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第20話(9)

Author: 北川とも
last update Last Updated: 2026-03-15 20:00:09

 長嶺の男たちは、和彦が静かに誕生日を過ごせるよう結託したのかもしれない。

 そう勘繰ってしまうぐらい、誕生日当日の和彦は普段以上に淡々と過ごしていた。――夕方までは。

 まったく予定が入っていなかったため、外で適当に食事を済ませ、さっさと自宅に引きこもろうと考えていた和彦だが、意外な人物と誕生日のディナーを共にすることになった。

 急な仕事に備えて電源を入れておいた携帯電話が震える。慌ててフォークを置いた和彦は、ジャケットのポケットから取り出した携帯電話をテーブルの下で確認する。メールは、無粋とは対極にあるような内容だった。知らず知らずのうちに顔を綻ばせると、向かいの席についている鷹津が不躾な言葉をぶつけてくる。

「お前の男からか?」

 和彦は携帯電話に視線を落としたまま、テーブルの下で遠慮なく、口の悪い男の脛を蹴りつけてやった。

 ささやかな攻撃が効いたのか、次に鷹津が口にしたのは、悪態でも皮肉でもなく、ジ
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  • 血と束縛と   第20話(9)

    **** 長嶺の男たちは、和彦が静かに誕生日を過ごせるよう結託したのかもしれない。 そう勘繰ってしまうぐらい、誕生日当日の和彦は普段以上に淡々と過ごしていた。――夕方までは。 まったく予定が入っていなかったため、外で適当に食事を済ませ、さっさと自宅に引きこもろうと考えていた和彦だが、意外な人物と誕生日のディナーを共にすることになった。 急な仕事に備えて電源を入れておいた携帯電話が震える。慌ててフォークを置いた和彦は、ジャケットのポケットから取り出した携帯電話をテーブルの下で確認する。メールは、無粋とは対極にあるような内容だった。知らず知らずのうちに顔を綻ばせると、向かいの席についている鷹津が不躾な言葉をぶつけてくる。「お前の男からか?」 和彦は携帯電話に視線を落としたまま、テーブルの下で遠慮なく、口の悪い男の脛を蹴りつけてやった。 ささやかな攻撃が効いたのか、次に鷹津が口にしたのは、悪態でも皮肉でもなく、ジンジャーエールのお代わりを頼む言葉だった。 野獣と一緒に食事しているようだと思いながら和彦は、届いたメールを改めて読み返す。送り主は、中嶋からだった。 和彦と特別な関係を持っている男たちは、二月十日という日を決して無視しているわけではなく、しっかりと気にかけてくれている。その証拠に、今日は何通かのメールが届いていた。内容はどれも、和彦の誕生日を祝うものだ。 唯一、メールを送ってこなかった男は、なぜか今、和彦の目の前でステーキにかぶりついている。和彦はその食べっぷりを、半ば感心しつつ眺める。 今晩の鷹津は不精ひげを剃っているだけでなく、見た目だけはいつもより多少マシだった。 いままで見たことがない、きちんとプレスされたスーツを着込んでいるのだ。ネクタイもセットで色合いは地味そのものだが、オールバックの髪型や彫りの深い印象的な顔立ちのおかげで、かえってちょうどいいバランスとなっている。少なくとも、高級感漂うレストランにあって悪目立ちはしていない。 好奇心に負けて、和彦は鷹津に問いかけた。「――なあ、どうして

  • 血と束縛と   第20話(8)

     どこか楽しげな口調で呟いた賢吾に両膝の裏を掴まれ、足を抱え上げられる。何をされるのかと身構える間もなく、柔らかな膨らみに舌が這わされた。唇を噛んで声を堪えた和彦だが、淫らな愛撫にすぐに理性は陥落する。 熱い口腔に含まれて舐られると、はしたなく腰を揺すり、放埓に声を上げて感じてしまう。刺激が強すぎてつらくなってくるが、和彦がいくら賢吾の頭を押し退けようとしても、愛撫がとまることはない。「はっ……、やめ……、つらい、んだ」 和彦は必死に訴えながら、押し寄せてくる快感に爪先を突っ張らせる。顔を上げた賢吾に再び足の指を舐められ、柔らかな膨らみを指で刺激される。弱みを弄られると、意識しないまま上擦った声が出る。賢吾がそんなことをしないと知ってはいるが、容赦なく潰されるかもしれないという恐れは、一方で強烈に甘美だ。「うあっ、あっ、あっ、あぁっ」「涎を垂らしっぱなしだな、先生。そんなに、ここを弄られるのはいいか?」「……うる、さっ……」 震えを帯びた声で言ったところで、賢吾を悦ばせるだけだ。涙が滲んだ目で和彦が睨みつけると、今にも舌なめずりしそうな表情を浮かべた賢吾が、広げた両足の間に再び顔を埋める。ただし、次に濃厚な愛撫を施されたのは――。「んんっ」 全身を駆け抜ける快美さに、和彦は必死に布団を握り締めた。 賢吾の舌が内奥の入り口に這わされ、蠢く。繊細な部分を、繊細な動きでくすぐられると、身悶えたくなるような感覚が湧き起こる。はしたないからと、必死に声を押し殺していた和彦だが、舌が内奥に入り込んでくると、身悶えながら喘ぎ声をこぼす。 すっかり反り返ったものを賢吾に舐め上げられ、内奥には今度は指が挿入される。しっかりと、付け根まで。「これだけ可愛がってやったんだ。しっかり俺を甘やかして、感じさせてくれよ、先生」 和彦の内奥を指で解した賢吾が、耳元にそんな囁きを注ぎ込んでくる。すぐに囁きの意味を理解した和彦は、手の甲で涙を拭ってから応じた。「……ぼくはいつでも、あんたに甘

