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第五話

작가: 深海 涙
last update 게시일: 2026-03-13 08:30:00

「愛人だなんて……恋人が欲しいの」

わたくしは恥ずかしげに微笑んで見せた。

「公爵様がお許しになるかしら。ジェラルド様も……」

マルガレータの指摘はもっともだった。

お父様は今、集まった皇帝派の貴族たちと密談中のはずだ。もう少し経てば、会場に現れない皇太子を皇宮まで迎えに行く。お父様は、わたくしが『皇太子の婚約者に内定している』と、印象づけたいのだ。

心配せずとも、皇室は公爵家の支援なしに品位を維持できないほどになっている。わたくしと皇太子を結婚させるより、威厳を保つすべがないのだ。

わたくしは、この二度目の人生で皇太子の婚約者にはなりたくない。

塔で最後に会った日に、男が残した言葉の意味が今ならわかる。

男は、自分が皇帝を倒せなかった場合に、私が過去に戻ると知っていたのだ。そう、準備していたのだろう。

わたくしは今までのように『皇太子妃にふさわしい令嬢』でいてはいけない。

「せっかく成人したのだから、自由に楽しみたいわ」

「あなたの気持ちはわかるけれど……」

マルガレータが心配してくれている。彼女のわたくしに対する友情は本物だと、わたくしは知っている。

塔にいた頃、アンからマルガレータの末路を聞かされた。わたくしの潔白を証明しようと動き、反感を抱いた民衆によって殺されてしまった。マルガレータを殺したのは、本当に民衆だったのか、ずっと疑問に感じていた。

わたくしには何もかもが、マクシミリアンの仕業に思える。

与えられた二度目の人生で、再び皇后となり、未来を変えていく選択肢がないわけではない。注意深く過ごせば、きっと陰謀を阻止できる。そうだとしても、わたくしは、たとえ男から「誰の皇后にもならないでほしい」と言われていなくとも、マクシミリアンの妻には、もう二度となりたくなかった。

塔へ来ていた男がすぐにみつかればそれが一番良い。間違いないと確信が持てる相手が現れてくれれば、迷わず、手を伸ばす。

男は、わたくしのアカデミー時代のことも詳しかった。きっと、今このとき、わたくしのことを憎からず思ってくれているはずだ。

侍従が報告をしに来た。

「条件に合う男性が集まりました」

「何名かしら?」

「四名です」

マクシミリアンが来るまでの時間で、ダンスを踊ってみるのにちょうど良い人数だ。

「わたくしがそちらへ行きますわ。お待ちいただくよう伝えておいて」

侍従は一礼して戻っていった。

「今から、恋人候補の方たちとお会いするから、マルガレータも同席してね」

「わかったわ。変な噂のある人は教えてあげる」

わたくしはマクシミリアンの妃になるために生きてきたせいで世間に疎い。マルガレータは、いろいろな情報を持っているので、きっと、塔に来ていた男を探すのにも頼りにできる。

「では、どのような方がいるか、見に行きましょうか」

マルガレータと二人、男たちの待つ場所へ向かう。招待客たちが、わたくしの意図を探ろうと視線を向けてくる。仲の良い者同士、なにかを囁き合っている。

『皇太子妃候補の公爵令嬢が、男漁りをはじめた』と噂を流してもらえれば、わたくしの思惑は成功したと言える。

ツェーザルにどう思われるかが少し気がかりだ。わたくしは自分でも不思議だった。ツェーザルは塔に来ていた男とは、体格が違い過ぎる。戦争の英雄となった後のツェーザルは背が高かった気もするが、近くで会ったわけではないので実際はどのくらいかわからない。

ツェーザルのくれた何気ない気づかいが、塔に来ていた男を思い出させる。マクシミリアンは何度生まれ変わろうとできない気づかいだ。

ツェーザルを、『男』だと確信できたら、その時には今日のことを詳しく説明すればいい。今は、マクシミリアンの婚約者に選ばれないよう、わたくしのこれまでの印象を変えるのが最優先だ。

わたくしが指定したのだから当然だったが、四人は背が高かった。一人、明らかに塔の男よりももっと背の高い青年がいた。早速、一人除外となったが、『差しあげたいものがある』と言って集めた手前、追い返すわけにもいかない。

