Masuk妻の亡骸を探すために雪山へ登り続けて、5年目のことだった。 僕・藤原朔也(ふじわら さくや)は偶然、氷の洞窟へ転落した。 低体温症で意識が朦朧とする中、何年も音沙汰のなかった美蘭のLINEを開き、最期の言葉を残そうとした。 すると、画面に突然、結婚式の招待状が表示された。 【10年の恋を経て、ようやくこの日を迎えることができました。親しい皆様を、私たちの結婚式へ心よりご招待いたします。 新郎:藤原智年(ふじわら ちとし)、新婦:汐見美蘭(しおみ みらん)】 背景に設定されていたのは、一枚のウェディングフォトだった。 養子として迎えた弟の智年が美蘭を優しく抱き寄せ、口元には幸せそうな笑みを浮かべている。 救助されて雪山を下りた後、僕はひどい凍傷を負った両脚の痛みも忘れ、狂ったようにホテルへ向かった。 けれど、扉を押し開けた瞬間――僕はその場に立ち尽くした。 昨夜、目を赤くしながら「もう諦めなさい」と僕に告げていた姉が、満面の笑みでクラッカーを鳴らしていた。 「智年、やっと美蘭を振り向かせたんだからね。これから美蘭を泣かせるようなことをしたら、絶対に許さないから!」 会場では、長年敬愛してきた僕の両親が礼服に身を包み、涙を浮かべながら二人を見守っていた。 その時、背後から声がした。 「朔也……お前、どうしてここにいるんだ?」 振り返ると、そこにいたのは僕の幼馴染・渡辺康太(わたなべ こうた)だった。 震える手を伸ばしながら、僕は彼のもとへ歩み寄ろうとし、このあまりにも残酷で、ありえない現実を伝えたかった。 しかし、康太は小さくため息をついた。 「朔也、帰れよ。みんなだって、ずっと芝居に付き合うのは疲れるんだ。美蘭はお前から逃れるために、死んだふりまでしたんだぞ。 智年だって、彼女を5年も待ち続けたんだ。あいつだって辛かったんだよ。 今日は二人の結婚式なんだから。わざわざ乗り込んで、浮気相手みたいに騒ぎを起こしてみんなを気まずくさせるなよ」 そう言い残すと、彼は僕の横を通り過ぎた。 そして笑顔を浮かべながらステージへ向かい、新郎新婦へ大きな花束を差し出した。 「智年、美蘭、結婚おめでとう!」 舞い落ちる色とりどりの紙吹雪が、僕の頭上を覆った。 ステージ上で司会者が声を張り上げる。 「それでは、新郎様から新婦様へキスを!」 その声を聞きながら、僕は音もなく涙をこぼした。 まさか――僕が必死になって美蘭を探し続けたこの5年間、彼女はずっと別の男を愛していたなんて。 しかもみんな知っていたのに、誰もが口を閉ざし、僕に隠すことを選んだ。
Lihat lebih banyak故郷を離れて1ヶ月後、僕は息子を海が見える場所にある墓へ埋葬した。生前の彼は体が弱く、病気がちで、毎日のように病院で過ごしていた。それでもいつも、こう言っていた――病気が治ったら、絵本で読んだ人魚姫が泳ぐ海を、絶対に見に行くんだ、と。3ヶ月後、美蘭との離婚裁判に勝訴した。これで、僕たちの婚姻関係はようやく完全に終わった。そして以前、僕が育て上げた汐見グループの幹部たちは、次々と会社を辞めていった。5ヶ月後、僕はチームを率い、科学技術分野における最高賞を手にした。異例の抜擢を受け、チーフエンジニアに就任した。あの苦しい過去は、少しずつ記憶の奥へと遠ざかっていった。7ヶ月後、僕は新しい恋人と共に、人生で新たな一歩を踏み出した。世界中から集まった一流記者たちが、熱気を帯びた様子で僕たちの周囲に押し寄せ、僕の結婚式を、誰よりも早く報じようとしていた。結婚式の車へ続くレッドカーペットの両脇には、無数の照明が輝き、シャッター音が絶え間なく響いていた。車に乗り込もうとしたその瞬間、見覚えのある人影が、僕に向かって必死に駆けてきた。しかし、すぐさまボディーガードに取り押さえられ、地面に膝をつかされた。「朔也、朔也!本当にこの女と結婚するつもりなの?」