修は子どもを抱きかかえながら、庭のブランコを押していた。暁はブランコに乗って、揺れるたびにキャッキャと笑っている。修はしゃがみ込んで、暁が近くまで来るたびにぎゅっと抱きしめて、そのほっぺにキスをする。そのたびに暁はもっと大きな声で笑い、修もまた優しく背中を押してブランコを揺らす。父と息子、二人の時間はとても穏やかで幸せそうだった。何度も何度も、暁は修の腕の中に戻ってきた。「ママ!」暁が元気に呼ぶ。修はにこやかに言う。「ママが恋しくなった?今はお仕事だよ。すぐ帰ってくるからね」「修」そのとき、後ろから若子の声が聞こえた。修は振り返って―そこには、若子と千景。二人は手を繋いで立っていた。修の視線はそこで止まる。その手がしっかりと繋がれているのを見て、胸に鋭い痛みが走った。すべてを察した瞬間だった。数秒ほど呆然としたあと、修はぐっと感情を押し殺し、暁をブランコから抱き上げて、二人の前に歩み寄る。繋がれたその手を、じっと見つめていた。若子はまっすぐに言った。「修、少し話がしたい」修の顔はすでに言葉で言い表せないほど固くなっていた。唇が引きつり、何かを必死で抑え込んでいるようだったが、やがて小さくうなずいた。リビング。三人はソファに並んで座る。修は若子と千景の正面に座り、無言のまま時間が流れた。千景は足を組んでソファにもたれ、修を鋭い目で見つめる。修も同じように、決して視線を外さない。部屋には重苦しい空気が漂っていた。その沈黙を、若子がやっと破る。「私、冴島さんと一緒になることにした。彼と結婚したいと思ってる」その言葉を口にしながら、若子はそっと千景の手を握った。まるで雷に打たれたような衝撃が、修の胸を直撃する。手が小さく震え、やがて力を込めて拳を握りしめた。「......彼はもうアメリカに帰るんじゃなかったのか?」「私が追いかけて、連れ戻したの」若子は隠すつもりもなかった。「自分の気持ちに気づいたの。私は冴島さんが好き。もう手放したくなかったから、戻ってきてもらった」「......お前は彼のことを愛してるのか?」修の唇が小刻みに震える。薄々分かってはいたけれど、若子が自分の口で認めるまでは、ほんのわずかな希望にすがっていた。
Baca selengkapnya