わたくしが用意したものには、大した価値がない。ただ、塔に来ていた男なら、喜んでくれると思えた。

「お楽しみの最中にわざわざお集まりいただき感謝いたしますわ」

男たちは口々に、わたくしの側にこうして立っている喜びを伝えてきた。わたくしは微笑みを浮かべながら、ひとりひとりを観察していく。

服の色味と、ブローチが合っていない男がいた。他の誰かから借りたのか、あるいは奪ったのかどちらかだろう。

残る二人は、素朴な顔をした真面目そうな青年だ。塔に来ていた男が顔を隠していたのは、容姿に自信がなかったからかもしれない。わたくしは、男の『優しさ』を愛したのだ。ツェーザルのように美しくある必要はない。

「あなた方には、わたくしと踊る栄誉を差しあげます。ダンスに自信がおありなのでしょうから、楽しませていただけると信じていますわ」

わたくしはわざと傲慢な態度をとった。わたくしを慕ってくれている『男』からは、幻滅されるかもしれない。それでも、世間にわたくしの悪評を広めるためには、やむを得ない。

目の前の男たちは、忠犬のごとき喜びようだった。

「まずはあなたから」

わたくしは、可能性の残る者のうち、より、服装にセンスを感じられた方を選び声をかけた。

「お名前をお伺いしてもよろしいかしら?」

「パウル・シャローと申します」

低く響く良い声をしている。

予めわたくしの指示をうけていた侍従が、指揮者に合図を送った。管弦楽の音色が会場に響きはじめた。

自信を持っているだけあって、ダンスがとても上手い。しかし、自分本位だった。わたくしはパウルのキレのあるダンスに、必死でついていく。

「公女様、とても素晴らしいです」

パウルは楽しそうにしている。わたくしは、楽しんではいなかったが、パウルにダンスを下手だと思われたくないと感じ、意地になってステップを踏み続けた。そのせいで、一曲終わる頃には疲れ切っていた。

「自分の思いどおりのダンスができたのは初めてです」

パウルは心から嬉しそうだ。

「早く、パートナーを楽しませるリードができるようになると良いですわね」

わたくしはあえて、嫌みを言った。パウルなら、ダンスに対する意識を変えれば、『塔に来ていた男』のような心地よいリードができるようになるだろう。

「アナスタシア」

兄の声が聞こえた。テラスから出てきて、わたくしが問題を起こしていると気づいたようだ。

「お兄様が怒ってらっしゃるから、あなたはここから離れたほうがいいわ」

わたくしはパウルに声をかけてすぐ、お兄様の方に体を向けた。

「ウーテ様は?」

まだテラスにいるらしい。お兄様は、ウーテのために飲み物を取りに出てきたところで、騒動を知ったのだ。

「お兄様とウーテ様を見ていたら、恋愛をしてみたくなったの」

お兄様はまた頬を赤くしながら「ウーテとは友人なだけで」と訂正してきた。

「あら、わたくしの勘違いだったのね。お手伝いできればと思っていたのに、残念」

お兄様は少し迷いを見せたあと「その話は、また別の機会にしよう」と、言った。

「それより、今はお前のことだ。何を考えて男たちを集めた」

「わたくしはただ、わたくしの好みに合っていて、ダンスの上手な方と踊りたかっただけですわ」

「さっきの者が、好みなのか?」

真面目そうなところに好感を持った。

「まったく外れてはなかったです」

お兄様は「結婚と恋愛は別だとはいえ、お前はいずれ皇太子妃になる身だ。あまり目立った行動はよくない」と、真剣な顔で諭してきた。

わたくしは、いったん深く息を吸い込んだ。

「そう、結婚と恋愛は別ですわね」

わざと周囲に聞こえるよう大きめの声を出した。

「どなたかわたくしを誘ってくれないかしら」

お兄様から口を塞がれた。

「いったん、テラスに出ようか」

お兄様はわたくしの腕を掴んだ。

わたくしはお兄様に連れて行かれながら、招待客たちに『勝手な振る舞いをするわがままな令嬢』というイメージを植え付けられたと、密かに喜んだ。

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