Mag-log in世界一のお金持ちの一人娘、池田美希(いけだ みき)。彼女が恋に落ちたのは、会社が倒産し、数十億円もの借金を背負った青年、岩崎颯太(いわさき そうた)だった。 身分を隠して颯太のそばにい始めてから3年。ついに彼はすべての借金を完済し、新しい会社を立ち上げて、上場を果たした。 壇上で輝いている颯太の姿を見て、美希は、そろそろ自分の正体を打ち明けるときだと思った。 予約しておいたお祝い用の個室の前まで来ると、ちょうど中から賑やかな声が聞こえてきた。 「颯太、美希さんはこの3年間、ずっとお前のそばを離れなかったじゃないか。ボロアパートにだって、文句も言わずに一緒に住んでくれた。もう借金も返したし、会社も上場したんだ。そろそろプロポーズしてやれよ」 「そうそう。会社を立ち上げたばかりで人を雇う金もなかったとき、美希さんが一人で何人分も働いてくれたんだ。毎日4時間しか寝ないでさ。面倒な交渉はいつも彼女が進んでやってくれた。こんなにいい子、どこ探してもいないって。早くお嫁に来てもらえよな」 ドアノブにかけた美希の手が止まる。心臓がどきんと跳ねて、知らず知らずのうちに緊張していた。 これまでだって、結婚のことを匂わせたことはあった。でもそのたびに、颯太は「まだ君に楽をさせてあげられないから」と、話をかわしてきたのだ。 会社も上場した今、彼は……結婚を考えてくれるかな? 「この3年間、美希が俺にしてくれたことは、全部覚えてる。俺も、この先の人生を共にするのは彼女だけだと思ってた。でも……」颯太はソファに深くもたれかかり、指先にはタバコの赤い火が光っていた。 その場にいた全員の視線が、彼に集中した。 ドアの外に立っていた美希も、ごくりと息を飲んだ。 「菫が、帰ってきたんだ」
view more颯太は、池田家の住所を調べるのに1ヶ月近くもかかるとは、思ってもみなかった。住所がやっとわかると、彼はすぐに一番早い飛行機に乗ってE国へ飛んだ。向かう途中、どうやって美希に謝って、許してもらおうか颯太は何度も言葉を考えていた。だけどまさか、池田家の別荘の外で1日待ったあげく、彼女が他の男の人と親しげにしているところを見るなんて。その瞬間、用意していた言葉は全部のどに詰まって、声も出なかった。美希は颯太の姿を見ると、意外そうに少し眉を上げた。彼がここまで探しに来るなんて、思ってもいなかったのだ。「どうしてここに?」颯太は、彼女の隣にいる背の高い男の人を見つめた。その目には、つらさがにじんでいた。「俺は……君に謝りに来たんだ」美希は羽織っていたジャケットを軽く直すと、翼の方を向いて言った。「翼さん、ジャケットをありがとうございます。先に帰ってて、これは今度きれいにして返しますから」翼は颯太をじっと見つめた。その視線には、警告の色がこめられていた。そして彼は美希に微笑みかけると、彼女の気持ちを尊重することにした。「ええ。美希さん、おやすみなさい」「おやすみなさい」親しげな呼び方に、颯太の顔から血の気が引いた。彼は必死に、この男の存在を無視しようとした。「美希、もう全部わかったんだ。君を陥れたのは菫だった。彼女には、もう罰を受けてもらった。本当は、この3年ずっと一緒にいるうちに、いつの間にか君を好きになっていた。ただ、それに自分で気づいていなかっただけなんだ。菫のことは、ただ諦めきれなかっただけで、好きだったわけじゃない」颯太は、最初から最後まで自分が悪いとわかっていた。だからひたすら下手に出ていた。美希はなんだかんだ3年も自分のことを好きでいてくれた。3年間という想いは、そう簡単には消えないはずだ、と彼は思った。たとえ彼女が今も怒っていたとしても、心から謝れば、きっとやり直せるはずだ。しかし、颯太の考えは甘かった。話を聞き終えても、美希の表情はまったく変わらなかった。彼を見る目は、まるで知らない人を見るかのようだった。「話はそれだけ?なら、もう帰ってくれる?」そう言って、彼女は警備員を呼んで颯太を連れて行かせようとした。颯太はとっさに慌てて、思わず美希の腕を掴もうと一歩前に