  • 血と束縛と   第20話(7)

    「俺としては、先生の機嫌より、艶っぽい表情をしていた理由のほうが気になるな。南郷に口説かれていると思って、そういう顔になったのだとしたら、俺も嫉妬に狂う男にならないと」 冗談めかしてはいるが、こちらを見据えてくる賢吾の目は蛇のように冷たい。牙を突き立ててくるように和彦の心を容赦なく抉ってこようとしているのだ。 痛みを与えることだけが、相手を恐れさせる手段ではない。賢吾を目の前にすると、それがよくわかる。 脳裏に蘇りそうになる昼間の出来事を、和彦は必死に抑え込む。賢吾と里見の存在を交わらせるわけにはいかないのだ。 どちらも、和彦にとっては特別な男だからこそ。「会長からの誕生日プレゼントのことで、あんたに叱られるんじゃないかとビクビクしていたんだ。……会長からのプレゼントだと思っていたら、どうやら南郷さんからのプレゼントみたいで、当の会長からは、意味ありげな総和会からのバッジを贈られた。そんなぼくが、あんたからどう見えているかなんて、わかるはずがない」「オヤジ、か……」 守光の話題が確実に、賢吾を刺激したようだった。突然、勢いよく立ち上がった賢吾に腕を掴まれて、和彦は強引に引き立たされる。引きずられるようにして連れて行かれた隣の部屋には、すでに布団が敷かれていた。 突き飛ばされて布団の上に倒れ込んだ和彦の上に、大蛇が這い寄るように賢吾がゆっくりとのしかかってくる。 耳に唇が押し当てられ、それだけで和彦は小さく呻き声を洩らしてしまう。浴衣の裾を割り広げて賢吾の手が入り込み、いきなり下着を引き下ろされたときには、全身を羞恥で熱くする。何度経験しようが、こういうときの反応に困るのだ。 帯を解かれ、羽織ごと浴衣を剥ぎ取られると、賢吾の視線から体を隠すものは何もなくなる。和彦の体を観察するように賢吾は目を細めた。「――この体目当てで、何人の怖い男たちが先生に貢ぐようになるんだろうな」「ぼくは、貢いでほしいなんて頼んだことも、思ったこともないぞ。あんたはどれだけ、ぼくを性質の悪い〈オンナ〉にしたいんだ」「したいんじゃない。先生はもう十分に、性質が悪いだろ。今、それを証

  • 血と束縛と   第20話(6)

    「春から、ゴルフを始めるんだろ」「……まあ、千尋は張りきってるみたいだが……」 その千尋は、守光からの誕生日プレゼントを和彦に渡してすぐに、慌しく出かけていった。 わかってはいたが、当然のように和彦は本宅に泊まることになり、入浴後はこうして賢吾の部屋で時間を過ごしていた。いつものように――と言ってしまうには、今夜は少しだけ空気が違っている。「覚悟しろよ。先生とコースを回りたがる人間は多いぞ。なんならレッスンプロを雇うか?」 賢吾の気の早さに苦笑しつつ、最後の爪を切り終える。「ゴルフ道具だけじゃない。先生に買い与えてやりたいものは、まだある」「なんだ?」「来週にでも一緒に出かけるぞ。そのとき教えてやる。――先生は、金のかかった誕生日プレゼントが苦手なようだからな。だからあえて、誕生日を過ぎてから買ってやる」 それは屁理屈だと、口中で呟きながらも和彦は、親指の爪に丁寧にヤスリをかけてやる。初めてにしてはなかなかだと、出来上がりに満足していると、唐突に賢吾が切り出した。「――秘密を抱えている顔だな、先生。艶っぽい表情からして……、色事絡みか?」 この瞬間、心臓を掴み上げられたような気がした。強張った顔を賢吾に見られた時点で、誤魔化すことなど不可能だった。それに和彦は、心のどこかで待っていたのだ。賢吾からこう問われることを。聞き出された、という前提があるだけで、ずいぶん気は楽だ。 ただし和彦が話すのは、二つの隠し事のうち、一つだけだ。 切った爪ごと新聞をゴミ箱に捨てると、賢吾に手を取られて引き寄せられる。髪を弄ばれながら和彦は硬い表情で口を開いた。「あんたに相談しないまま、独断で総和会に連絡を入れたんだ」「どんな用で?」「……先週、クリニックの近くのファミレスで食事をしていたら、総和会の南郷さんが現れて、誕生日プレゼントをくれた。ブレスレットだ。ぼくが勝手に勘違いをして、会長から贈られたものだと思い込んだ。でも、そうじゃなかったみたいだ」「それで今日、千尋が

