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親友と浮気した元カレの宿敵と結婚する

親友と浮気した元カレの宿敵と結婚する

Par:  匿名Complété
Langue: Japanese
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失恋した親友から、バーで飲んでるから迎えに来て欲しいと電話があった。 バーのボックス席に駆けつけたら、親友が私の婚約者の小野弘樹(おの ひろき)の首に抱きついて甘えていた。 「弘樹、私7年も待ってるんだけど。そろそろ、結衣(ゆい)と遊ぶのも飽きたんじゃないの?」 最高の結婚式を約束してくれたはずの弘樹が、今、私の唯一の親友を抱きしめ、とろけるように甘い顔で笑っている。 後日、弘樹は大金をはたいてあらゆるメディアをジャックし、私に公開プロポーズをしてきた。 生放送のカメラの前、私は笑みを浮かべながら、10カラットのダイヤの指輪をかかげる。 「ごめんなさい、弘樹。あなたとの遊びはもう飽きちゃったの。私ね、もう別の人と結婚してるんだ」

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Chapitre 1

第1話

失恋した親友から、バーで飲んでるから迎えに来て欲しいと電話があった。

バーの怪しく光るライトの下で、顔を火照らせた親友の藤堂明里(とうどう あかり)が、ある男の膝に座り、甘えた声で文句を言っている。

「いったい、いつになったら結衣(ゆい)と別れてくれるの?あんな地味でつまんない女のどこがいいわけ?7年も付き合うなんて!あなたはもう、私と楽しいことした仲なのにさ。

弘樹。私だって本当にあなたと別れたかったわけじゃないの。ただ、もっと私のことを大事にしてほしかっただけ!

もう本当にいや!毎回、結衣を宥め終わってから会いにくるあなたを、誰もいない家で夜中まで待ってるなんてさ!」

もしこの光景を自分の目で見なければ、私は信じられなかっただろう。

首に明里の手を回されてる男が、私が7年間付き合い、もうすぐ結婚するはずの婚約者――小野弘樹(おの ひろき)だったことは……

明里がいつも惚気たり、別れるなんて言っては大騒ぎしていた相手が、まさか……私の彼氏だったなんて。

しかし、私と明里が親友でいたこの3年間、弘樹はいつも私の前で、明里のことが大嫌いだと言ってた。「あのわがまま放題なお嬢様ぶりが気に入らない」と。

つまり弘樹は、ずっと嘘をついて私を誤魔化していただけだったのだ……

7年も前に、弘樹と明里はもう出会っていて、その時から複雑な関係が始まっていたなんて。

それは、私たちが付き合い始めるよりも、ずっと前のことだ。

ということは、弘樹が会社で残業だと言っていた数多くの夜は、全て明里との愛の巣で体を重ねてたということなのだろうか?

明里が私と仲良くなった後、私の前で彼氏との夜の話をわざわざしてたのも、私を嘲笑うため?

次から次へと明らかになる事実に、まるで雷に打たれたような衝撃が走る。

あまりの心の痛みに、そばにあった椅子の背もたれに手をかけないと、立っていることもできなかった。

バーのボックス席には、弘樹と一緒に会社を立ち上げた仲間たちもいたが、皆抱き合っている二人を囃し立てるのに夢中で、薄暗い隅で一人で崩れ落ちそうになっている私には、誰も気づいてはくれない。

「弘樹。明里ちゃんみたいな、可愛くてお金持ちのお嬢様に一途に7年も思われてるなんて、まじで羨ましい」

「明里さんがいなかったら、会社の立ち上げ資金だって、あんなすんなり集まらなかったんだろ?早く陣内(じんない)さんと別れてあげろよ。じゃないと、陣内さんが可哀想だろ?」

「そうだよな。陣内さんって、会社じゃ雑用しかできないし何の役にも立たない。明里さんっていう最高の人がいるのに、なんであんな女と7年も付き合ってんの?」

彼らの一言一言が、鋭いナイフみたいに私の心臓に突き刺さる。

私が弘樹の起業のためにしてきた努力は、全て無駄だったようだ。接待で吐くまで飲んだことも、取引先の会社に2か月通ってやっと取れた契約も、3日3晩徹夜して倒れるまで頑張った企画書も……

