تسجيل الدخول葵依は小柄なうえ童顔で、小さな顔に仔猫のように大きい目を縁取る長い睫毛、毛先が外側にクルンとカールしたセミロングストレートの髪型……守ってあげたくなるような無垢な高校生。女子高校生というブランドと小柄で童顔というセットはある界隈の男達から絶大にモテた。仕事中何度も遊びに誘われたが、葵依は全て「勉強をしなきゃ」と言って断った。これは下手な断り文句ではなく本当の事である。葵依はバイトが休みの日は友達と寄り道せず、学校が終われば真っ直ぐ家へ帰り授業の予習をするのだ。
可愛いけど男への免疫がない葵依を騙すのは簡単だろう──胸が小さいのは残念だが、世間知らずな見た目だから簡単に堕ちるだろう……そう思って田中は葵依の前では仕事が出来るフリをした。 が。 葵依は堕ちなかった──というよりも、葵依は田中が仕事をしている姿を見て「私もあぁいう風に働けるようにならないと!」という責任感が強過ぎた。そうして生まれたのが田中よりも遥かに仕事が出来る高校生葵依である。 それから田中の今までの愚行を知る主婦層から葵依は守られ、手を出す機会を失ってしまった。 しかし、それは今日まで。何故なら、葵依は今日でバイトを辞めるからだ。パートのババァ達の監視の目がなくなるのだ。 「勉強も良いけど息抜きも大事だからね……息抜きしないとさぁ……倒れちゃうからね」 田中は、葵依が母親を三年前に病気で亡くして、一人暮らしをしている事を知っている。 バイト中は明るくて笑顔を絶やさない子だが、寂しいに決まっている。そんな子の懐にさえ入れば後は簡単だ。 田中は二年間一緒に働いて葵依の性格を充分把握していた。学業だけではなくバイトに対しても決して手を抜かず、「人が足りなくて困っている」と言えば「それは大変ですね」と休日希望を出しているにも関わらず試験期間中でもシフトに出てくれるような子だった。基本、バイトに出て欲しいと言えば「嫌」と言わない子なのだ。体調を悪くしていても他人にキツさを見せずに隠す子でもある。そんな子を押して押しまくれば、絶対にヤれる。 「心配だな」と田中は心配そうに眉間に皺を寄せて葵依の目を見つめた。 (どうしても自分の部屋に呼びたい) この可愛い生き物を美味しく頂きたい。 そんな事を思っているなんぞ夢にも思っていない葵依は 「心配をしてくれてありがとうございます」 真摯な言葉に隠された下心を知る由もなく、葵依はそう礼を述べると、心配そうな男の目を見て彼女はキュッと下唇を噛み締めた。 面と向かって心配される事に彼女は慣れていない。彼女の置かれた環境の話を知ると、同情し憐れんだ目で自分を見てくる。優しい言葉を掛けられると、忘れるように努力しているのに本当に自分が一人なんだと気付かされて現実が迫ってきて辛くなるのだ。 これ以上心配をされると泣いてしまいそうだから「大丈夫です」と笑顔で答えて話を切り上げる。本当は家に帰ると誰も居ない事に無性に寂しい。その不安が自分の中を渦巻いて、雁字搦めに囚われてしまいそうで怖い。どうすれば、その孤独に勝てるのか──それを言葉にして吐露してしまえば、勢い余って泣くかもしれないから誰にも相談できない。だから、心配をされる事は本当は嬉しいけれど……誰も私を心配しないで欲しい。 葵依は俯きそうになる顔を上げて、笑みを浮かべた。俯いてしまったら気が落ちてしまうから。涙が落ちてしまうから。 前を向いて生きる為には俯いたままじゃいけない。泣いてはいけないのだ。 『葵依の笑った顔が一番好きよ』 そう言ってくれたママの為に……天国へいるママが心配しないように。 「私は大丈夫です! 心配してくれてありがとうございます! 私の我儘で人が足りない時に退職させてもらって本当に店長には感謝しています!」 