彼女の声は次第に小さくなっていき、ほぼ聞こえなくなるほどだった。安人は唇を真一文字に結んで、静かに彼女を見つめた。心の準備はできていた。でも、いざ彼女が引いてしまうのを見ると、さすがの安人も心を乱された。多分これが、恋に悩むということなのかもしれない。いつもは冷静な彼も、今は思わず声に感情が出るようになった。「桜、もう一つだけ聞くから。顔を上げて、俺のを見て答えろ」桜は一瞬ためらった後、ゆっくりと顔を上げた。視線が合った瞬間、桜は息をのんだ。それは安人と知り合ってから、初めて彼がこんなに真剣な表情をするのを、目にしたから。「な、なんでしょう」彼女の目をまっすぐに見つめながら、安人は低い声が車内に響いた。「もし昨夜、俺が理性を失って、最後までしてしまったら、それでもさっきと同じことを言うつもりだったのか?」桜の瞳が震え、その綺麗な目が大きく見開かれた。彼女のその言葉に衝撃を受けたのと同時に、少し恥じらいているようだった。まつ毛を小刻みに震わせ、口をパクパクさせながら、なかなか言葉が出てこない。無言で見つめ合う二人。先に視線をそらしたのは、桜のほうだった。彼女は目を伏せ、うつむいた。「起きてないことだから、そんなの聞かれても答えられません」それでも安人は、彼女に答えをせがんだ。彼の大きな手がそっと彼女の頬を包み、無理やり顔を上げさせて、自分と視線を合わせさせた。「さあ、言ってみろ。もし俺たちがそうなっていたら、それでもなかったことにするなんて言うつもりか?」そう言われ、桜の胸は、高鳴り、鼓動が速まっていく一方だった。だって彼女は安人とどうこうなるなんて、考えたこともなかった。昨日の夜のことは、全くの予想外だった。安人はこんなにも完璧で、輝いた存在で、自分とは住む世界が違いすぎるから。彼とどうにかなるなんて、そんなおこがましいことは考えられない。彼に相手にされないからじゃなくて、自分があまりに彼に不釣り合いだからだ。「身の程を知りなさい」13歳の時から、桜はずっと周りの大人たちにそう言われ続けてきた。自分は生まれながら、疎まれてきたから。実の父親にすら認めてもらえない存在だから。そして世間からも、いつもスキャンダルを叩かれる存在であるから。こんな自分が、安人に釣り合うはずが
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