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結婚白紙にされた新幹線パーサーは、再会した御曹司ドクターに求婚されました。
結婚白紙にされた新幹線パーサーは、再会した御曹司ドクターに求婚されました。
Author: 伊桜らな

妊娠発覚

Author: 伊桜らな
last update Last Updated: 2025-08-13 22:14:31

「……うそ、でしょ」

 目の前のテーブルに置かれたスティック状の小さな物体を見て、私はしばらく動けなかった。呼吸が止まり、手のひらの感覚がぼんやりとしていく。心臓が早鐘のように鳴り、胸の奥で何かが締め付けられるような感覚が走る。私、**望月花耶(もちづき・かや)**は、動揺を隠すこともできず、ただ茫然とスティックを見つめていた。

 そのスティック状のもの――妊娠検査薬――には、くっきりと二本の赤紫色の線が浮かんでいた。まるで、目の前で確実に「現実」を突きつけているかのように。その隣に置かれた箱には大きく【99%の正確さ!】と書かれており、軽い気持ちで試したわけではないことを再認識する。いや、正直に言えば「ただ安心したかっただけ」だったのだ。

 数日前から、体調が思わしくなく、生理も遅れていた。新幹線パーサーという仕事柄、体調管理は絶対に欠かせないのに、微熱や倦怠感、胃のむかつきやだるさに、私は何度もネット検索を繰り返していた。「ただの疲れだ」と自分に言い聞かせても、心のどこかで不安が渦巻く。まさか、こんな結果が出るなんて――。

「だ、だけど……病院で診てもらったら、結果は陰性でしたとかあるかもしれないし……必ず合ってるとは限らない」

 そう言い聞かせる自分の声も、どこか震えている。呼吸を整えようと深く息を吸い込み、ゆっくり吐いてみる。しかし、胸の奥のざわざわは消えず、手が自然と膝の上で小さく握りしめられている。

 ──まずは、病院に予約を入れよう。

 私はスマホを手に取り、社員寮からできるだけ遠い産婦人科を地図アプリで検索した。画面に表示された七件のクリニックを一つずつ眺め、レビューを読み比べる。

【新しいクリニックで清潔】【女医さんで優しく、受付も親切】【気遣いが嬉しい、オススメ】

 一番最初に表示されたクリニックを選び、ホームページを開く。予約専用の電話番号を見つけ、恐る恐る番号を押す。ツーコールほどで繋がり、緊張のあまり手のひらに汗をかいていることに気づく。

「明日の十一時でお願いします」

 そう告げると、少しだけ肩の力が抜けた。やっと、動き出せる――。

 翌朝、私は早く目を覚まし、慎重にクリニックに行く準備を整えた。制服やカーディガン、手帳、スマホをバッグに詰め込みながら、心臓が落ち着かないのを感じる。地図アプリを何度も確認し、電車の乗り換え、出口、徒歩時間まで頭の中で繰り返した。初めて行く場所。迷子になったらどうしよう、誰かに会ったら……そんな不安が胸の中で渦巻く。

 寮を出て、駅までの短い道を歩く。目の前の駅舎が見えるたび、安心と緊張が交互に襲ってくる。切符を買い、改札を抜けて電車に乗る。座席に腰を下ろし、手のひらで膝を軽く叩きながら、心臓の音を聞く。二駅で降り、南出口から徒歩五分。景色を確かめながら歩くと、思っていたよりもおしゃれな看板が視界に入った。

「……はぁ、緊張する」

 息を深く吸い込み、吐く。手のひらの汗をティッシュで押さえ、ゆっくりと足を前に運ぶ。数時間後には、結果が出てしまうのだと思うと、心臓の鼓動が一層速くなる。

 クリニックに入ると、ホテルのフロントのような綺麗な空間が広がっていた。受付カウンターの前に立つと、笑顔の受付スタッフが声をかけてくれる。

「おはようございます、初めての方でしょうか?」

「はい、昨日予約して……望月といいます」

「十一時のご予約ですね。まずは問診票の入力をお願いします」

 渡された受付番号を握りしめ、席に座る。スマホで問診票を入力しながら、手が微かに震えているのに気づく。名前や生年月日、体調や生理のことを打ち込むたび、胸の中の不安が少しずつ大きくなる。送信ボタンを押すと、受付スタッフが診察券を持ってきた。

 診察券は光沢があり、クレジットカードのような質感で、裏面にはプライバシーに配慮した名前が刻まれている。小さな安心感が、心の片隅に生まれた。

 番号が呼ばれ、中待合に進む。白を基調とした開放的な空間に、少しほっとする。しかし、すぐに緊張が戻る。問診室で医師に状況を聞かれ、検査室へ案内されると、いよいよ現実が迫ってくる感覚に襲われた。尿検査、採血、内診。どの瞬間も、心臓はバクバクと音を立て、呼吸が浅くなる。

 検査が終わり、番号が呼ばれる。診察室に入ると、四十代くらいの女性医師が穏やかな笑みで迎えてくれる。

「こんにちわ、望月花耶さんね」

 名前を呼ばれた瞬間、胸の奥がギュッと締め付けられる。もし、本当に妊娠していたら……どうしよう。

「検査お疲れ様でした。妊娠されていますね。今、九週に入った頃よ。エコー見てみましょう」

 言葉が耳に入った瞬間、頭の中が真っ白になる。目の前のモニターに映る小さな胎嚢。トクトクと心臓を打つ赤ちゃんの姿。小さいけれど、一生懸命生きている。胸が熱くなり、涙が自然に溢れそうになる。

「産むかどうかはしっかりパートナーと考えて――」

 医師の言葉を遮り、私は迷いなく言った。

「産みます。産みたいです」

 声が震えても、言葉に迷いはなかった。医師は優しく微笑み、これからの説明をしてくれる。母子手帳を受け取り、妊娠届出書を書き、診察室を後にしたとき、少しだけ未来への覚悟が生まれた。

 ***

 寮に戻り、ソファに腰を下ろす。手にした母子手帳とエコー写真をじっと眺める。まだ現実味がないような、不思議な感覚が心を満たす。手帳の紙の感触、写真の赤ちゃんの小さな輪郭。胸がいっぱいになり、自然に呼吸が深くなる。

 スマホを手に取り、電話帳を開く。指先が少し震える。呼び出しボタンを押すと、数秒後に低く落ち着いた声が聞こえた。

「花耶? どうかした?」

「……あ、うん。話がしたくて、会える日ない?」

 明日の夕方、いつも行くカフェで会う約束をした。緊張と期待が交錯し、胸の奥がまた少しドキドキする。

 ──明日、全て話そう。

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