Masuk失恋した親友から、バーで飲んでるから迎えに来て欲しいと電話があった。 バーのボックス席に駆けつけたら、親友が私の婚約者の小野弘樹(おの ひろき)の首に抱きついて甘えていた。 「弘樹、私7年も待ってるんだけど。そろそろ、結衣(ゆい)と遊ぶのも飽きたんじゃないの?」 最高の結婚式を約束してくれたはずの弘樹が、今、私の唯一の親友を抱きしめ、とろけるように甘い顔で笑っている。 後日、弘樹は大金をはたいてあらゆるメディアをジャックし、私に公開プロポーズをしてきた。 生放送のカメラの前、私は笑みを浮かべながら、10カラットのダイヤの指輪をかかげる。 「ごめんなさい、弘樹。あなたとの遊びはもう飽きちゃったの。私ね、もう別の人と結婚してるんだ」
Lihat lebih banyak悠斗の会社は、私たちが力を合わせて経営してきた甲斐もあり、この1年で全国でもトップクラスの業績を叩き出していた。悠斗も、資産家のランキングに名前がのるくらい有名な社長になり、資産は裕に千億円を超えている。悠斗の言葉を、誰も無視なんてできない。マスコミの人たちは、弘樹と私の復縁が成功したという、大スクープを狙っていた。しかし、それが無理だとわかった瞬間、蜘蛛の子を散らすようにいなくなり、あっという間に、会社からきれいさっぱり姿を消した。タイミングよく会社の警備員も駆けつけ、魂が抜けたように呆然としてる弘樹を抱えあげて、そのままドアの外に放り出した。その後、悠斗がしつこく説得してくるのに負けて、私は結婚式をもう一度やるというお願いを聞き入れた。盛大な結婚式のステージで、悠斗は幸せいっぱいの顔で指輪をはめてくれた。オークションで落札した、何億円もする「ブルーハート」のダイヤモンドリングを。私を抱きしめる悠斗の心臓が、急にどきどきと速くなるのが聞こえた。「結衣、伝えたいことがあるんだ……」「もしかして、高校生のころから私のことが好きだった、って言いたいの?」悠斗は驚いて、言葉も出ないようだった。うまく隠しているつもりだった秘密を、私がとっくに知っていたなんて、思ってもみなかったのだろう。実は、弘樹が騒ぎを起こしにきたあの時、弘樹の言った言葉がきっかけで、私の頭の中にあったバラバラの記憶のかけらが、突然ひとつに繋がったのだ。その後、家で悠斗の机を片付けていたら、引き出しの中から高校時代の私の写真を見つけた。写真の裏には、一枚一枚に私の名前が書かれていた。そして、こっそり撮った日付と、そのときの切ない片思いの気持ちも。それ以来、私は確信した。やはり、私の思った通りなのだと。高校時代の絢香は、最初悠斗のことが好きだった。しかし、悠斗の好きな人が私だと知ってしまい、それで憎しみを私に向けて、取り巻きと一緒にひどいいじめを始めたのだ。その後、弘樹が教育委員会に告げ口したせいで、絢香は転校するはめになって、名前も「明里」に変えた。それに、悠斗が海外に行ってしまったから、私たちは運命のいたずらで、何年もすれ違ってしまった。もし後になって弘樹と明里にこんなことがなかったら……弘樹にべた惚れだった私は、一生、
悠斗の言ったことは、本当だった。彼の会社に入社すると、前の職場と事業内容がそっくりだったので、私の企画はほとんど修正なしですぐに採用された。その四半期、会社の売り上げは3倍にまで伸びて、創業以来の最高記録を塗り替えた。社内の公募とみんなの投票を経て、私は一気に営業部長に昇進することになった。1年後、私の仕事も生活も、やっと落ち着きを取り戻した……弘樹とは、もう一生会うこともないだろう。そう思っていた矢先のことだった。ある日の朝、オフィスに足を踏み入れた途端、秘書がタブレットを手に、慌てて駆け寄ってきた。「副社長、大変です!ネットが、その……」秘書が言い終わる前に、会社の入り口が急に騒がしくなった。そして警備員の制止も間に合わず、たくさんのカメラを構えた記者たちがなだれ込んできた。すると、弘樹がフォーマルなスーツ姿で人混みをかき分けてくる。そして、私の前に来ると、熱い眼差しで片膝をついた。「今日のメディアは全部、俺が貸し切った。国中の人たちに、俺たちの証人になってもらいたかったから。結衣、俺と結婚してくれないか?」私の心は自分でも驚くほど落ち着いていて、思わず鼻で笑ってしまった。「弘樹。どうして私が、今さらあなたと結婚するなんて思うわけ?」弘樹はポケットから携帯を取り出して、私に差し出した。前もって準備していたようだ。画面に映っていたのは、何枚もの写真。高校時代に絢香からいじめを受け……トイレで無理やり撮られた、あの屈辱的な写真だった。私はとっさに、指先が白くなるほど、強く拳を握りしめた。しかし、次の写真にスワイプすると、そこに写っていたのは……明里だった。「明里は、昔の『絢香』だったんだ。あいつがいじめをしてるって、俺が教育委員会に訴えた。それで転校させられた後、あいつは名前も顔も変えた。お前に近づいて親友になったのも、全部計算ずくだったんだよ。俺をお前から奪うためにね。最初は俺を誘惑してきたんだけど、それを俺が断ったら、今度はこの写真で俺を脅してきたんだ。ただ一時の怒りに我を忘れて、お前の仇を討とうと血迷ってしまっただけだなんだ。だからこそ、あいつの心も体も踏みにじって、最後は地獄へ突き落としてやろうって……そんな馬鹿な方法を思いついてしまったんだ。本当に俺が間違ってた。でも、俺た
