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340.縁談①

last update Last Updated: 2025-12-07 19:57:29

瑛斗side

「芦屋グループの新規事業の焼肉が好調のようですね。海外のメディアでも取り上げられていると聞きました」

「ああ、おかげさまで。最近はインバウンドで海外からの客も来ていて、一部の地域では観光地化しているんですよ。団体旅行での予約も入りましてね。一条グループのホテル事業も好調と伺っています。さすが一条社長だ」

会食が始まってしばらく、俺と芦屋会長は、互いの事業の成功を称え合う言葉が交わされていた。彩菜さんは終始穏やかに微笑み、会話には加わらない。

「おかげさまで。飲食業界を牽引している芦屋グループの会長に褒めて頂き、光栄です」

気合を入れて臨んだ会食だったが、話題に上がるのは事業の話ばかりで縁談のことは出てこなかった。あくまでも家族ぐるみの付き合いになるほどの親密な関係を希望するという比喩として言ったのかと不安が和らいでいた時だった。

「是非ともその経営手腕を、娘の彩菜にも手ほどきして欲しいくらいです。一条社長ほどの人物は、なかなかおりませんから」

芦屋会長は、ここにきて一気に本題へと切り込んできた。

(そうきたか……)

「いやいや。彩菜さんもご活躍されているじゃないですか。女性目線の事業展開は、我々にはない視点や発見があり、とても勉強になります。と

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    瑛斗side翌日、出社してしばらくすると彩菜から昨日のお礼の電話が入ってきた。電話口から聞こえる声は、落ち着いているがどこか含みを持っている。「一条社長、昨日の会食、ありがとうございました。父も一条社長とゆっくりお話が出来て喜んでいましたわ。是非、今後とも友好的なお付き合いをお願いしたいですわ」「……ご丁寧にありがとうございます。いえいえ、芦屋グループとは何かしらのカタチで事業でご一緒できればと思っていますので、また情報交換など出来れば幸いです」彩菜の言葉に、今回のリゾート事業での提携は見送りたいこと、そして会うのは情報交換であくまでもビジネスとしての付き合いだと線引くように答えると、俺の意図が分かったようで、彩菜のクスクスと笑う声が聞こえてきた。「一条社長ってハッキリと物事を仰るのですね。私は、回りくどい方よりも好きですが」「そういうつもりでは。提携するのなら、既存事業に乗っかるのではなく一から創出した方がお互いの強みや利点を生かせると思ったまでです」苦し紛れだが俺がそう言い訳すると、それ以上は言及してこなかった。俺の拒絶を理解しつつも動じない冷静さを彩菜は持っていた。「まあ、いいですわ。今日は、それとは別件で話がありまして。海外富裕層ビジネスのけん引役として注目されている王氏の有料講演会

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    瑛斗side「そうなりますと、ホテル事業についても芦屋グループを普段から利用している層を中心に展開していくのも一案になると思います。芦屋の子ども向けサービスや接客対応は評判がいいですので、宿泊も芦屋なら安心と思っていただける、かつ再利用しやすい価格帯で最初は展開するのがいいかと」俺が展開しているリゾートホテル事業は、海外富裕者向けで一泊二日で五万円以上する。食材にもこだわっており、料理人は都内の一流ホテルで料理長を務めていた人をヘッドハンティングしてきたのだ。原価率は高くつくが、その分宿泊費をプレミアム価格にすることで採算をとっている。要するに芦屋とは全く逆の営業展開だ。「我々の店舗を利用してくれている客層ですか。実は新規顧客層の開拓を狙ってリゾートホテル事業に興味を持ったんです。ここなら富裕層を取り込むことが出来る」芦屋会長の戦略は、言っていることは分かる。富裕層は客単価が高いため、数をたくさんこなさなくても利益が出るため旨味は多い。うちと組むことで芦屋はリゾートホテルにも食材やメニューの提供をしているとなれば、その名前に箔がつくだろう。一方の一条グループは、安さ重視の芦屋と組むことは、現在展開中のハイクラスホテルのブランドイメージを崩しかねない。提携をするのなら、想定顧客をミドルクラスに落として、今とは違う場所で展開した方が良さそうだが、それでは新たなブランド構築が必要になり、コストがかさむ。