  • 血と束縛と   第20話(5)

    「本当は誕生日当日に渡したかったんだけど、俺はじいちゃんに同行してるから時間が取れそうにないからさ、今のうちにと思ったんだ。――と、じいちゃんで思い出した」 千尋が反対側のポケットをさぐり、てのひらサイズの桐箱を取り出す。なんとなく嫌な予感を感じて和彦は身構えたが、それに気づいた様子もなく千尋は嬉しそうに言った。「これは、じいちゃんから先生への誕生日プレゼント」「えっ、ぼくに、って……。会長がそう言ったのか?」「うん。先生に、けっこう前から準備してたみたい。思いついてすぐに準備できるものじゃないから。この〈特別な〉プレゼント」 開けてみるよう促され、長嶺の男二人の強い視線を受けながら和彦は、そっと蓋を開ける。 桐箱に納まっていたのは、バッジだった。精巧な象眼細工によって描かれているのは総和会の代紋で、和彦は息を呑んで指先を這わせる。バッジの表面に打ち込まれているのは、おそらく純金だろう。「ダイヤモンドを埋め込むような悪趣味さはなかったようだな、総和会会長には」 皮肉っぽい口調で言ったのは賢吾だ。その言葉に反応もできず、和彦は困惑しながらバッジを見つめる。 一枚の大きな葉と、十枚の同じ大きさの葉が『総』の字を囲む総和会の代紋は、すでに和彦にとって馴染みの存在となったが、こんなに間近でバッジを見るのは初めてだった。総和会に限ったことではないが、揉め事や警察の監視の目を極力避けるため、組バッジを堂々とつけて出歩く人間は多くないのだ。「これを、ぼくに……?」「先生みたいに、総和会の協力者という立場の人には、普通は渡さないんだけどね。先生は長嶺組の庇護下にあるから、事情が違う」 少し意地の悪い見方をするなら、総和会のバッジを悪用する可能性が低いと判断されたのかもしれない。「俺、先生の誕生日のこと誰にも話してなかったのに、なぜかみんな知ってるんだよなー」 千尋がぼやきながら、賢吾に視線を向ける。つられて和彦も見ると、意味ありげな笑みとともに賢吾が言った。「俺からも、先生にプレゼントがあるから、楽しみに待っていろ」「

  • 血と束縛と   第20話(4)

     夕方になって突然〈決められた〉のだが、実はこれから、長嶺の本宅に向かわなければならない。賢吾から電話がかかってきて、いつものように夕食に誘われたのだ。クリニックを開業してから何かと多忙な和彦の食生活を、長嶺組として気遣っているらしい。夕食の誘いは頻繁だ。 ただ、今日に限っては間が悪いとしか言いようがない。 エレベーターの中で和彦は、手荒く自分の頬を撫でる。顔の筋肉が強張ってしまい、不自然な表情になりそうなのだ。興奮が鎮まった代わりに、今度は緊張感が肩にのしかかる。 昼間、里見に会ったあと、夕方からは賢吾と顔を合わせるのだ。大蛇を潜ませたあの目に見つめられれば、問われもしないうちに、何もかも話してしまいそうで、怖い。だからといって誘いを断る選択肢は、和彦にはなかった。 ビルを出ると、いつもの手順で迎えの車に乗り込み、長嶺の本宅に向かう。 組員に出迎えられて玄関に入ると、コートとアタッシェケースを預けて、まっすぐ賢吾の部屋へと行く。 緊張のあまり、不自然な態度を取ってしまうのではないかと危惧していたが、寛いだ様子で座卓についた賢吾の姿を見ると、胸の奥がじわりと熱くなった。 自分にとっての日常が、目の前にある。理屈ではなく、本能的にそう思った和彦は、すぐには声が出せず、ただ立ち尽くして賢吾を見つめる。 ニュース番組を観ていた賢吾が、そんな和彦を見てニヤリと笑い、テレビを消した。「――どうかしたのか、先生。いまさら俺の顔なんざ、珍しくもないだろ」 賢吾の言葉に我に返り、和彦は慌てて部屋に入って障子を閉める。「別に……、あんたの顔を見ていたわけじゃない。人を呼びつけておいて、悠然としているなと思ったんだ」「なんだ。俺に玄関まで出迎えてほしかったのか?」 からかってくる賢吾に抗議しようとすると、組員がお茶とおしぼりを運んできたため、和彦も座卓についた。 賢吾が正面からじっと見つめてくる。いつになくその視線を意識しながら、熱いおしぼりで手を拭いた和彦は、さりげなく障子のほうを見る。「千尋は?」「すぐにやってくる。先生に渡したいものがあるそうだ」

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