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第2話

작가: 瞳を携えて
時彦の視線が一瞬泳ぎ、最後にはどこか不機嫌な様子で身を起こした。

「今回は氷山の状態を調査しに行くんだ。時間も足りないし任務も重い。仕事で手一杯で、そんなことをしている暇はない。俺が積極的に彼女を連れて行くことはない」

分かった。

積極的に、ではない。つまり、紗月が涙ぐみながら「土屋さん、私、初めて南極に来たんです。クジラを見てみたいです」と言えば、時彦は必ず連れて行く。

毎回、彼女の頼みを断らなかったように。

でも、もう関係なかった。

「分かったわ」

私は頷いた。

いつものような言い争いも、問い詰めも、何もなかった。

時彦は眉をひそめた。この静けさが、彼をどこか落ち着かなくさせるらしい。

「優未、俺は……」

「南極はとても寒いし、風も強いわ。行く時はしっかり防寒しなさい」

その言葉に、時彦の眉間は少し緩んだ。だが私は続けた。

「長焦点レンズは一本何十万円もするんだから、低温で壊さないようにね」

時彦の顔は一瞬で暗くなった。

彼は、私が彼自身を心配すると思っていたのだろう。

まさか、私が気にするのが何十万円もするレンズだけだとは思わなかったのだ。

「優未、君は本当にどんどんつまらなくなっていくな」

時彦は立ち上がり、わざとらしく息を吐き捨てると、そのまま側の寝室へと向かい、ドアを乱暴に閉めた。

私はむしろ、ようやくひと息つけた気がした。体全体が、やっと軽くなったようだった。

私はスマホの画面に指を触れた。そこには、熱帯雨林調査隊のメンバー表。

私の名前が、静かにそこに並んでいる。

……いいね。

いつの間にか、私は眠っていた。

翌日、私がオフィスに着くと、時彦はすでに来ていた。

腰を下ろした途端、彼は分厚い資料を机に置き、当然のように口を開いた。

「これは前回の氷床コア採取データだ。俺が出発する前に報告書を見せてくれ」

私はその資料を見つめたまま、動かなかった。

以前なら、私はきっと黙って仕事を始めていただろう。

だが今、私はすでに別のチーム。彼の業務を手伝う義務などない。

私はその資料を、静かに押し戻した。

「紗月こそあなたの新しいチームメンバーよ。こういう仕事は彼女に頼みなさい。プロジェクトに早く慣れさせた方がいいわ」

時彦の顔はたちまち険しくなり、苛立ちが眉間に滲む。

だが、口元には微かに愉悦が浮かんでいた。

「優未、君は行けないから気に食わないんだろうが、今は嫉妬して駄々をこねる時じゃないだろう。

昨日俺は言ったはずだ。来年連れていくと。仕事は仕事だ。君はそれを感情で……」

「南極は通信が弱いわ」私は再び言葉を遮った。

「衛星電話でしか連絡できないし、遅延も多い。時彦、私が遠隔でずっとデータ処理を手伝えるわけがないでしょう」

私は彼を見つめ、わずかに微笑んだ。

「それに、紗月はあなたが自ら選んだメンバー。彼女の能力を信じるべきじゃない?」

時彦は、またしても言葉を詰まらせた。

その時、紗月がコーヒーを二杯持って近づいてきて、可愛らしく微笑みながら言った。

「夏川さんの言う通りですよ」

紗月は当然のようにコーヒーを時彦の机に置き、彼の腕に絡みつき、体をぴたりと寄せた。

時彦にウインクを送り、そして私へ挑発的な視線を向けた。

「私は土屋さんが手塩にかけて育てた大学院の後輩ですよ。私の能力を信じないんですか?」

時彦は反射的に腕を引こうとした。

だが、視界の端に私が映った瞬間、動きが止まった。

そしてわざとらしく手を持ち上げ、紗月の手の甲を軽く叩いた。

「そうだな。紗月は才能もあるし、仕事も丁寧だ。間違いない」

まるで、「俺の選択が正しかった」、と見せつけるように。

私はただ頷き、淡々と言った。「それは良かったわ。おめでとう、時彦。いい助手が見つかったみたいで」

怒りも、嫉妬もなかった。

時彦はまた言葉を詰まらせ、苦しげに何か言おうとした。

その時、オフィスのドアから中世古教授が顔を覗かせた。

「優未、ちょっと会議だ。君を待ってる」

「はい教授、すぐに伺います」

そう言って、私は振り返ることなく歩き出した。一切の未練もなく。

ふと振り返ると、時彦の視線が、釘のように私の背中に打ち付けられていた。
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