Masuk『開かねえ、鍵をかけてやがる』
『ふざけんな! 俺らを騙したのか?』
ドアを蹴る暴力的な音に受付のスタッフの女性は顔色を青くしたが、俺たちを見て何かに気づいたように奥のスタッフルームに向かった。
戻ってきた彼女の手には警察のものとは少し違う、警備員が来ている様な防具。
「お使いください」
「「ありがとう」」
戸田刑事が「このホテルのスタッフは優秀ですね」と苦笑しているところを見るに、戸田刑事は俺と李凱に危険を理由にここで待機をさせたかったのだろう。
でも、こんなヒナの悲鳴を聞いて、ここでジッとなんてしていられない。
「令状が取れました!」
スタッフはすでに用意していたのか、15階の部屋番号を告げた。
「男性二人に女性一人、お探しの情報に合っているのはこの部屋だけです。車椅子に座って眠っている女性を連れて男性がお二人でチェックインされました」
戸田刑事は頷くと、ホテルのマネージャーに案内を頼んだとき……。
ガキンッ
さっきまでの重い音とは違う、少し軽い音、鍵が壊れる音にザッと血の気が下がった。
『手こずらせやがって』
『いやあっ』
「陽菜っ!」
「ヒナッ!」『このアマッ!』
『なにやってんだ、開けろ!』
『扉が開かねえんだよ』
『ふざけんなっ! かしてみろ』
「……何かあったようですね」「陽菜がドアを押さえているのか?」
「男二人の力相手にそれは無理でしょう。タオルかなにかを使ってドアを固定しているのではないでしょうか」
戸田刑事が感心したような声を出したとき、エレベータが目的の部屋がある15階に着いた。
「こちらです」
ホテルスタッフに先導される形で走っていたが、その男の足の遅さに焦れた李凱が彼の襟首をつかみ引き摺りながらスピードを上げた。
SNSは白川茉莉の得意な分野で、彼女はそれを武器として上手に使う。これ幸いと周りを煽り、好奇心を掻き立て、私を汚すだろう。 ただ……私、すでに結構汚れ役なんだよね。原因はあの夜のパーティーの画像や映像、煽るタグがつけられて拡散され、ネット上で私はかなりの『悪女』だ。 白川茉莉ファンや幼馴染恋愛推奨派からは蒼と白川茉莉の邪魔をするなと言われている。凱ファンは実に過激で、世界各国のスラングで罵られるという経験をしている。これが不快ではないと言ったら嘘だけど、事実も知らずいい加減だと思った。蒼と私は夫婦で、蒼と白川茉莉は不倫の関係。それは幼馴染のピュアな恋愛ではないし、【2人が結ばれるのをみんな待ってる】の“みんな”は主語は大きいが、蒼が大事に思人はいないため実はない。凱が絡んだコメントは完全に笑い話。私が凱を手に入れるためにしたあれやこれや(性的なものが9割以上)を見た・聞いたと好き放題に言っているが、私が凱の本当に異母妹だと知ったらどうするのだろう。どうもしないのだろうな、匿名だから。誤魔化すこともせず、好き放題っていた人は次に好き放題言える人の元へ行く。ネットなんてそんなもの。 「陽菜、考え直せ。あの男たちには余罪もあるし、公務執行妨害ですでに捕まっているから」「だめ、それでは白川茉莉にまでいかない」「白川茉莉に関わるな、また陽菜に何かあったら……「何かはある」」思いのほか強い言葉が出た。でも……分からせれば理解する、白川茉莉に対するそんな甘さが今回のことを起こした。いい加減自覚するべき。白川茉莉という人間は道理でどうにかなるものではない。 「藤嶋家には白川家との付き合いがあると思う。だから蒼にどうしてとは言わないわ」何百年続く絆
