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没落した薔薇は、碧夜の星になる
没落した薔薇は、碧夜の星になる
ผู้แต่ง: エチカ

落ちる薔薇

ผู้เขียน: エチカ
last update วันที่เผยแพร่: 2026-06-04 23:28:53

 ラヴェルは、自分があとどれだけ持ちこたえられるのか分からなかった。

 海水が無数の手のように、彼の鼻や口を引き裂く。

 肺に流れ込み、空気のひと欠片まで押し出していく。

 視界は閉ざされ、四肢も縛られている。

 ラヴェルは誰かに捨てられた石のように、ゆっくりと真っ暗な底へ沈んでいった。

 これが、ローゼン公爵家の嫡男の末路なのか?

 二十分前まで、彼は王都で最も豪華な夜会にいて、クリスタルのグラスを手に、皆からの祝いの言葉を受けていた。

「ラヴェル様、ご立派になられて」

「ラヴェル様は王家からの期待も大きいですからな」

 偽りの笑顔、追従の言葉。

 彼はただ早く家に帰って、夜会服を脱ぎ、ベッドに横たわりたかっただけなのに――

 雷鳴がバリバリと天を走る。

 夜会帰りのラヴェルは、屋敷に入って痛い程の沈黙に首を傾げた。

 明かりがついているはずのエントランスも、出迎えるはずの執事の姿も見えない。

「何だ……? 誰か、居ないのか? クレイ……?」

 やけに自分の声が響く。

 広い屋敷の中にあるのは、地面を激しく打つ雨音と、吠え猛る風の声だけ。

 それが静けさを濁らせていた。

 誰も彼に応えなかった。

 自室の前まで来て、ピタリと足を止める。

「……何だ?」

 最初に気付いたのは血の匂い。

 何か異変が起きている。

 余りにも人気の無い屋敷に、無意味に背後を気にして振り返った。

「……?」

 自室の扉を開けた先には、血塗れになって横たわったクレイの姿があった。

 「クレイッ!! なっ、どうっ……」

 言葉も思考回路も途切れ、ただ、ただ、横たわるクレイの硬い体を揺さぶる。

 開け放たれたバルコニーへの窓がバタリバタリと風に踊らされていた。

「――クレイッ!!」

 ラヴェルは諦めきれずに声を掛ける。

 僅かに口を開いた様に見えたが「逃げっ……」と短く吐き出された。

 震えるクレイの握りしめられた手がこちらの胸元を押し付ける様にして、何かを訴えて来る。

 ラヴェルは反射的にその手を握る。

 その手の内には、ローゼン家の象徴であるロゼリアと言う宝石が埋まった小さな鍵が握られていた。

「しっかりしろっ! クレイッ!」

 声を荒げ激しくクレイの体を揺さぶる。

 だが、触れた手にぬるりとしたクレイの血がベッタリと付いて、微動だにしない彼がもう生きてはいないのだと思い知らされた。

 彼が託そうとした鍵を半ば強引に奪い取り、内ポケットへと入れた。

 息が上がり、冷たい汗がわけもなく噴き出して頬を伝う。

 何が起こっている――?

 父上は?

 何より――エルメダの日記は?

 振り返った――その瞬間。

 薬を染み込ませた布で、背後から頭を覆われた。

 視界を覆われ、喉元を締め付けるその布を剝ごうと足掻く。

 深い酒のような芳香に、意識が霞んだ。

「連れていけ」

 声の主は男だった。

 骨まで凍らせるような、冷たい声。

 ジタバタと抵抗するも、首の圧迫感に声すら出せず、ただ引き摺られて行く。

 焦りだけが断片的に残り、ラヴェルは意識を手放した。

◇◇◇

 意識が戻った時、彼は手足を縛られ、揺れる船の上にいた。

 恐怖で体が小刻みに震えている。

 何も分からない。

 その恐怖が冷静さを奪って行く。

 いったい誰が――――何の為に?

 殺さずに連れてくると言う事は、公爵家の嫡男であるラヴェル・ローゼンに用があるのか?

 もしくは人質として連れ去られたのか。

 鈍く回らない頭をラヴェルは必死に回す。

 だが、その無意味な試行錯誤をしている間に、自分の身の振り方は決まってしまった様だ。

「捨てろ」

 男の声でそう告げられた時、両の手足を抱えられ体が宙に浮いた。

「ちょっ……まっ……」

 反射的に「待ってくれ」と言いたかったが、それすら遅かった。

 ゆりかごのように揺られて、ふわっと浮いた後――

 ザッパンと冷たい海へと放り出されたのだ。

 顔も覆われて足を拘束された状態で海に投げ捨てられる。

 顔を覆った布の中に海水が入り、呼吸は出来なくなった。

 この大雨で荒れ狂う海に放り出され、生きて帰れる希望を抱けるほど、おめでたい頭はしていない。

 ラヴェルは吸えなくなった空気の代わりに、海水を飲み、藻掻き、そして沈んで行く。

 彼は、それが誘拐だと思った。

 甘すぎた。

 奴らは最初から、生かしておくつもりなどなかった。

 それでも――彼は水中で必死にもがき、全身で叫んでいた。

 死にたくない――!!

 しかし海は理不尽だった。

 海水が彼の肺に流れ込み、最後のひと欠片の温もりまで押し出していく。

 手足はどんどん重くなり、もがきは次第に弱まっていく。

 まさか……。

 意識が途切れようとしたその瞬間――

 骨ばった、大きく力強い手が、ラヴェルの手首を強く掴んだ。

◇◇◇

 無意識の中で聞いたのは懐かしい声だった。

「ラヴィ様……?」

 遠く聞こえるその懐かしい呼び名に、朦朧とした意識が浮上する。

 息が苦しく、潮の匂いが胸を焼いた。

 体は熱く、瞼はどう頑張っても開かない。

 ただ不快感だけが、体を覆っている。

「ラヴィ様……何でこんな所に……」

 自分の事をそう呼ぶ人間は、家族の他に一人しかいない。

 それは……

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