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第2話

Author: 栄子
車に乗ると、綾は妊娠検査薬をバッグに入れた。

アシスタントの小野奈々(おの なな)から電話がかかってきた。

「綾さん、さっき取引先から電話があって、例の『若蘭』のことなんですが、明日までに納品してほしいそうです」

綾は眉をひそめた。「最初は一週間で納品するって話じゃなかった?」

「向こうで何かあったみたいです。担当者の方は、期日通りに納品さえしてくれれば、費用はいくらでも構わないと言っていました」

綾は少し考え、言った。「取引先の担当者に、納品は明後日で、費用は50パーセント増しだと伝えて」

「でも、担当者の方、かなり強気な態度で......」

「明後日の納品が私の限界よ」綾の態度は揺るがなかった。「もし取引先が受け入れられないなら、返金しても構わないわ」

「わかりました。すぐに返事します」

電話を切り、綾がスマホを置こうとした時、うっかりトレンドの通知をタップしてしまった。

誠也がトレンド入りしていた。

正確には、誠也と人気女優の桜井遥(さくらい はるか)が一緒にトレンド入りしていた。

#昨夜遅く、人気女優、桜井遥と大富豪の恋人が、パリでのラブラブ一週間旅行のあと、お揃いで帰国!

写真には誠也の正面は写っていなかったが、ほんの僅かな横顔だけでも、綾にはそれが彼だとすぐにわかった。

彼女は写真を瞬きもせずにじっと見つめた。

しばらくして、彼女のまつ毛が震え、指先が滑ってトレンド表示を閉じた。

そして、遥のインスタを開いた。

案の定、午前5時に遥は日の出の写真を投稿していた。

キャプションにはこう書かれていた。【探し求めて、ようやくあなたの元に戻ってきた。幸い、あなたはまだそこにいてくれた】

綾はその日の出の写真を見ながら、まるでその写真を通して、誠也と遥が寄り添い、一緒に日の出を眺めている光景を見ているかのようだった。

昨夜、彼があんなに慌てて出て行ったのは、愛する人と一緒に日の出を見るためだったのだ。

彼女は軽く唇の端を引きつらせた。

自分の愚かさを嘲笑する。

彼の心の中に自分が全くいないことを知っていながら、それでも彼のことばかり気にしてしまう。まるで卑劣な泥棒のように、暗い隅に隠れて、彼と愛する人の行動を覗き見ている。

自分の心を抑えきれず、まるで火に飛び込む蛾のようだ。彼女自身でさえ、そんな自分を軽蔑していた。

幸い、遥は帰国した。

きっとすぐに、誠也が離婚を切り出してくるだろう、と彼女は思った。

実は、それでもいいのかもしれない。

離婚すれば、彼女は誠也の世界から完全に身を引くことができる。

これからは赤の他人。互いに関わることもない。

その時になれば、彼女が心の中に隠してきた、卑しくも滑稽な妄想も終わるはずだ......

碓氷家の本邸に到着した。

綾は車を臨時の駐車スペースに停めた。

車を降り、中へ向かって歩いていくと、通りすがりの使用人たちはただ淡々と彼女を一瞥するだけで、それぞれ自分の仕事に戻っていった。

綾の表情は平静だった。

誠也と結婚して5年間、ずっと彼女を鼻であしらっていた佳乃の態度に倣って碓氷家の使用人たちもまた彼女を軽んじていたのだ。だから、悠人のためでなければ、綾もこの家には来たくなかった。

「母さん!」

明るい子供の声が響き、綾がリビングに足を踏み入れた途端、見慣れた小さな体が飛びついてきた。

「母さん、やっと迎えに来てくれた!」

5歳になる悠人はコアラのようにしっかりと綾に抱きつき、不満そうな声で言った。「さっき、おばあちゃんが嘘ついたんだ。母さんはもう僕のこといらないって」

綾は一瞬戸惑い、顔を上げて佳乃を見た。

その女主の席に腰かけている豪華な身なりをした佳乃の隣には、際立つ美貌と気品を兼ね備えている遥が座っていた。

ここで遥の姿を目にするとは、綾にとっては意外だった。

しかし、彼女はすぐに思い直し、それも当然のことだと感じた。

誠也はすでに遥にプロポーズし、トレンドにも載ったのだ。これは公にするつもりなのだろう。

そして今日、遥が碓氷家に現れたということは、きっと佳乃の認めるところとなったのだろう。

「母さん、どうして何も言わないの?」悠人は綾を見つめた。「もしかしておばあちゃんが言ったこと、本当なの?母さん、本当にお父さんと離婚するの?僕のこと、いらなくなっちゃうの?」

綾はうつむき、悠人の不安げな視線を受け止めると、胸が締め付けられる思いだった。

この5年間、彼女は悠人を実の子同然に思い、悠人の身の回りのことをすべて、自ら手掛けてきた。5年の歳月をかけて育まれた母子の情は、紛れもない本物だった。

離婚したら悠人と離れ離れになると思うと、綾の心にもやはり寂しさが込み上げてきた。

「悠人、こっちおいで」佳乃は悠人に手招きした。

「いやだ!」悠人は綾にしっかりと抱きついたまま離れようとしなかった。「母さんと家に帰る!」

佳乃は顔色を変え、厳しい口調で言った。「おばあちゃんが何度言ったら分かるの?綾はあなたの母さんじゃないのよ。あなたの母さんはこの方、人気女優の遥よ」

その言葉を聞き、綾は凍りついた!

悠人の実の母親が、遥?

でも、誠也は悠人の実の母親はとっくに亡くなったと言っていなかったか?

もしかして......誠也はずっと彼女を騙していたのだろうか?

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