智哉は当時のことを思い出しながら、胸の奥から熱い感情が込み上げてきた。佳奈とは幼い頃から婚約していて、その後一度は離れ離れになったものの、運命の歯車はふたりを再び引き寄せた。そして彼は約束通り、佳奈の夫になった。今では、ふたりの間には子どももいる。記憶の扉が開かれるにつれ、智哉のキスも次第に深くなっていった。そんな時、外から結翔の声が聞こえ、彼はゆっくりと佳奈から唇を離した。指先でそっと佳奈の涙ぐんだ目尻をなぞりながら、かすれた声で囁く。「夜、家に帰ったら……思いきり愛してあげるよ」その一言で、すでに赤らんでいた佳奈の頬はさらに真っ赤になった。その時――結翔がドアを開けて入ってきた。その場面を目の当たりにした彼は、思わず智哉をにらみつける。「彼女、妊娠中だぞ? 少しは我慢できないのかよ」智哉は佳奈の肩を抱いたまま、歩きながら言い返す。「夫婦が少しスキンシップ取るくらい、赤ちゃんの情緒発達にもいいって。お前に言っても分からないよな、独身貴族には」結翔はムッとして、思わず蹴りを食らわせる。「うるせぇ!今日はお前の分の飯ねぇからな!」三人はそんなやりとりをしながら、笑い合って階段を下りていった。その時、智哉のスマホが鳴った。征爾からだった。「智哉、やっぱりお前の予想が当たったよ。晴臣は奈津子おばさんが本邸に行くのを反対してるし、彼女のお兄さんまで出てきて止めてきた」智哉の目が鋭く細められる。「お兄さん?奈津子おばさんにそんな身内がいたのか?」「瀬名家の養子らしい。両脚が不自由で、晴臣のことはまるで実の息子みたいに大事にしてる。その人、俺の大学の同級生でもあるんだけど……恋敵だったんだ」智哉の胸がざわついた。脚が不自由って聞くと、啓之のことしか浮かばない。すぐに訊ねた。「今どこにいる?」「帰り道だよ」「あとで写真送る。子どもの頃の啓之の顔を元にAIで復元したやつなんだけど、それと似てるかどうか見てほしい」「もしかして……そのお兄さんが啓之本人かもしれないって思ってるのか?」「奈津子おばさんの周囲にいる人間は、全員疑ってかかってる。顔は多少違っても、骨格までは変えられないから」そう言って、智哉はスマホのアルバムから写真を開き、征爾に送った。まもなく返
Read more