  • 離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー   340.縁談①

    瑛斗side「芦屋グループの新規事業の焼肉が好調のようですね。海外のメディアでも取り上げられていると聞きました」「ああ、おかげさまで。最近はインバウンドで海外からの客も来ていて、一部の地域では観光地化しているんですよ。団体旅行での予約も入りましてね。一条グループのホテル事業も好調と伺っています。さすが一条社長だ」会食が始まってしばらく、俺と芦屋会長は、互いの事業の成功を称え合う言葉が交わされていた。彩菜さんは終始穏やかに微笑み、会話には加わらない。「おかげさまで。飲食業界を牽引している芦屋グループの会長に褒めて頂き、光栄です」気合を入れて臨んだ会食だったが、話題に上がるのは事業の話ばかりで縁談のことは出てこなかった。あくまでも家族ぐるみの付き合いになるほどの親密な関係を希望するという比喩として言ったのかと不安が和らいでいた時だった。「是非ともその経営手腕を、娘の彩菜にも手ほどきして欲しいくらいです。一条社長ほどの人物は、なかなかおりませんから」芦屋会長は、ここにきて一気に本題へと切り込んできた。(そうきたか……)「いやいや。彩菜さんもご活躍されているじゃないですか。女性目線の事業展開は、我々にはない視点や発見があり、とても勉強になります。と

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    瑛斗side火曜日、この日は父である会長と一緒に、芦屋家の会長と娘の彩菜さんと会食のため、都内のホテルへと車で向かっていた。後部座席にどっしりと構えて座る父は、ビジネスマンとしての威厳と風格があり、息子であるのに話しかけることを躊躇してしまう。車内は、重苦しい静寂に満ちている。「今日はお前の手掛けたリゾートホテル事業について話があがるだろう。あと縁談についてもな」俺の顔を見ることなく、父は真っ直ぐに前だけを向いて落ち着いた口調で話しかけてきた。その声には、反論を許さない冷徹さが宿っている。隣に座る父の方に顔を向け、強い覚悟を持って、俺は自分の気持ちを口にした。「はい。その件ですが、やはり私としてはその話を受け入れることはできません。私には華と子どもたちがいます。華と再婚して家族としてやり直したいです」俺の決意は予想の範疇なのだろう。父の表情は変わらず、無表情で前を向いたままだ。「そうか。私からは縁談を進めるような発言はしない。だが、芦屋グループは、リゾート事業の強力なパートナーになり得る。お前の私情で一条グループの利益を損なうようなことは許さない。あとはお前がうまく話をまとめるんだ、いいな」「はい、

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    華side「二人とも明日も学校があるだろうから、今日はもう帰るよ」時計の針が八時半をさしたのを見て瑛斗が言うと、子どもたちは名残惜しそうに瑛斗の元へと駆け寄って足にしがみついていた。「えー帰っちゃうの。もう少しいて。」「私もまだ一緒に遊びたい。瑛斗、お願い!」「ありがとう。でも、二人とも明日寝坊したら大変だろ。それに遅くまで起きていたら授業中も眠くなってしまうかも。だから、今度は休日にゆっくり遊ぼう」子どもたちの頭を撫でながら宥めるように言うが、誕生日の興奮が冷め止まない子どもたちは素直に聞き入れられなかった。「えー次だと遅いよ。そうだ、瑛斗も泊まっていけばいいじゃん。お部屋ならあるよ。ねえ、ママいい?」キラキラとした瞳で見つめる子どもたちと困惑した表情で見てくる瑛斗に、戸惑いながらも今度は私が宥める役に選手交代した。「お部屋はあるけれど、お着換えがないのよ。それに瑛斗も明日仕事があるから、ここからだと遅刻しちゃうわ。だから、今日はさよならしましょ」何度か説得を重ねると渋々といった形だが納得したので、子どもたちと駐車場まで一緒に行き、瑛斗を見送ることにした。瑛斗は腰をかがめて

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