その全てが、彼らの目には、ただの役に立たない雑用としか映っていなかった。

もう今の私では、社長になった弘樹には相応しくないらしい。

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commentaires

ひとみ
ひとみ
あー、復讐の仕方が違えば結婚できたかもねぇ… でも悠人の方がいいか♡♡ あの会社のクズ共のざまぁも欲しかった
2026-09-15 08:15:31
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かおり
かおり
この作品は、他の作品と違い読みやすくスカッとしていて楽しめました。
2026-03-28 19:46:06
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松坂 美枝
松坂 美枝
クズ男は結局どうなったんだろ よくわからん正義感??で全部失ったが… 主人公もあんなクソみたいな会社に形見置いとくなよと思ったがまあ結果オーライだな
2026-03-06 12:26:36
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第1話
失恋した親友から、バーで飲んでるから迎えに来て欲しいと電話があった。バーの怪しく光るライトの下で、顔を火照らせた親友の藤堂明里(とうどう あかり)が、ある男の膝に座り、甘えた声で文句を言っている。「いったい、いつになったら結衣(ゆい)と別れてくれるの?あんな地味でつまんない女のどこがいいわけ?7年も付き合うなんて!あなたはもう、私と楽しいことした仲なのにさ。弘樹。私だって本当にあなたと別れたかったわけじゃないの。ただ、もっと私のことを大事にしてほしかっただけ!もう本当にいや!毎回、結衣を宥め終わってから会いにくるあなたを、誰もいない家で夜中まで待ってるなんてさ!」もしこの光景を自分の目で見なければ、私は信じられなかっただろう。首に明里の手を回されてる男が、私が7年間付き合い、もうすぐ結婚するはずの婚約者――小野弘樹(おの ひろき)だったことは……明里がいつも惚気たり、別れるなんて言っては大騒ぎしていた相手が、まさか……私の彼氏だったなんて。しかし、私と明里が親友でいたこの3年間、弘樹はいつも私の前で、明里のことが大嫌いだと言ってた。「あのわがまま放題なお嬢様ぶりが気に入らない」と。つまり弘樹は、ずっと嘘をついて私を誤魔化していただけだったのだ……7年も前に、弘樹と明里はもう出会っていて、その時から複雑な関係が始まっていたなんて。それは、私たちが付き合い始めるよりも、ずっと前のことだ。ということは、弘樹が会社で残業だと言っていた数多くの夜は、全て明里との愛の巣で体を重ねてたということなのだろうか?明里が私と仲良くなった後、私の前で彼氏との夜の話をわざわざしてたのも、私を嘲笑うため?次から次へと明らかになる事実に、まるで雷に打たれたような衝撃が走る。あまりの心の痛みに、そばにあった椅子の背もたれに手をかけないと、立っていることもできなかった。バーのボックス席には、弘樹と一緒に会社を立ち上げた仲間たちもいたが、皆抱き合っている二人を囃し立てるのに夢中で、薄暗い隅で一人で崩れ落ちそうになっている私には、誰も気づいてはくれない。「弘樹。明里ちゃんみたいな、可愛くてお金持ちのお嬢様に一途に7年も思われてるなんて、まじで羨ましい」「明里さんがいなかったら、会社の立ち上げ資金だって、あんなすんなり集まらなかった
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第2話
