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第9話(9)

Auteur: 北川とも
last update Dernière mise à jour: 2025-12-14 11:00:50

「俺に捨てられたくない、というふうに聞こえるな、その言葉は」

「耳がおかしいんじゃないか」

 減らず口、と呟いた賢吾が、少し手荒に和彦の髪を掻き乱す。

「――俺は、先生を捨てるつもりも、気に障ったからといって傷つけるつもりもない。ヤクザは手品師じゃないからな、簡単に死体をパッと消せるってわけじゃないんだ。死体の始末は、おそろしく手間と時間がかかる」

 よく考えてみれば怖い発言なのだが、なぜだかこのとき、和彦は込み上げる笑いを堪えられなかった。

 くくっ、と声を洩らして笑うと、賢吾も目元を和らげる。

「俺は先生を汚したくない。俺の知らない男が先生に触れるなんて、我慢できないんだ。先生に触れていいのは、俺か、俺が許可した男だけだ。今は、千尋と三田村だけだな」

 身を屈めた賢吾に柔らかく唇を吸い上げられ、和彦もゆっくりと応じる。さきほどまで三人で和彦の体を貪ってきながら、和彦の唇に触れてきたのは賢吾だけだ。見ていたわけではないが、これも確信していた。

「先生は、厄介なぐらい、性質が悪い男を引き寄せる。そこが、刺激的で魅力的でもあるんだがな。だが、自分の立場をしっかりと頭と体に叩き込んでおけ。――お前は、長嶺賢吾のオンナだってことを」

 柔らかく唇を吸われたあと、甘噛み程度に歯を立てられる。

「先生のみっともないところも、恥ずかしいところも、全部見てやった。だから遠慮はするな。俺は先生をオンナにした。その見返りに、先生は俺に〈力〉を要求できる。それだけのことだ。困ったことがあれば俺や組を頼ればいい。もちろんその中には、千尋や三田村も含まれている。みんな、大事な先生のために、張りきって働いてくれるぜ」

 これはヤクザの手口だと、和彦の頭の片隅で声がする。甘い言葉で人を翻弄して、操ってしまうのだ。現にもう和彦は、そのヤクザの手口にまんまと乗せられている。

 これ以上、この男たちに関わってしまったら――。

「……秦とのことは、浮気じゃないからな」

 賢吾の頬を撫でながら、和彦は念を押すように囁く。目の前で賢吾はニヤリと笑い、同時に、賢吾の中にいる大蛇がチロリと舌を覗かせたようだった。

「あの男は、俺
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