「近藤さん……私の、私の人形がなくなっちゃったんです!母が残してくれた人形が!探さなきゃ……」そのとき、後ろから聞こえた嬉しそうな声に、私は言葉をさえぎられた。「近藤先輩!どうしてここに!いつ帰ってきたんですか?」悠斗は、私を強く抱きしめたまま腕をゆるめず、ただ眉をひそめて声のした方を見た。さっきまでのいばった態度はどこへやら、明里はいつもの純粋でかわいらしい表情をつくっていた。「近藤先輩、私のこと忘れちゃったんですか?後輩の藤堂絢香ですよ!高校のとき、ずっと先輩を追いかけてたんですけど、途中で転校しちゃった……」悠斗の氷みたいに冷たい声が、私の頭の上から降ってきた。「知らないし、知る気もない」悠斗は私を抱きしめる腕に力をこめると、いつもの優しい声色に戻った。「陣内さん。お母様からもらった大切なものはどこで無くしたんですか?一緒に探しに行きましょう」「外の廊下のゴミ箱に……」悠斗は少しも躊躇することなく、私と一緒に廊下に出て、ゴミ箱をひとつひとつ探し始めた。額に汗を浮かべながら、悠斗は地面にしゃがみこんでゴミを一つずつ念入りに調べていく。すっぱい変なにおいがする汚水で、真っ白なシャツがすっかり汚れてしまったことにも気づかないみたいだつた……「ありました!陣内さん、ほら!これじゃないですか?」7つ目のゴミ箱を探していたとき、なくなったはずのピエロの人形が、悠斗の手に大事そうにのせられていた。私はそれを受け取ると、袖で汚れを夢中でふき取って、ぎゅっと手のひらで握りしめた。いろんな気持ちがこみあげてきて、また涙がぽろぽろと流れ落ちる。自分でもどうしてしまったのか分からなかった。昨日の夜に弘樹と別れたときでさえ、こんなに悲しくならなかったのに。たぶん、もうつらい思いをしても、誰も心配してくれないと、心のどこかで思っていたからかもしれない。なぜなら、誰かに心配してもらえる人だけが、感情的になることを許されるんだから……悠斗は心配そうに私の手を取ると、このいやな場所から連れ出そうとしてくれた。しかし、あることを思い出した私は、躊躇しながらも足を止めた。「私が作った企画書が……まだ小野グループのパソコンの中に……あれ、何日も徹夜して、すっごく頑張って作ったから……」「わかりました!
「みんな、よく聞いて!もう一度聞くけど、私のピエロの人形は、いったいどこなの!?」「もう、そんなに怒らないでよ!結衣の人形なら、ここにあるんだからさ!」甘ったるくて、でも挑発するような声が、背後から聞こえてきた。母の形見を探すのに夢中だった私は、明里がいつ入ってきたのか気づかなかった。そして明里の後ろには、疲れきった様子の弘樹までいる。後ろでぐったりしていた弘樹だったけど、私の名前を聞いた途端、はっとした顔になった。彼は駆け寄ってきて、いつものように私の手を握ろうとしたが、私はとっさに避けてしまった。その体が、なんだか汚いものに思えて、もう触れたくなかったのだ。私の手を掴みそこねた弘樹は、虚ろな目をして、何事かをつぶやき始めた。「結衣、違うんだ。お前が考えているようなことじゃなくて!俺と明里は……」「昨日の夜、私も夜色バーにいたんだよ?」弘樹に言い訳をさせる隙なんてあげるものか。私は全部ぶちまける。「明里があなたの膝の上に乗ってるのを、この目で見たよ。それに、あなたたちの方が『相性』がいいって言ってるのも、この耳で聞いたの。私なんかよりずっと上手で、あなたを満足させられるってね」弘樹は、まるで雷に打たれたみたいに、その場で固まってしまった。彼の瞳に浮かぶ感情は、信じられないという驚きから、落胆へ、そして最後には深い絶望へと変わっていった。「結衣、俺が心から愛しているのは、今までもこれからもお前だけなんだ。裏切ってなんかない!今回のことだって、お前のためだったんだ。だから、まずは説明を聞いてくれ……」私は、思わず笑ってしまった。目尻に涙が滲む。「なんて?裏切ってないって?弘樹、あなたにとっては、体だけの関係は裏切りじゃないってこと?そうなの?私のため?私のために親友の面倒を見てあげたってこと?それも、ベッドの上で?それとも、まさか私のためにわざわざすごい技術でも身につけて、こんな融通の利かない退屈な私に、じっくり味わわせてやろうってわけ?!」弘樹の顔は死人のように真っ白だった。口をパクパクさせるだけで、喉からはひと言も声が出てこない。「もう、結衣ったら。弘樹はこんなにあなたのことを想ってるのに、どうして話を聞いてあげないの?結局、損するのはあなた自身だよ」明里は片眉を上げると、