今の自分の気持ちがなんなのか、自分でもよくわからない。怒りなのか、それとも悲しみなのか……だが、ぎゅっと握りしめた手の指先が震えているのだけはわかった。今にも、爪が手のひらに食い込んでしまいそうだ。やっとの思いで携帯を手に取った私は、弘樹に電話をかけた。弘樹は明里を抱いていた片腕をほどくと、面倒くさそうに携帯の画面に目を落とす。しかし、相手が私だとわかると、彼は躊躇いもなく電話を切った。悔しかったので、私は少し待ってから、今度は明里に電話をかけてみた。すると、電話の向こうからは、甘ったるい声が聞こえてくる。「もしもし、結衣?もう夜色バーに着いた?」まさか明里が私を呼んでいるとは思わなかったらしく、弘樹が顔を強張らせた。明らかに動揺しているのが分かる。まさか……私に隠し通すつもりだったのだろうか?私は考えを変えた。喉まで出かかった問い詰める言葉を飲みこみ、私はこう言った。「明里、ごめん。急に用事ができちゃって、そっちに行けなくなった」私の言葉を聞いた明里が悔しそうな顔をしているのが見えた。すると、彼女は隣の弘樹にもっと強く抱きつき、わざとらしく悲しそうな声を出す。「えー、なんでー?結衣は私の一番の親友でしょ?私が失恋したことより大事な用事があるわけないじゃん!結衣、私つらくて死にそう。お願いだから、来てよー」明里はきっと、もう待てないのだろう。だから私を呼んで、弘樹に直接、私と彼女のどちらを選ぶのか迫るつもりなのだ。しかし、私は明里にそんなチャンスはあげない。何も答えずに、私はそのまま電話を切った。明里と私の電話が終わると、弘樹はすぐに明里を突き放し、携帯片手に慌ててバーの出口に向かっていった。私は少し距離を置いて、弘樹の後を追って外に出てみる。その瞬間、携帯の画面に「弘樹」と表示される。私は通話ボタンを押す。電話の向こうの弘樹の声は、いつもと変わらず、とろけるように甘くて優しかった。「結衣、ごめん。さっき会議中で、電話に出られなかったんだ。どうした?何か急ぎの用事だった?」その優しい声に、私の涙腺は一瞬でゆるんでしまう。私は静かに顔を上げて、必死に深呼吸した。こみ上げてくる涙を、なんとかこらえようとして。しばらくして、ようやく冷静を装えたので、私は
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第3話
しかし、たった今この目で見て、この耳で聞いてしまった……それでも、弘樹が浮気だなんて、まるで現実感のない、作り話のように思える。私が知らない間に、絶対に壊れないはずだった私と弘樹の間に、まさか明里が割り込んでくるなんて。だが、明里は弘樹を7年も待っていたと言った。では、弘樹は?彼は、ずっとこのことを知っていたのだろうか?あの二人は、一体いつからこんな関係に……色々な考えが頭の中をぐるぐる回り、割れそうなくらい頭が痛かった。弘樹への7年間の想いは、もう私の体の一部のようなもので、ただの恋愛などという言葉では足りないくらいに、大きなものだったのだ。だから、私は自分を騙すような淡い期待さえ、抱いてしまった。もし弘樹が今ここで過ちを認め、正直に打ち明けてくれるのならば……酔った明里が取り乱して、勝手な思い込みで、訳の分からないことを口走っただけ。私の大切な親友をこれ以上悲しませたくなかったから、泣いて抱きついてきても突き放せなかっただけ。周りのみんなもただ酔っていて、悪ふざけが過ぎただけって、そう思える。弘樹が明里とは私が想像しているような関係ではない、そう言ってくれたら……私は弘樹を信じた。今夜、この夜色バーに来たことだって、全部なかったことにできたのに。しかし、電話の向こうの弘樹は、落ち着き払った声でこう言った。「わかった。今から会社を出て、明里を迎えに行くよ」その瞬間、何かがガラガラと音をたて、砕け散った気がした。弘樹が嘘を重ねたことで、私の中に残っていたわずかな希望も、完全に消え去った。この世界で、私が唯一信じていた人は、もういなくなってしまった。もう我慢できなり、涙が堰を切ったように溢れ出す。電話を切ったあと、次第に意識が遠のいていった私は、ふらふらと車道の真ん中へ歩き出した。あの時は、本気で死んでしまいたいと思った。どれくらい歩いたのか、ふと顔を上げると、弘樹と一緒に暮らしている家の前に立っていた。ドアを開けて中に入ると、部屋いっぱいのシャンパンゴールドの飾り付けが、目に突き刺さる。忘れていた。そういえば今日、私は弘樹にプロポーズするはずだったのだ……リビングの真ん中には、私が半年前からオーダーしていたウェディングドレスが飾ってある。ドレスの裾には、デ
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第4話
