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第10話(36)

Penulis: 北川とも
last update Tanggal publikasi: 2025-12-29 20:00:46

「何、先生っ。そのグサッとくる言い方っ。まるで俺が、若いだけが取り柄みたいじゃん」

「若いといっても、今日で二十一だろ。十歳差、というのが新鮮でよかったのに――」

 悲鳴を上げた千尋が勢いよくソファから立ち上がり、和彦の隣へとやってくる。

 締めたネクタイがどことなく、犬っころの首につけられた首輪に見えなくもない。千尋の必死の表情も相まって、たまらず和彦は噴き出す。

「お前、可愛いな……」

「先生、今、俺のことを、犬っころみたいだと思っただろ」

 その言葉を肯定するように、遠慮なく千尋の頭を撫で回す。そして、柔らかな口調で告げた。

「ぼくの前では、意識してそんなふうに振る舞ってくれているんだろ」

 次の瞬間、千尋は年齢以上に大人びた表情となり、ネクタイを解く。汚してはいけないと言わんばかりに、きちんと箱に仕舞い、ソファの端に置いた。

 千尋の誕生日である今日は、和彦はほぼ千尋に独占されている。午前中はしっかりと買い物を楽しみ、午後からはたっぷりと遊び歩き、ホテルの
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  • 血と束縛と   第22話(22)

    ****「――賢吾が、あんたのための着物をあつらえさせていると聞いた」 守光の言葉に、シートの上で和彦はわずかに身じろぐ。 寛ぐよう言われたが、総和会会長と並んで車の後部座席に座っていて、背筋を伸ばす以外の姿勢を取れるはずもない。やはりどうしても、緊張してしまうのだ。 そんな和彦を見て、守光は口元に淡い笑みを浮かべる。「旅行にも一緒に行ったのに、まだ、わしに慣れんかね?」「いえっ……、突然のことで、驚いているだけで……」 クリニックでの仕事を終え、いつものように護衛の組員が運転する車で帰宅していたのだが、途中、あるビルの地下駐車場に入ったかと思ったら、隣に停まっている車に移るよう言われた。そして、今のこの状況だ。 守光は、ビル内にある料亭で会食を終えたところで、これから別の店に向かうそうだ。そう、守光が決めたのなら、和彦は付き従うしかない。 濃いスモークフィルムが貼られたウィンドーから、外を流れる夕方の街並みはあまりよく見えない。この車は、総和会会長の身を守るための動く要塞だ。見た目からして威圧感に溢れており、その前後を護衛の車が守っている。 こういう状況に身を置いていると、自分は総和会会長のオンナになったのだと、不思議な感慨をもって実感できる。まだ現実味は乏しいのだが、紛れもない事実だ。 ただ、守光が相手だと、どう振る舞えばいいのかいまだにわからない。賢吾と知り合った当初もわけがわからないまま振り回されていたが、そうしているうちに、あの大蛇の化身のような男に慣れていった。 しかし守光は――。 一瞬見ただけでの、九尾の狐の刺青を思い出し、和彦は小さく身震いする。あれは触れてはならないものだと、本能が訴えていた。 身を固くしている和彦の膝の上に、あくまで自然に守光の手が置かれる。「そう、着物の話だ。せっかくだから、わしもあんたに着物を仕立てて贈ろうと思っている。この先、何枚あっても困らんものだ」 遠慮の言葉が咄嗟に口をついて出そうになったが、守光の強い眼差しを向け、そ

  • 血と束縛と   第22話(21)

