ANMELDENボクが作った夕飯を食べ終わり、智也くんとベッドの上でゴロゴロと寛いでいる。そんないつもの、ボクらの大切な時間。 「なぁ、トラは生きてる時、どんなヤツだったんだ?」 「ボク?んーー…。まぁ、真面目だったかなぁ。クールというか周りから一歩引いていたかも。色々踏み込まれたく無いみたいな…、たぶん臆病だったからかな」 「へぇー、クール、なるほどな。今はオレに踏み込まれまくりだな、ふふ」 「こんな、全部見せてるのは智也くんだけだよ」 智也くんは満足気に目を細めた。 「だろうな。オレも同じだからな」 「ええ?智也くんに裏表なんてないでしょ?身体を知ってるのはボクだけだろうけど…」 「オレの身体はそりゃオマエしか知らないだろ!初めて同士だったんだからな。…って、そういう話じゃなくてだなー…」 「ふふふ、ボクは小学生まで本当に目立たない大人しい子だったと思うよ。中学では、身長が伸びてバレーボールやってたな。勉強は出来た方で、まぁでもやっぱり身長以外は目立たなかったな。高校では膝を怪我して高2でバレーは辞めちゃって、それからはしっかり勉強してたよ。大学はそこそこいい所入って、とにかく安定した職を考えてたかな…。友達は多く無く、恋愛無く…。ちょっとつまらないヤツだった」 「しっかりしたヤツだったんじゃない?」 「でも、今がボクにとっては最高に楽しい。何度も思うけど、あのままだったら、智也くんとも出会えなかったと思う」 「もしも、生きてたらどんなだったんかな?」 「そのまま変わらず地味にコツコツと進んだだけかなー」 「じゃあもし、オレと再会してたら
** 「──…ら!…ラ!……トラッッ!!」 ボクははっとして目を開いた。 そこには智也くんの顔があった。 「トラ!わかるか!?おい、トラ!」 「……。…ともや、くん…」 声を絞り出した。 「トラ!良かった!!」 「…智也くん、泣いてるの…?ふふ、顔クシャクシャだ」 智也くんはボクをぎゅうっと抱きしめた。 「トラ、成功だ!オレたち戻ったぞ」 「…うん、智也くんだ…」 智也くんの濡れた頬に手を伸ばした。 「…あったかいね…」 ボクは智也くんに微笑んだ。 智也くんは頬にあるボクの手に手を重ねた。 いつも通りの智也くんに戻っていた。そしてボクも、いつも通りのボクに…。 ただ隣にいたい。それは自分の願いだ。 だから、これで大丈夫。ずっと隣で笑っていよう。 智也くんと──。 「こらこら智也!そのままキスしだすなよ、世話の焼けるお二人さんが!ほんとに智也は昔から手が掛かること…ブツブツ」 「ほんと、人の接吻とか見る趣味ないからやめなさいよアンタたち」 「涼《すず》ちゃんと影山さんじゃあるまいし!ってか、ばぁちゃんにオレたち付き合ってんのバレてるじゃん!」 「す、すみません、ボク、智也くんとお付き合いしてる庄司虎泰《しょうじとらやす》です。
*** 薄暗い本堂には幾つかの仏像が祀られており、荘厳な空気に圧倒される。静けさに包まれ、ピリリと背筋が伸びた。 そして、袈裟を着た影山さんが現れた。 「しっかり坊さんやないかい!」 「でも、かなり生臭だよね」 「なーくんかっこいい」 智也くんはツッコミ、涼《すず》くんはうっとりして見せた。 「修行の身ではあるのですが、形も大切なので。まずは、西口さんのおばぁ様を呼び出しましょう。おばぁ様のお名前は?」 「ばぁちゃんの名前は『蘭子《らんこ》』だ」 「素敵な名前だね」 「かき乱す方の『乱』の方が合ってんだけどな」 瞬間、強い風が吹いた。 「誰がかき乱す方だって!?智也は小さい頃から一言多いんだよ!」 大きな声が本堂に響いた。声の方を見上げると、女の人が浮いて現れた。 いや、幽霊が現れた。 「げっっ!!ばぁちゃん!!まだ、召喚されてねぇから!」 「驚きです。こんな自主的に現れる方いるんですね」 「アタシのライバルになりそうなのが出てきたわねっ」 影山さんは顔を引き攣《つ》らせ驚き、涼《すず》くんは怪訝そうに睨んだ。 「智也くんのおばぁさんなの!?すっごい若いよ?」 「ちょっと補整掛けてる気はするけどな、ばぁちゃん若見えだったか──」 すると智也くんの言葉を遮り蘭子さんが話し出し
*** ボクと智也くんは影山さんの言う通り、しっかりと手を繋ぎ座った。 影山さんは部屋の四方に盛り塩を置き、ボクたちの前に線香を立てて数珠を手に巻いた。 線香の煙がボクたちを包み、燻されているように苦しくなった。 