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第三段階その2

last update Last Updated: 2025-07-01 21:57:05

 そこは切り立った崖の上だった。眼下に広がる一面の海の上で、僕は絵筆を持ってキャンパスに色を乗せたところだった。

 とても風が強い日だったけれど、あの日の僕はどうしても海が描きたかった。

 台風が来るらしいし別の日にすればって、たった一人僕を気にかけてくれる友達に呆れられたけれど、絶対に今日描きたい。そう思って海に来たんだ。

 だって、そうしないと……間に合わないんだ。……何に? 残念ながら、その内容までは思い出せはしなかったけれど。

 僕はこの場所に来る直前に、海に来ていたことを思い出した。

「……また、思い出したんだな?」

 カエンが確信を持って聞いてくる。僕は息を乱しながら頷いた。

「そっか……なあ、俺もうこんななんだけど。拓海から仕掛けたんだから、責任とってくれよな?」

 カエンは僕を膝の上に乗せると、わざと尻に当たるように硬くなった雄を擦りつけた。うわ……僕は慄いた。

 今まで一方的に触られることはあっても、カエンの欲望を全面に押し出されたのは初めてだった。

「う……こんなところで?」

「だってあんたがこんなところで、キスをねだってきたわけだし? なあ、いいだろ? 拓海だって我慢できそうにないじゃん」

「え、ちょっと……ふぁ、うぐっ」

 ズボンをずり下ろされて、芯を持ち始めたモノをキュッと握られて息を詰める。

「んっ、あ! うぅ……っ」

 迷いなく追いたてられて、僕はその快感に耐えることに精一杯になる。

 ガチガチになった陰茎をカエンは愛でるように撫でさすったり、かと思えば強く擦りあげてみたりして、巧みに僕を翻弄した。

「は……ぁ……んっ!?」

 後ろの穴をカエンの指で探りあてられる。カエンの指はすでに濡れていた、いつの間に。

 指先が穴に潜りこむ。花の蜜のような香りがほのかに漂う。

 くち、ぬちゅ、指が動かされる度に、ねっとりと蜜が穴の奥に送りこまれているような感覚がして、身を震わせた。

「まっ……て、これなに」

「ん? 体に悪いものじゃないから気にしなくていいよ」

「どこ、から」

「どうでもいいじゃん? ほら、集中して」

 体の内側を蹂躙する指は、まるで焦らすようにゆっくりと内壁をなぞっている。もっと気持ちよくなりたいと腰が揺らめく。

「うわあ、エロいな」

「んっ……ちゃんと、触って」

「おおせのままに」

 ニヤリと舌なめずりでもしそうな顔で笑ったカエンは、僕の前立腺を探りあてて刺激しはじめた。途端に頭の中に火花が散る。

「ぅあ! あ、あっ!!」

 僕は必死にカエンにしがみつく。カエンはそんな僕を穴が空くほど見つめている。

「はあ、たまんないな。俺も一緒にしていい?」

 カエンも前をくつろげた。腹につくほど反り返った雄は、そんな表現はどうかと思うが綺麗だった。

 大きくて立派なんだけど、白くて陶器のようにつるりとした印象を受ける。観察していられたのはそこまでで、僕の竿と一緒に握りこまれて息を詰めた。

「な、一緒に気持ちよくなろう」

「あ……」

「しっかり捕まってろよ」

 カエンは片手で僕の尻を弄りながら、片手で兜合わせしながら僕を高めていく。固い雄芯は熱く、僕は激しく吐息を弾ませながらカエンにすがりついた。

「ひ、やあぁっ! や、固いの、ゴリゴリして気持ちいいよぉ、こわいぃ」

「ははっ、めっちゃカウパー出てきた。気持ちいいんだな拓海、もっとしてやる」

「やだやだやだ! そんなしたら、イク、出ちゃうぅ」

「出せよ、俺ももうヤバいから……っ」

 カエンがますます僕を追いたてた。ぐちゅぐちゅと先走りで濡れた前を擦られ、前立腺をぐりりと押されると同時に、頭が真っ白になる。

「いっ……ああああぁー」

 高い声を上げて僕はイッた。ヒクヒクとお尻の穴が痙攣している。カエンはまだ前を握ったままだ。

「ん、俺ももう、出る……っ!」

「や、僕の、離して、もうイッた、イッたからぁ」

 出した後敏感になった肉棒をまとめて擦りあげられて、嫌々とカエンの肩に顔をなすりつけた。

 カエンの喉仏からヒュッと息を詰めるような音がして、お腹に温かいものがかかる。

 耳元で熱い吐息を感じながら、やっと刺激から解放された僕はくたりと全身の力を抜いた。

「……はぁ、拓海、エロすぎ。我慢できなかったじゃん」

「僕のせいに、しないでよ……んっ」

 後ろの穴から指が抜けて、まるで引き留めるかのようにキュッと閉じるのが恥ずかしい。

「……川、行くか」

「うん」

 カエンと水浴びをして帰った。その日は夢も見ずに眠りについた。

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