突然大きな声を上げたから、田中はギョッとしてしまう。だから葵依が無理に笑顔を作っているなど気が付かなかった。と言っても簡単に見破られるような偽物っぽさはなくて、愛らしさが前面に溢れている無邪気な笑顔だ。 葵依はギュッと田中の手を両手で包み込んだ。汗でベタついているが葵依は嫌な顔一切せず真剣な眼差しで見つめ。 「そんな店長の優しさに報う為、私は大学へ合格して見せます」 「今から気を負ったら……」 「いいえ! 怠けて落ちてしまったらそれこそ顔が立ちません。受験勉強へ専念する為、って理由でバイトを辞めるのに遊んでしまっては私を見送ってくれた皆さんへ会わせる顔がありません」 すっかり抜け落ちていたのだが。 葵依という娘は何事にも一生懸命でバイトでさえ手を抜かなかった。 葵依がバイトを辞めるのは学業に専念する為である。バイトでさえ妥協しなかった娘が、受験の為にバイトを辞めると決めたのなら彼女は目的の為に突き進む。 真剣な眼差しに、さっきまで自分が抱いていた下心が萎んでいきそうだったが田中は己の目的を思い出し首を横に振った。 (こんなに可愛くて何事も一生懸命な子を、僕が保護しなければ) 美味しく頂きたい、と思っていた筈なのだが……いつのまにか『保護』に変わっている。葵依の笑顔に浄化されて変わっただけで恐らくは暫く経てばいつもの田中に戻る筈だ。 葵依は握っていた田中の手を離すと一歩下がって深々と頭を下げた。 「今までお世話になりました。このご恩……大学合格という結果で返させて頂きます!」 バッと上げた表情は決意に満ちていて……そんな表情を見た田中は「応援するよ!」と拍手して激励の言葉を贈った。 そんな田中の様子に葵依はニッと笑って見せる。 (良いところで働けたなぁ……!) 葵依はそう思って、バックヤードを出る際に一度振り返って田中に頭を下げた。彼女は2年間世話になったコンビニを後にした。チュッと額に唇を当てられて、葵依は目を細めた。 触れてすぐに葵依の投げ出された両脚を挟んで壱は畳に膝をついた。 全身の骨が抜けたようにふにゃふにゃで動けない葵依は、ぼんやりと天井を見つめた。 軟体動物にでもなった気分だ。このままビーズクッションと一体化してしまいそうだ。 溶けちゃってる気がする……。 不安になって、腹の上で手を組む。確かな手の感触があって葵依は胸を撫で下ろした。 開いた股の間から、濡れた感触が生々しくてこれ以上漏れちゃいけないと内腿同士を擦り合わせる。さっき触られたクリトリスがじんと疼いて、疼いた腹の奥を誤魔化すように組んだ手に力を入れた。 カチャカチャという金具の音が聞こえてきて、何の音だろうと不思議に思っていると、「あー」と頭を抱えるような悩ましい声が彼女の耳に届いた。 「あークソ……」 壱はチッと舌打ちをして、両手で激しく髪を掻き乱す。 「ど、うしたんですか……?」 葵依は背中を少しだけ上げて、身を起こした。 さっきまでは完全に挿れるモードだった男の表情は今では嘘のように落ち着き払っている。しかし、どこか残念がっているようにも見えた。 壱は目を覆い隠しながら天井を見上げて、 「ゴムがない」と嘆いた。「ごむ」 (──輪ゴム)「それなら、台所に……」「輪ゴムじゃない」 葵依を見た壱から違うと言われ葵依は押し黙った。「コンドームのこと」「あ、ぁ、あ~~」 葵依はリアクションに困ってしまい、視線を右往左往させながら取り敢えず納得したようにコクコクと何度も首を縦に振る。壱の手が伸びてきて、「頭を振り過ぎると、血が上るぞ」 髪を撫でられてからやっと葵依は頷くのを止めた。 クスっと笑う壱からは、先程まで感じていたいやらしい雰囲気が嘘のよう
