LOGIN千尋の思いがけない行動に、意識しないまま和彦は声を発する。屈み込んだ千尋に乱暴に腕を掴まれて引き寄せられる。和彦の体は、今度は千尋の両腕の中に捕らえられていた。
「この人は、俺のだっ。俺が最初に見つけたっ」 唸るように言い放った千尋に唇を塞がれる。和彦は身じろぎ、逃れようとしたが、千尋の腕は力強い。和彦の抵抗などねじ伏せるように、千尋の舌が強引に口腔に押し入ってくる。粘膜を舐め回され、唾液を注ぎ込まれ、搦め捕られた舌を引き出されて貪られる。 されるがままになっていた和彦だが、布団の上に座り込んだ千尋に、守光がしていたように背後からしっかりと抱き込まれる。肌の熱さを浴衣越しに感じているうちに、眩暈がするような高揚感に襲われる。「んうっ」 頬を撫でられてから、髪を乱雑に掻き乱される。それすら愛撫のような心地よさを覚え、思わず和彦は、千尋の剥き出しの腕に手をかける。一方的だった口づけも変化していき、千尋に求められるまま唇を吸い合い、自然な成り行きで情熱的に舌を絡めていく。 そうしているうちに、足の間に手が差し込まれ千尋の思いがけない行動に、意識しないまま和彦は声を発する。屈み込んだ千尋に乱暴に腕を掴まれて引き寄せられる。和彦の体は、今度は千尋の両腕の中に捕らえられていた。「この人は、俺のだっ。俺が最初に見つけたっ」 唸るように言い放った千尋に唇を塞がれる。和彦は身じろぎ、逃れようとしたが、千尋の腕は力強い。和彦の抵抗などねじ伏せるように、千尋の舌が強引に口腔に押し入ってくる。粘膜を舐め回され、唾液を注ぎ込まれ、搦め捕られた舌を引き出されて貪られる。 されるがままになっていた和彦だが、布団の上に座り込んだ千尋に、守光がしていたように背後からしっかりと抱き込まれる。肌の熱さを浴衣越しに感じているうちに、眩暈がするような高揚感に襲われる。「んうっ」 頬を撫でられてから、髪を乱雑に掻き乱される。それすら愛撫のような心地よさを覚え、思わず和彦は、千尋の剥き出しの腕に手をかける。一方的だった口づけも変化していき、千尋に求められるまま唇を吸い合い、自然な成り行きで情熱的に舌を絡めていく。 そうしているうちに、足の間に手が差し込まれ、身を起こして熱くなったままの欲望を柔らかく握り締められる。一瞬、和彦の頭は混乱する。千尋かと思ったが、髪をまさぐる手と、腰にかかった手は確かに千尋のものだ。だとしたら――。 和彦は正面を向こうとしたが、千尋がそれを許してくれない。その間にも守光に両足を立てて左右に大きく開かされる。 慣れた手つきで柔らかな膨らみを揉みしだかれ、和彦は腰を震わせながら声を上げる。しかしすべて、千尋の唇に吸い尽くされる。 長嶺の男二人から同時に求められ、快楽を貪り合う経験はこれまでもあった。だが今の状況は、これまでの経験とはまったく異質だ。何が、と明確に表現はできないが、ただこれだけは言える。 これは、長嶺守光が進めている儀式なのだと。「うっ、くうっ……ん」 異常な状況でも高ぶり続ける欲望を、千尋に掴まれ手荒く扱かれたところで、長い口づけから解放される。和彦は鼻にかかった甘ったるい呻き声を洩らし、次の瞬間には二人の男の耳を気にして、羞恥で全身を熱くする。「先生、いい声」 掠れた声で千
和彦の視線は吸い寄せられるように、守光の背に向けられていた。浴衣に隠れてはいるが、この下には、毒々しい黄金色の体を持つ九尾の狐が潜んでいる。大蛇も怖いが、この狐はそれ以上に怖い。どうやって獲物を狙うのか、その手口すら和彦は想像がつかないのだ。 そんな狐の刺青を背負った男に『逃がさん』と言われれば、それは言霊となって和彦の心と体を縛りつけそうだった。 和彦の中に芽生えた怯えを読み取ったのか、守光がこう付け加える。「――……あんたは振り回されていると感じているだろうが、長嶺の男たちも、あんたに振り回されている。これは、情だよ。あんたとわしらは、情を交わし合っている」「情を、交わし合っている……」「そう感じているのは、わしの勘違いかな?」 