長いこと片付けをした後、部屋はすっかり、弘樹の好きなモノトーンの色合いに戻っていたし、私がここにいた痕跡は、もうどこにもない。7年間愛し合っていたが、一緒に暮らしたのはたったの1年だった。だから、私の暮らしは、全て小さなスーツケースひとつに収まってしまった。私はスーツケースにもたれかかり、リビングの冷たい床に座り込む。もう心も体も、くたくただった。そのまま、いつの間にか眠ってしまっていた。夢の中、私は弘樹と初めて会った、あの夏に戻っていた……その日はものすごく暑くて、校庭に立っているだけで制服が肌に張り付いた。その時の私は、ちゃんとした下着を買うお金もなくて、制服の下には小学生の時に母が買ってくれた、サイズの合わないキャミソールを着ているだけだった。だから、制服が汗でぬれると、中が透けて見えそうになる。それで走るときは、いつも無意識に腕で胸元を隠していた。しかし、たったそれだけのことで、放課後、他のクラスの女の子たちにいきなり髪を掴まれ、女子トイレへと引きずられていった。「いやらしい!あんな走り方して、また近藤先輩に色目使ってたんでしょ?」私はその子たちのことも、「近藤先輩」という人が誰なのかも、全然知らなかった。だから、なぜ私がいじめのリーダー格の子に目をつけられたのか、さっぱり分からなかった。周りの子が、その子のことを「絢香(あやか)」って呼んでるのを聞いたことがあるだけ。頭皮がじんじんと痛み、目の前が暗くなる。私は溺れるみたいにもがいて、通りかかる知らない人に助けを求めた。だが、誰も立ち止まってはくれなかった。女子トイレの入口で、私は地面に倒れ込んだ。そして、最後に通りかかった人の靴にすがりついた。「お願い……先生を、呼んできて……助けて……」こんなことは、一度や二度ではなかった。先生が来てくれたとしても、彼女たちを少し叱るだけなのは分かってる。でも、そうすればトイレの中でひどい目に遭うのを、ほんの少しでも避けられる。みじめな姿のまま見上げると、足にしがみつかれた男の子が、ちょうど私を見下ろしていた。真昼の光が彼の横顔をかすめて、私の目に飛び込んでくる。それはまるで麻酔みたいで、一瞬、痛みを忘れてしまった。「あんたは犯罪者の息子なんでしょ?首突っ込まないでくれる?」
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第5話
私は真っ暗な部屋の中で、もうずっと待っていた。窓からかすかに入る光で、弘樹の隠しきれない動揺した表情がはっきりと見える。「結衣!え?どうして……まだ寝てなかったの?」目の前にいる24歳の弘樹が、後ろめたそうに、私の名前を呼ぶ。思い出の中の、女子トイレの前で私を助け起こしてくれた17歳の弘樹と、目の前の彼を同一人物だとは、もうどうしても思えなかった……私は何も答えず、黙ったまま。すると、弘樹は平静を装いながらも、一方的に言い訳を始めた。「明里のやつ、酔うと手がつけられなくてさ!会社の奴らをみんな夜色バーに呼んで、やっとのことで抑え込んだんだよ!さっき家まで送って、あとはみんなに任せて、俺は先に帰ってきたんだ……ああ……疲れた……シャワー浴びてくるよ。心配しないで。ここは寒いから、先に部屋に入ってて!」そう言うと、弘樹はバスルームへ向かった。弘樹はかなり慌てていたようで、リビングに置いてある私の荷物が全部詰まったスーツケースには気づかなかったらしい。だが、私には見えた。弘樹の襟元から隠しきれていない、激しい夜を物語る痕が。私はぐっと唇を噛み、携帯を取り出して明里のインスタを開く。ちょうど1分前、新しい投稿があった。【最高のものをあげられるのは、私だけ】写真には、ハイヒールのそばに脱ぎ捨てられた、黒いレースのランジェリーが写っている。私は、その投稿に「いいね」を押した。すると、すぐに明里からメッセージが来た。【結衣、まだ起きてたの?】【ねえ聞いて!私、彼氏とヨリを戻したの!】明里は続けて、同じような赤い痕だらけの首の写真を送ってきた。その赤さが、やけに目に焼き付く。【やっぱり彼のことが諦めきれなくて……】明里は、私の彼氏だけではなく、馬鹿みたいに騙されやすい私という「おもちゃ」も手放したくないのだろう。でも残念。私はもう、この茶番に付き合うのはやめることにしたのだ。【そうなんだ?おめでとう!でも、私、弘樹と別れたの】【え、なんで?どうしてよ!弘樹って、結衣のことが一番大事なんじゃなかったの?】画面の向こうで、明里が勝ち誇った顔を隠しながら、驚いたふりをしているのが目に浮かぶようだ。私は素早く指を動かし、返事を打ち込む。【でも、もう好きじゃなくなっちゃったの。