「わっ、かんなぁっ……んあっ、あぅ、ひぁ」「ここ、性感帯になっていて、ここをこうすると気持ち良いんだ」「ひゃ、んぁっ、あ、あ」 優しく扱うような指の動きなのに、自分を襲っている快感が強くてずっと目の前がチカチカしている。その快感に堪えようと身を小さくしているのに腰は自分の意思に関係なく揺れてしまって……腰が揺れる度に、熱くて硬い何かが太腿に触れた。さっきよりも硬さを増したそれは、葵依の腰が揺れて擦ってしまう度に熱量も硬さも増していく。その正体が何なのか、今は気にしている余裕はなかった。「蜜が沢山溢れてきた……俺の右手がびしょ濡れだ」「ふっ……、んっ、あふっ」 ぐちょぐちょという音が聞こえてくるから、彼が言うようにびしょ濡れなんだろう──そんなに恥ずかしい事を声に出して教えてくれなくても良いのに……そう思って自分を愉悦を浮かべて見つめる男を憎らしく思った。「音、聞こえるだろ?」 ──言われなくたって、分かってる。「いやらしいな」 ──そんなことないもん……意地悪なこと言わないで。 文句を言いたい。 そう思っても葵依の口から洩れてくるのは言葉ではなく、甘い嬌声ばかりだった──塞いでいる意味ないかも……。 「はっ、ふうっ、ふっ、はっ」 ぎゅうっ。 頬が白く変色するほど口を塞ぐ指に力を込めた。喘ぎ声は漏れなくなったものの、そのせいで呼吸が上手に出来ず……。 (──苦しい) 力を緩めたら、息苦しさから解放されるのは分かっている。肌に食い込むほど力を入れたお陰で喘ぎ声が小さくて済んでいるのに、緩めてしまったらもっと変な声が出ちゃうに決まっている。「フーっ、はーっ、はっ、ふ」 息苦しさのせいで葵依の目に涙が浮かんだ頃──壱
「お、話……する」 葵依は小さく頷いた。「じゃあ、叔父さんと楓君のお話を……」 壱に万里と遥の話をしたから、従兄の話をしようとするも壱から不満げな声が上がった。「二人の話は嫌だ」「えぇっ……」 男女が身体を重ね合っている時に、好きな女の口から男の話を聞きたくない男心を葵依が知る由もなく。「じゃあ、学校のお話……」「それがいい」 葵依は唇に生温かい息が当たる。壱が笑ったようだ。雰囲気が和らいで、さっきのピリっていた空気が嘘のようだ。 膣内にある指を動かしながら壱は葵依の首筋を音をたてて吸った。葵依の腰が痺れ、話どころじゃないのに「話して」と壱から催促されて、葵依は息を整えるように小さい深呼吸を繰り返す。「体育の実技が、苦手……」「因みに、体育の教師は男?」「は、はい」「ふぅーん」「……?」「そうだ、俺の話をしようか」 そう言った壱は、少しだけ身を起こして葵依の顔を見下ろした。壱の肌の熱さが離れ、お互いの汗で湿った胸元にひんやりした風が二人の身体の隙間を通る。壱の体温が、ただ離れただけなのに恋しいと思ってしまった理由を掴めないでいた。「二年前──仕事でヘマをした。いつもならすぐに忘れて立ち直るのに、珍しく落ち込んだ」 ゆったりした口調に低い声は、葵依の耳にすんなりと入る。穏やかな表情だ。一瞬、自分の体内に壱から指を挿れられているという事は夢ではないかと思うも、膣内に感じる圧迫感は本物だ。 その圧迫感は指が一本増やされたからである。たじろいながらも、葵依は壱の話に耳を傾けた。 「同僚全員が俺を慰めようと気を使い……まぁ奴らは一番年下の俺をいつも気にかけてくれてるけど……この時だけは心が荒んでたから何を言わ