    「三田村っ……」 思わず声を上げた和彦に対して、三田村がわずかに目元を和らげる。「届けものをしたら、朝メシを食わせてもらったうえに、先生の運転手を任された」 靴べらを差し出され、和彦は慌てて受け取って靴を履く。こうして三田村と会えたのは嬉しいが、頭の片隅では、賢吾なりの意図があるのだろうかと勘ぐってしまう。それは、和彦が抱える後ろめたさ故の感情ともいえた。 三田村に伴われて車の後部座席に乗り込むと、ほっと息を吐き出す。「久しぶりな気がする。こうしてあんたの運転する車に乗ったの。前は、毎日のように行動を共にしていたのに」 和彦が話しかけると、バックミラー越しに三田村がちらりとこちらを見た。「一月ぐらい前だったかな、こうして先生を車に乗せたのは」「……あんたに怒られたんだ。夜、一人でふらふらするなと言って」 あのときの和彦は、思いがけない里見からのメッセージに気持ちが掻き乱されていた。そんな和彦を支えてくれたのが、三田村だったのだ。 それから今日まで、和彦の置かれた状況はまた大きな変化を迎えていた。 自分と守光との関係をすでに知っているのだろうかと、和彦はじっと三田村の後ろ姿を見つめる。三田村は、和彦の何もかもを受け入れる。そうすることで、一時とはいえ和彦との時間を共有できると知っているからだ。 和彦がますます裏の世界から逃れられない立場になったと知って、この男は喜んでくれるのだろうか――。 そんなことを考えてしまうと、三田村に気軽に話しかけられなくなる。後ろ姿を見つめているだけで胸が詰まるのだ。 せっかくこうして二人きりになれたのだから、何か会話を、と思っていた和彦の視界に、ある光景が飛び込んできた。 本宅とマンションを行き来するときに通る並木道には、桜の木が植えられている。冬の間は気にかけることもないのだが、和彦が慌しい日々を過ごしている間にも、ここにも確実な変化が訪れていた。寒々しかった枝は鮮やかな緑の葉をつけ、花は開いてはいないものの蕾もついている。もう何日かするとぽつぽつと開花していくのだろう。「――&hell

  • 血と束縛と   第22話(20)

     賢吾の話を聞きながら、全身の血の気が引いていくようだった。心臓の鼓動も速くなり、背を通してそれが賢吾に伝わりそうで、和彦はそっと体を離す。「……ああ、美味しかった。ちょうど焼きたてが並んでいたから、なおさらそう感じたんだろうな」 そうか、と答えた賢吾に手首を掴まれ、本能的な怯えを感じた和彦は体を強張らせる。有無を言わせず再び布団の上に押し倒され、片足を抱え上げられる。熱をもって蕩けている内奥の入り口に、賢吾の欲望が擦りつけられた。「うっ……」 小さく呻いた和彦は顔を背ける。賢吾が怖いくせに、やはり熱いものが欲しかった。「先生が気に入ったんなら、明日の朝、同じ店で買ってこさせよう。俺は、朝は和食なんだが、少し味見させてもらおうか。それと、美味そうにパンを食う先生の顔も堪能したいな」 焦らすようにゆっくりと内奥を押し広げられ、和彦は身悶えながら賢吾の肩にすがりつく。あとはもう、悦びの声を上げることしかできなかった。**** 翌朝、告げられていた通り、賢吾と朝食をともにした和彦だが、正直、焼きたてのパンの味などわからなかった。パンを千切りながらも、賢吾の反応が気になって仕方なかったからだ。 一体何を言われるかとずっと身構えていたが、和彦が食べていたパンを一欠片食べてから、賢吾は頷いただけで、感想らしいことは言わなかった。パンそのものは確かに美味しいのだが、果たして、和彦があえて遠回りをしてまで買い求める価値があったと、納得したのかどうか――。 昨夜の行為の余韻も引きずっている中、賢吾の言動一つ一つに神経を尖らせていると、朝からぐったりしてしまう。 腕時計で時間を確認してから、和彦は急いでコーヒーを飲み干す。クリニックに出勤するにはまだ早いが、一度マンションに戻り、着替えを済ませておきたかった。そのため少し急いでいる。「じゃあ、ぼくはもう行くから」 イスから立ち上がった和彦が声をかけると、新聞を開いていた賢吾が顔を上げる。ニヤリと笑いかけてきた。「働き者だな。体はまだつらいだろ。せめて午後か

  • 血と束縛と   第22話(19)

    「気持ちいいか、先生? 尻が締まりっぱなしだ」 和彦は何も考えられず、夢中で頷く。賢吾の指が、繋がってひくつく部分を擦り上げてくる。それだけで、鳥肌が立ちそうなほど感じていた。「いい顔だ。先生みたいな色男を、尻で感じさせているのが自分かと思ったら、限界まで奮い立っても仕方ねーよな。俺だけじゃない。先生を抱いている他の男も同じだろう」 一度内奥から引き抜かれた欲望が、すぐにまた奥深くまで押し入ってくる。和彦は思いきり仰け反って、頭の中で閃光が走るような感覚を味わう。「また、イッたのか。こんなにすぐイクなら、こいつはもう、縛ったままでいいか?」 賢吾が怖い声で囁きながら、和彦の欲望に手をかけてくる。きつく縛められているせいで、少し感覚が鈍くなってきている。それでも、精を放ちたいという衝動だけは強くなっていた。「い、や……。イ、きたい……。賢吾さん、早く――」 内奥に収まっている欲望は凶暴に育っているというのに、和彦の顔を覗き込んでくる賢吾の表情は冴え冴えとしていた。「――お前は、俺のなんだ?」 突然の質問に、和彦は目を見開く。思わず口ごもると、欲望に食い込む皮紐を指でなぞられる。その感触に背を押されるように、和彦は震える声で答えた。「あんたの、オンナだ……」「俺は、誰だ?」「……長嶺組、組長」 よく言えた、ということか、唇に賢吾のキスが落とされる。「お前は、長嶺組組長のオンナだ。これは、何があっても変わらない。変えるつもりもない」 皮紐の縛めが解かれると同時に、内奥深くを抉るように突かれる。和彦は声も出せないまま絶頂に達し、賢吾が見ている前でたっぷりの精を迸らせた。「――……お前は、大蛇の大事で可愛いオンナだ。しっかりと、この淫奔な体に刻み付けておけよ。どれだけの男と寝ようが、忘れられないぐらいしっかりと」 大蛇の執着は怖くて淫らだ。そんなことを頭の片隅で考えながら和彦は、賢吾にしがみついて何度も頷いた。*

