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第9話(8)

Autor: 北川とも
last update Última actualización: 2025-12-14 08:00:07

 放埓に悦びの声を上げて感じる和彦に対して、男たちは容赦なく快感という責め苦を与えてきた。強弱をつけた愛撫と律動が間断なく和彦を襲い、精を搾り取られる。

 そしてその代わりのように、熱い精を内奥に注ぎ込んでくれるのだ。

 いつの間にか、賢吾は話しかけてこなくなっていた。そのため、周囲で男たちに動かれると、どこに賢吾がいるのかわからなくなる。知らない男たちの中に放り込まれているのだとしたら、和彦にとって頼るべき相手は賢吾しかいないのだ。

「賢吾、さん……」

 不安になって思わず呼びかけると、返事がないまま、布団に横たえた体に誰かがのしかかり、片足だけを大きく押し上げられる。有無を言わさず、熱く逞しい欲望が内奥に挿入されてきた。

 手首を縛める布と目隠しがようやく取られたとき、部屋には和彦と賢吾しかいなかった。

 別に悲しくはないのだが、目から涙がこぼれ落ちると、和彦の傍らに座って髪を撫でていた賢吾が当然のように指先で拭ってくれる。

「どこか痛むところはないか?」

 問いかけられ、反射的に頷いてしまう。実際、和彦は体のどこも痛めていない。ただ快感を与えられ、男の精を与えられ、よがり狂っただけだった。自分がそうなった理由は、わかっていた。そのせいで下肢が痺れたようになり、思うように力が入らないのは、仕方ないだろう。

 ついさきほどまで和彦を抱いていたのは、千尋と三田村、それに賢吾だ。

 誰よりも和彦の体の扱い方を心得た男たちは、和彦に対して、決して手荒なことはしない。

 混乱している最中は、知らない男たちに体を自由にされていると思い込んでいたが、何度となく快感の波に翻弄されているうちに、体はそれぞれの男たちの愛し方を思い出した。

 だからといって安堵できたわけではなく、一度に三人の男たちから快感を与えられ、求められる状況に、異常な興奮と羞恥、抵抗を覚えていた。

「怖かったか?」

 再び賢吾に問いかけられ、和彦は少し考えてから頷く。

「……最初は、怖くてたまらなかった。体をバラバラにされるかと思った」

「俺がそんなこ
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  • 血と束縛と   第9話(43)

     もっともそれは、夜道を歩いていて、背後を気にする程度のものだが――。 背後から誰もついてきていないことを確認して、和彦は足早にマンションのアーチをくぐる。エントランスのロックを解除しようと、操作盤に触れたそのときだった。こちらに近づいてくる足音に気づく。 マンションの住人だろうかと、顔を上げた和彦は、そっと息を呑む。悠然とした足取りでやってくるのは、鷹津だった。 アーチから正面玄関にかけて、照明によって明るく照らされているのだが、黒のソリッドシャツにジーンズという見覚えのある格好をした鷹津の姿は、やけに不気味に見える。 無精ひげを生やした口元が、ニヤリと笑みを刻む。ハッと我に返った和彦は、慌てて部屋番号を入力してエントランスに入ったが、突然駆け出した鷹津も、素早く身を滑り込ませてきた。 和彦は本能的に駆け出し、エレベーターに乗り込もうとしたが、扉が開く前に鷹津に腕を掴まれる。「離せっ」 鋭い声を上げ、手を振り払おうとしたが、次の瞬間、掴まれた腕を捩じ上げられた。肩まで痺れるような傷みに和彦は呻き声を洩らし、動けなくなる。手からコンビニの袋が落ちそうになり、鷹津に奪い取られた。「黙って、部屋まで行け。なんならこの場で、肩を外してやってもいいぞ。――大の男が絶叫するような痛みを味わってみるか?」 鷹津は、和彦が極端に痛みに弱いことは知らないはずだ。普通の男であっても、鷹津のような粗暴な刑事からこんなことを言われれば、従うしかない。鷹津の本性の一端を知っている和彦であれば、なおさらだ。 睨みつける気力もなく、促されるままエレベーターに乗り込んだ。 当然のように部屋に上がり込んだ鷹津は、胡乱な目つきですべての部屋を見て回り、リビングで立ち尽くす和彦は痛む腕の付け根を押さえながら、そんな鷹津を目で追う。 自分の迂闊さを悔やんだが、もう遅い。自分は危なっかしいと自覚したところで、まだ事態を――鷹津を甘く見ていたのだ。危機感すら欠けていた。 和彦は、鷹津の姿が寝室のほうに消えたのを見て、電話に駆け寄ろうとする。長嶺組に助けを求めようとしたのだ。しかし、受話器を取り上げたところで、待ちかねていたように鷹津の声がした。

