LOGIN「私は、こっちで寝かせてもらいますね」柔らかい毛布を手に、ソファに座る桜。「ダメだ。…こっちへ、ベッドへ来いよ」「ダメです…」頑なな表情…そんな顔をされればされるほど、俺の心は燃えていくのに。「麗香を気にしてるのか?」細い手首を引くと、瞬間的に抵抗されたが、力の差があるのはわかりきっていること。「だったら心配するな。…俺が愛しているのは桜だと知っている。あいつに邪魔はさせない」引き寄せ抱きしめれば、その力は呆気なく抜けていく。…キスをかわし、唇の柔らかさに、己を見失うのは容易かった。「龍、いるの?」しばらくして、背中越しに麗香の声が聞こえた。…ドアの鍵は閉まっている。リビングのソファに桜が着ていたドレスをかけておいたから…彼女がここにいることはわかるはずだが…「…ねぇ、龍?…ちょっと、話できない?」コンコン…っとリズミカルにノックされ、それが妙に…自分に火をつけた。「あの…出た方が良くないですか?私も、麗香さんに挨拶をしないと…」「…そんなの、いいから」細い肩に口づけながら言う。手は脇の下からのびて、柔らかな双丘を揉みしだいていた。ぷっくりと固くなった頂を指でつまめば、必死に声を押し殺し、桜はゴクリと喉を動かす。声を我慢する仕草が、さらに俺を滾らせた。…足の間に指を滑らせれば、すでに潤みきっている。…まだ続くノック…中指で何度か擦ってやれば、桜は自分から足を開き、腰をくねらせた。「桜…欲しいか…」耳にキスをしながら吐息で問いかけたのは、聞き耳を立てる麗香に聞かせないため。「…んっ…んあっ…」抵抗なく俺の指を呑み込む彼女の秘部は、先端の突起が存在を主張していて…「龍之介、桜ちゃんもそこにいるの…」聞いたことのない麗香の暗い声…それを聞いて、俺は後ろから自身を桜に突き立てた。感じやすい桜を頂点に持っていくのは簡単だ…律動を繰り返しながら、固くなった突起を撫でてやれば…「…んっ…んんっぅ…ッ」瞬間的に、撫でている手とは反対の俺手を取り、指先を口に入れる桜。キュッと噛みながら、達する彼女の妖艶な美しさに、自分もたまらず愛を放った。…気づけばノックは止み、静かになっている。俺たちは裸のまま眠った。あの日、最後だと言った桜を再び抱くことができた悦びを噛みしめながら。「桜を、俺の専属家政婦として雇うことにする」「…
「…龍之介さんが身につけていたものだから、大切にしたいんです」「…俺の…?」「はい。…別れる覚悟だったのに、今でもこんな風に顔を合わせて、お世話になって…自分の弱さが情けないです」目を伏せた桜の頬に赤みが差し、ここがどこなのかも忘れて手を伸ばす龍之介。「…おっと、お触りはお断りしてますよ?西門さま」サッと手首を取り、有無を言わさない表情で麗香が睨んできた。龍之介はそんな彼女を無視し、桜に顔を向ける。「…桜、水割りを…」「あ…この子、源氏名をつけたんです。本名を知られすぎたら、何かと危ないと思って…」麗香とは、この数日ろくに話をしていない。引き続き櫻川の事務所で寝泊まりする桜のボディーガードとして付き添っているからだが…「…それじゃ百合ちゃん、後をよろしくね」「…百合?」立ち上がる麗香に、龍之介は厳しい視線を向ける。他でもない…百合とはどういうことだ。もう1度呼ぼうとして、先に他の客に呼び止められているのを見て諦めた。…話はあとにするか。「…麗香との結婚式、白紙に戻したって?」他のホステスと話していると思っていた蔵之介は、いつの間にか一部始終を聞いていたようだ。水割りを飲み干し、グラスを桜に渡しながら、蔵之介はからかうような目を向ける。「あぁ。式は形式的なもので、俺たちは本当の夫婦になるわけじゃないって、あいつには再三言ってるんだが…」桜の視線を避けたいのと、この話題を終わりにしたいのと、そばに置きたいのと。複雑な思いがまじりあい…龍之介はテーブルを挟んで前に座る桜を呼び寄せる。「真ん中に座ってよ。…俺も大事なお客だからね?」ソファの真ん中を叩き、龍之介の隣に座ろうとした桜を蔵之介が呼ぶ。…俺の複雑な思いに気付かれたのかもしれない…「麗香さ、龍之介と結婚するって言ってたけど?」「…は?」「桜ちゃんを保護して、事務所に泊まった最初の夜、俺らを一緒に帰したろ?その時、覚悟を決めたって言ってたよ」桜にも聞こえるように、わざと真ん中に座らせたな…蔵之介とは桜抜きでいくらでも話す機会はあるというのに。「そうか。だが俺は願い下げだ」「わかるけどさ、事態は複雑になってるってことだぜ?…わかってる?」お前が麗香を女として微塵も見ないからこんなことになった…と言いたいが、人間の心を都合よく操れるはずがないことは、自分でもよくわかっ
