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遅れた偽の愛
遅れた偽の愛
Auteur: ゴーヤ玉子

第1話

Auteur: ゴーヤ玉子
結婚三周年記念日。

林悠々華(はやし ゆゆか)は引き出しを開けて、結婚前に買ったコンドームの箱がまだ使い切れずに残っていることに気づいた。

避妊対策をしていなかったわけではない。

そもそも、彼女と夫の冷泉博史(れいぜい ひろし)の間には、最初から「夫婦生活」というものが存在しなかったのだ。

それで、結婚記念日に、彼女は勇気を振り絞って、セクシーなランジェリーを買った。

ワインを三杯飲んで、シャワーを終えた博史が出てくるタイミングを見計らって、悠々華は思いきって彼の首に腕を回した。

「ねえ、あなた……」

甘く、震える声でささやいた。

「今日は、私たち……」

しかし、次の瞬間、博史は彼女を乱暴に突き飛ばした。

「林悠々華、お前、どこまで下劣なんだ?」

男の瞳は冷たく研ぎ澄まされて、声は氷のようだった。

「何度もしつこく迫りやがって。そんなに飢えてるなら、自分で棒でやれ」

悠々華の顔から、さっと血の気が引いた。

彼女には理解できなかった。

夫に愛を求めただけなのに、どうしてこんな侮辱を受けなければならないのか。

その夜、悠々華は眠れないまま朝を迎えてしまった。

布団にもぐりこみ、スマホを滑らせる。

画面にはある知恵袋サイトのページが映っていた。

【無性生活の苦しみ。結婚してから一度も手を出してこない夫、どうすれば?】

【旦那さん、もしかして男に興味あるんじゃ?】

【それとも不能?】

……心ない推測ばかりが、画面に並んでいた。

混乱したまま、水を飲もうとベッドを出た悠々華。

だが、隣にいるはずの博史の姿がいない。

トイレの明かりが漏れ、ドアの隙間から妙な音が聞こえてきた。

恐る恐る近づいた彼女は、そこで凍りついた。

彼女の夫、夜の営みに無関心だったはずの博史が、自分の妹の林清雪(はやし きよゆき)の写真を前に、ひとりエッチの悦びにふけっていたのだ。

悠々華はもう寝たと思い込んでいるのか、博史は昂った声でうわごとのように呟いていた。

「清雪ちゃん……清雪ちゃん……」

悠々華はよろめいて、必死に寝室へ戻った。

そのとき、枕元の博史のスマホが光っている。

震える指で手に取った。

彼のパスワードは知っていた。

これまで一度も覗いたことはなかったが、今はもう、我慢できなかった。

そこには、彼が友人たちと交わしたグループチャットの履歴が残っていた。

【博史、今日で禁欲1000日目だろ?祝いに飲もうぜ!】

【まじかよ、林悠々華と結婚して三年近いのに、一度もヤッてないって?】

【あいつは田舎臭いけど、顔もスタイルも最高級だろ?触りたくならないのかよ?】

【我慢できるに決まってんだろ。博史は清雪さんに誓ったんだぞ。「体は清雪だけのものだ」ってな、博史は約束を絶対に破らない男だ】

【そうよ。林悠々華は清美さんのお嬢様の身分を奪ってから、博史の両親は彼らの結婚を強要するんだ。彼女みたいな田舎娘と結婚するのも、全部博史の策略だ!】

【最初から数年後に離婚するつもりだったんだよ。そしたら林悠々華はバツイチの中古女になるしな!】

【そういや博史、もう冷泉家の企業はほぼ掌握したんだろ?そろそろ離婚していいんじゃねぇ?】

一瞬、グループチャットが静まり返っていた。

そして、博史がシャワーを浴びる前に送った一言が表示された。

【もうすぐだ】

短い返答。

でも、それだけで十分すぎるほどの絶望だった。

……

悠々華は孤児だった。

幼い頃、外国人家庭に引き取られて、育てられてきた。

四年前、偶然知った。自分が大富豪の林家の、本当の娘だったことを。

林家は彼女を捨てたわけではなかった。

赤ん坊の頃、何者かにすり替えられていたのだ。

そして今、林家は彼女を迎えた。

だが、育てられてきたもう一人の、養女の清雪も手放すことができず、二人を一緒に林家に置いた。

冷泉家と林家の縁談は、祖父母の代から決まっていた。

それで、婚約者は清雪から悠々華に変わった。

最初、悠々華はそんな政略結婚に興味もなかった。

けれど、あのときの博史は違った。

彼は彼女に必死にアプローチした。

国内の食事に慣れない彼女のため、プライベートジェットでイタリア料理を買いに飛んだり、夜眠れない彼女に朝まで電話で付き合ったりしていた。

それに、誘拐事件で、「どちらか一人しか助けられない」と脅されたとき、両親は清雪を選び、彼女を見捨てた。

そんな中、命懸けで助けに来てくれたのが、博史だった。

だから、悠々華は心を預けた。そして、結婚を受け入れた。

しかし結婚後、彼は別人のように冷たくなった。

遠ざかり、一度も、触れてくれなかった。

悠々華は最初、彼の体に問題があるのではと心配していた。

でも今、すべてがわかった。

――問題なんてなかった。

女が嫌いなわけでもなかった。

ただ、彼の体は、別の女のために残していたのだ。

なぜだろう。

迷子になったのは、彼女のせいじゃない。

林家に戻ったのも、彼女のせいじゃない。

それなのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。

ちょうどそのとき、スマホが震えた。

悠々華はふらふらとベランダに出る。

「悠々華?」

電話の向こうから、養母の優しい声が聞こえた。

おずおずと、こう告げた。

「もうすぐ、私の誕生日なの。もしよかったら、イタリアに戻ってきてくれない?もちろん、本当の両親が許してくれないなら、無理はしないで……」

悠々華を育てた養父母は、不妊のため正式な手続きを経て彼女を迎えた。

血のつながりはなくても、誰よりも深く愛してくれた。

けれど四年前、博史に惹かれた彼女は、一人で国内に残る道を選んだ。

でも今。

養母の声を聞いた瞬間、胸に押し込めていた涙が堰を切った。

「ママ……帰りたい」

娘の涙に、養母はすぐさま焦った声で叫んだ。

「何があったの!?林家にいじめられたの!?そうなら、すぐ帰ってきなさい!誰にも、悠々華を傷つけさせないわ!」

悠々華の養父母は、イタリア最大の財閥で、ヨーロッパでも屈指の権力を誇る。

養母はきっぱりと言い切った。

「すぐ手配するわ!三日後、プライベートジェットを飛ばして迎えに行く!私たちの大切な娘。誰にも、指一本触れさせない!」
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