肯定も否定もできず口ごもる和彦に、首を回らせた守光がわずかに目を細める。「わしの〈オンナ〉は慎み深い」 守光がゆっくりと体を起こし、布団の上に座る。手招きされて側に寄った和彦は、強い力で肩を抱かれた勢いで、守光にもたれかかった。 反射的に身をすくめたが、それ以上の反応はできない。凄みを帯びていながら、非常に静かな眼差しで見つめられると、怯えると同時に、奇妙な熱が体の奥で高まり始める。このことを自覚した瞬間にはもう、和彦の体は守光に支配されているのだ。「さあ、わしと情を交わしてくれ」 賢吾に似た太く艶のある声で囁かれ、唇を塞がれそうになる。いつもなら、逆らえないまま身を任せてしまうのだが、今夜は事情が違う。寸前のところでわずかに頭を後ろを引き、和彦は抑えた声で訴えた。「今夜は、千尋を刺激したくありません。それでなくても、ぼくが兄と会うことを知らされて、気が高ぶっているのに、こんなところを見られたら――」「刺激すればいい。あれも、なかなか厄介な獣を背負うことにしたようだ。刺激して、高ぶらせて、そうやって成長させる。わしや賢吾、オンナであるあんたの役目だ」 千尋が入れようとしている刺青のことを指しているのだろう。守光の口ぶりに興味を惹かれた和彦だが、すぐにそれどころではなくなる。「あっ…&
** 守光の部屋の床の間には、涼しげな紫陽花の掛け軸が飾られていた。守光の腰を揉みながら和彦は、なんとなくその掛け軸から目が離せなくなる。ただの絵のはずなのに、床の間にあるだけで、部屋の空気が清澄なものに感じられるから不思議だ。それとも、この部屋の主のせいなのか。「――いよいよ、来週かね」 唐突に守光に切り出され、ドキリとした和彦は数秒ほど返事ができなかった。一体なんのことかと考えるには、それだけあれば十分だ。「はい……。クリニックのほうは、午後から休診にすることを、もうスタッフや患者さんにも知らせてあります。あとは、兄の予定が変わらなければ……」「あえて、金曜に会うことにしたというところに、あんたの悲愴な覚悟がうかがえる。土日の間に、気持ちを立て直しておきたいというところかね」 守光の鋭さに和彦は、目を丸くしたあと、微苦笑を洩らす。「何もかも、お見通しですね。そんなにぼくの行動は、わかりやすいですか」「したたかでタフだが、一方で、実家のことになると、途端に脆くなる――と、話していたのは、賢吾だったか、千尋だったか。あるいは、両方か」「二人には、動揺してみっともない姿を見せてしまいました」「それでいい。だから二人とも、あんたのために動く。大事なオンナを守りたくて。もっとも千尋の場合は、少々頭に血が上りすぎているな」 その千尋は、しばらく経ってから守光とともに部屋に戻ってきたあと、猛烈な食欲を発揮して夕食を平らげ、今は風呂に入っている。守光とどういった話をしたのか、和彦はまだ一切聞かされていなかった。ただ、拗ねた素振りも、不機嫌な顔も見せていなかったことは、安心していいのかもしれない。「……会う必要がないのなら、会いたくはないんです。ぼく個人の問題なのに、長嶺組どころか、総和会も巻き込んでしまったようで……」「長嶺の男は過保護だと思っているだろう」 返事の代わりにちらりと笑みをこぼした和彦は、腰を揉む手にわずかに力を込める。会話を交わしていると、つい気が逸れて力が緩ん
「電話の声から察してはいたが、機嫌が悪そうだな」「……悪いよ。オヤジだけじゃなく、じいちゃんまで、先生のことで俺を除け者にしてたんだから」「なんだ。拗ねているのか」 千尋がムキになって言い返そうとしたが、さすがに守光のほうが遥かに上手だ。千尋の怒りをあっさりと躱すと、和彦に向き直る。「先生、夕食はとったかね?」「いえ、まだです……」「だったら、すぐに準備をさせよう。わしは早めにとったし、千尋は――あとでよかろう。一刻も早く、わしと話をしたいようだからな」 自分も同席すると和彦は訴えたが、意外なことに、世代の違う長嶺の男二人の意見は一致した。