LOGIN「あっ、うぅっ……」
スラックスと下着をわずかに下ろされ外に引き出されたものを、賢吾のごつごつとした手に握られ、思わせぶりに上下に扱かれる。不動産屋を出て移動する車中で、和彦はずっとこうやって賢吾に弄ばれていた。 「実際にクリニックを切り盛りするのはお前だ。客層を考えたら、きれいな表通りで、とはいかないが、それでもいい場所を探してやる。クリニックそのものはこじんまりしているほうがいいな。だが、内装には金をかける。一応、普通の患者もやってくるんだからな」 リズミカルに動き続ける賢吾の手の中で、和彦のものはとっくに形を変え、先端には透明なしずくを滲ませていた。賢吾の指に拭い取られてから、そのまま先端を擦られ、爪の先を軽く立てられると、ビクビクと腰を震わせて感じてしまう。 後部座席でこんな戯れをしていても、運転を任されている三田村は背後を気にする素振りは一切見せない。 そんな三田村を一瞥して薄く笑った賢吾が、和彦の耳元に顔を寄せてきた。 「三田村は気に入ったか? お前につけるなら、こいつしかいないと思ったんだ。有能なだ呼出し音が途切れてまず和彦の耳に届いたのは、非難がましいため息だった。そんなものを聞かされて平静でいられるほど、人間ができていない和彦は、反射的に電話を切りたくなった。 もともと大してあるわけではない勇気を、これでも振り絞って電話をかけたのだ。自分の兄――英俊に。「……都合が悪いなら、かけ直すけど」 控えめに提案すると、再びため息が返ってくる。いつになく英俊の機嫌は悪いようだが、そもそも自分の前でよかったことなどなかったなと、自虐でもなんでもなく、淡々と和彦は思う。「携帯に着信が残っていたから、気になったんだ。用がないなら、別に――」『父さんから聞いた。……昨日』 一瞬、意味がわからなかったが、英俊の声から滲み出る静かな怒りで察しがついた。 今度は和彦がため息をつく番で、書斎のイスに深く腰掛けると、視線を天井に向ける。素早く計算したのは、俊哉と対面してから昨日までの日数だった。「昨日……」『そうだ。昨日まで、秘密にされていた』 こう告げられた瞬間、和彦の脳裏を過ったものがある。英俊に対する、俊哉の冷ややかとすらいえる厳しい評価の言葉だった。もし仮に、あの場に英俊がいたとしても、俊哉は同じことを口にしていただろうかと、つい余計なことまで考える。「……父さんなりに思うところがあったんだろう。行方不明になっていた不肖の息子と、ようやく会って話せたなんて、誰にでも打ち明けられるものじゃないし」 電話の向こうで英俊が息を呑む気配がした。すぐに異変を察した和彦の胸が、不安にざわつく。「兄さん……?」『会ったのか、父さんに――』 呆然としたように英俊が呟き、十秒近くの間を置いてから和彦はゆっくりと目を見開く。鎌をかけられた挙げ句に、あっさりと自分が引っかかったと気づいた。 自宅マンションの書斎にこもって電話をかけているのだが、急に落ち着かなくなり、立ち上がる。英俊が黙り込んでしまったため、うろうろと書斎の中を歩き回る。 昨夜、三田村も
三田村が息を呑み、ゆっくりと目を見開く。どんな答えが返ってくるのか、一瞬、和彦は本気で恐れた。 まだ硬さを保った三田村の欲望が、内奥で蠢く。小さく声を洩らすと唇を塞がれ、そのまま舌を搦め捕られていた。すぐに和彦は、三田村の腕の中でまた乱れ始める。 淫靡な交わりに耽ろうとしたとき、三田村が怖いほど真剣な口調で言った。「俺は、先生と離れられない。誰かに引き離されそうになっても、そんなことは受け入れないし、抗う。俺には、先生だけなんだ」 三田村の脳裏にどんな状況が、そして誰の顔が浮かんでいるのか、聞きたくて仕方なかった。しかし声に出してしまうと、よくないものを呼び寄せてしまいそうで、ぐっと我慢する。 自分も同じ気持ちだと伝えるために、三田村の背の虎にてのひらを押し当てた。「ぼくだけが、この物騒な生き物を可愛がって――愛してやれる」 ほっとしたように三田村が顔を綻ばせた。「そうだ。先生だけだ」 切実な口調で囁かれた瞬間、堪らなくなった。もっと欲しい、と和彦は小声で三田村の耳元に囁きかける。誠実で優しい男は、即座に行動で応えてくれた。** 事後の心地よい疲労感に身を委ね、和彦はうつ伏せとなって小さくあくびをする。さきほどまで隣にいた三田村は、今はキッチンに立って湯を沸かしている。 一度は寝入ろうとしたのだが、思う存分体力を使ったせいか二人揃ってなんとなく小腹が空き、夜中になって結局、部屋の電気をつけていた。 夜食の準備をすると言って三田村だけがキッチンに立ち、和彦は優雅にベッドに横になって待っている状態だ。枕に片頬をすり寄せて目を閉じていると、キッチンからは水音や冷蔵庫を開け閉めする音が聞こえてくる。さらには食器を準備する音が続き、一体何を作っているのかと次第に気になってくる。 もそもそとベッドの上を這って、キッチンが見える位置へと移動する。 三田村は、包丁を使って何か切っているようだった。スウェットパンツを穿いただけの姿であるため、上半身は裸だ。向けられた広く逞しい背に、意識しないまま和彦の視線は吸い寄せられ、そのまま離せなくなっていた。 少し離れた位置
