LOGIN欲望に触れていた手をさらに奥へと伸ばし、繋がっている部分に指を這わせて擦り上げる。三田村の欲望が内奥で力強く脈打ったのを感じた。
「あっ……」 和彦が小さく声を洩らした次の瞬間、ぐうっと内奥深くを抉られて、和彦は短く悲鳴を上げる。絶頂を迎え、自らが放った精で下腹部を濡らしていた。しかし和彦の体は満足せず、三田村の欲望を必死に締め付ける。より深い快感を、まだこの男は与えてくれると知っているからだ。「三田、村……、お、く……。もっと、奥まで、して――」 逞しい腰にしっかりと両足を絡め、浅ましく腰を揺らす。和彦が見せる露骨な媚態に、三田村は狂ってくれる。半ばの無意識のうちに、虎が息づく背に触れようと両腕を伸ばしかける。すると三田村は、腰を打ち付けるように激しい律動を始めたかと思うと、和彦の両手首を掴んでベッドに押さえつけた。 すぐには三田村の行動の意味がわからなかったが、顔を覗き込まれてようやく察する。自分だけに集中しろと、三田村は言いたいのだとりあえず賢吾にもコーヒーを淹れてやってから、和彦はやっとテーブルにつく。パンにバターを塗りつつ、疑問を口にした。「で、朝から何をしに来たんだ。……オシャレして」「オシャレか?」 賢吾が露骨に目を輝かせる。やはり、機嫌はいいようだ。「いいものをラフに着こなして、いかにも、金を持っている悪い中年男みたいだ。ヤクザの組長には見えない」「それは好都合」 パンをかじる和彦を、ニヤニヤしながら賢吾が見守っている。仕方なくこちらから水を向けた。「……これから出かけるのか? だったら、早く行ったらどうだ。ぼくは元気だ――けど、昨日はジムでがんばりすぎたから、筋肉痛で全身が痛い。だから、部屋でゆっくり、したい……」「早く食えよ、先生。これから一緒に出かけるんだから」「人の話を少しは聞けっ」「聞いたうえで、言ったんだ」 いっそ清々しいほどきっぱり言われ、和彦は口ごもる。それをいいことに賢吾は滔々と続ける。「今日は天気がいいから、外出日和だ。寒いのは仕方がねーな。しっかり着込んでおけよ、先生。今日はあちこち移動するつもりだから。それと、泊まりになるが、着替えはどうしても必要になったら買えばいいから、何も持っていかなくていい。――楽しい休日になるぞ」 どうして今日、この男はこんなにも機嫌がいいのかと、和彦はそろそろ空恐ろしさすら感じ始める。「ついこの間、紅葉を見に行っただろう……。ぼくもたまには、ゆっくりと一人の休日を過ごしたいんだが」「今日は、俺と先生の二人きりだ。二人で、ゆっくりできる」 人の話を聞けという再びの抗議は、口中で空しく消える。 薄い笑みを浮かべたまま、大蛇の潜む賢吾の目は、ひたと和彦を見据えてくる。望み通りの返事を引き出すまで、この視線は逸らさないと言わんばかりに。 こうなると、和彦に逆らう術はない。長嶺の男の強引さは今に始まったわけではなく、いつものことだと言われればそうなのだが、やはり気になるのは賢吾の機嫌のよさなのだ。 目
**** クリニックが休みの土曜日、いつもより一時間ほど遅い時間に起きた和彦は、パジャマの上からカーディガンを羽織った姿でキッチンに立っていた。 コーヒーを淹れ、パンを焼くついでに、目玉焼きぐらい作ろうかと、冷蔵庫を開ける。ハムかベーコンでも残っていればと思ったが、どうやら甘かったようだ。せっかくなので、あとで食料を買いに出ることにした。「今日は一人で、ゆっくり過ごすからな……」 誰かに聞かせるわけでもないが、本日の目標めいたものを口にする。 たまには、自分のペースで過ごせる休日があってもいいだろうと、いつになく強く願うのは、ここ最近の慌ただしさのせいだ。他人に振り回されるのは、今の環境にあっては仕方ないと半ば許容している和彦だが、中には不本意なことがある。 現実逃避だとしても、一日、二日ぐらい、気が滅入るような悩み事を頭から追い払いたくもなるのだ。 温めたフライパンに卵を落とし入れ、皿などを準備していると、玄関のほうから物音がする。耳を澄まし、落ち着いた足音が近づいてくるのを確認して、誰だろうと考えるまでもなかった。「――いい匂いがしているな、先生」 皮肉なのか本気なのか、忌々しいほど魅力的なバリトンによる開口一番の言葉に、和彦は背を向けたまま応じる。「パンを焼いて、目玉焼きを作っているだけで、大げさな」「残念だ。俺は朝メシは食ってきた」「……誰も、あんたの分もあるとは言ってないだろう……」 和彦は呆れながら振り返り、すぐに目を丸くする。スーツ姿だとばかり思っていた賢吾が、濃いグレーのタートルネックを着ており、その上からラフにチェスターコートを羽織っているのだ。革手袋をスマートに外す姿に、悔しいが少しだけ見惚れてしまった。 すっかり、肩書き込みで長嶺賢吾という男を見てしまうことが自然になっていたが、何もなくても、そこに立っているだけで、極上の男なのだと思い知らされる。