「なあ総一、新しくできたカフェ行こうぜ。ケーキがマジでヤバいらしい」放課後、カイが教室のドアを蹴り開ける勢いでそう言った。総一は教科書をしまいながら、胡乱な目を向ける。「お前が甘いもんに興味あるとか珍しいな」「いや俺じゃなくて、女子ウケがヤバいって話。つまり情報収集に最適ってこと」「……言ってることと顔が一致してないぞ、お前」後ろからツインテールがぴょこっとのぞき、リリムが割り込む。「カフェ? 面白そうじゃない。行くわ」「お前が行っても、絶対場違いだと思うけどな……」「は? 誰が場違いよ。この清楚で真面目な女子高生がカフェに行くのに、どこが不自然なの?」「その清楚の定義、地獄と人間界で違いすぎんだろ」――そんなやり取りの末、三人は駅前にオープンしたばかりの白を基調にしたカフェへ入った。中に一歩入った瞬間、総一は違和感を覚える。空気が柔らかく、ほんのり甘い香りが漂っている。客はほとんど女性で、笑顔が絶えない。……そして、その中心。カウンター奥で笑顔を浮かべる金髪の女性がいた。長い睫毛に透き通るような肌、淡い空色の瞳。白いエプロン姿だが、背筋の伸びた立ち姿と清廉な雰囲気は、まるで舞台の上の聖女のようだ。「……やっぱり、あんたか」リリムの目がわずかに細まる。カウンターの女性――セラフィーネは、柔らかく笑ったまま口を開く。「偶然ね、リリム。今日は監査じゃなく、ただの休憩よ」「天界の監査官がカフェでバイト? ふざけてるの?」「いいえ、仕事の合間。甘いものは心を豊かにするの。地獄の子には分からないかもね」「はぁ? 心を豊かにするのは契約と魂でしょ」「だからその価値観が危ないのよ」二人の視線がぶつかる。隣でカイが席に座り、すでにケーキを注文していた。「お前らケンカするなら店の外でやれ。ケーキうまいぞ」表向きは穏やかなカフェの光景。だがテーブルの下――リリムとセラフィーネの間では、目に見えない魔力の波が交わされていた。(……で、わざわざ天界から何の用?)リリムがカップを口に運びながら、無言で魔力信号を送る。(契約暴走の発生率が、地獄管理区で通常の三倍。貴女のテリトリーも含まれているわ)セラフィーネは微笑を崩さず返す。(だから何? 私が契約違反で罰ゲーム中だからって、監視しに来たわけ?)(可能性は否定しないわ。…
Terakhir Diperbarui : 2025-08-09 Baca selengkapnya