腰を擦りつけるように動かすと、内奥を一度だけ突き上げられる。三田村の手は貪欲に和彦の体をまさぐり、快感の種火をさらに灯していく。それでなくても感じやすくなっている和彦は、指先の動き一つで簡単に身悶え、悦びの声を上げる。三田村は、快感に弱く淫らな和彦の体を堪能していた。 愛撫によってこれ以上なく和彦の心と体が蕩けてしまうと、満を持したように律動を開始される。 大きくゆったりとした動きで内奥を突かれ、その動きに合わせて和彦も腰を動かす。反り返った欲望が腹を打ち、透明なしずくをシーツの上に散らしていた。 単調な動きによって和彦の理性は突き崩され、尽きることなく悦びの声を溢れさせる。対照的に三田村は、何も言わない。それでも欲望の力強い脈動から、三田村の悦びを知ることはできる。 ゾクゾクと腰から這い上がってくる感覚があり、和彦は惑乱して首を左右に振る。その仕種に感じるものがあったらしく、三田村が内奥深くを抉るように突いてくる。和彦は声も出せずに絶頂へと上り詰めていた。 食い千切らんばかりに三田村の欲望を締め付けたまま、背をしならせる。和彦自身の震える欲望の先端からは、ドロドロと白濁とした精が噴き上がっていた。和彦は喘ぎながら自らの欲望に片手を伸ばし、軽く扱く。その最中、前触れもなく繋がりが解かれ、仰向けにされた。 羞恥もあったが、それよりも三田村を誘うために身を捩ろうとして、簡単に押さえつけられて片足を抱え上げられる。三田村の強い眼差しに促され、和彦は見せつけるように己の欲望を上下に扱き、自ら精を搾り出す。 その光景に満足したように三田村は、肉をひくつかせる内奥に再び欲望を挿入してきた。「あっ……ん」 精を放ったばかりだというのに、体の奥では新たな情欲が湧き起こる。和彦はすがるように三田村を見上げ、こう口にしていた。「三田村、まだ、奥に欲しいっ……。もっと突いて、抉ってくれ――」「……ああ。先生の望み通りに」 愛撫はなく、ひたすら内奥を擦られ、突かれ、抉られる。「ひあっ……」 和彦は背をしなら
前後から快感を送り込まれて、ガクガクと足が震えてくる。緩く欲望を扱かれて、悦びのしずくを滲ませている先端を指の腹で撫でられると、もう耐えられなかった。咄嗟に三田村の腕に手をかけ、子供のように首を横に振ってしまう。「三田村、それ、嫌だ……」「これか、先生?」 問いかけてくる三田村の声が笑いを含んでいる。先端を爪の先で弄られて、堪らず和彦は甲高い声を上げていた。欲望の括れを強く擦られ、内奥のある部分を指の腹で押し上げられると、快感の高みへと性急に追いやられていく。 嫌、嫌と何度か口走っていたが、声に含まれた甘さを三田村が聞き逃すはずもなく、愛撫の手は止まらない。 和彦は一声鳴いて、精を迸らせていた。内奥から指が引き抜かれ、絶頂の余韻にビクビクと震える体を、背後からきつく抱きすくめられる。 息を喘がせながら和彦は、ぽつりと呟く。「熱い……。湯あたりしたみたいだ……」 首筋に三田村の息遣いを感じ、そっと首を巡らせる。欲情しきった目がすぐそこにあり、思わず見入ってしまう。吸い寄せられるように唇を重ね、和彦のほうから誘う。「――三田村、ベッドに行こう」 移動の車中では眠くて堪らなかったというのに、現金なもので今は、一睡もしないまま三田村と求め合いたいと願っていた。三田村の激しさを受け止めるためなら、一晩の睡眠などまったく惜しくはなかった。 入ったとき同様、やはりもつれるようにバスルームを出たものの、和彦に風邪を引かせられないという義務感に駆られているのか、もどかしいほど丁寧に三田村に体と頭を拭かれる。焦れた和彦がしがみつくと、ようやくベッドに移動した。 ベッドに乗り上がった途端、三田村は荒々しい男へと変わる。上気した和彦の肌に噛みつくような激しい愛撫を施し、鮮やかな鬱血の跡を散らしていく。 和彦は息を弾ませ、嬉々として三田村の背に両腕を回す。まだ水滴を残している肌を撫で回し、そこにいる虎の姿を思い描いてうっとりとしていると、ふいに三田村に顔を覗き込まれた。真っ直ぐな眼差しに、気恥ずかしさに襲われた和彦は視線を逸らす。「今、