  • 血と束縛と   第9話(42)

     どこかに出かけるとき、和彦には必ずといっていいほど護衛がつき、外で一人になることはほとんどない。この生活に入ったばかりの頃は、比較的自由だったのだが、今となっては、その頃の解放感が懐かしい。 長嶺組での和彦の重要性が増したうえに、ある男の登場によって、自由は侵食されつつあった。 そんな状況下で、夜のコンビニにふらりと出かけることは、和彦のささやかな楽しみとなっていた。もちろん、組員たちはいい顔をしないが、賢吾が何か言ったのか、黙認される形となっている。 マンションからコンビニまで、片道ほんの数分ほどの道のりをのんびりと歩きながら、濡れた髪を掻き上げる。秋めいてきたとはいえ、日中は陽射しの強さによっては暑いぐらいのときもあるのだが、さすがに夜風はひんやりと冷たくなってきた。ただ、シャワーを浴びて火照った頬には、その風が心地いい。 このまま夜の散歩といきたいところだが、さすがにそれは自重しておく。 和彦は、昨夜、三田村から聞かされたことを思い出し、そっと眉をひそめていた。 結局、警察による手入れはなかったが、風営法違反の際どいサービスを行っている店もいくつかあったため、警察に踏み込まれるのを恐れて臨時休業したらしい。手入れがあるという情報がもたらされた以上、しばらくは警察の動きを警戒して、まともな営業は望めないそうだ。 情報に振り回されたと、三田村は淡々とした口調で電話で話していた。警察内で何が起こっているのか和彦には知りようがないが、〈誰か〉は、長嶺組がこの状態に陥ることを狙っていたはずだ。この程度で組が危機に陥ることはないが、煩わされるのは確かだ。 落ち着くまで長嶺の本宅で過ごしたらどうかとも三田村に言われたのだが、さすがにそれは断った。一日、二日をあの家で過ごすのはかまわないが、何日ともなると、和彦の精神が参りそうだ。 そもそも和彦は、人と一緒に暮らすことに慣れていない。これまで何人かの恋人とつき合ってきたが、同棲にまで至らなかったのは、そのためだ。 コンビニで牛乳とガムを買い、まっすぐマンションに戻っていた和彦だが、ふと足を止めて振り返る。三田村と交わした会話のせいではないが、さすがに和彦も、自分の危なっかしさを自覚し、最低限の自衛手段

  • 血と束縛と   第9話(41)

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  • 血と束縛と   第9話(40)

     一瞬にして完璧な無表情となった三田村が、低い声で電話に応対する。和彦は気にしていないふりをして立ち上がり、もう一度砂浜に下りてみる。さきほど見かけたカップルは、今はぴったりと身を寄せ合い、互いの腰に腕を回していた。微笑ましさに顔を綻ばせていると、背後から三田村に呼ばれる。「先生」 振り返り、険しさを増した三田村の顔を見た和彦は、すぐに階段へと戻る。「何かあったのか?」「あった、というほど大げさなことじゃない。ただ、俺がついている若頭のシマで、ちょっとした面倒が起こりそうだと、報告があったんだ」 長嶺組の若頭たちは、それぞれ自分の組を持っている。実際のところは、長嶺組が治める縄張りを管理するための名目上のものだが、長嶺組直轄の配下という存在は、ヤクザの世界では特別視されるらしい。長嶺組から与えられた組の名は、その名刺のようなものだ。 長嶺組では『若頭』である男たちは、任されている縄張りの中では、『組長』であり、組を切り盛りしなくてはならない。 それらの組は、長嶺組に一定の上納金を納め、縄張り内での裁量の自由を得る。不義理をしない限り、長嶺組は口出ししないのだという。 三田村が言った『シマ』とは、その長嶺組から任されている縄張りのことだ。「今夜、シマにある店のいくつかに手入れがあるらしい」「……警察絡み、だよな? それがどうして、今わかるんだ」 階段を上がりながら和彦が問いかけると、三田村にちらりと視線を向けられる。それで、なんとなく理解した。「清廉潔白な警官だけじゃない。鷹津のように、ヤクザをいたぶって、骨までしゃぶろうとした腐った奴もいれば、ヤクザに飼われて小金を得る奴もいる」 三田村の話を聞いて、鷹津は一体、ヤクザ相手に何をしていたのかと、空恐ろしくなる。あの存在を思い返すだけで不快感に襲われるため、賢吾からあえて詳しい話を聞いていないのだが、ロクでもない男だということは確かだ。「いつもなら、警察は何日も前から下調べをしているから、早いうちに手入れの情報は入手できるんだが、今回に限っては、突然だ。組のほうも少し混乱しているらしい。組と、その警官が繋がっていると知ら