  • 血と束縛と   第22話(18)

    「刺青の前に、先生にはこっちを可愛がってもらおう。美味そうにしゃぶって見せてくれ」 そう命じられ、全身を羞恥で熱くしながら和彦は賢吾を睨みつける。しかし、逆らうことはできなかった。身を屈め、あぐらをかいたままの賢吾の両足の間に顔を埋めた。 浴衣を捲り上げ、反り返ったふてぶてしい欲望に丹念に舌を這わせる。舐め上げるたびに、自分はこの男の〈オンナ〉なのだという想いが強くなる。愛しいという純粋な気持ちからではなく、快感のために尽くしてやりたいという、身を焼かれそうな衝動に突き動かされていた。 口腔に含んだ欲望が瞬く間に逞しさを増していき、力強く脈打つ。賢吾に頭を押さえられて、和彦は喉につくほど深く呑み込む。苦しさに耐えながら吸引していると、手荒く髪を撫でてから掴まれた。無言の求めに応じてゆっくりと頭を上下に動かしながら、欲望に舌を絡め、唇で締め付ける。 和彦の口淫をじっくり堪能してから、賢吾は口腔で達した。放たれた精を舌で受け止めて嚥下すると、次の瞬間には和彦は、浴衣を剥ぎ取られて布団の上に突き飛ばされる。賢吾も浴衣を脱ぎ捨てて、のしかかってきた。「あっ……」 両足を抱えるようにして大きく左右に広げられ、賢吾が顔を埋めてくる。和彦のものはいきなり熱い口腔に含まれたかと思うと、容赦ない愛撫に晒される。痛いほど強く吸引され、舌先で先端を攻められたかと思うと、括れを唇で締め付けられる。「うあっ、あっ、もう少し、優しく、してくれ――」 和彦は震えを帯びた声で訴えるが、賢吾は聞き入れる気はないようだった。それどころか、加虐的なものを刺激されたのか、先端に歯列を擦りつけてくる。和彦は、感じすぎるからこそ、この攻められ方が苦手だ。 反射的に腰を揺らして愛撫から逃れようとしたが、執拗に先端を攻められると、もう体が動かない。まるで大蛇が牙を突き立てているようだと思った。牙から毒は出てこないが、反対に、和彦の先端から透明なしずくが滲み出てくる。大蛇は嬉々として舌で舐め取り、もっと出せといわんばかりに攻め立ててくるのだ。 和彦の体から力が抜け、愛撫に身を任せるのを見計らっていたように、賢吾が動く。枕の下から何か取り出したのは見えたが、それがな

  • 血と束縛と   第22話(17)

