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第8話(7)

مؤلف: 北川とも
last update تاريخ النشر: 2025-12-04 14:00:38

 本人が言う通り、秦の額にはじっとりと汗が滲んでいた。折れた肋骨どころか、全身が痛くてたまらないのだろう。

「……中嶋くんが鎮痛剤を買ってくるまで、黙っていろ。市販のものだから、そう強い効き目は期待できないだろうが、少しは楽になる――」

 秦の右手が後頭部にかかり、和彦は全身を強張らせる。ゆっくりと頭を引き寄せられると、逆らえなかった。それどころか、秦の胸に体重をかけないよう、必死にベッドに手を突いて自分の体を支える。

 これは、和彦の優しさでもなんでもない。患者に対する医者としての当然の気遣いだ。そこを秦は逆手に取った。

「先生なら、暴れませんよね? わたしは今、肋骨が折れていて、てのひらは縫ったばかりです。先生がちょっと抵抗するだけで、ひどいことになる」

「それは……、自業自得だ」

「なら、態度で示してください」

 さらに頭を引き寄せられて、息もかかるほど間近に秦の顔が迫る。あっ、と小さく声を洩らしたときには唇を塞がれていた。

 反射的に頭を
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  • 血と束縛と   第42話(28)

    「よお、来たな。佐伯」 男の羽織った白衣の胸元には、〈橘〉と記された名札がついている。この男が、和彦の友人であり、心療内科の担当医だった。 さあ座れと言うように、一人掛け用のソファを示される。和彦は一応、こう提案してみた。「……処方箋だけ出してくれたらいいんだが……」「お前は毎回、同じことを言うなあ。それで頷く心療内科医がいると思うか?」「他の医者には言えないから、橘さんに言ってるんだ」「――橘先生」 すかさず訂正され、和彦は露骨に顔をしかめて見せる。千尋に説明したとおり、橘は遠慮なくがさつな笑い声を上げた。人によっては眉をひそめるかもしれないが、和彦は違う。聞き慣れた笑い声に覚えるのは、安心感だった。 和彦がソファに腰掛けると、橘もファイルを手に、小さなテーブルを挟んで向かいに座る。橘の傍らには、にこやかな表情の看護師が立った。「ぼくのことは、『先生』をつけて呼んでくれたことがないくせに」「俺は、この男前の顔をどうこうしたいとは思わないからなあ。天地がひっくり返っても、お前が担当医になることはないな」「脱毛もやっている」 思わず、といった様子で橘が、あごを覆う強いひげに手をやる。ひげだけではなく、癖のある髪もぼさぼさで、ついでに言うなら眉は太く濃い。「俺の毛を、一本もお前に抜かせる気はないからな」「わかってるよ……」 こんなやり取りは、いつものことだった。おそらく橘は、他の患者相手にもこんな感じなのだろう。 見た目は、はっきりいってむさ苦しい四十男だ。顔の輪郭はごつく、大きな口が特徴的で、間違っても美男子と呼べる容貌ではないのだが、驚くほど目元が柔和で、それが人の警戒心を解いてしまう。学生時代から、子供と老人受けは抜群だった。 橘は、こちらに質問をしてくる前に、開いたファイルにさっそく何かを書き込み始める。互いに黙り込んだところで、音量をかなり抑えた音楽が流れていることに気づく。 ずいぶん昔に流行ったクリスマスソングで、これは橘個人の好みな

  • 血と束縛と   第42話(27)

    **** 和彦の心療内科の担当医は、医大に入った頃からの長年の友人でもある。 実家が病院を経営しており、跡を継ぐため医大に入学したと言っていたが、そういう使命を背負った学生は、さほど珍しくない。他の同期たちの中にも、同じようなことを語っている者は何人もいた。 ただ、和彦の友人は少しだけ変わった経歴を持っていた。 病院を継ぐ気などさらさらなく、理工学部を卒業したあと、一般企業の研究職に就いていたのだという。事情が変わったのは、長男である友人に代わって、婿を取って病院を継ぐ予定だった彼の妹が病に倒れたからだそうだ。 親兄弟、さらには親戚総出で説得され、友人は医者を目指すことになり、二浪を経て、医大に入学した。 同期ながら、和彦より九つ年上だが、それでなくてもさまざまな人間が学ぶ大学だ。多少の年齢差を気にする者はいなかった。「ぼくの友人は、年上のうえに、社会人経験もあったから、けっこう同期たちから頼りにされてたんだ。気さくで大らかで、いつもがさつにガハハと笑って、でも気配りができて。それでも、心療内科の道に進むと言われたときは、さすがに驚いた」「……ずいぶん買ってるんだ。その人を」 一緒に車の後部座席に座っている千尋が、拗ねたような口調で言う。自分から聞きたがったくせに、どうして機嫌が悪くなるのだと、和彦は横目でじろりと見遣る。 今話題に出ている友人の診察を受けるため、土曜日の午前中から出かけているのだが、なぜか千尋が、当然の顔をして車に乗り込んできたのだ。「一体、どうしたんだ。いままでは、ぼくが病院に行くと言っても、ついてくることなんてなかったし、ぼくの友人のことなんて聞いてもこなかったのに。……そもそも、聞く必要もないだろ。どうせ、お前たち父子、とっくに調べてるんじゃないのか」「まあ、和彦を診てる友人だというぐらいだし、気にはなったから。……心配なんだよ。〈あんなこと〉があったばかりだし、それでなくても最近、和彦の周りがバタバタしてるから。目を離すと、またトラブルに巻き込まれるんじゃない