半ば条件反射のように、三田村の背にてのひらを這わせようとしたが、柔らかな仕種で止められた。 「シャワーを浴びよう、先生」 「一緒に?」 「……俺はそのつもりだが、嫌なら――」 返事の代わりに和彦は、三田村が着ているトレーナーを一気に脱がせ、同じ行為を自らにも求める。裸になると、もつれるようにしてバスルームに向かった。 三田村が勢いよくシャワーの湯を出し、バスルーム内にはあっという間に熱気が立ち込める。時間が惜しいとばかりに三田村がボディソープをてのひらに取ると、和彦の体を洗い始めた。じっと突っ立っているのも間が持たず、和彦もボディソープを軽く泡立ててから、三田村の背に両てのひらを這わせた。 引き締まった筋肉の感触を確かめるように手を動かしながら、広い背に棲んでいる虎を撫でる。ほとんどしがみつくような体勢になってしまうと、口元を緩めた三田村に言われた。 「先生、そんなにしがみつかれると、体を洗ってやれない」 「言っただろ。あんたにベタベタに甘えたいって。今、その最中なんだ」 「だったら俺も、甘やかしていいか?」 耳元で囁かれ、危うく足元から崩れ込みそうになった。ますます強くしがみつくと、シャワーヘッドを取り上げた三田村が、和彦の肩から背にかけて湯を当て始める。さらに髪を優しく指で梳かれると、心地よさに目を細める。 結局、三田村に負けたことになるのかもしれない。和彦は体を離し、おとなしくされるがままとなる。 丁寧に手の指の一本一本まで洗ってくれる三田村を、照れと喜びの入り混じった気持ちで見つめていた和彦だが、ふと、思い出したことがあり、つい声を洩らしていた。その声は水音に掻き消されて、三田村の耳には届かなかったようだ。 三田村は知っているのだろうかと思った。中嶋と加藤が体を重ねているということを。また、その理由を。 何か察しているのかもしれないが、どちらにしても、三田村が目的を持って加藤に目をかけているのだから、和彦の口から伝える必要はないだろう。 三田村の頬を撫で、あごにうっすらと残る細い傷痕を指先でなぞる。湯を止めた三田村が、ふっとこちらに向けた眼差しは、心を射抜かれそうなほど鋭かった。三田村
底知れない和彦の貪欲さと浅ましさも、すべて承知で三田村は受け止めてくれる。その証拠に、一度腕を解かれて体を離したあと、正面から向き合ってきつく抱き締めてくれた。「――……そのつもりはなかったのに、あんたにベタベタに甘えたくなった」 訴える和彦の声は、意識せずとも媚びを含んだものとなる。「存分に甘えてくれ。そのために俺はいる」 掠れた囁きに鼓膜を震わされ、背筋にゾクリと疼きが駆け抜けた。和彦は恥知らずな言葉で応じようとしたが、それより先に腹が鳴る。一拍置いてから三田村が低く笑い声を洩らし、ゆっくりと抱擁を解いた。「甘えるにしても、甘やかすにしても、とにかく腹を満たすのが先だな。先生」 異存はなく、和彦は顔を熱くしながら頷いた。 夕食後、キッチンに立った和彦は、三田村が洗った食器を拭きながら、改めて今日の出来事を詳細に語る。できるだけ深刻な口調にならないようにと気をつけていたつもりだが、次第に三田村の横顔は険しさが増していく。食事中は和らいでいたというのに、これでは台なしだ。「三田村、あまり怖い顔をしないでくれ。自分の迂闊さに、今になって落ち込みそうになる」 ハッとしたようにこちらを見た三田村が、淡く笑む。「先生は何も悪くないだろう。悪いのは――」 最後の言葉を三田村は呑み込んだが、和彦は察することができた。「ところで先生、今日接触してきた小野寺とは、これまでにも会ったことがあるのか?」「……会ったというか、少し前に紹介されてはいたんだ。新しく隊に入ったと言って。もう一人、小野寺くんと同時期ぐらいに隊に入った子も一緒に。その子が、やっぱりぼく絡みでちょっとした騒動を起こしたことがあって……」「そっちの奴は直接知っている。加藤だろう。以前は、第二遊撃隊が雑用を任せているチームにいた。そこに小野寺もいたが、お互いの相性は悪かったそうだ。……まったくタイプが違うと加藤自身も話していたぐらいだから、なんとなく、小野寺がどんな奴なのか想像はできるな」 加藤と小野寺を紹介
外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう
さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自
「不愉快どころか、やけに楽しそうでしたよ、秦さん。いい店を先生に紹介しないと、と張り切ってもいましたし」「ならいいんだ。あの人、職業柄なのか知らないけど、よく気をつかってくれるから。ぼくみたいな人間につき合って、迷惑をかけても悪いしな」 和彦が、長嶺父子のオンナであることは、すでに知られている事実だ。いまさら千尋と甘い会話とキスを交わしていたからといって、他人に喜んで報告するような悪趣味なまねを、秦がする必要もない。 和彦が心配していたのは、そんなことではなく、純粋に今言った通りのことだった。 大きく息を吐き出しながら、中島がマシンをゆっく
「――先生」 呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」 泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」 賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する