そのころ、海の向こう側。ちょうどそのとき、美希を乗せた飛行機がE国に到着した。スーツケースを押す彼女は、3年ぶりにこの懐かしい土地を踏みしめ、久しぶりの空気を深く吸いこんだ。美希はE国で生まれ育った。でも、颯太のために身分を隠し、そばにい始めてから、もう3年も帰ってきていなかった。空港を出ると、迎えに来てくれた母親の洋子と父親の池田弘樹(いけだ ひろき)の姿がすぐに目に入った。「美希!」洋子はいち早く娘の姿を見つけると、急いで駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。「さあ、お母さんによく顔を見せて。3年も帰ってこないなんて……ずいぶん痩せたじゃない。きっと外で苦労したのね」洋子の優しい言葉に、美希は思わず鼻の奥がツンとした。外ではどんなに冷静に振る舞っていても、両親の前ではいつまでたっても小さな女の子なのだ。「お母さん、私は大丈夫。この3年間、外でたくさん学んできたんだ。これからはお父さんの会社を手伝うんだから、これくらいの苦労は平気よ」黙ってそばにいた弘樹は、満足そうに娘の肩をぽんぽんと叩いた。「よし!さすがは俺の娘だ。若い頃の俺にそっくりだな」空がだんだん暗くなってきたので、3人は長居はせず、車に乗って家へと向かった。荷物を置くと、美希は弘樹について書斎へ入った。3年前、彼女は社会勉強を理由に池田家を出た。だから、戻ってきたからにはこの3年間の成果を見せなければならない。美希が書斎から出てきたのは、夜中を過ぎたころだった。シャワーを浴びて長旅の疲れを落とすと、彼女はベッドに倒れ込むようにしてぐっすりと眠りについた。安心できる懐かしい環境に戻ってきたからか、美希はとても深く眠り、翌日のお昼にやっと目を覚ました。彼女が階段を降りると、リビングでは洋子がちょうどお茶を飲んでいた。娘が降りてくるのを見て、にこにこしながら話しかけた。「美希、起きたのね。お母さん、大事な話があるの」美希はソファに腰かけ、お茶を一口飲みながら、洋子の話を聞く態勢を整えた。その、次の瞬間――「お母さんの友達の息子でね、あなたと年が近いの。ここ数年はずっと帰ってこなかったから言わなかったんだけど、ちょうどいい機会だし、一度会ってみない?」美希は口に含んだばかりの熱いお茶を噴き出しそうになり、むせて咳き込んで
颯太はスマホを菫に投げつけ、歯を食いしばるように言った。そこには、菫が3年前に海外へ行ってから、最近国内に帰ってくるまでの行動がすべて記録されていた。海外に行ってすぐに御曹司と付き合いはじめ、でもすぐに振られて、今度は不動産会社の社長に乗り換えて……とにかく、この3年間、菫のそばにはずっと男がいた。愛人として囲われていた時期さえあったのだ。書いてあることだけじゃない。そこには、菫と男たちの親密な写真まであった。どれも目を疑うような写真で、彼女がいつも口にしていた、ずっと颯太のことだけを考えていたなどという主張の痕跡すら見て取れない。それに、理恵の誕生日パーティーで贈られたネックレスも、美希の言ったとおりだった。あの「E国王室のネックレス」というのは嘘で、菫が用意した偽物だったんだ。菫は震える手でスマホを拾いあげた。そして、画面に映る内容を見て、さっと血の気が引いた。海外でのことが、まさか颯太にバレるなんて。