  • 血と束縛と   第42話(26)

     いつもであれば、とっくに内奥を解すため、指を挿入されるところだが、今夜の賢吾はただ入り口をくすぐってくるだけだ。もどかしくて腰を揺すると、和彦の求めがわかったように賢吾が顔を上げ、意地の悪い表情を浮かべる。「もう時間が時間だからな。今夜は、〈こっち〉はなしだ。だから――煩悶して苦しめ」 和彦は、賢吾の髪を鷲掴んではみたものの、引っ張るなどという命知らずなまねはできない。涙目で睨みつけると、賢吾は悠然と再び欲望を口腔に含んだ。柔らかな膨らみを巧みにてのひらで揉みしだかれ、張る意地もなくなった和彦は嬌声を上げる。 あっという間に上り詰め、賢吾の口腔に精を放っていた。 畳の上で体を投げ出して息を乱していると、賢吾が傍らにやってきた気配がする。何事かと、緩慢に顔を向けたところで、すぐに賢吾の意図を察した。「……それも、仕置きの一つか」「嫌か?」 胡坐をかいている賢吾は、己の欲望を露わにしている。和彦はのろのろと起き上がると、乱れた浴衣を直す。賢吾から揶揄するように言われた。「几帳面だな」 和彦は答えず、賢吾の両足の間に顔を伏せる。後頭部に手がかかり、髪を撫でられて腰が疼いた。 すでに十分な大きさと硬さを誇る欲望を、和彦はまずそっと舐め上げた。括れに唇を押し当て、逞しい根本へと滑らせる。舌を絡ませ、ときには吸い付き、指の輪で優しく扱いているうちに、圧倒されるような力強さを漲らせていく。 はあっ、と深く息を吐き出した和彦は、先端に唇で触れると、軽く吸い上げる。それからゆっくりと口腔深くに呑み込んでいくと、後頭部にかかった賢吾の手にぐっと力が入った。 口腔の粘膜でしっとりと包み込む。すぐには動かず、ただ口腔に含んで熱と脈動を感じていると、賢吾の手にあごの下をくすぐられ、その感触に喉を鳴らす。頭上で、賢吾が笑う気配がした。「なかなかいいもんだな。和室にクリスマスツリーってのも」 今言うことかと、上目遣いで睨みつけようとして、さらに喉元を撫でられて息が詰まる。同時に、賢吾の欲望を締め付けていた。 口淫を続ける和彦に対して、さりげなく賢吾が切り出してきた。「お前

  • 血と束縛と   第42話(25)