  • 血と束縛と   第9話(39)

     外ということもあり、なんとか自制心を働かせて体を離したが、与えられれば、いくらでも三田村の感触が欲しくなりそうだ。 熱を帯びた吐息を洩らした和彦は、コーヒーを飲む。 妖しい空気を変えるためなのか、すでに濃厚な口づけの余韻を消した厳しい声で、三田村が切り出した。「――……組長から教えてもらったが、一昨日の夜は大変だったらしいな」 和彦は思わず顔をしかめるが、返事としてはそれで十分だろう。 三田村が言っているのは、秦に誘われたパーティーに出席したあと、二次会の場に賢吾がいただけでなく、鷹津まで現れたことだ。それだけならまだしも、賢吾は鷹津が見ている前で、和彦を抱いた。 短いつき合いとはいえ、賢吾とは濃厚な関係を持っているが、いまだに、大蛇の化身のような男が何を考えているのかわからない。 何かしら意図があるのかもしれないが、妙なところで強烈で残酷な好奇心を持っている賢吾のことなので、それ故の行動だとしても、和彦は驚かない。「大変なのは大変だが、お宅の組長が、火に油どころか、灯油をぶち込んだかもしれない」 和彦の例えに、三田村は苦笑に近い表情を浮かべる。片手を伸ばして三田村の頬を撫でると、その手を取った三田村にてのひらにキスされた。 のんびりと海を眺め、心地いい風に吹かれながら、自分の〈オトコ〉に大事にされる。それがひどく幸せだと感じる自分に、和彦は戸惑う。ヤクザの世界に頭の先までどっぷり浸かり、周囲はヤクザばかり。何より、こうして和彦を慈しんでくれる男もまた、ヤクザなのだ。 それなのに幸せだと感じるのは、罪なのだろうか――。 つい考え込む和彦を、いつの間にか三田村がじっと見つめていた。我に返り、誤魔化すように問いかけた。「……鷹津のことで、組長は何か言っていたか?」「付け入る隙を与えないよう気をつけろと。正直、今日こうして先生を連れ出す許可をもらえたのは、意外だった。組長なりに、先生を閉じ込めて息苦しい思いをさせないよう、配慮しているのかもしれない」「するべき配慮は、他にあると思うんだが……」

  • 血と束縛と   第9話(38)

     食事に関しては、和彦などよりよほどマメな三田村だ。時間さえあれば、きちんとした料理を作れるのかもしれない。「今度、食べてみたい」 和彦がこう言うと、三田村は微妙な顔となる。「いや……。先生が期待しているほど、美味いものじゃないと思うが――」「わからないだろ。実際食べてみないと」 子供のようにムキになった和彦を、到底ヤクザとは思えない優しい眼差しで三田村が見つめてくる。「なら、近いうちに、先生の部屋のキッチンを借りて作ってみよう」「楽しみにしている。――ものすごく」 また三田村が微妙な顔をしたので、和彦は声を洩らして笑ってしまう。つられたように三田村も笑みを見せたが、すぐに真剣な顔となる。風で乱れた髪を慣れない動作で掻き上げてくれ、小声で礼を言った和彦は、そのまま三田村に身を寄せる。 一応、周囲の様子をうかがい、人が来る気配がないのを確かめてから、どちらともなく唇を触れ合わせる。二度、三度と互いの唇を啄ばみ合っているうちに、三田村の片手が首の後ろにかかり、引き寄せられてしっかりと唇を重ねた。 こんなつもりはなかったのだが――というのは、言い訳にはならないだろう。三田村と出かけ、見ているだけで気持ちが晴れるような景色の中、身を寄せ合えば、こうなることは必然に近い。「んっ……」 舌先が触れ合い、緩やかに絡めていた。口づけに夢中になるあまり、持っている缶コーヒーから意識が逸れ、危うく落としそうになったが、すかさず三田村に受け止められ、階段に置かれる。 性急に唇と舌を貪り合いながら、一気に燃え上がった情欲をもどかしく鎮めようとする。触れ合えばこうなるとわかっているのに、触れ合わずにはいられない。和彦だけでなく三田村も、まだ始まったばかりともいえる関係にのぼせているのかもしれない。 自由な外の生活とは違い、何かと制限を受ける中での生活だからこそ、なおいっそう、些細なことで刺激され、熱くなる。 三田村の舌に丹念に口腔をまさぐられると、和彦は三田村の情熱に応えるように、あごの傷跡に唇を押し当て、柔らかく吸い上げる。舌先を這わせたところで、再び

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