後、話を前に進めてくれた。

「異世界? 異世界ってぇと、アニメや小説で時々話題になるような異世界? 」

「はい、その異世界で合ってます。この場合は異世界に移動していただくので、異世界転移ということになりますね」

「そんなことできるの? 」

「ここだけの話なんですが……できちゃいます」

 神崎さんは溜めて話すのがお好きな人らしい。

「詳しい話を聞かせてもらってもいいですか? 本当に行けるなら有休全部使って仕事しに……いえ、遊びに夢中になるかもしれません」

「今仕事しにって言いませんでした? 」

「いえ、気のせいです。それより、詳細をよろしくお願いします」

「そうですか、わかりました。内容は、私たちの企業の力である一つの異世界に旅立ってもらって……そこで自由に暮らしてもらいます」

 自由に……ね。制約とかそういうものはないのかな。

「向こうでの活動をするためにお金ですとか、そういうものが必要になるとは思うのですが」

「そこはですね……当社の力で、有休で得た給与を換金してあちらの世界のお金として使ってもらうことができます。およそ相場から言って、こちらで生活する10倍ほどの贅沢ができることになっちゃいます。経済は大事ですからね、そこはしっかりサポートさせていただきます」

 異世界で生活するほうが楽に生活ができるってことか。それはありがたいな。仮にほぼ丸一年向こうで生活をするということになっても、生活資金は二カ月分ぐらいしか消費しなくていいってことになるのか。

「しかし、なんで異世界になんて行けるんですか? もっと大っぴらに宣伝すればお客さんも増えるんじゃないでしょうかねえ」

「それはですね……企業秘密だからです」

 また溜めて言う。しかし、気軽に異世界旅行か。行ってみるのは悪くないだろうな。

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