現れた人物は、服が乱れ、身体は痩せ細り、まるで骨と皮だけになったようだった。目の下には濃い隈が浮かび、見る影もなかった。一目見ただけでは、誰なのか分からなかった。「美蘭?」彼女は顔を上げ、必死に僕の冷静な瞳を見つめた。「私、お義父さんとお義母さん、それにお義姉さんと一緒に、あなたを迎えに来たの」僕は群衆の後ろに興奮した様子で立っている藤原家の人々へ視線を向け、それから再び美蘭を見た。そして、淡々と言った。「あの家は、もう僕の家じゃない。お前たちは智年を探せばいい。それに、お前と僕はとっくに離婚しているんだろう」その場にいた数人の顔色が、一瞬にして青ざめた。美蘭は慌てて言葉を重ねた。「私、もう全部知ってるの。智年がずっとあなたを傷つけていたことも……今まで全部、彼に騙されていたの!今、彼は刑務所にいる。私は……」その時、婚約者の東雲昭音(しののめ あきね)が僕の胸元に寄りかかり、どこか楽しそうな口調で言った。「ねえ、朔也の元奥さん、なか
美蘭はその場に立ち尽くした。手から力が抜け、プレゼントが床に落ちた。その音に驚き、先ほど話していた医師がびくりと体を震わせた。次の瞬間、美蘭が目を赤く腫らしながら、医師たちのもとへ駆け寄った。「誰が……死んだって言ったの?」「申し訳ありません。患者さんのプライバシーに関わることなので……」医師は美蘭の顔を見た瞬間、何かに気づいたように固まり、慌ててその場を離れようとした。しかし、その時突然、秘書が現れ、焦った表情で美蘭のもとへ駆け寄った。「社長……清様は、1週間前に心臓発作で亡くなられました」美蘭の顔から、さっと血の気が引いた。彼女はふいに、あの日の朔也の絶望に染まった瞳と、自分の襟元をつかんだ彼の手がずっと震えていたことを思い出した。もし清が本当に亡くなっていたのなら、あの日、彼女は……「あ……あなた、藤原さんの5年前に亡くなった奥さんじゃないですか?彼のスマホの待ち受け画面で見たことがあります!」医師は美蘭の眉間に深い皺が刻まれるのを見て、つい口を滑らせた。しかし、美蘭の高価な服装や身なりに目を向けると、表情が次第に険しくなる。「あなた……死んでいなかったのか?いや、違う……あなたは、あの日藤原家の若様と結婚した汐見グループの社長だ!」同僚が慌てて医師の袖を引っ張り、その怒鳴り声は少しずつ遠ざかっていった。「こんなに裕福なのに、自分の息子の治療費すら払えないなんて!藤原さんはこの数年、ほとんど毎日のように雪山へ登って、遺骸を探していたんだぞ。体中、古傷だらけだった。あの日だって両脚をひどく傷めて、あと少しで切断するところだったのに……よくもそんな冷酷なことができるな……」医師の姿が見えなくなっても、美蘭はその場から動けなかった。頭の中は、完全に混乱していた。ちょうどその時、スマホの着信音が鳴り、乱れた思考を遮った。智年からだった。しかし、彼女は電話に出なかった。ただ、暗くなってはまた光る画面を、ぼんやりと見つめていた。最後に彼女の目に焼きついたのは、LINEに届いたメッセージだった。【ふん。今日は急用で来られなかったことは責めない。でも、夜の父さんの60歳の誕生日祝いには絶対来いよ!】美蘭は返信することなく、掠れた声で秘書に命じた。「調べて。智年を、そして
汐見グループの社長室にて。大きな窓越しに、空に一筋の白い飛行機雲が伸びているのが見える。美蘭は椅子に腰掛けたまま、何度もぼんやりと物思いにふけっていた。ペン先は紙の上で止まり、そこから黒いインクがじわりと滲んでいく。彼女は仕事中、いつだって完璧な集中力を発揮していた。こんな状態になることなど、今まで一度もなかった。ふと、視線が何も飾られていない薬指へ落ちる。まるで熱いものに触れたように、彼女は小さく息を呑んだ。智年との結婚当夜、彼女はすぐにダイヤの指輪を外した。智年との結婚が、10年間ずっと願い続けてきたものだったはずなのに。朔也と過ごした15年のうち、10年もの間、彼女は無邪気で太陽のように眩しい智年を愛していた。