インターホンの音に私と蒼の体が同時にビクッとする。私、何を思い出して……。 「誰か来たみたいだ。出てくる、一人で大丈夫か?」「……うん」この状況で初めの日を思い出している自分が恥ずかしくて俯いてしまったが、蒼はそれを我慢している思ったようで「すぐに戻る」と言ってバスルームを出ていった。……恥ずかしい。 「副社長」知らない女の人の声、誰だろう。「朝霧様のお着替えをお持ちいたしました」「どうやって?」「李支社長がなんかやったようです」まるで凱が犯罪でも犯したかのような口ぶりで話している……あの凱に嫌悪を示す女性は初めて。どんな人だろう。「陽菜、聞こえたと思うけれど着替え……陽菜?」鍵を閉めたから、バスルームの扉は開かない。さっきの状況と、服を渡すという理由を考えれば、私が鍵をかけると思っていなかったようで蒼は不思議そうな声を出した。「白川茉莉の子どもは、蒼の子どもなの?」扉の向こうにいるけれど、蒼が緊張するのを感じた。面と向かってはいないけれど、正面から問いただしたのはこれが初めて。蒼の子どもだと思っていたから、「そうだ」と言われるのが嫌だった。 「違う、俺の子じゃない」どうして、蒼が自分の子どもだと誤解させたままだったのか。なんで私には、秘密だよって、言ってくれれば……。はあ。過去に「こうしてくれていたら」と考えるとキリがない。あくまでも結果論でこの状況、選択が違えば過程や結果が変わり、違う今がある。この今だから出てくる「こうしてくれたら」は、過去の選択を責め
「違いますけれど……その、久しぶりで……それに……」想像以上に大きい。あれ?こんなに大きなものだっけ? 「んっ!」「なるほど、大学4年のときだったか……だから狭いのか……」多分、違うと思う。「力を抜いていて、ゆっくり慣らすから」こういうところに慣れを感じるけれど、ありがたくもある。痛いのが好きというマゾではない。 藤嶋さんは腰を動かし、角度を変えて中を探りながら、私が息をつめれば腰を引いて、痛みから気を逸らすようにキスをしてくれる。宥めるように大きく動く舌に捕まって、ちゅうっと吸われる感触にゾクリとすると、また少しだけ奥に進む。 少しずつ。丁寧に。優しく。痛くないように。 性行為は、やることは単純。体の機能と生理的反応を利用して、刺激して濡らして入りやすいようにして、入れたら刺激して射精を促す。生理的反応は感情に直結し、気持ちいいと感じることで受ける刺激が強くなり、気持ちよさがいっそう増える。「んっ……よく濡れてる」まるで褒めるように、それでいて嬉しそうに言われれば、体の奥がまた開き、それを待っていたかのように熱いものが押し進む。性行為は本能的なものだから本性が出やすいと聞いたことがある。私の反応を探る目にも、より強く感じるところを見つけ出す指にも、女性の体に慣れた雰囲気は私の想像していた藤嶋さんらしいもの。でも、たまに壊れ物を扱うような慎重な手つきになったり、私の快感を引き出せたと喜んでくれるところは熟練ぽくなく、むしろ不慣れで……。 「陽菜!?」この人の最初の女になりたかった。
「んんっ」不慣れで拙い反応をする私に焦れたのか、藤嶋さんの舌が私に動き方を教えるように、リードするように舌を動かしはじめる。口内に溜まる二人分の唾液。くちゅくちゅと聞こえる厭らしい水音に、頭が茹りそうになる。 「ひうっ」耳に触れていた藤嶋さんの指が耳の穴に入り込むと、ぐちゃぐちゃという水音が脳で響く。それに合わせるように指が動いて、耳なのに、穴を圧迫される感触はまるでアレの疑似行為。気づけば私の頭は枕の上。背中には柔らかいベッドの感触。そして目の前には、私を見降ろす藤嶋さん。……いつの間に? 「赤だ」……赤?今日の私に赤いところなんて……っ!シャツのボタンがすべて外されていて、下着がお披露目されていた。いつの間にと驚きは増したが、予想以上にガン見している藤嶋さんに驚きは瞬く間に消えて、代わりに不安がダッシュでやってきた。どうしてだろう。この先、何があるか分かっているし、知ってもいるのに体が強張る。 「……怖い?」流石、髪の毛をちょっと切っただけでも分かる人はよく気づく。そう内心茶化してみるけど、頬を撫でる藤嶋さんの手が冷たくて、反射的に体が震える。 「これ以上はやっぱりやめたい?」これ以上……この先に進むことで、私と藤嶋さんの関係は確実に変わる。性行為が全てではないのだけれど、繋がることで生まれるものは確かにあって、繋がったことで一歩先に進み、その先で知れることもあれば、知りたくないことを知ることもあるだろう。「続けて、ほし……」「……ん」そう言うが早いか着ている自分のシャ