〈オンナ〉を巻き込む話ではない、と。 言い方は違えど、和彦の意思は関係なく、千尋と守光、どちらかが決定したことに従えばいいと言いたいのだ。それは傲慢だと、腹を立てる過程はとっくに過ぎている。和彦はずっと、長嶺の男たちのオンナとして、執着心や独占欲というものに揉まれ、または守られてきた。「あんたはここで寛いでいるといい。――自分の部屋だと思って」 千尋とともに玄関に向かう守光にそう言われ、和彦は返事に困る。二人は別室で話をするそうだが、だとしたら、自分の役割はと思ったのだ。英俊と会うという結論はすでに出ており、千尋がどれだけ拗ねて、不満を漏らそうが無駄なのだ。 千尋の扱い方を心得ている一人である守光に、何の考えもないとは思えないが。「先生、絶対帰らないでよね」 不機嫌そうな千尋に念を押され、和彦は観念する。「わかっている。……気に食わないからといって、暴れるなよ」「じいちゃん相手に、そんな命知らずなこと、するわけないじゃん」 千尋なりの冗談なのだろうが、口元に薄い笑みを湛えている守光の佇まいを見ていると、とても気軽に応じる気にはなれない。 曖昧な表情で返す和彦を一人残し、守光と千尋が出て行く。 少しの間その場に立ち尽くし、ぼうっとドアを見つめていたが、我に返ると、急に居心地の悪さに襲われる。本来なら今頃、外で夕食を済ませ
千尋の口調がいくらか和らいだのを感じ、和彦は緊張を解こうとしたが、甘かった。シートから身を乗り出した千尋が強い光を放つ目で見据えてきながら、恫喝するようにこう囁いてきたのだ。「だから――、俺たち以外の奴が、先生を振り回すのは許さない。特に、先生を怯えさせるような奴は」「誰のことを、言ってるんだ」「とぼけないでよ。先生、電話越しでも、あんなに自分の兄貴のことを怖がってただろ。その理由をオヤジは教えてくれなかったけど、でもなんとなく、あのときの先生を見たら、察したよ。……どうして、先生にひどいことしてた奴に会う必要がある? 何かあったらどうするんだよ」「そうならないよう、気をつけるつもりだ」 ダメだ、と言うように千尋が緩く首を振る。千尋がときどき発揮する頑迷さを、和彦はよく知っている。子供じみており、突拍子もない行動に出るのだ。だからこそ、ここで対応を誤り、千尋を暴走させるわけにはいかない。 賢吾に連絡して説得してもらおうかと思っていると、和彦の困惑を読み取ったように、千尋がこう言った。「オヤジに相談するつもりなら、残念。今日は泊まりで会合に出かけていて、電話も繋がらない。まあ、オヤジが何言ったところで、俺は意見を変えるつもりはないけど」「意見って……?」「――先生を、どこにも行かせない」 長嶺の男――というより、千尋の情は強い。改めてそのことを痛感しながら、和彦は懸命に頭を働かせる。和彦としても、家族恋しさで英俊に会うわけではないのだ。ただ、こちらの言い分を伝え、佐伯家の事情を把握しておきたいだけだ。「無理だ。ぼくはもう決めたし、いろいろと人に動いてもらっている」「先生の初めての男にも?」 その物言いが癇に障り、千尋を睨みつける。「ああ。段取りをつけてもらった。……来週、兄さんと会う」 カッとしたように千尋が口を開きかけたが、すぐに何かに思い当たったように思案顔となる。その隙に和彦は、掴まれたままだった手をそっと抜き取る。それを咎めるでもなく、千尋は自分の携帯電話を取り出してどこかにかける。