彼女の動揺は頂点に達し、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。「颯太、聞いて、説明させて!私、一人で海外にいて寂しかっただけで、そんなつもりじゃ……」「もういい!」颯太は怒鳴り声で菫の言葉を遮った。これだけの証拠を突きつけられても、まだ言い訳をするなんて。彼女の態度が信じられなかった。この瞬間、颯太はついに悟った。菫はもう、彼の記憶の中にいる優しくて思いやりのある女性ではないのだと。きっと、帰国したときに言っていたことも全部嘘なんだろう。「父に無理やり別れさせられた」なんて、そんな話も。彼女はただ、貧乏が嫌いでお金が好きだっただけだ。岩崎家がうまくいかなくなると、あっさり海外へ逃げた。そして今、自分が立ち直ったのを見て、また戻ってきたんだ。そんな女のために、自分は純粋に想ってくれていた美希を裏切ってしまった。それどころか、彼女を傷つけてまで。「菫、お前がこんなに嘘つきで、吐き気がする女だとは思わなかった」颯太は大きな手で彼女の喉を締め上げた。首筋にくっきりと赤い跡が出る。その瞳は、底知れないほど冷えきっていた。「お前のしたこと、必ず後悔させてやる!」そう言うと、彼は菫を床に突き飛ばした。菫はようやく解放され、喉を押さえながら激しく咳き込んだ。でも次の瞬間、男の氷のように冷たい声が響いた。
動画に映る自分の醜い顔を見て、菫はとうとう焦りだした。彼女は颯太の服のすそを掴んだ。その顔には焦りが浮かんでいて、目からは大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。「颯太、あなたを失うのが、ただ怖かったの。この3年間、池田さんはあなたのそばで会社を立て直すのを手伝ったんでしょ?そんな人があなたのそばにいて、私が安心できるわけないじゃない」どんなに涙に濡れていても、颯太の心は少しも揺れなかった。それどころか、彼はこう思わずにはいられなかった。もし菫が美希を陥れて、階段から落ちるようなことがなかったら、美希は池田家には帰らなかったんじゃないだろうか、と。「だとしても、彼女を陥れるべきじゃなかった!ましてや、あんなふうにバカにするなんて!」颯太の声は思わず大きくなる。菫に向ける目には、隠しきれない怒りがこもっていた。「お前がいなかったこの3年間、美希はお嬢様であることを捨てて、俺と一緒に苦労してくれたんだ。そんな彼女を、お前がバカにする資格なんてない!」その言葉で、菫ははっきりと分かった。颯太は美希に気がある。ただ、彼自身がまだその気持ちに気づいていないだけなのだと。抑えようのない嫉妬の炎が、菫の胸に燃え上がった。美希は池田家の令嬢なのに、どうしてわざわざ颯太に近づいたりするのだろうか?でも、彼女にも分かっていた。谷口家の状況は年々悪くなる一方で、自分の海外生活も楽ではなかった。颯太は最高の結婚相手だ。昔のよしみを使って、彼を絶対に手放すわけにはいかない。菫はうつむいて、目を赤くしながら、声を詰まらせた。「あのとき、あなたがこんなに苦しむってわかってたら……父に逆らってでも、絶対にあなたのそばに残ったのに。「今まで黙っていたけど……あの時、父はあなたを人質にするような形で、私に別れて海外へ行くように言ってきたの。そのうえ、私が帰国したら、あなたに投資するとも約束した。でも、今回帰ってきて、それが全部嘘だったと知って……でも今日これだけは言わせて、私もあなたと一緒に苦労したかったって」そう言うと、彼女は涙をぬぐって颯太を見上げた。その声は、悲しみで震えていた。「池田さんを陥れてひどいことを言ったのは、認めるわ。あなたのそばに彼女がいるのが、怖かったの。池田さんにはちゃんと謝る。だから颯太、私を責めたいなら責めて。全
Rebyu