     和彦は勢いよく立ち上がる。覚悟を決めた以上、のぼせそうになるまで湯に浸かっているわけにもいかない。和彦がどれだけ迷い、悩もうが、大事なのは賢吾がどう反応するかなのだ。 なんといっても、和彦を〈オンナ〉扱いした最初の男だ。よくも悪くも、和彦にとって賢吾は、特別な存在だった。 浴衣を着込むと、髪も乾かさずにまっすぐ賢吾の部屋へと戻る。すでに二組の布団を並べて敷いてあった。その中央に、浴衣に着替えた賢吾があぐらをかいて座っていた。 賢吾に軽く手招きされ、和彦は緊張しながら布団の上にあがる。すかさず腕を掴まれて強引に引き寄せられた。よろめき、倒れ込みそうになるが、その前に賢吾の両腕の中に閉じ込められ、背後からがっちりと抱き締められた。力強い腕の感触に和彦は、怯えではなく心地よさを感じた。「数えきれないぐらい抱き締めているのに、飽きねーな、先生の体の感触は」 耳に唇が押し当てられ、官能的なバリトンに囁かれる。ゾクゾクするような疼きが背筋を駆け上がり、和彦は小さく声を洩らしていた。「――先生が旅行に出かけた日、この感触をオヤジが味わっているのかと思ったら、さすがの俺も胸の奥がザワザワした」「えっ……」 思いがけない賢吾の言葉に反射的に和彦は振り返ろうとしたが、耳朶に歯が立てられて動けなかった。一瞬感じた痛みは、すぐに肉の疼きへと姿を変える。湯上がりの和彦の体は、熱が冷めるどころか、燃えそうなほど熱くなっていく。「先生の存在は、オヤジにとっても特別なようだ。いままであの〈化け狐〉は、俺が誰と寝ようが興味を示したことはなかった。それこそ、息子のオンナに手を出すなんざ、天地がひっくり返ってもありえないことだった。――先生が現れるまではな」 話しながら賢吾の手は油断なく動き、浴衣の裾を割って、両足の奥へと入り込んでくる。内腿を撫でられたかと思うと、無遠慮な手つきで下着を脱がされる。さすがに和彦は拒もうとしたが、もう片方の手が喉にかかり、軽く圧迫される。それだけで和彦の抵抗の意思は潰えた。「俺も、自分の息子の〈恋人〉に手を出して、体よく取り上げたんだ。しかも、千尋と違って、単なる色恋だけで行動したわけじゃない。先生に利用価

  • 血と束縛と   第5話(25)

     自分の美貌の価値をよくわかっている種類の男だと、一目で和彦は見抜く。美容外科医として、人間の美貌に対する渇望や切望、外見が生まれ変わったときに一変する人間性を見続けてきただけに、感じるものがあった。  実際秦は、端麗と表現としても惜しくない顔立ちをしていた。こういう人間を華があると言うのだろう。柔らかく艶っぽい雰囲気は、水商売に関わっている人間特有のものだ。親しみやすく優しげな笑みを浮かべているが、それは、したたかで掴み所がない表情ともいえる。  金髪に近い薄茶色の髪は、さすがに千尋とは違い、色を入れているのだろう。三十歳を少し出ているように見えるが、磨かれた外見の

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-20
  • 血と束縛と   第5話(19)

     頷いて一階に降りると、案内されてリビングに向かう。賢吾はすでに寛いだ服へと着替え、ソファに腰掛けていた。  和彦の姿を見るなり、なぜかニヤリと笑いかけられる。 「ずいぶん、派手なTシャツを着てるな」 「……千尋のを借りたんだ。ここに寄ったのが予定外だったから……」 「ああ、騒動があったらしいな。その話は後回しだ。先に、先生に話しておくことがある」  手で示され、和彦はやや緊張しながら賢吾の隣に腰掛ける。すでにリビングは二人きりとなり、息が詰まりそうな沈黙が流れる。だからこそ別の部屋の、組員たちの声や、気配がよく伝わってきた。

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-20
  • 血と束縛と   第5話(34)

    「気持ちいいんだろ、先生。……あんたの体の反応は、一度間近でしっかりと観察して、自分なりにあれこれと試してみたことがあるからな」  一瞬、三田村がなんのことを言っているのかわからなかったが、引き抜かれたものを一気に突き込まれた衝撃で思い出した。 「先生を拉致してきて、組長の命令で先生の尻をおもちゃで嬲りながら、気づいた。ここを突くと――」  微妙な角度をつけて、三田村が内奥の襞と粘膜を擦り上げてくる。和彦は声にならない悲鳴を上げて仰け反っていた。 「きつくおもちゃを締め付けながら、先生の内股が震えていた。……やっぱり、ここが感じるんだな。中が、ビク

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-20
  • 血と束縛と   第5話(11)

    「まあ、お前がそこまで言うなら。それに、今のこの状態は気楽だから、文句言う気もない」  ただ、気楽なのは確かだが、外ではほぼ行動をともにしてきた三田村が側にいないということに、ふいに落ち着かなくなったりもする。側にいればいたで、圧迫感を覚えて居心地が悪くなることもあるのに。  和彦はカップを口元に運びながら、千尋を観察する。  千尋はどうやら、自分の父親と和彦、それに三田村の三人の間で異変が起こっていることに気づいていないらしい。それとも、そう装っているのか――。  ストローに口をつけていた千尋が、ふいに笑いかけてきた。 「――先生、色っ

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-03-20
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