**** 普段の言動のせいですっかり忘れてしまいそうになるが、長嶺千尋の本質は決して、可愛い犬っころなどではない。 したたかでありながら激しい気性を持つ〈何か〉だ。それは、祖父の守光のような老獪な化け狐かもしれないし、父親の賢吾のような冷酷な大蛇かもしれない。もしくは、まったく別の獣か――。 クリニックを一歩出た和彦は、目の前に立つ千尋を一目見た瞬間、総毛立つような感覚に襲われた。明らかに千尋の様子が尋常ではなかったからだ。 細身のスーツにナロータイという、オシャレな若手ビジネスマンのような格好は、恵まれた容姿を持つ千尋を、育ちのいい青年に見せる道具としては効果的だ。だが、まるで炎をまとったように、激しい怒りを全身に漲らせている今の千尋は、ジャケットの前を開き、ナロータイを緩めているだけなのに、筋者らしい凶暴さを感じさせる。 こんな千尋に声をかけたくないが、まさか無視をするわけにもいかない。和彦はできるだけ、いつもの調子で声をかけた。「お前、こんなところで何をしてるんだ……」 千尋に歩み寄りながら、周囲に視線を向ける。通りを行き交う人たちが、この青年が長嶺組の跡目だとわかるとは思えない。しかしそれを抜きにしても、千尋の存在は人目を惹く。クリニックが入るビルの前で、目立ちたくなかった。「先生を待ってた」「それはわかるが……、せめて車で待つぐらいできるだろ。もし、お前の素性を知っている人間に見つかったらどうするんだ」「いいよ。そのときは、そのときだ」 低く抑えた声に、自暴自棄な響きを感じ取り、和彦は眉をひそめる。「お前――」「先生に話があるんだ」 そう言って千尋に腕を掴まれたが、反射的に振り払う。カッとしたように睨みつけてきた千尋を、和彦は睨み返す。「どうして、そんなに怒ってるんだ」「……先生に心当たりはあるはずだよ」「心当たりって……」「来週、会うんだろ。あんなに怖がってた、自分の兄貴に」
和彦は最初、性質の悪い男なりの笑えない冗談かと思ったが、そうではないようだ。 指先に唇を割り開かれ、押し込まれる。舌を刺激され、口腔から出し入れされるようになると、和彦も言われたわけではないが賢吾の指を吸い、舌を絡める。賢吾のものをそうして愛撫したように。賢吾の腰の動きが次第に同調し、内奥から逞しいものを出し入れされる。 指ではなく、口づけが欲しいと率直に思った。和彦がおずおずと片手を伸ばすと、口腔から指が引き抜かれ、甘く残酷に囁かれる。 「さあ、どうするんだ? 俺は名前を呼ばれないと、お前の欲しいものはやらないぞ。もうこっちには、お前の欲しいも
ベッドの傍らに立った賢吾が、自分の息子を見下ろして、苦笑めいた表情を浮かべる。その表情を見た和彦は、賢吾も父親なのだと改めて認識させられた。常識の枠外にいるヤクザの組長は、口では親だと言いながら、実は千尋の存在をさほど気にかけていないのではないかと思っていたのだ。 和彦の視線に気づいたのか、賢吾は唇を歪めるようにして笑って言った。 「俺のオンナだけじゃなく、今度は千尋の〈母親〉にでもなってみるか、先生?」 「……正気を疑うようなことを言うな」 起きるよう指先で指示され、仕方なく体を起こす。それでようやく気づいたらしく、千尋も目を開けたあと、う
「……長嶺組との関わりですら荷が重いのに、この間、総和会の仕事をさせられたぞ。お前の部屋にいたところを、お前の父親に踏み込まれたときのことだ。覚えているだろ?」 「うん。――先生、あまり総和会に気に入られないようにしてよ」 「どういう意味だ」 「長嶺組から総和会に、先生が召し上げられる可能性があるってこと」 召し上げられるという表現が気に食わないが、今は置いておく。最近の和彦は、組関係で気になることがあれば、詳しく説明を聞く方針にしたのだ。 「今の先生の存在は、言葉は悪いけど、所有権は長嶺組にあるんだ。だから先生を自由に使える」
生理的な反応から、涙をこぼしながら息を喘がせる和彦は、肌に這わされる賢吾のてのひらの感触にすら敏感に感じてしまう。 事後の気だるさと、快感の余韻を引きずりながら賢吾と抱き合い、唇を重ね、肌を擦りつけ合う。 「――ベッドは、キングサイズで正解だっただろ?」 薄く笑いながら賢吾に問われ、和彦は刺青の入った肩にそっと唇を押し当ててから答える。 「ここで寝るたびに、悪夢でうなされそうだ……」 「一人寝の夜は、俺を思って悶えてろ」 和彦の唇に軽くキスをしてから、賢吾が隣のリビングにいる三田村に風呂の湯を溜めるよう命令する。それから







