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第363話

Author: 霧乃吟
救急医として働いていた頃、澪はいつもペタンコ靴を履いていた。

どうしても必要な時以外はハイヒールを履かないため、何年たっても慣れないままだ。

そして今、征司のその一言には、別の意味が込められていると澪は気づいた。

――こんな風に彼の膝の上にいるのは不適切だ、と。

もちろん、征司が澪を突き放すはずもない。

彼はどんなに冷酷な態度をとっている時でさえ、そういう無礼な真似だけはしない男だ。

冷たい男ではあるが、紳士としてのマナーだけは決して崩さない。そういう、最低な男なのだ。

身内にも他人にも礼儀を欠かさないから、つい自分だけが特別扱いされていると勘違いしてしまう。

だが実際には、そこには何の感情もこもっていないのだ。

つまり征司は、膝に座るのは馴れ馴れしすぎると、澪に釘を刺しているのだ。

大切な紗耶を不快にさせたから。

澪は口元に皮肉な笑みを浮かべると、まだ手首をつかんでいる征司の手を振りほどいた。

「そうね。靴も、今の状況も慣れていないわ。でも、わざとじゃないの」

そう言うと、彼女はテーブルに手を突き、身体を起こした。

紗耶は険しい顔のまま言った。「もう少し気
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