朔也が昔から嘘をつき、人を騙すのが得意だったこと。そして藤原家の長男という立場を利用し、孤独で頼る相手もいない智年を苦しめていたこと。彼女は、とっくにそう信じ込んでいた。なのに、新婚の部屋で、智年の整った顔と照れたような表情を見た瞬間、なぜか美蘭の脳裏には、病院で見た朔也の姿が浮かんだ。顔色を失い、今にも壊れてしまいそうだった朔也の姿が脳裏に蘇った。その記憶に心を乱され、近づいてきた智年を思わず押しのけた。そして適当な理由を作り、会社へ逃げ込んだ。そのまま、1週間も戻らなかった。その間、朔也へ送った仲直りのメッセージに、彼から返事が来ることは一度もなかった。「社長、速達が届いております。確認されますか?差出人は旦那……いや、その、藤原朔也さんのようです」秘書のためらいがちな声が、彼女の思考を遮った。美蘭の眉間からわずかに力が抜ける。朔也がとうとう我慢できずに自分に会いに来たのだと思った。何しろ彼は、一人で清を育てながら、5年間も自分を探し続けていた。自分が義弟のために結婚式を挙げたと知ったとしても、きっと自分のもとを離れることなどできないだろう。美蘭はそう思っていた。秘書の呼び方を訂正する余裕もなく、美蘭は急いで速達の封を開けた。しかし、そこに書かれた文字を目にした瞬間、彼女の余裕に満ちた表情がぴたりと固まった。【離婚協議書】その文字が、まるで彼女を嘲笑うかのように紙面に並んでいた。ガタン――椅子が後ろへ下がり、壁にぶつかって鈍い音を響
姉たちは僕を置き去りにして、来た時と同じように慌ただしく去っていった。誰一人として、それが僕の仕業ではないと疑う者はいなかった。頬は焼けるように痛み、その痛みは心の奥深くまで染み込んでいく。僕は書類を握りしめたまま、感覚を失ったように口元を歪めると、ふらつきながら外へ出て、タクシーを拾い、病院へ戻った。病室に入った瞬間、安堵した表情を浮かべる医師と目が合った。「藤原さん、お子さんの心臓提供者が見つかりました!費用をお支払いいただければ、すぐに手術を受けられます!」その瞬間だけ、天にも昇るような喜びが全身を駆け巡った。僕は足元もおぼつかないまま、急いで会計窓口へ向かった。しかし、キャッシュカードは一枚、また一枚と返される。【残高不足】その事実を理解した瞬間、全身の血が凍りついたようだった。僕の暗証番号を知っているのは、美蘭だけだ。その後、僕は彼女に31回も電話をかけたが、すべて途中で切られた。看護師が慌てた様子で駆け寄ってきた。「藤原さん、お子さんの容体がまた悪化しました。このまま心臓移植をしなければ、もう長くは……」焦燥に駆られた僕は、病院を飛び出して美蘭を探しに行こうとした。その時、廊下の先にある病室の前に立つ彼女の姿が目に入った胸が一瞬、強く締めつけられた。僕は目を真っ赤にし、狂ったように彼女のもとへ駆け寄った。そして、彼女の服の襟をつかんだ。「美蘭!僕のカードの金はどこにやったんだ?」美蘭はあまりにも冷静な声で答えた。「お金は智年のために家を買ったわ。名義も智年にした。あなたが彼を突き飛ばしたんだから、それくらいの補償はするべきでしょう?」僕は絶望のあまり、崩れ落ちそうになりながら叫んだ。「よくそんなことができるな!清が心臓発作を起こして、手術が必要だって知ってるのか?」美蘭の瞳がわずかに揺れた。彼女は慌てて僕の手を押さえた。「何ですって?」「清は今……」「兄さん」それを遮るように聞こえてきたのは、智年の声だった。姉に大切そうに支えられながら現れた彼は、僕の信じられないという視線を受けると、一瞬だけ愉快そうに目を細めた。「美蘭が俺に家を買ってくれたことが気に入らないのは分かるよ。でも、どうしてそんな嘘までつくんだ?」そして、まるで何でもないこ
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