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第6話
「結衣、今の俺の力じゃ、この1カラットのダイヤしか贈れない。でも約束するよ。プロポーズの日には、最高に大きくて輝くダイヤの指輪で、『結婚してください』って言うから。結衣、俺が愛するのは永遠にお前だけだ。絶対に、幸せな奥さんにしてみせるからね」今となっては、弘樹の約束も、この指輪も、すべて意味をなさない。私はもう振り返らないと決めた……重たいスーツケースを引きずって、深夜4時の街をあてもなく歩く。小学生のころから身寄りがなかった私。今、唯一の愛する人まで失って、どこに帰ればいいのかも分からない。どれくらい歩いただろう。いつの間にか、ひとつのホテルの前に立っていた。今夜はもう、ホテルに泊まるしかないようだ。中に入ろうとしたとき、向かいから歩いてきた人に名前を呼ばれた。「陣内さん!」ぼんやりしていた私ははっと我に返った。そこにいたのは、弘樹の宿敵――近藤悠斗(こんどう ゆうと)だったから。弘樹が会社を立ち上げてからずっと、悠斗の会社にはことごとく先を越されていた。2社の事業内容はそっくりだったが、商品の質も会社のイメージも、明らかに悠斗の会社が上だった。私が2ヶ月かけてやっと契約にこぎつけた取引先も、もともとは悠斗の会社と契約するつもりだった。しかし、あまりにしつこかった私に根負けして、お試しで短期契約を結んでくれたのだった。悠斗は、私の横にあるスーツケースに視線を落とす。その口調は落ち着いているのに、どこか期待しているように聞こえる。「小野社長と……別れたんですか?」「ええ、別れました」隠すことでもないから、私は正直にそう答えた。「それじゃあ、今、住むところがないんですか?」悠斗は、そう思わず口にしていた。「一人でホテルに泊まるのは危ないです。よかったら、俺のところに来ませんか?」私は眉をひそめて悠斗のことを見て、それから彼の背後にあるホテルの入り口に目を向けた。悠斗は、自分の言い方がまずかったと気づいたのか、慌てて説明を始めた。「誤解しないでください!俺がこのホテルに泊まってるんじゃなくて、接待で送ってきたお客さんがここに泊まってるだけなんです。俺、東区で妹と二人で住んでいるので、家は広いし、ゲストルームもいくつか余ってるんです。それに、俺はほとんど会社で残業だ
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第7話
私は一瞬、わけがわからなかった。会ったこともないのに、どうして私のことを知ってるのだろう?後ろにいた悠斗が、咳払いをしながら口を挟む。「妹には、陣内さんがしばらく泊まりに来るってメッセージで伝えておいたんです。たぶん寝ぼけてて、忘れてるんじゃないかな」「何言ってんの?朝、携帯見たけど、お兄ちゃんからのメッセージは、100万円振り込んだから友達と旅行でもしてこいってやつだけだったよ」その場で嘘をばらされた悠斗は、顔を真っ赤にした。しかし、彼の妹のおしゃべりは止まらない。まだ私に何か言いたそうだ。「陣内さん、あなたはご存知ないと思いますが、お兄ちゃん、高校のときからずっと……」「これ以上へんなこと言ったら、今すぐ振り込みを取り消すからな!」悠斗のその一言で、彼の妹はぴたっと黙りこんで、急におとなしくなった。「あ、私の勘違いでした!お兄ちゃんにあなたを紹介してもらったのは、今朝がはじめてです!私は近藤由理恵(こんどう ゆりえ)。安心してここにいてくださいね。好きなだけいていいですから!」なんだか違和感しかなかった兄弟の会話だが、私は気まずく頷くしかなかった。