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ผู้เขียน: 兎騎かなで
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-07-06 18:01:57

 カエンは花の精、とでも言えばいいのだろうか。それとも付喪神? 

 とにかく、この懐中時計はカエンの本体で間違いない。

 昨日の夜、眠る直前に思い出した記憶の続きを辿る。

 僕は突風に煽られて、崖から海へ向かって落ちた。そして、ペンダントから声がしたんだ。

 切羽詰まった、僕を心から案じる声。今では聞きなれたカエンの声だ。

 そして気がついたら、あのネモフィラの花畑にいた。カエンの世界の中に。

 その時の僕も記憶を失っていて、初対面のカエン相手にかなり警戒していた。僕はもともと、そんなに人づきあいが得意な方じゃない。

 今回初めてカエンに会った時のように、あんなにも慕わしさを感じることの方が異常事態だ。

 ……記憶はカエンの体液に触れたり、ペンダントを手にすることで戻るようになっている。

 なぜなら僕の記憶を奪ったのは、カエンだから。カエンの残滓から記憶が流れこむことによって、僕は真実を知った。

 何度も何度も思い出して、その度に現実に帰ろうとした。

 けれど崖に近づこうとするとカエンに邪魔されて、記憶を消去されてきた。

 カエンを疑った僕も、この世界に不信感を覚えた僕も、家に帰るべきだと思い詰めた僕も、カエンが気になりはじめたけれど信じきれなかった僕も、失意の中でそれまでの出来事を忘れた。

 繰り返し繰り返し、途方もないほどの回数を重ねて。

 僕はいつしか、側にいて寄り添ってくれて、僕を愛おしい目で見つめるカエンに、親しみを感じるようになっていった。

 そして、ついに恋に落ちたのだ。

 ……カエンはなぜ、僕の記憶を奪ったのか。

 彼は僕に、現実世界に帰ってほしくなかったんだろう。

 だって彼は、記憶を奪う前の僕に何度も言っていた。ここにいてほしいって。

 僕のことが好きだから、閉じこめたかった? それとも、現実世界に帰ると危険だから、帰らせたくなかった?