とんでもない状況で初めて賢吾と出会ったときも、外見と雰囲気に自分が圧倒されたことを和彦は思い出
ウェイトを調節して、今度こそまじめにバーを上げ下ろししながら、ほんの三日前に小野寺が言っていたことがふっと脳裏に蘇る。中嶋は、和彦のために隊に呼ばれたと言っていた。額面通りに受け止めるなら、和彦と親しいからこそ、世話役として相応しいと判断されたのだろう。 組預かりという立場から、第二遊撃隊へと〈出世〉した中嶋の姿を、和彦は間近で見ている。本人が直接報告してくれたぐらいだ。中嶋は、そのあたりの事情を理解したうえで第二遊撃隊に入ったのか、気にならないわけではない。見た目はハンサムな普通の青年である中嶋だが、中身はけっこう計算高く、何より出世欲が強い。 和彦の機嫌取りのために自分が必要とされたことは、むしろ目論見通りだったのかもしれない。どんな事情であれ足がかりにして、さらに上を目指す逞しさと、頭のよさが中嶋にはある。和彦も、自分がある程度利用されるのは気にならない。 ただ、南郷という男を知るにつれ、その南郷の隊に中嶋がいるということが、どうしても気にかかる。自分のせいで、妙な立場に追い込まれなければいいがと願うのだ。 中嶋は、和彦をトラブルに巻き込んだと言ったが、それは和彦も同じで、お互い様といえる。 考え事をしながらもバーを動かす和彦とは対照的に、中嶋は集中力が途切れたのか、バーに手をかけたまま動かない。「なんだ、ぼくより先にバテたのか?」「……総和会の中で、長嶺会長の側近でもある南郷さんは、敵は多いですが、表立って意見できる人はそういないんですよ。ただこの頃は、少し様子が変わってきました。南郷さんが……というより、第二遊撃隊自体が牽制されるようになったんです」「どういうことだ?」「ここ数年、総和会の遊撃隊として実働できたのは、第二遊撃隊のみだったのに、対抗勢力が出てきたということです」 なんとも湾曲な表現をした中嶋だが、それでも和彦には十分伝わった。あっ、と声を洩らし、バーから手を離す。「――第一遊撃隊のことか」「そんなに困っているなら、そこの隊長である御堂さんに相談されたらどうです。先生、御堂さんとも親しいんですよね」「親しいというか、よくしてもら
中嶋が軽く声を洩らして笑うが、和彦は到底そんな気分にはなれない。今回の長嶺組の処置はあくまで、連絡ミスによって起きた第二遊撃隊の不手際に対するものだが、クリニックでの南郷との出来事が知られれば、こんなものでは済まないだろう。 南郷は、それでもあえて危険を冒した。賢吾や長嶺組を刺激したいがために――という可能性に気づくと、和彦はひどく冷静な目で、南郷や第二遊撃隊を観察したくなるのだ。臆病な小動物のように、身を潜め、慎重に。 自分の進言次第で、賢吾はいくらでも厳しい処分を第二遊撃隊に与えかねないが、そのことによって、長嶺組と総和会の不和を招きたくない。現に、中嶋の話ではすでにもう噂が立っているというのだ。 和彦がタオルで口元を押さえてじっと考え込んでいると、中嶋が身を乗り出してきた。「もしかして、気分が悪いんですか?」「あっ、いや……。南郷さんに、ぼくにかまうのはやめるよう、君からもきつく言ってもらえないだろうかと思って」 中嶋が真顔で首を横に振り、案の定な反応に、和彦としては笑うしかない。「――本気で、どうにかしてほしいんだ。最近、ぼくのほうはいろいろあって、あまり余裕がない」「先生はいつだって、『いろいろ』あるでしょう」「だからこそ、限界がある。身を切る思いで、自分で対処しないといけないことがあって、南郷さんからちょっかいをかけられたくない」 なぜか中嶋が、探るような視線を向けてくる。和彦が首を傾げると、今度は露骨に大きなため息をつかれた。「南郷さんのことで、『ちょっかい』と表現できる先生は、本当に大物だと思いますよ」「……言っておくけど、ぼくは今回の件は――今回の件も、本気で怒っているんだ。だけど、感情のままに組長に泣きついたら、どんな事態になるか……」「怒り下手なんですよ、先生は。周囲の様子にあれこれと気を配りすぎて、自分の感情を後回しにするでしょう。最近、怒りを爆発させるとか、せめて声を荒らげるとか、したことあります?」 どうだったかなー、と視線をさまよわせて和彦が呟くと、なぜか中嶋に背をさすられた。