すると影山さんは目の前に立ち、ブツブツと何かを唱えながら、力強く印を結んだ。 「はぁーーっっ!!」 一喝するようにボクの背中をバシッと掌で叩いた。 ボクは一瞬頭が真っ白になり体が軽くなった気がした……。 「あぁ、失敗です…」 影山さんが顔を顰《しか》めた。 「いや〜〜!惜しかったよ、影山くん。トラの上半身が一瞬飛び出てた!すぐに戻っちまったけど」 「思った以上にトラくんが深く入り込んでしまっているみたいです」 「アンタ、彼の中に入りたがり過ぎなんじゃぁないの?ふふふ」 「ボ、ボクはそんな下心とか…えっと…」 「バカだなトラ!真に受けてんな!」 「と、とにかく、どんな理由にせよ、ここでは限界がありそうなので、本堂でやってみましょう。あそこなら、僕の力ももっと出るはずなので」 影山さんは自分の言葉に納得するようにコクコクと頷いた。 「最初からそうしたら良かったんじゃねぇの?」 「力が出せる分、危険もあるんですよ」 「危険かぁ…。それ少しでもどうにかならんの?」 「そうですね…」 影山さんは考え込んでしまった。
「トラくんは、ちゃんと西口さんの体から出たいと思ってますか?」 ボクはその言葉にドキリとした。 「そ、それは勿論、勿論です」 頭の中で生きていることの喜びを感じてしまったさっきの自分を押し込めた。 「そして、西口さんもです。必死に戻りたいと思ってませんよね?」 「いや、戻りたいよ。ちょっとおもしれぇとは思っちゃってるけどな」 「それじゃ、ダメです!」 「うわっ、オレのせいか〜!すまん、トラ」 「ボクだって、必死とは言えなかったかも…」 智也くんの命がかかっているかもしれないのに、浮ついた気持ちがあったことは確かだと思うと、自分が腹立たしかった。 そんな自分の気持ちを言わない卑怯な自分にもだ。 「トラ、そんな難しい顔するなって。大丈夫だ、上手くいくから」 ボクの頭を抱え、優しく撫でてくれた。 ボクは智也くんの肩越しに情けない顔を埋めた。 「…ごめん…」 「トラが謝ることなんてないぞ、気にしてんな」 「ふーん、アンタって、単細胞だけど、そういうところ男前よね」 「お!こりゃ姫にお褒めいただき恐悦至極だな!わはははっ!」 「あの、1回チャレンジしてみましょう」 「そうだな。夜が明ける前に何とかしたいな」 「影山さんお願いします。ボク、ちゃんと智也くんから出ていきます」 「2人はとにかく元に戻る思いを強く持ってください」 「了解だ!」 「はい!」 「なーくん、こんなの早く済まして2ラウンド目しようねぇ」 涼くんは影山さんに纏わりついた。 「え!?オマエら一発やったんか?」 「この前アンタが言ったんでしょう〜?『次回は一発やって鎮めてからで頼むわ!』って!」 「わぉっ、そこは素直なんかっ!それにしても、急に生々しいな…」 「す、すみません…。涼《すず》、我慢出来なくなってしまったら不味いと思ったので…」 すると影山さんは頬を赤らめ、そそくさと準備を始めた。
「出れるどころか、何か一体感を持ってきてる気がする…」 「そうかぁ、それはヤバくなってきたな…。うーん…」 そのまま何も浮かばないまま沈黙が過ぎた。 「あのさトラ、どうにか出来るのかは知らんが、これは影山くんに相談してみるのがいいんじゃないか?」 「ああ、確かに!影山さんだったら良い方法知ってるかもしれないね」 藁にもすがる思いで影山さんに連絡を取ることにした。 智也くんはスマホも上手く触ることが出来ず、ボクが智也くんのスマホからLINEを入れた。すると、直ぐに返事がきた。 「何処まで力になれるかわからないけど、すぐに来てもらって構わないって」 「おしゃ、善は急げだ。行くぞトラ!」 ボクたちは満月に照らされた夜道を、影山さんの自宅へ急いだ。 *** 「あら、性懲りも無くまた来たのね」 涼《すず》くんからの第一声だった。 「ど、どうも、こんばんは」 「よっ!影山くん、涼《すず》ちゃん遅くに申し訳ない」 「同じ顔の男が二人いるって何?涼《すず》ちゃんとか馴れ馴れしいっ」 フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。 「涼《すず》、言い方。来るって説明しておいたろう。すみません、気にしないで下さい。悪い子ではないんです」 涼《すず》くんは相変わらず妖艶で美しく横柄だった。けれど、嫌いだとは思えなかった。彼の表現は露骨だけれど、ただ想い人だけがいてくれたらいいという、そんな素直な気持ちはボクにも