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第16話:仮面の国と、真実の選択

Penulis: fuu
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-15 12:00:15

ルヴァーニュ共和国――それは“感情を統制する国家”として知られている。

表情、語調、服装に至るまで“合理性”と“統一性”が求められ、感情の発露は“社会的なノイズ”とされる文化だった。

「……なんて退屈そうな国なの。」

エリシアはクロードに連れられ、共和国の中心・サンクト議政庁に足を踏み入れた。

「形式美と管理こそが、我々の誇りです。」

そう語るクロードの背はまっすぐで、感情の揺れなど微塵も感じさせなかった。

けれど――

「……ほんとに、そう思ってるの?」

彼の瞳の奥には、かすかに“ためらい”があった。

◆◆◆

「クーデター未遂事件に関し、証言が必要です。」

応接室に通されたエリシアは、共和国の官僚たちから次々と質問を受けた。

「あなたの国家では、恋愛が政務に影響を与えるのですね?」

「ええ、バリバリに。恋がなきゃ税制改革もできないわよ?」

「……理解不能です。」

「そうでしょうとも!」

堂々と笑うエリシアに、誰もが困惑の表情を浮かべる。

だが、ただ一人――クロードだけが、視線を伏せていた。

◆◆◆

その夜。

「この国、本当に全部が“仮面”ね。人の顔も、言葉も、街も……みんな均一で、誰も泣かない、誰も笑わない。」

エリシアは屋上で夜風に吹かれながら呟いた。

「……それが、我が国の安定の源です。」

クロードの声が背後から響く。

「けれどその安定が、“恋すら許さない”なら、それはただの――。」

「欺瞞、ですね。」

エリシアの言葉を、クロードが遮った。

「……私は、知ってしまった。あなたの国で、人が笑い、泣き、恋に傷つき、また立ち上がる様を。」

「それで?」

「私は……選びたいのです。“真実の顔”を。誰かの期待でも、国家の形式でもなく、ただ私自身の意思で。」

エリシアの心が跳ねた。

(……この人、今、自分の“仮面”を外したんだ。)

「なら、こっちに来なさいよ。グランフォードは、“仮面じゃ生きられない国”だから。」

彼女が手を伸ばした瞬間、議政庁から緊急の鐘が鳴り響いた。

「第二のクーデター……!?“感情の芽生え”を排除する運動が、再燃した!」

「……やはり来たか。“選ばせない”という圧力が、最後の牙を剥く……!」

エリシアとクロードは視線を交わし、静かにうなずき合う。

「行くわよ。“選ぶ自由”を守るために!」

議政庁の中枢――そこで今、“仮面派”と呼ばれる官僚たちによる掌握が進んでいた。

「感情は腐敗を呼ぶ!我々が築いてきた理性の国を、決して汚すな!」

「“恋愛主義国家”の影響で、共和国が歪むなど認められぬ!」

彼らはクロードを“情動汚染の元凶”として排除対象に認定した。

「クロード様、後ろへ!」

とっさにエリシアが前に出る。魔力を込めた風が、反逆の術式を吹き飛ばす。

「ちょっと!他国の王女に向けて魔法を撃つって、マナー違反も甚だしいわよ!?」

「感情に呑まれた君が語る倫理に、何の価値がある!」

「あるわよ!……だって、私は“恋したいから国を作った女”なんだから!」

その言葉が、議政庁の空気を震わせる。

クロードもまた、静かに歩み出る。

「私も、選びたい。仮面に従う生ではなく、自分の意思で選ぶ生を。」

「クロード様……それは、国家への反逆になります。」

「ならば私は、国家を“もう一度選ぶ”必要があるのかもしれませんね。」

◆◆◆

戦いの末、クロードとエリシアは議政庁の記録塔を制し、“感情の記録”の公開に踏み切った。

人々の記憶から消されていた“恋した記録”、“泣いた記録”、“選んだ記録”が、一気に世に流れ込む。

そしてそれを見た民たちが――涙した。

◆◆◆

数日後、ルヴァーニュ共和国は“情動承認政体”への移行を発表。

クロードは正式に“感情を知る代表者”として、副首相の座に就くこととなった。

「……お見事ね。」

エリシアが少し拗ねたように言うと、クロードは静かに言った。

「あなたが“選ばせてくれた”。仮面の下にある、自分自身を。」

そして彼は、ほんの少し、笑った。

「エリシア様。これが“恋”なのでしょうか?」

「……まだわからない。でも、それは“選んだ未来”で確かめてよね?」

ふたりの間に、穏やかな風が吹いた。

グランフォード帰還後。

「ふふ~ん、政略恋愛ミッション完了っと!」

「エリシア様、それ恋愛よりも国政成果の方が多いですよ……。」

「まぁ恋の芽は蒔いたってことで!」

――グランフォードの空は、今日も晴れていた。

——〈次話〉“星降る丘と、願いを継ぐ者”

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