なんで一人にしないでなんて言ってしまったんだろう。脱いだ蒼のスーツの上着が、蒼が履いている革靴の近くで丸まって、それを見ていたら体が蒼との距離が10センチも離れていないことに気づいた。私も蒼も肥満体形ではないけれど、成人二人で使うのは狭い場所。でもこの狭さが、安っぽくはないけれど高級感のないバスルームのシンプルな内装が、あのマンションを思い出させた。蒼と住んでいた青山のマンションではなくて、社会人2年目で引っ越した一人暮らしのマンション。……そういえば、あのときもこんな風に、狭いなって距離でくっついていたんだっけ。 * 【 過去 】いつもの居酒屋でいつも通り10時まで飲んでいた。恋人同士になってからは短くてもそれまで二人きりで飲み食いしていた期間をカウントすれば蒼との仲はそれなりに長くて、そうなりたくて、関係をすすめると決めていた。連れてきたのは私の部屋。それなのに、これまでのやり取りから何となく藤嶋さんにお持ち帰りされた気分になった。玄関扉を開けて、二人で中に入ったときから思っていた。狭い。私も藤嶋さんも肥満体形ではないのに、成人二人が並んで立つには狭い玄関。 「ここにはずっと住んでいるのか?」「社会人2年目に引っ越してきました」「それより前は?」「大学の近くのアパートです」何か気になるのかな?「最後の彼氏は、大学4年のときだっけ?」「卒業、就職で忙しくて、仕事に慣れるのに忙しくて、慣れたら暴君な上司がきてかなり忙しかったんです」モテないみたいな言われ方をしたから、事実モテはしないけれど、忙しいから彼氏を作る余裕はなかったのだと主張する。「忙しくさせてよかった」なんで?「この部屋に来た男は俺だけってことだろう?」「……そんなことを気にしていたんですか?」
「蒼……」陽菜の泣き声がピタリと止まった。「……蒼?」迷子の幼子を想像させる陽菜の声に俺のぐうっと喉が締めつけられると同時に、助けられたという安堵の思いが俺の体から力を奪う。この場にしゃがみ込んで泣きたくなった。「ああ、俺だよ」「蒼!」ガタンッとバスルームから大きな音が立ったと思ったら、ガタガタとドアノブが揺れた。壊れて、ぐらぐらのドアノブ。状況がどれだけ切羽詰まっていたのか、陽菜がどれほどの恐怖を感じていたかを垣間見えた。 「蒼っ!」扉がガタガタと揺れたあと、目の前の扉がどんどんと叩かれて揺れる。ぐらぐらになったドアノブが何度も大きく揺れる。「陽菜、落ち着いてくれ」「ドアを開けて、蒼。ここから出たいの」「もちろん、出すさ。でも、外からではこの扉が開かないんだ」俺の言葉に少し落ち着いたのか、陽菜はストッキングと肌着で扉とトイレを固定していると教えてくれた。「カッターを用意します」「……お願いします」動揺している陽菜に刃物を持たせることに迷いはしたが、扉を壊せばその大きな音で陽菜を怖がらせてしまう。「陽菜。いまドアの下からカッターを入れる」「分かった」カッターを差し入れると向こうから引っ張られた。カチカチと刃を出す音のあと、ジャッという音がした。扉が微かに揺れる。「ゆっくりでいいから、落ち着いて」……返事がない。ただジャクジャクと切る音だけが聞こえる。切る音が終わったとき、ドアがカタッと小さく揺れると同時に、どさっとバスルームで大きな音がした。「陽菜っ!」ドアを引いて空けて、目の前の光景にひゅうっと喉が絞まった。バスルームの床