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二人の秘密

Autor: エチカ
last update Data de publicação: 2026-06-10 20:15:16

 夜な夜な行われていたあの異常な行為――誰かに見られていたなんて。

「あれは……」

「ジェッ……ジェイドッ! あれはそのっ……父上がっ……」

 慌てたラヴェルの声は裏返る。

 物心が付いた頃には母親はいなかった。

 それ故か、ラヴェルは父親に何を強制されても否と答えたことはなかった。

 それが異常なのだと知ったのは丁度精通を迎えた頃だ。

「実父と関係を?」

「はっ? いや違うっ……あれはそのっ……自慰をッ……」

「自慰を?」

 視られていたのだ――と言えず、ラヴェルは口籠り俯いた。

 父は屋敷にいる夜、必ず訪ねて来る。

「始めなさい」

 その一言で、何をしろと言われているかは暗黙の了解だった。

 指一本触れることは無いが、自分を慰める姿をただ視られていた。

 ラヴェル自身、あの時間が何だったのか

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  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   疑心

     帰って来たジェイドを捕まえて、ラヴェルは食い下がる。「本当なのか⁉ デルメール家がローゼン家から切られたというのは……」「ベル……落ち着いて」「何で黙っていた? 何も知らない私を、お前は……」 恨んでいる? 憎んでいる? その言葉を口にするのを憚られて、ラヴェルは俯き口の端を噛む。「口調がはしたないぞ、ベル」「そんな事っ……」「どうでも良いか?」 そう問い質されて、初めてジェイドの視線に気づく。 彼の視線はいつもの優しさを灯してはいない。 刺す様な、温度のないその視線に、ラヴェルはビクリと一歩下がった。「君がベルである事は、これからの人生において一番大事な事では?」 冷静で低い声。 ラヴェルの熱の上がった思考は、その一言で急激に冷静さを取り戻した。「ごめんなさい……」「急にどうしたんだ? 誰かに何か、言われたのか?」 昼間にセルジオが来た事をリゼルから聞いているはずなのに、敢えてそう聞かれる事に疑念を覚えた。 分かっているのに、こちらが正直に話すかどうか、試されている様な――。「うん? どうした、ベル」「いや、何でもない……わ……」 ジェイドとの間にあった信頼や、特別だと思っていた何かが、分からなくなっていく。 結局はジェイドがいなければ、どこにも行く宛てなど無い。「ベル、こっちへおいで」 そう言われてジェイドに手を引かれ、ラヴェルは僅かに抵抗し、強く引き寄せられた。「いっ……たぃ……」「何に怒っているんだ? ベル」 力任せに握られた手首は、引いても離して貰えない。 今までこんな事、

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   知られざる過去

    「前デルメール男爵が、横領疑惑でローゼン家から切られたんですわ」 真っすぐに自分を見ているセルジオの目に、ラヴェルはただ何度も瞬きをして言葉を探す。 知らない。 どう言う事だ? ジェイドの父親は確かに、自分の父親の腹心として一緒に働いていた。 だが、彼ら親子が姿を消した理由は知らされなかった。 父親からも、クレイからも、誰からも教えて貰えなかった背景にそんな話があったなんて――。「結局、疑われただけで審議は分からなかったらしいですけどね」 セルジオはそう言って目の前のティーカップを口元へ運ぶ。 ラヴェルはその長い指の先をただジッと見て、驚きも疑問も顔に出ない様に務めた。「そ、う……」「それにローゼン家の嫡男がいるなら、男爵こそ恨んでいるでしょう。冤罪で父親は病に倒れ、領地を脅かされたのだから」「恨んで……」 そう言われてラヴェルは心臓を握られた様に息が詰まった。 ティーカップに指をかければ、震えてしまうかもしれない。 ラヴェルは膝の上に重ねた手を、ただぎゅっと握る。「だから私は、海に漂着した宝石様がローゼン家の嫡男で、日記と共に王家に売る為に監禁されているのではないかと思ったくらいですよ」 王家に売る――――? もし、仮にジェイドの本心がローゼン家への復讐にあるとしたら、その発想は突飛とは言い切れない。 失った領地の過失を取り返すには、追われているラヴェル・ローゼンを差し出す事に大きな意味を持つ。 いやでも、それなら見つけてすぐに差し出しているだろう。 こんな女装までさせて、一年以上匿う必要はない。「セルジオ様、お言葉に気を付けて下さい。主人を貶める発言は許しません」 リゼルの低い声に、ラヴェルはハッと意識を取り戻した。「いや