    「お前を狙ってる奴が、俺からお前を引き離そうとして、あれこれ画策してるんじゃないかって、つい心配しちまう。なんたって俺は、嫉妬深くて慎重な男だからな。もっともお前が、愛情深くて淫奔すぎるからというのもあるが」「人のせいにっ――」「違うか?」 覇気に満ちた鋭い笑みを向けられ、言いかけた言葉は口中で消える。和彦は間近から、男らしく端整な顔を見つめていたが、ようやくあることを察した。ぎこちなく賢吾の頬にてのひらを押し当てる。「……怒って、くれてるんだな」「ああ。かなり、機嫌が悪いぞ」 それは本当だろう。臆した和彦はまた顔を背けようとしたが、途端に命令された。「こっちを見ろ。和彦」 言う通りにすると、賢吾の顔が近づいてくる。ゆっくりと唇が重ねられ、最初は緊張から身を固くしていたが、柔らかく何度も唇を啄まれているうちに力が抜けていく。それを待っていたように、ちろりとした先で唇を舐められた。 求められるままに唇を開くと、傲慢に舌が入り込んでくる。口腔の粘膜を舐め回されてから、戸惑う和彦の舌はあっさりと搦め捕られる。淫らに絡め合っているうちに引き出され、甘やかすように吸われたあと、甘噛みされる。この時点ですでにもう、腰が砕けそうになっていた。 和彦は震える手で、賢吾の浴衣の胸元を掴む。一方の賢吾は余裕たっぷりで、和彦の舌と唾液を味わいながら、肩にかけた羽織を滑り落してしまう。浴衣の合わせを大きく広げられ、露わになった胸元に大きなてのひらが這わされる。ふいに唇が離れたかと思うと、賢吾に上半身を検分された。「首以外は、赤くなってないようだな」「だから言っただろう。大したことないって……」「大したことになってたら、タダじゃ済ませなかった。お前の兄貴でもな」 このとき見せた賢吾の氷のように冷たい表情に、本気で和彦は震え上がる。そんな和彦の機嫌を取るように唇を吸いながら、賢吾が片腕できつく抱き締めてくる。和彦もおずおずと広い背に両腕を回した。浴衣を通しても体の熱さが伝わってきて、じわりと和彦の体温が上がる。 再び見つめ合うと、今度は和彦から求めて、賢吾

  • 血と束縛と   第42話(24)

     今夜のような出来事があると、暇なときに、などと悠長なことは言っていられない。明日にでも予約を入れておこうと、たぐり寄せたメモに書き留めておく。 ふと、客間の前に誰かやってきた気配を感じた。 障子越しにぼんやりとした影が動き、一瞬、また千尋がやってきたのかと思ったが、そうではない。そもそも足音からして違う。「――和彦」 夜気を震わせるバリトンの響きに、和彦は小さく肩を揺らす。ざわりと全身の感覚がざわついた。 部屋に入ってきた賢吾は一目見て湯上がりだとわかる姿で、濡れ髪のうえに、浴衣の合わせから覗く肌には汗が伝い落ちている。和彦は苦い顔をする。「そんな姿でうろうろしてたら、風邪をひくぞ」 賢吾は、剣呑とした空気を隠そうともしない。いきなり畳の上に胡坐をかくと、短く切り出した。「何があった」 やはり、和彦の家族が本宅に押し掛けてきた事態に怒っているらしい。当然かと、反射的に顔を伏せた和彦だが、これ以上賢吾に不愉快な思いをさせられないと、なんとか口を開く。「……兄さんは感情的になってた。抑え切れないものがあって、本宅に押し掛けてくるなんて行動に出たみたいだ」「エリート官僚が、ヤクザの組長の家に押し掛けてくるなんざ、子供でも危険だとわかる。そこまでするぐらい感情的になるなら、やっぱり相応の理由があるだろう」 里見が関係あるとは、さすがに言えなかった。上手い言い訳も思いつかず口ごもる和彦を、賢吾はまっすぐ見つめてくる。大蛇が潜む物騒な目を、どうしても見つめ返すことはできなかった。「すまなかった……。兄さんだけじゃなく、あんたにとって――組にとっても危険なことなのに。ぼくのせいで……」「行動を起こしたのは、お前の兄貴だ。離れた場所にいる人間の行動にまで、お前が責任を負う必要はないだろ」「でも、ぼくのせいだ。ぼくの存在が、兄さんを苛立たせて、怒らせる」「だから何をされても仕方ないと?」 賢吾の声音が凄みを帯びる。「向こうにとってお前がどんな存在だろうが関係ない。俺にとってお前は、

  • 血と束縛と   第42話(23)

