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第412話

作者: 栄子
「人気が高くたって無駄だよ。まだ事務所と契約してないし。最近いくつか声はかかってるけど......私たちの曲は盗作だし、ちょっと怖くて」

遥は、煮え切らない千鶴に少し苛立ちを感じた。

しかし、今はお金が必要だった。

彼女は目をくるりとさせ、こう言った。「じゃあ、こうしよう。私の事務所に推薦してあげる。そこと契約すれば、お互い助け合えるでしょ」

「でも、もし事務所の社長にバレたら......」

「大丈夫。マネージャーにはもう話してあるの。曲の著作権を持ってるってことにしたから」

遥は続けた。「こういうこと、芸能界ではよくある話よ。今の私たちの知名度なら、事務所は守ってくれるはずだし、私たちに価値がある限り、事務所は曲の出どころなんて追及しないさ!」

千鶴の心は揺らいだ。「じゃあ、聞いてみてくれる?」

「分かった」

遥はすぐに恒に電話をかけた。

恒は話を聞き終えると、即座に言った。「それなら、千鶴さんを会社に連れてきてくれ。社長がちょうど会社にいる」

「はい!」遥は電話を切り、千鶴に向かって微笑んだ。「ちょうど社長が会社にいるから、マネージャーから、今すぐ来て欲しいって言われたのよ!」

「本当!」千鶴の目が輝いた。「あなたがいる事務所の社長は本当に私と契約してくれるの?」

「私が推薦したんだから、きっと大丈夫。契約金もできるだけ高く交渉するから。契約が成立したら、1億円ちょうだい。そうすれば、この宝石は全部あなたのものよ」遥は床にあったスーツケースに視線を落とした。

「ありがとう!」千鶴は遥を抱きしめた。「遥さん、あなたは私の恩人よ!」

遥は微笑んだ。「私たちは従姉妹だから家族みたいなものでしょ。当然のことよ」

千鶴は嬉しそうに頷いた。

遥が千鶴を連れて契約の話をしにいくと聞き、二宮家は喜びに沸いた。

弓美は母親として、契約という大きな出来事には慎重になるべきだと感じていた。

「会社の顧問弁護士を一緒に連れて行ったらどうかしら?」

「大丈夫よ。遥さんは社長と関係が固いんだから!」千鶴は弓美を見ながら、自信満々に言った。「彼女が私のために利益を最大限に交渉してくれるから、弁護士なんて連れて行ったら、社長を信用していないみたいじゃない」

「でも......」

「いいから!黙れ!」

二宮老婦人は弓美の言葉を遮り、彼女を睨みつけた。
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