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   訪問者

     あの日以来、洞窟内での秘密は自慰から愛撫へと変わった。 あの時間が、街で感じたあの世界から疎外されている様な孤独を紛らわす事が出来る。 ジェイドがラヴェルの存在を知り、求め、認めてくれていればそれで良い。 他の誰に忘れられても、消えてなくなるような儚い存在ではないと思える。 互いに言葉で気持ちを伝えることは無くとも、彼と自分の間には“特別な感情”が確かにあると思えるからだ。 それはベルの完成度にも拍車をかけた。「リゼル、お散歩でもしましょうか」 ジェイドはこの所忙しいらしく、よく屋敷を空けている。 ラヴェルは相変わらず屋敷の中にいる事が多いが、街で顔を見せた事で、敷地内の散歩くらいは許されるようになった。「ベル様、本日は雨になりそうです」「あら、そう……じゃあ晴れている内にお庭に出ましょう」「かしこまりました」 侍女のリゼルは相変わらずだが、彼女が片時も離れずに傍にいる事も、当たり前になっていた。 屋敷のテラスから出た瞬間、玄関先から声が聞こえる。「誰かいらっしゃいませんかー?」 その声に、リゼルが「見て参ります」と傍を離れた。 遠く見える玄関先に見える男は、風体からセルジオだと思われた。 ラヴェルはセルジオ嫌いのリゼルが気になり、後を追う。「旦那様はお出掛けなさっています」「あらら、入れ違いかぁ。おや、ベル嬢、今日もお美しい」「こんにちは、セルジオ。何か御用だったの?」 そう声を掛けるとセルジオは後頭部を掻きながら「出直しますわぁ」と苦笑いした。 リゼルは「お帰りはあちらです」と外門を差す。「相変わらず冷たいねぇ。お茶の一つでも出してはくれないのかい?」 そう言われてリゼルが食い気味に「それは」と言いかけ、ラヴェルはふと気

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   孤独

    「ジェイドに……触って欲しい」 いつだってジェイドは見ているだけで、指一本触れたことは無い。「どうして?」「……え?」 どうしてと聞かれてラヴェルは弾かれた様に顔を上げた。 どうして――――? どうしてだろうか。 ずっとそうして欲しかったような気もする。 けれど、自分で明確に言葉に出来ない。 寂しい。悲しい。辛い……? どれもあって、どれでもない様な気になる。「わ……からない……」「そうか」 相変わらず柔和な表情でそう答えたジェイドに、ラヴェルは眉根を寄せた。 それは許諾なのか、拒否なのか。「すまない、変な事を言った……」 いつものジェイドなら「良いよ」と言ってくれると思っていた。 言うんじゃなかった。 ラヴェルはしがみついていたジェイドのシャツを離して、一歩下がる。 受け入れて貰えないという事に、強烈な孤独を覚えた。「そんな悲しい顔をするな」 そう言ったジェイドはこちらをゆっくりと伺うように覗き込む。「でも、嫌だったのだろう? ごめん、もう言わないから……」「そうじゃない。どうしてそうして欲しいのか、素直に教えて欲しいだけだ」 ラヴェルはそう言われて、唇を噛んだ。 自分の気持ちがまるで分らない。 だけど、ジェイドが自分を求めてくれたらと、欲が出る。 ――――怖いんだ。 ラヴェルはジェイドに縋りつくようにして、辛うじてそう言葉にした。 言葉にした後、思考が追い付く。 あぁ、怖かったのだ、と。 街へ出てラヴェル・ローゼンと言う人間はもうどこにもいないのだと、実感してしまった。

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   喪失

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