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@4 最後の王女の名

ผู้เขียน: 米糠
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-07 18:10:26

  夜の静寂の中、草を踏む音と、かすかに吹き抜ける風の音だけが響く。

 帝国兵たちの追跡はひとまず振り切ったようだが、それでも緊張は解けない。

 ライルの戦いぶりは尋常ではなかった。

 ただの傭兵とは思えないほどの剣の腕前、そして冷静な判断力—

 それに、彼がセリスに向ける視線には、どこか探るような鋭さがあった。

 しばらく歩いたところで、ライルが足を止めた。

「ここなら、少し休める」

 視線の先には、大きな岩壁がそびえていた。

 その影にひっそりとした洞窟が口を開いている。

「この辺りは知ってる。傭兵時代に何度か使ったことがある場所だ」

「……ありがとう」

 セリスは少し警戒しつつも、疲れた身体を休めるために洞窟の中へと入った。

 洞窟の内部は意外にも広く、壁には古びた焚き火の跡が残っていた。

 ライルは慣れた手つきで薪を積み上げ、火打石を使って火をつける。

 ゆらめく炎が洞窟内を淡く照らし、ようやく少し安心できた気がした。

 セリスはそっと腰を下ろし、深いため息をついた。

「……今日は色々ありすぎた」

「だろうな」

 ライルは焚き火を見つめながら、静かに言った。

「帝国に追われる理由、聞いてもいいか?」

 セリスは一瞬、口ごもった。

 (この人に、どこまで話していいんだろう……)

 彼は助けてくれた。でも、完全に信用できるわけではない。

 それに、自分の正体を明かせば、彼がどう反応するかも分からない。

「……言いたくないなら無理に聞かない」

 ライルは肩をすくめて、あっさりと話を切り上げた。

 その態度がかえって意外だった。

「だがな、一つだけ忠告しておく」

 彼は炎の揺らめきを見つめたまま、低い声で言った。

「お前、自分がどれだけ危険な立場にいるのか、本当に分かってるのか?」

「……!」

 セリスは息を呑んだ。

「帝国が、お前をただの村娘だと思ってるなら、ここまで大規模に追っ手を出すはずがない」

 ライルは鋭い視線をセリスに向ける。

「王国の生き残り——お前がそうなんじゃないか、ってな」

「……っ」

 まるで見透かされたような言葉に、セリスは思わず身体をこわばらせた。

 ライルはしばらく彼女の反応を見ていたが、やがてため息をつき、炎へと視線を戻した。

「ま、言いたくないなら今はいいさ。でもな……」

「……?」

「俺はもう、お前を見捨てられなくなった」

「え……?」

 思いもよらない言葉に、セリスは驚いてライルを見つめる。

「俺はな、余計なことに首を突っ込むつもりはなかった。傭兵なんてのは、金さえもらえりゃ、それでいい仕事だからな」

 ライルは淡々と言葉を続ける。

「でも、お前は放っておいたら確実に死ぬ。……俺が手を貸さなきゃ、な」

 セリスはその言葉に、何か言い返そうとした。

 だが、口を開いたまま、何も言えなかった。

 (……本当に、この人は……)

 ライルの言葉は、どこか軽いようでいて、妙に真っ直ぐだった。

 それがなぜか、心に引っかかった。

 しばらくの沈黙の後——

「……セリス」

 彼女は静かに、自分の名前を口にした。

 ライルが少し目を細める。

「セリス・エルセリア」

 それが、彼女の本当の名だった。

 ——滅びた王国の、最後の王女の名。

 ライルは少しだけ驚いたように目を見開いたが、すぐに静かに頷いた。

「……なるほどな」

 焚き火の炎が静かに揺れる中、セリスとライルはしばらく無言のまま座っていた。

 セリスは、自分の名前を明かしたことに少し緊張していた。

 ライルの反応は意外なほど淡々としていたが、それが逆に不気味にも感じる。

 (この人、本当にただの傭兵なの……?)

 帝国の追っ手を次々と倒し、こうして的確に逃げ道を確保している。

 しかも、「エルセリア」の名を聞いても驚くことはあっても動じる様子はない。

 ライルが何者なのか、セリスにはまだ分からなかった。

「さて……これで、お互いの名前は分かったな」

 先に口を開いたのはライルだった。

「セリス、お前はこの先どうするつもりだ?」

「え……?」

「帝国はお前を必ず追ってくる。隠れて生きるって選択肢もあるが、それができるほど甘い状況じゃない」

 ライルは焚き火を見つめながら、淡々と言葉を続けた。

「お前には目的があるんだろう? ……それを聞かせてくれ」

 セリスは迷った。

 全てを話すべきなのか。

 それとも、まだ警戒すべきなのか。

 だが、ライルはすでに彼女の正体を半ば見抜いていた。

 このまま黙っていても、いずれ何かしらの形で話さざるを得なくなる。

 だから——

「私は……」

 セリスは炎の光を見つめながら、静かに言った。

「私は、自分の国がどうして滅んだのかを知りたいの」

 ライルは少しだけ目を細めた。

「どうして?」

「……私の中に残っている記憶は、あまりにも曖昧なの」

 セリスは自分の胸に手を当てた。

「だけど、私は……知っているはずなの。エルセリア王国が滅びた本当の理由を」

 ライルはじっとセリスの表情を見つめていた。

 やがて、少し考えるように顎に手を当てる。

「……つまり、お前は“王の記憶”を取り戻そうとしている、ってことか」

 セリスは驚いてライルを見た。

「……どうして、それを?」

 ライルは苦笑した。

「傭兵ってのは、戦場で色んな話を耳にするもんだ。エルセリアの王族には、代々受け継がれる“記憶の力”があるってな」

「……!」

 セリスは心の奥がざわめくのを感じた。

 王族の血に宿る“記憶の継承”の力——

 セリス自身、その力の全貌をまだ把握してはいない。

 だが、確かに彼女の中には、今までの人生で一度も体験したことのない記憶の断片が存在していた。

 それは、まるで夢のように曖昧で、それでいて確かな“誰かの記憶”だった。

「……記憶を取り戻して、それからどうするつもりだ?」

 ライルの問いに、セリスは言葉を詰まらせた。

 (私が……この記憶を取り戻したとして、どうするの……?)

 王国を再興する?

 帝国に復讐する?

 そんなこと、考えたこともなかった。

「……分からない。でも、知らなきゃいけないの」

 セリスは小さく拳を握る。

「私は……王族として、最後の一人として、このまま滅びたままでいいとは思えない」

 ライルはしばらく彼女を見つめていたが、やがてふっと息をついた。

「……分かった」

「え?」

「お前がそう決めたなら、俺はそれを手伝う」

 セリスは目を見開いた。

「ど、どうして……?」

 ライルは少し笑い、肩をすくめた。

「俺はな、一度助けた相手を途中で見捨てるような真似はしたくないんだよ」

 その言葉が妙に胸に響いた。

 ——この人は、本当にただの傭兵なの?

「それに、お前の言う“記憶”ってのは、俺も興味がある」

 ライルの目が鋭く光る。

「エルセリア王国の滅亡の裏に何があったのか——俺も、それを知る価値はあると思うぜ」

「ライル……」

 セリスはまだ戸惑っていた。

 だが、ライルの言葉には、不思議な説得力があった。

 この人となら——少しだけ前へ進めるかもしれない。

「……ありがとう」

 小さく礼を言うと、ライルは軽く笑って「気にするな」と返した。

 こうして、セリスの旅は本格的に始まった。

 王の記憶を求める旅。

 そして、滅びた王国の真実を知るための戦いが。

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