壱から心配されて、不快な気持ちにならなかったのは元から彼の性格が心配性だったからかも、と葵依は思った。 目を開けて、壱を見るも酷く落ち込んだ表情を浮かべていた。この答えは違うらしい。「葵依を愛しているから、という答えに結び付く」「あいし!?」 好きだ、という言葉の他に「愛している」という言葉を伝えられて葵依は瞠目した。自分の気持ちが追い付いていないのに、まさか「愛している」って告白されるなんて……。 「俺を受け入れて欲しい」 壱は葵依の手に唇を当てたまま、彼女の栗色の双眸を覗く。「愛してるんだ」 絹のようにサラサラな前髪から覗く黒い瞳は熱が篭っていて、その瞳を見ているだけ葵依の身体が熱を帯びていく。愛を告白されたから恥ずかしくて熱いのか、手の甲に壱の熱い吐息が当たっているからなのか──……。「葵依……」 壱の左手で薄い腹を五本の指でなぞられて、一気に心拍数が跳ね上がった。ゾゾっと粟立って、壱からされたいやらしい記憶が蘇る。 「な、め、られるのは、いや……」「今日はもう舐めない」「こっ、こわい──」 涙がまたせり上がりそうで、葵依は空いている左手を握り締めた。痛みで涙を流さないように、親指と中指で人差し指を抓る。(泣いちゃダメ) 泣きじゃくるなんて、人前であんな失態を晒す事は二度と出来ない……。「毎日、毎時間、毎分、毎秒、幸せにする」「そんなに、ずっと、くっついていられないのに……」 告白された後に言われた同じ言葉を囁かれて、葵依は不覚にも──ときめいてしまった。「離れていても、俺の事を考えるだけで幸せにさせるから」 再び上に圧し掛かられて、息苦しさを覚えるくらいに抱きすくめられてしまう。 体温を直に
涙でぐちゃぐちゃになった顔を、唇を噛み締めたまま壱は見下ろす。葵依の乱れた前髪を左手で整えて、眉の上に綺麗に揃えた。 親指の腹で彼女の目元を擦り、ポツリと「ごめんな」と呟いた。「わ、たしのこと、すき、なんてウソっ」「葵依」「す、きなら、あんなところなめたり、しないもん!」 そうだ、と葵依は心中で叫んだ。そして自分で言った言葉に酷く傷付いた。「葵依が好き」だと言った言葉が嘘だという事実がどうしてこんなに苦しいのか分からない。彼は世に言うレイプ犯だったんだ。そのレイプ犯が身を守る為の防犯講座を話してくれた理由は、私の気を緩める為だ。「好きだよ」 嘘に決まっている。 涙を口で吸われて、頬に口付られ「好きだ」と言われて、葵依はギュッとそっぽを向いた。「好きなら、胸を触らないし、あんなところ舐めたりしない」「セックスをするには、葵依の中を解さないとただ痛いだけなんだ。葵依は処女なんだから」 思わず壱を見たのだが、何も言い返せずに葵依は口を噤んだ。眉を八の字に下げた壱は、顔を歪め、思い詰めたような表情なのに、どんな顔でも憎らしい程の美青年で破壊力がある。 何か……文句を言うべきだ。罵るべきでもある。押し倒して身包み剥がされたんだから、一発殴っても文句は言われないはずだ──壱のその表情を見て、全て許してしまった。見惚れてしまった自分の変わり身の早さが信じられなくて、壱の顔を見ないで済むように瞼を閉じた。「胸と葵依の大事な場所を触ったのはセックスの行為の一つで」「せ、説明しなくていいです」「説明をしておかないと、俺が葵依を好きじゃないって勘違いをし続けるだろ?」「でも、嫌がらせとしか、思えないです。も、もらしたのを……それをその、な、めるとか、飲、むとか……あれが行為の一つなんですか? もしかして、壱さんは他の女性にもした事が……?」 壱が黙ったので、不思議に思って目を薄く開ける。「兎に角、突
諦めずに、必死になって手を伸ばすもやっぱり届かない。それでも、この行為を止めさせたくて壱の黒髪に手を伸ばすも、その行為のせいで腰が浮いて、壱の口に秘部を押し当ててしまっているなんて思いもしなかった。きっと知ってしまったら愧死しかねない。「お、ふろ、にはいりましょ……っ?」 制汗剤や汗拭きシートを使っていても、汗でクサいはず……それに、そんなところ、汗で蒸れて臭うに決まっている。 お風呂に入っている隙に、逃げる事が出来るかもしれない、それに熱いシャワーを浴びたら壱さんは冷静になるかもと葵依はそう提案するも――それは葵依の甘い考えだった。