ここでハッと我に返り、うろたえる。一方の英俊も動揺しているのが、はっきり伝わってくる。和彦は、心の奥底から滲み出てきたどす黒い感情を、必死に押し殺した。 いまさら、俊哉から特別な関心を得られたことを、英俊に誇る気など毛頭なかった。そのつもりなのに――。 和彦は慌ててこう続ける。「ぼくの口からは何も言えない。父さんのことだから、きっと考えがあるはずだ。だから……、ごめん」 通話を終えると、そのまま携帯電話の電源を切ってしまう。 かつてのように、英俊と話したからといって激しく感情が揺さぶられることはない。今はそれよりも、自分の中に冷たい体温を持つ生き物が棲みつき、蠢いているようで、ただ和彦は愕然としていた。**** この日は、最後に予約が入っていた患者の施術を、予定よりいくぶん早く終えられたこともあり、終業時間ぴったりにクリニックを閉められた。 おかげで和彦は、久しぶりにスポーツジムに立ち寄ることができた。ここのところ、体力的に問題がなくても、精神的にいまいち気分が乗らないことや、その逆もあったりで、なかなかタイミングが合わなかったのだ。 今日はむしょうに体を動かしたかった。いや、率直な気持ちとしては、体力の限界まで体を追い込みたかった。 和彦はランニングマシーンのスピードを上げて一心に走りながら、昨夜の英俊との電話でのやり取りを何度も思い返す。そのたびに、英俊が傷つくとわかって放った言葉の威力に、一人恐れ戦いていた。ただ不思議と、罪悪感という感情は湧かないのだ。 子供の頃から英俊には肉体的に痛みを与えられてきたが、その対価のように和彦は、英俊の心の弱い部分をいつの間にか熟知するようになっていた。だからといって復讐したいなどと考えたことはなかったが、もしかすると自覚のない部分で、ずっと英俊にも痛みを与えたかったのかもしれない。 首筋を伝う汗をタオルで拭い、時間を確認する。呼吸が乱れ、足の筋肉が悲鳴を上げかけている。体力というより、筋力が落ちているなと、苦々しく反省する。忙しいのを言い訳に、ジム通いをさぼりすぎた。 明日は筋肉痛
呼出し音が途切れてまず和彦の耳に届いたのは、非難がましいため息だった。そんなものを聞かされて平静でいられるほど、人間ができていない和彦は、反射的に電話を切りたくなった。 もともと大してあるわけではない勇気を、これでも振り絞って電話をかけたのだ。自分の兄――英俊に。「……都合が悪いなら、かけ直すけど」 控えめに提案すると、再びため息が返ってくる。いつになく英俊の機嫌は悪いようだが、そもそも自分の前でよかったことなどなかったなと、自虐でもなんでもなく、淡々と和彦は思う。「携帯に着信が残っていたから、気になったんだ。用がないなら、別に――」『父さんから聞いた。……昨日』 一瞬、意味がわからなかったが、英俊の声から滲み出る静かな怒りで察しがついた。 今度は和彦がため息をつく番で、書斎のイスに深く腰掛けると、視線を天井に向ける。素早く計算したのは、俊哉と対面してから昨日までの日数だった。「昨日……」『そうだ。昨日まで、秘密にされていた』 こう告げられた瞬間、和彦の脳裏を過ったものがある。英俊に対する、俊哉の冷ややかとすらいえる厳しい評価の言葉だった。もし仮に、あの場に英俊がいたとしても、俊哉は同じことを口にしていただろうかと、つい余計なことまで考える。「……父さんなりに思うところがあったんだろう。行方不明になっていた不肖の息子と、ようやく会って話せたなんて、誰にでも打ち明けられるものじゃないし」 電話の向こうで英俊が息を呑む気配がした。すぐに異変を察した和彦の胸が、不安にざわつく。「兄さん……?」『会ったのか、父さんに――』 呆然としたように英俊が呟き、十秒近くの間を置いてから和彦はゆっくりと目を見開く。鎌をかけられた挙げ句に、あっさりと自分が引っかかったと気づいた。 自宅マンションの書斎にこもって電話をかけているのだが、急に落ち着かなくなり、立ち上がる。英俊が黙り込んでしまったため、うろうろと書斎の中を歩き回る。 昨夜、三田村も
外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう
さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自
「不愉快どころか、やけに楽しそうでしたよ、秦さん。いい店を先生に紹介しないと、と張り切ってもいましたし」「ならいいんだ。あの人、職業柄なのか知らないけど、よく気をつかってくれるから。ぼくみたいな人間につき合って、迷惑をかけても悪いしな」 和彦が、長嶺父子のオンナであることは、すでに知られている事実だ。いまさら千尋と甘い会話とキスを交わしていたからといって、他人に喜んで報告するような悪趣味なまねを、秦がする必要もない。 和彦が心配していたのは、そんなことではなく、純粋に今言った通りのことだった。 大きく息を吐き出しながら、中島がマシンをゆっく
「――先生」 呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」 泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」 賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する