 真実は彼に聞かなければわからないだろう。けれど一つ確実にわかることがある。

「あのネモフィラの丘を越えて、その先にある海に飛びこめば……僕は現実に戻れる」

 流れ込んできたカエンの残滓が、そう教えてくれた。きっとカエンは崖の上にいる。

 僕は強風の中、足をゆっくりと動かしはじめた。真っ直ぐに丘の上を目指す。

 丘の上にたどり着くと、嵐のような風が吹き荒れていた。花びらは懸命に茎にしがみついているけれど、時に風にさらわれてしまい、あっという間に飛び去っていく。

 大風に転がされないようにしっかりと大地を踏み締めながら、一歩一歩進んでいく。

 風の音に混じって、海の波音が耳に届いた。海に近づくにつれて風はますます強くなっている。まるであの嵐の日が再来したかのよう。

 歯を食いしばり歩を進めると、カエンは崖の前に立っていた。一歩ずつ確実に近づいてくる僕を、哀しげな瞳で見ている。

「おはよう、拓海。今回もここまで来てしまったんだな」

「おはよう、カエン。今日は風が一段と強いね」

「……来てほしくなかったからな」

 やはりこの風は、カエンの心の荒れ具合とリンクしてるらしい。

 悲壮感をたっぷり背負った彼の背後には、荒々しく水面が爆ぜる海が見えた。

 風によってなぶられる髪もそのままに、カエンは真剣な面持ちで僕に問いかけてくる。

「どうしても現実世界に戻りたいのか? 俺は拓海を大切にしたいんだ……ここを出てしまえばもう、俺はお前を守れない」

「……」

「行かないでくれ」

 カエンは言葉尻を震わせながら懇願した。僕の気持ちは嵐に煽られた小舟のようにぐらぐら揺れる。

 ……ここに来るまでは海に呼ばれている気がして、導かれるままにここまで来た。

 帰らなきゃいけない。両親もたった一人の友人も、僕のことを心配しているだろう。

 おばあちゃんにちゃんとさよならを言って、お墓参りもしたいし。

 海に落ちたであろう僕の体のことを考えると、不安しかないけれど……戻らなければいけないのだろうと、強く思った。思っていた。

 ……だけど、本当にそうだろうか。本当にそれでいいのだろうか。

 僕はここに来て確かに幸せだった。現実の世界では、僕を心から愛してくれる人なんて、もういない。

 両親は僕より仕事の方が好きだし、友人だって半ば煙たがりながらお節介を焼いてくれているだけで、僕のことが大切なわけじゃない。

 いなくなったところで、一年も経てば忘れ去られる程度の関係しか、築いてこなかった。

 そして大好きなおばあちゃんも、もういない。おばあちゃんが遺してくれたカエンとも、この世界を出てしまえば会えなくなるかもしれない……

 僕は長い沈黙の後に顔を上げて、しっかりとカエンを見つめて問いかけた。

「……カエン。この先に行くと僕は元の世界に帰れるんだよね?」

「……そうだ」

「そこにカエンはいない?」

「いるさ、ちゃんとそこに」

 そこ、と言いながらカエンは僕の首にかかっている懐中時計を指し示す。

「この姿ではもう会えないけどな」

「そうなんだ……だったら」

 カエンは聞きたくないと言いたげに目を閉じた。泣き出す寸前の子どもみたいな表情だった。

 彼は目を潤ませながら僕の言葉を遮る。

「悪いけどどうしても行かせたくないっ、もう一度あんたの記憶を奪って」

 僕は決意を込めて、カエンに言い放つ。

「行かない。ここにいる」

「……えっ?」

 カエンは今までに見たことがないくらいに呆けた顔をした。ぽかんと口を開けた後、信じられないと言いたげに、つっかえながら歩み寄ってくる。

「……ほ、ほんとか? 本当に? 拓海、全部思い出してるのに、ここにいてくれるのか!?」

「うん。カエンの側にいるよ」

「拓海……!!」

 カエンは僕を骨が軋むほど抱きしめた後、手加減なしの濃厚なキスをかました。

 唇を吸われ、唾液を注がれ、舌で口内を蹂躙される。僕はそれを、当然のように受け入れ舌を絡めた。

 彼の涙が頬を伝って、僕の口内にも花の香りがする液体が流れ込んでくる。

 ああ……すべて思いだした。

 僕は溺れていた。深く、暗く、がむしゃらにもがいても抜けだせない水の中で。

 波がどんどん僕をさらって、岸から遠ざかっていく。水面から顔が出せないくらいにもみくちゃにされて、上下の感覚すら曖昧になる。

 もう息が続かない、苦しい、苦しい、苦しい……手を伸ばしても地上の光には到底とどかない。

 そんな時、君の声が聞こえたんだ。僕が肌身離さず持っていた、おばあちゃんの肩身……ネモフィラの花のしおりが入ったペンダントから。

『死ぬな、死ぬな拓海! せめて、意識だけでもどうにか……』

 死ぬ間際に知らないやつの声が聞こえるとか、ひょっとして神様?

 なんて思いながら、もう力の入らなくなった手足を水の中に投げだして、僕の肺は水でいっぱいに満たされた。

 そうか、僕……とっくに死んでいたのか。僕の意識がこの世界に連れ去られてきた時には、きっともう事切れていた。

 僕がいまさら現実世界に帰ったって、すでに死んだ体に意識は戻らない。どおりでカエンが必死になって止めるはずだ。

 キスをしている間に、嵐は収束していた。心地良い微風が、僕たちの間をすり抜けていく。

 もう死んでいるなんて信じられないくらい、頬に感じる風はリアルだ。カエンの体温も柔らかくうごめく舌も、すべては幻かもしれない。それでも。

 僕の隣にはカエンがいる。今はそれだけで充分だ。

 やっと僕を解放したカエンに向かって、明るく笑いかける。

「帰ろう。僕らの家に」

「……っ、ああ! 帰ろう!!」

 カエンの涙が一粒、風にさらわれて宙を舞った。

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