蓮司はのどを鳴らし、声はかすれていた。「……それほど、あいつを好きなのか」大きな苦しみといろんな感情がぐるぐる回って、やがてそれら全部が消えて、ただ苦い気持ちだけが残った。「たとえあいつの性格に問題があっても、たとえお前に近づく動機が不純でも、たとえ最後にお前が傷つくことになっても……」透子の顔は冷たく、何の感情も見せていなかった。最初の質問には答えず、彼女は次の言葉にだけ、選んで返した。「彼の性格に問題があるですって?蓮司、あなたはよくもそんなことが言えるね。あなたの性格は、どれだけ立派なの?結婚生活での精神的虐待、暴力、浮気、愛人を堂々と家に連れ込む……あなたは、間違いなく最低の人よ」透子の言葉は冷静だったけど、一言一言が針のように蓮司の胸に突き刺さり、心臓が縮みあがって、表情は苦しそうにゆがみ、思わず全身から力が抜けた。そうだ、聡はろくでなしだ。でも自分は、聡より百倍も性質の悪い、人でなしだ。「俺はただ……君が騙されたり、傷ついたりしないでほしいだけなんだ……」いつも頂点に立ってきた男が頭を下げ、その姿はみじめそのもので、昔の威勢は全くなく、ただ限りない情けなさが漂っていた。透子は冷たく言った。「私たちは昨日離婚したわ。裁判も終わった。これからは他人同士、私のことに口を出す立場じゃない」その言葉に、周りで見物していた人たちは、驚いた表情を浮かべた。あの偉そうな新井社長が、まさかそんな最低な男だったなんて。それとも、やっぱりお金持ちの結婚は不幸なものなのか、と。透子は本当に大変だったんだな、と。透子はもうはっきりと態度を示していて、これ以上蓮司と関わりたくなかった。蓮司も何も言わず、二人の間の空気は静まりかえった。彼女が手を引こうとしても、相手は離そうとしなかった。大輔が再び前に出て、蓮司の指をはがそうとしたけど、彼は固く握ったまま、ただ目の端を赤くして透子を見つめていた。彼は手を離したくなかった。まるで、一度離してしまえば、もう二度と透子をつかむことはできないとでも言うように。大輔は小声で説得した。「社長、場所を変えませんか?ここは人目につきます。みんながこっちを見てます」蓮司は気にしなかった。この有様だ。妻もいなくなった。今さら人の目など気にしてどうする?好きに見させておけばいい。ネ
Read more