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第5話

Auteur: 桃入り
「由梨、翔が高熱を出してるの。真一に代わって!」

「ふふ、ちょうどいいじゃない。あんたの息子がバカになってくれれば。言っておくけどね、心音、私もう真一の子を妊娠してるのよ。お腹の子こそが日下グループの後継ぎ。あんたの息子なんて、バカのままでいればいいの」

電話は無情に切られた。

再びかけ直しても、もう繋がらない。

心音は腕の中でますます熱くなる息子を抱きしめ、全身が震えた。

すぐに野村へ電話をかける。

野村が不安げに言う。「奥様、申し訳ありません。旦那様の命令です。誰一人、あなたや若様に水一杯でも届けたら、即刻解雇されると」

通話はまた切れた。

彼女の瞳には痛みがあふれていた。スマホのバッテリー残量が残り5%しかないのを見て、彼女は息子をそっと地面に降ろした。

全身で馬小屋の木の扉に体当たりした。一度、二度、数え切れないほど繰り返す。

骨が砕けそうな痛みに襲われても、決してやめなかった。

そして、何百回目かの衝撃で、ついに扉が開いた。

指一本持ち上がらないほどに痛みで痺れていたが、それでも息子を抱き上げ、必死に外へ駆け出す。

「翔、頑張って、ママがすぐ病院へ連れて行くから」

すでに翔の意識は薄れ、返事すらない。

心音の涙がこぼれ落ちた。

「翔、絶対にママが助けるから」

心音は車を運転できない。屋敷の誰も助けてくれない。夜中に頼れるのは真一しかいない。

必死に屋敷へ駆け込み、息子を抱いて真一の部屋の扉を開けると、そこには、由梨を優しく抱きしめる真一の姿。

一瞬、彼の瞳に動揺が走ったが、すぐに冷たく言った。

「由梨が悪夢を見たから、慰めていただけだ」

二人のあまりに親密な光景に、心音がもはや心は何も感じなかった。

「真一、翔を病院へ、高熱なの」

真一にはまだ良心が残っていた。やって来て、翔が本当に高熱を出しているのを見ると、すぐに翔を抱き上げ病院へ向かおうとした。

だがその時、由梨が泣き叫んだ。「おばさん、なんて酷い人なの、どうして翔を傷つけるようなことばかりするの?わざと熱を出させて、真一に心配させたいの」

この言葉を聞いた真一の顔は曇った。

彼はすぐに翔を再び心音に押し戻す。

「わざと息子を使って俺の同情を引こうとしたのか?自分で招いた結果なら、自分で連れて行け」

真一は頑として聞き入れようとしない。

心音の顔は蒼白だった。

「真一、離婚するから。お願いだから、今すぐ翔を病院に連れて行ってよ。高熱なの。本当に待てないのよ」

真一の目に一瞬、驚きが走った。

心音は、決して弱い女ではなかった。

彼女は恐ろしく冷静で、たとえ彼の身の下にいる時でさえ、照れ以外には冷静さしか残らなかった。

真一が口を開こうとしたが、由梨が腹を押さえて泣き出した。

「真一、お腹が痛い」

真一は由梨を見た。

手にはためらいもなく、由梨の平らな腹部に触れた。

「由梨、大丈夫か?」

心音は真一の腕を掴んだ。

「真一、翔を病院に連れて行って、お願い。お願いだから。あなたが望むものなら何でもあげる。離婚も、財産も、全部いらない。私が欲しいのは翔だけなの」

しかし離婚の言葉に真一の怒りが爆発する。

「ふざけるな、俺は絶対に離婚しない!心音、お前は俺の妻だ。この先も永遠に」

その言葉の後、彼は由梨を抱え、そのまま屋敷を出ていった。

「写真の件を解決できたんだ。なら今回の熱もお前が解決できるだろう」

車で走り去る背中を、必死に追いかけながら叫んだ。

「真一、お願い!子供を病院へ」

しかし、車は一瞬たりとも止まらず、猛スピードで夜の闇へ消えていった。

そのあまりに冷酷な真一の姿を見て、心音は壊れたように笑った。

間違いだった。

翔、あの人は父親になる資格も、私の研究成果を得る資格もない。

心音は震える指で屋敷の電話を掴み、119を押す。

真一、お願いしても拒んだ。もう二度とあなたにチャンスはない。

二日後。

息子の看病をしてから二日間、彼女は他人の噂話も耳にした。

「聞いた?日下さんが奥さんのために病院の一フロアを貸し切ったんだって。宝物みたいに大事にしてるらしいよ」

「十年の愛を貫くなんて、素敵すぎるわよね」

「でも、この前の騒ぎは?」

「さあ……あれは偽物でしょ。奥様と顔が似てただけって、ネットでそう囁かれてるよ」

「そうそう。日下さんが奥様をあれほど愛しているなら、あんな場で服を剥ぎ取るなんて絶対にあり得ない。きっと偽物が日下さんに媚びようとしたから、怒った日下さんがそうしたんだよ」

息子の熱が完全に下がると、心音は一つの決意を固めた。

会社へ行き、奪われたものを取り戻す。パスワードの見当はついている。

友人に翔を預け、会社へ向かう途中、突然、猛スピードの車が横から突っ込んできた。

全身に激痛が走り、彼女は地面に倒れた。血が少しずつ地面に広がっていく。

そして、朦朧とする中で真一の声が聞こえた。

「日下さん、本当に奥様の腎臓を一つ、雨宮さんに移植するんですか?」

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