「…いきなり働かせるって…ねぇ?」麗香は少し困ったように、龍之介を見た。「そうだな。まずは手と足の怪我を治せ。話はそれからだ」「ありがとうございます…」「…は?」ペコリと頭を下げる桜に、首を傾げた龍之介。認めたつもりはなかったらしい。「盗まれて、美紀ちゃんにお金を返せなくなったんです。父に居場所を知られて…迷惑をかけるといけないから、酒屋は退職しました。…だから」「だからじゃねぇだろ。夜の商売なんかじゃなくて、もっとこう…昼間の仕事をだな、」「昨夜、私の安全を考えて、酒屋のオーナーが泊めてくれたんです。でも父が現れたことで、辞めることは決意してました。…2人には絶対迷惑をかけたくなかったから、何も言わないで出てきて…でもお金を借りっぱなしで、出て行きづらくて…キャッシングして美紀ちゃんに少しだけお金を返しました。…だから、遊んでなんていられないんです」ここ、櫻川のホステスなら、今すぐ仕事に就くことができると思った。ホステスが1人失踪したと龍之介も言っていた。麗香もいるし、すぐに働くには最適な場所だ。「そうは言ってもな、まずはひざの怪我を…」「はい。傷は以前ほどひどくないので、あさってにはきっと、治ります。そしたら働いていいですか。…麗香さん、ご指導よろしくお願いします」まだ顔色も戻らないながら、人の恩に背きたくないと強い思いを抱く桜に、龍之介は苦笑いしつつ胸を熱くした。「…私が泊まるからいいのに」櫻川の営業を終え、麗香が事務所に戻ってきた。龍之介は奥に備え付けられた簡易的なベッドを整え、自分はそばにあるベッドで横になるつもりのようだ。桜を呼び、手を貸して寝かせようとしている。「いや、それじゃ何かあった時守れねぇだろ。麗香は蔵之介と帰れよ」「まぁ、そりゃそうか」龍之介に意味深な視線を送られ、麗香はそっとため息をついて、蔵之介のそばに行く。「夫婦は一緒に帰ったら?…泊まるのは俺でよくねぇか?」「は…?ふざけんな」半笑いで言う蔵之介の肩を強めに押し、2人を事務所の外に出し、龍之介は…ドアの鍵を閉めた。「…さて」スラックスのポケットに両手を入れ、小動物を愛でるような甘い目で近寄ってくる。「今回の件、なんで俺に一番に知らせねぇんだよ」「それは…タイミングです。今日、坂上さんとご飯食べたあと…連絡するつもりでした」けれどこ
「ちょっとあなた…どうしたのっ?」女の人の声に、うつむいていた顔をあげる。そっと薄目を開け、何度かまばたきを繰り返し、やっと自分の上にかかる赤い傘に気づいた。「…ちょっと待ってよ、桜ちゃんじゃない…?!」「あ…」傘と同化している赤いショートヘアが、美しくセットされているのが羨ましいと思った。…きっと素敵なドレスを着ているのだろう。こんなところにしゃがみ込んだら、汚れてしまうのに…「ねぇっ、桜ちゃんわかる?」「麗香、さん…」上体を起こし、膝からの出血に気づいた麗香は、男性スタッフを呼んで室内に運んでくれた。「シャワーはあるけど…とりあえずびしょ濡れの服を脱いで、バスローブに着替えて」手伝ってくれようとしたが、恥ずかしいので優しく断り、時間をかけて1人で着替える。…濡れた服を脱けば、それだけで体は楽になった。麗香は戻ってきた桜にもう1枚バスタオルをかけてくれて、傷の手当てを始める。…消毒薬がピリッと染みる…龍之介と初めて会った時の膝の傷は、反対の足だったと思い出した。「龍之介に知らせたわ。…多分すぐにここに来るから」「あの、ここは?」落ち着いて見渡してみれば、事務所のような雰囲気。「ここはクラブ櫻川の事務所なの。お店が始まると少し賑やかになるけど、ここにスタッフは入ってこないから」そこへ、ドアが勢いよく開いた。「…桜」焦ったような怖い顔…龍之介だった。「どうした?…何があった?」すぐそばにひざまずき、麗香と膝の手当てを代わりながら、桜の顔をのぞき込む。「実は、父に見つかってしまったんです。…あの、麗香さんのお友達だと思っていた坂上聡太さんが、私の情報を知らせていたようで」「…坂上って男は、弁護士じゃねぇのか?!」問い詰めるように尋ねる龍之介を、麗香自身驚いたように見つめ返している。「…弁護士よ、ちゃんと。私も相談に乗ってもらったもん」不審げな視線を麗香に向け、龍之介は厳しい口調を緩めない。「裏の顔があったんだろ。お前、そんな事も見抜けないで…」「やめてください。…騙した坂上さんが悪いんです」桜に止められ、とっさに言葉を切った龍之介の目は甘い…上目遣いで桜を見つめながら、言葉を選ぶように言った。「まぁ、それでも麗香はこっち側の人間だ。見抜けないのは…まずい」麗香は不満そうに腕を組み、口を尖らせた。桜にはそれ