食事のあいだ、由理恵はなにも言わずに、ただぱちぱちとまばたきをしながら、私たち二人をじっと見ていた。そして、だまってお肉をほおばっている。しかし、食欲がなかった私は、箸でごはんをいじりながら、上の空で口に運ぶだけだった。私の元気がない様子を見て、悠斗が心配そうに聞いてきた。「このあと、なにか予定ありますか?もしよかったら、気分転換に遊園地にでも行きませんか?」悠斗はきっと、私のことをもう一人の妹みたいに思ってるのだろう。子供をあやすみたいに、失恋した私をなぐさめようとしてくれている。だが、私には気になることがあって、遊びに行く気分ではなかった。「このあと会社に戻るつもりです。大事なものを取ってこなくてはいけないので」母がいなくなる前に買ってくれたピエロの人形が、まだ会社の机の上に置いたままだったのだ。あれは母が残してくれた、たった一つの形見だから、絶対に取りに行きたかった。それに、弘樹のために必死で考えた商品企画の数々も、会社のパソコンに入ったまま。どうせ会社の人たちには、私の努力なんてどうでもよくて、頑張った成果も認めてもらえ
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第8話
「みんな、よく聞いて!もう一度聞くけど、私のピエロの人形は、いったいどこなの!?」「もう、そんなに怒らないでよ!結衣の人形なら、ここにあるんだからさ!」甘ったるくて、でも挑発するような声が、背後から聞こえてきた。母の形見を探すのに夢中だった私は、明里がいつ入ってきたのか気づかなかった。そして明里の後ろには、疲れきった様子の弘樹までいる。後ろでぐったりしていた弘樹だったけど、私の名前を聞いた途端、はっとした顔になった。彼は駆け寄ってきて、いつものように私の手を握ろうとしたが、私はとっさに避けてしまった。その体が、なんだか汚いものに思えて、もう触れたくなかったのだ。私の手を掴みそこねた弘樹は、虚ろな目をして、何事かをつぶやき始めた。「結衣、違うんだ。お前が考えているようなことじゃなくて!俺と明里は……」「昨日の夜、私も夜色バーにいたんだよ?」弘樹に言い訳をさせる隙なんてあげるものか。私は全部ぶちまける。「明里があなたの膝の上に乗ってるのを、この目で見たよ。それに、あなたたちの方が『相性』がいいって言ってるのも、この耳で聞いたの。私なんかよりずっと上手で、あなたを満足させられるってね」弘樹は、まるで雷に打たれたみたいに、その場で固まってしまった。彼の瞳に浮かぶ感情は、信じられないという驚きから、落胆へ、そして最後には深い絶望へと変わっていった。「結衣、俺が心から愛しているのは、今までもこれからもお前だけなんだ。裏切ってなんかない!今回のことだって、お前のためだったんだ。だから、まずは説明を聞いてくれ……」私は、思わず笑ってしまった。目尻に涙が滲む。「なんて?裏切ってないって?弘樹、あなたにとっては、体だけの関係は裏切りじゃないってこと?そうなの?私のため?私のために親友の面倒を見てあげたってこと?それも、ベッドの上で?それとも、まさか私のためにわざわざすごい技術でも身につけて、こんな融通の利かない退屈な私に、じっくり味わわせてやろうってわけ?!」弘樹の顔は死人のように真っ白だった。口をパクパクさせるだけで、喉からはひと言も声が出てこない。「もう、結衣ったら。弘樹はこんなにあなたのことを想ってるのに、どうして話を聞いてあげないの?結局、損するのはあなた自身だよ」明里は片眉を上げると、
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第9話