「きたなくない」 はっきりと告げられて葵依の胸に絶望感が広がる。 結果、蜜口に舌を差し込まれたまま喋られて、生温かい息が膣の中に入ってくる感じがして…… ゾクゾクした快感が倍増した。 「あんっ……っ、んんっ、アッ!」 恥ずかしくて堪らないのに、自分が出してしまう声がやけに高くて、喘ぎ声を我慢できなかった。唇を噛み締めたものの、口内炎に響いて断念する。 蕩けた脳が全身に回って腰の周辺で渦巻いている。生れて初めて体験する快感に支配され、自分の身体を自分でコントロールできない事がこんなにももどかしく、怖かった。 ピチャピチャという卑猥な水音がどんどん大きくなっている気がする。脚の間が甘く疼き、壱が舐めれば舐めるほど、蜜が流れる。一体、自分の体内から出た何を舐めているのか葵依が思い付くのは一つしかなかった。 彼女の辞書に、愛液なんて言葉はないし、これが「セックス」の一部分だなんて知りもしない。 手を伸ばしながら、壱を見ると彼の大きな口は彼の舌の分だけ開いた乙女の柔らかいマシュマロを覆うところだった。 &nbs
※ コンビニから出て少し歩いた信号で葵依は立ち止まる。赤信号の間、葵依は背負ったリュックから携帯を取り出して画面を見ると不在着信2件とLIMEのメッセージがあった。 『どうして電話をしないんだ? 電話にも出ないし。 何かあったのか?』 というメッセージを読んで葵依は「しまった」と呟く。この不在着信とメッセージの相手は彼女の叔父だ。 葵依は二十二時にバイトが終わってから、この信号を渡る前に必ず叔父へ電話をするのが日課だった。 叔父──門ヶ原茂は葵依の身元保証人だ。彼は妹、即ち葵依の母親が病死して、葵依を引き取るつもりでいたが葵依はそれを断
葵依は小柄なうえ童顔で、小さな顔に仔猫のように大きい目を縁取る長い睫毛、毛先が外側にクルンとカールしたセミロングストレートの髪型……守ってあげたくなるような無垢な高校生。女子高校生というブランドと小柄で童顔というセットはある界隈の男達から絶大にモテた。仕事中何度も遊びに誘われたが、葵依は全て「勉強をしなきゃ」と言って断った。これは下手な断り文句ではなく本当の事である。葵依はバイトが休みの日は友達と寄り道せず、学校が終われば真っ直ぐ家へ帰り授業の予習をするのだ。 可愛いけど男への免疫がない葵依を騙すのは簡単だろう──胸が小さいのは残念だが、世間知らずな見た目だから簡単に堕ちるだろう……そ
高校一年生から二年間勤めたコンビニのバイトを下田葵依は、高校三年生の五月、ゴールデンウィーク最終日をもって円満退職を果たす。 二十二時。終業時間になりバックヤードへ行くと、店長の田中から「みんなからだよ」とプレゼントが入った袋をもらった。バイト仲間たち全員からの寄せ書きが入っていて『一緒に働けて楽しかった』『遊びにきてね』『寂しい』などと書いてある。ガラスドームに入ったプリザーブドフラワーと「受験勉強を頑張って」という気持ちが込められた本革製のペンケースも贈られた。うるっと涙が出てきて、葵依は慌てて手の甲で涙を拭った。 「葵依ちゃん」 『葵依ちゃん』と呼ぶ声
「……照れ隠し?」 目をパチパチさせる葵依に113番は「あぁ」と短く答えた。 「下田さんのバイトは今日が最後だから声を掛けようと思ったんだ」 「あれ? 名前?」 どうして名前を知ってるんだろ? と首を傾げると 「バイト中、名札を見てたから」 と男は自分の右胸を指した。バイト中はその場所にネームプレートを差すのだ。 「そうなんですね」 納得して頷く。 名前を知られていたなんて、と思うとどうしてか嬉しい気持ちが沸いてきて口元が緩んでしまう。 「俺は壱だ」 「いちさん?」 「あぁ」と113番──金城 壱は頷いた。名前を呼ばれただけで