「あ…ごめんなさい」とっさに着信を切ってしまった。…美紀と話していたことを知られたら、彼女に害が及ぶかもしれない…「濡れるから…入って。親子丼も、冷めちゃうよ」いつの間にか雨が降ってきたようだ。ポツポツと…携帯の黒い画面を濡らす。一瞬、このまま店の外へ向かって走り出そうかと思った。けれどじっと見つめる坂上の視線と目が合い…まるで体の自由を奪われたかのように、思いとは反対にテーブルに戻る。「…電話、友達?」「いえ…」「そうか。…まぁ、食べようよ」焼き魚を器用にほぐし、ひとくち大に取り分けたご飯と一緒に口に運ぶ。その食べ方はとても上品で…こんな人が裏の組織と繋がっているなんて、信じられない。けれど、美紀がショックを受けるほど…別の顔を持っているんだ。そういう、人なんだ。桜はやっとの思いで半分ほど食べて、箸をおいた。「あの、私…ちょっとお腹が痛くなって、先に帰りますね」引き止められても話は聞かない。荷物を持って外へ出て、素早く大通りに出る。そしてタクシーを拾って、逃げよう。「…不法侵入ね、訴えられるよ?実の父親でも、勝手に入って現金を盗むなんて…最低だ」そう言って顔色ひとつ変えず、背筋を伸ばして食べすすめる坂上が、知らない人に見える。ダメだ…ここにいては、危険。よろけながら荷物を持ち、出口に向かおうとして…そこに人影が映ったのが見えた。とっさに、出口とは反対側の厨房に向かう桜。…驚くスタッフに構わず中に入り、外へ出られるドアを開けると、そこは自転車専用の舗装された小道につながっていた。そこからは夢中で走った。降っていた小雨はいつの間にか本降りになり、荷物も、服も…容赦なく重くしていく。「ちくしょうっ…っ!桜ぁっ…!どこへ行きやがったっ…!」後ろから父親の怒声が聞こえ、ハッとして振り向いたのがいけなかった。ドサっと前のめりに倒れ、荷物が転がる。…暗がりの中、先に目に入ったのはクマの龍之介。とっさにそれだけを拾って、もう1度必死に走った。…やがて自転車専用道路を抜け、車の通る道に出た。少し明るくなったところで見てみると、転んだ膝から血がにじみ、足首を伝っていることに気づく。「…あ、また私、逃げて…転んで、怪我してる…」どうしてこんな目に遭わなければならないのか…守ってくれるはずの親から逃げて…味方だと思っていた弁護
アパートの部屋に戻ってしばらくして…桜の携帯が鳴り響いた。「ねぇっ!どうして出て行っちゃったのよっ!」「…美紀ちゃん、ごめんね。でも絶対にまた会いに行くから、それまで待ってて」「…もしもし、桜ちゃん?」携帯の向こうで、昭仁に代わったのがわかった。「昭仁さん、直接お礼も言えずに、すみませんでした。でも、父は本当に危険なので、もしまた姿を現して迷惑をかけたら…迷わず警察を呼んでください」昭仁は美紀より冷静に、わかった…と返事をしてくれた。昨夜打ち明けた生い立ちと、手紙に込めた思いを理解してくれたのだと思う。「美紀ちゃんを、お願いします。ひ、1人にさせないようにしてほしい…父に、顔を見られたから…」「美紀ちゃんは俺が守るから大丈夫。それより桜ちゃん…落ち着いたら、いつでも戻っておいで。待ってるから」「はい。ありがとうございます…」着信を切り、すぐに部屋を出られるよう準備を始めた。全部を持って出るのは不可能だろう。まずはクマの龍之介から上着を脱がせ、ボストンバッグに入れる。他に、入るだけの着替えと、そろえたわずかな化粧品…それだけでもういっぱいになってしまった。クマの龍之介は、紙袋に入れるようだ。ここで一夜を過ごせば…父親がやってくると、桜は予想していた。その前に、龍之介に連絡をして状況を話すつもりだ。…震える自分に安心をくれるのは、やはり龍之介を置いて他にはいない。そしてもうひとつ、思いついたこと…『夕方、あの定食屋で待ってるよ』坂上から、送ったメッセージの返信が届いた。坂上には、父親が不法侵入したこと、昭仁や美紀に迷惑をかけた場合の法的な取り締まりについて聞こうと思っていた。坂上との約束で出かけるまで、部屋に父親は現れなかった。美紀が心配して、密に連絡を取ると言ってくれたので…今日は店に父親が来ていないこともわかっている。本当は父親から2人を守るため…昭仁と美紀の携帯から、自分の連絡先を1度消してほしいと思っていた。けれど…心配してくれる気持ちに、ありがたく甘えてしまうことにする。「…桜ちゃん、こっち!」なかなかの賑わいを見せる定食屋。桜は坂上のいるテーブルに向かった。「なに、すごい荷物だね…どっか旅行でも行くの?」「いえ、これは…」荷物を持って出たのは、出かけた隙に父がやってきたら…という不安があったからだ。