「近藤さん……私の、私の人形がなくなっちゃったんです!母が残してくれた人形が!探さなきゃ……」そのとき、後ろから聞こえた嬉しそうな声に、私は言葉をさえぎられた。「近藤先輩!どうしてここに!いつ帰ってきたんですか?」悠斗は、私を強く抱きしめたまま腕をゆるめず、ただ眉をひそめて声のした方を見た。さっきまでのいばった態度はどこへやら、明里はいつもの純粋でかわいらしい表情をつくっていた。「近藤先輩、私のこと忘れちゃったんですか?後輩の藤堂絢香ですよ!高校のとき、ずっと先輩を追いかけてたんですけど、途中で転校しちゃった……」悠斗の氷みたいに冷たい声が、私の頭の上から降ってきた。「知らないし、知る気もない」悠斗は私を抱きしめる腕に力をこめると、いつもの優しい声色に戻った。「陣内さん。お母様からもらった大切なものはどこで無くしたんですか?一緒に探しに行きましょう」「外の廊下のゴミ箱に……」悠斗は少しも躊躇することなく、私と一緒に廊下に出て、ゴミ箱をひとつひとつ探し始めた。額に汗を浮かべながら、悠斗は地面にしゃがみこんでゴミを一つずつ念入りに調べていく。すっぱい変なにおいがする汚水で、真っ白なシャツがすっかり汚れてしまったことにも気づかないみたいだつた……「ありました!陣内さん、ほら!これじゃないですか?」7つ目のゴミ箱を探していたとき、なくなったはずのピエロの人形が、悠斗の手に大事そうにのせられていた。私はそれを受け取ると、袖で汚れを夢中でふき取って、ぎゅっと手のひらで握りしめた。いろんな気持ちがこみあげてきて、また涙がぽろぽろと流れ落ちる。自分でもどうしてしまったのか分からなかった。昨日の夜に弘樹と別れたときでさえ、こんなに悲しくならなかったのに。たぶん、もうつらい思いをしても、誰も心配してくれないと、心のどこかで思っていたからかもしれない。なぜなら、誰かに心配してもらえる人だけが、感情的になることを許されるんだから……悠斗は心配そうに私の手を取ると、このいやな場所から連れ出そうとしてくれた。しかし、あることを思い出した私は、躊躇しながらも足を止めた。「私が作った企画書が……まだ小野グループのパソコンの中に……あれ、何日も徹夜して、すっごく頑張って作ったから……」「わかりました!
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第10話
悠斗の言ったことは、本当だった。彼の会社に入社すると、前の職場と事業内容がそっくりだったので、私の企画はほとんど修正なしですぐに採用された。その四半期、会社の売り上げは3倍にまで伸びて、創業以来の最高記録を塗り替えた。社内の公募とみんなの投票を経て、私は一気に営業部長に昇進することになった。1年後、私の仕事も生活も、やっと落ち着きを取り戻した……弘樹とは、もう一生会うこともないだろう。そう思っていた矢先のことだった。ある日の朝、オフィスに足を踏み入れた途端、秘書がタブレットを手に、慌てて駆け寄ってきた。「副社長、大変です!ネットが、その……」秘書が言い終わる前に、会社の入り口が急に騒がしくなった。そして警備員の制止も間に合わず、たくさんのカメラを構えた記者たちがなだれ込んできた。すると、弘樹がフォーマルなスーツ姿で人混みをかき分けてくる。そして、私の前に来ると、熱い眼差しで片膝をついた。「今日のメディアは全部、俺が貸し切った。国中の人たちに、俺たちの証人になってもらいたかったから。結衣、俺と結婚してくれないか?」私の心は自分でも驚くほど落ち着いていて、思わず鼻で笑ってしまった。「弘樹。どうして私が、今さらあなたと結婚するなんて思うわけ?」弘樹はポケットから携帯を取り出して、私に差し出した。前もって準備していたようだ。画面に映っていたのは、何枚もの写真。高校時代に絢香からいじめを受け……トイレで無理やり撮られた、あの屈辱的な写真だった。私はとっさに、指先が白くなるほど、強く拳を握りしめた。しかし、次の写真にスワイプすると、そこに写っていたのは……明里だった。「明里は、昔の『絢香』だったんだ。あいつがいじめをしてるって、俺が教育委員会に訴えた。それで転校させられた後、あいつは名前も顔も変えた。お前に近づいて親友になったのも、全部計算ずくだったんだよ。俺をお前から奪うためにね。最初は俺を誘惑してきたんだけど、それを俺が断ったら、今度はこの写真で俺を脅してきたんだ。ただ一時の怒りに我を忘れて、お前の仇を討とうと血迷ってしまっただけだなんだ。だからこそ、あいつの心も体も踏みにじって、最後は地獄へ突き落としてやろうって……そんな馬鹿な方法を思いついてしまったんだ。本当に俺が間違ってた。でも、俺た
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