    「……いまさら、ぼくの破廉恥な私生活を知ったからって、兄さんは怒鳴り込んできたりはしないはずだ。それこそ、父さんに任せておけばいいんだから。でも、そうしなかった。〈誰か〉が、兄さんを刺激したんだ」 カップにかかった英俊の長い指がピクリと動く。〈誰か〉の名を、あえて和彦が口にするまでもなかった。堪えきれなくなったように、英俊から切り出したからだ。「――……里見さんは、お前の里帰りのことをとっくに知っていた。……父さんとお前が二度目の話し合いをした場に同席していたと、今日になって里見さん本人から教えられた。本当か?」「そうだよ」 そう答えた瞬間、驚いたように英俊が目を見開く。その反応を、ひどく冷めた目で和彦は観察していた。「里見さんから聞かされて、居ても立ってもいられなくなったんだね。そんなに、気に食わなかった? 兄さんの知らないところで、ぼくらが大事なことを決めていたの」 睨みつけてくる英俊の胸中には今、どんな感情が渦巻いているのだろうと、傲慢な想像を巡らせる。 和彦は、かつて里見と体の関係を持っていた。英俊は現在、里見と体の関係を持っている。和彦と里見の間に特別な感情はあったが、果たして英俊と里見との間はどうなのか。 少なくとも英俊からは、さきほどの様子からも、里見への強い執着めいたものを感じるが――。 ほの暗い優越感はすぐに吐き気へと変わり、我に返った和彦は顔を強張らせた。「ごめん、兄さん……」 小さく謝罪すると、瞬く間に顔を紅潮させた英俊がカップを取り上げ、コーヒーを和彦にぶちまけてきた。咄嗟に顔を背けたが、まだ熱いコーヒーが首筋や手にかかる。突然のことに驚いた和彦は、呆然として英俊を見つめる。 一方の英俊は、自分の行為に動揺した素振りを見せたが、すぐに気を取り直したように、低い声で言った。「お前が、わたしを憐れむな」 何事もなかったように立ち去る英俊の後ろ姿を、打ちのめされた気分で和彦は見送った。 店内は静まり返っていたが、和彦が紙ナプキンでテーブルの上のコーヒーを拭

  • 血と束縛と   第11話(22)

     さすがの賢吾も、和彦の心を煩わせるものすべてを見通すことは不可能らしい。「……最初にぼくを狙って、あんなことをした人間が、どんな顔をして、そんなことを言うんだ」「俺はいい。俺は、許されるんだ」 さすがに図々しい発言だと思って和彦が顔を上げると、待っていたようなタイミングで唇を軽く吸われた。「先生を狙って自分のものにして――見事に、骨抜きにされたんだ。そんな哀れなヤクザを、愛情深い先生なら、たっぷり甘やかしてくれるだろ?」 本当に図々しいと思いながらも、和彦はつい笑みをこぼしてしまう。 自

    last updateآخر تحديث : 2026-03-27
  • 血と束縛と   第6話(22)

    「不愉快どころか、やけに楽しそうでしたよ、秦さん。いい店を先生に紹介しないと、と張り切ってもいましたし」「ならいいんだ。あの人、職業柄なのか知らないけど、よく気をつかってくれるから。ぼくみたいな人間につき合って、迷惑をかけても悪いしな」 和彦が、長嶺父子のオンナであることは、すでに知られている事実だ。いまさら千尋と甘い会話とキスを交わしていたからといって、他人に喜んで報告するような悪趣味なまねを、秦がする必要もない。 和彦が心配していたのは、そんなことではなく、純粋に今言った通りのことだった。 大きく息を吐き出しながら、中島がマシンをゆっく

    last updateآخر تحديث : 2026-03-21
  • 血と束縛と   第4話(27)

    「――先生」  呼ばれて、おずおずと振り返ると、そこに真剣な賢吾の顔がある。何か言われたわけでもないのに、和彦は小さく喘いでから賢吾の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、賢吾のもう片方の手に、和彦の柔らかな膨らみは包み込まれる。 「ひっ、あぁっ」  泡で滑る手に柔らかく揉みしだかれ、たまらず和彦は、ビクッ、ビクッと腰を震わせ、背をしならせる。下肢が、甘く溶けてしまいそうだった。 「あとでたっぷり、ここを揉んで悦ばせてやる。最近、弄られるのがよくなってきたみたいだからな。今は、洗うだけだ」  賢吾の的確に動く指は貪欲に、和彦の官能を刺激する

    last updateآخر تحديث : 2026-03-19
  • 血と束縛と   第11話(20)

     外から男二人のにぎやかな話し声が聞こえてくる状況で、求められるまま、やむをえず舌を絡め合い、唾液を交わす。引き出された舌を痛いほど吸われると、たまらず和彦は鷹津の肩にすがりついていた。 ますます鷹津の腕の力が強くなり、和彦の中で奇妙な変化が起こっていた。鷹津のことがどうしようもなく嫌いで、嫌悪しているのに、そんな男にねじ伏せられるように口づけを交わしていると、高揚感に襲われ、体の奥深くから強引に官能を引き出される。 官能に形を借りた、サソリの毒かもしれないと、ふとそんな考えが脳裏を過る。鷹津の毒を注入され、体も心も侵されていくのだ。 思わず身じろごう

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