All Chapters of 悪魔ちゃんは契約違反で罰ゲーム中!: Chapter 11 - Chapter 20

52 Chapters

天使はカフェで微笑む

「なあ総一、新しくできたカフェ行こうぜ。ケーキがマジでヤバいらしい」放課後、カイが教室のドアを蹴り開ける勢いでそう言った。総一は教科書をしまいながら、胡乱な目を向ける。「お前が甘いもんに興味あるとか珍しいな」「いや俺じゃなくて、女子ウケがヤバいって話。つまり情報収集に最適ってこと」「……言ってることと顔が一致してないぞ、お前」後ろからツインテールがぴょこっとのぞき、リリムが割り込む。「カフェ? 面白そうじゃない。行くわ」「お前が行っても、絶対場違いだと思うけどな……」「は? 誰が場違いよ。この清楚で真面目な女子高生がカフェに行くのに、どこが不自然なの?」「その清楚の定義、地獄と人間界で違いすぎんだろ」――そんなやり取りの末、三人は駅前にオープンしたばかりの白を基調にしたカフェへ入った。中に一歩入った瞬間、総一は違和感を覚える。空気が柔らかく、ほんのり甘い香りが漂っている。客はほとんど女性で、笑顔が絶えない。……そして、その中心。カウンター奥で笑顔を浮かべる金髪の女性がいた。長い睫毛に透き通るような肌、淡い空色の瞳。白いエプロン姿だが、背筋の伸びた立ち姿と清廉な雰囲気は、まるで舞台の上の聖女のようだ。「……やっぱり、あんたか」リリムの目がわずかに細まる。カウンターの女性――セラフィーネは、柔らかく笑ったまま口を開く。「偶然ね、リリム。今日は監査じゃなく、ただの休憩よ」「天界の監査官がカフェでバイト? ふざけてるの?」「いいえ、仕事の合間。甘いものは心を豊かにするの。地獄の子には分からないかもね」「はぁ? 心を豊かにするのは契約と魂でしょ」「だからその価値観が危ないのよ」二人の視線がぶつかる。隣でカイが席に座り、すでにケーキを注文していた。「お前らケンカするなら店の外でやれ。ケーキうまいぞ」表向きは穏やかなカフェの光景。だがテーブルの下――リリムとセラフィーネの間では、目に見えない魔力の波が交わされていた。(……で、わざわざ天界から何の用?)リリムがカップを口に運びながら、無言で魔力信号を送る。(契約暴走の発生率が、地獄管理区で通常の三倍。貴女のテリトリーも含まれているわ)セラフィーネは微笑を崩さず返す。(だから何? 私が契約違反で罰ゲーム中だからって、監視しに来たわけ?)(可能性は否定しないわ。…
last updateLast Updated : 2025-08-09
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監査の前の日常

セラフィーネが去ってから三日。総一は朝のHRが始まる前の教室で、ぼんやりと窓の外を眺めていた。空は青く晴れ渡り、雲がゆっくりと流れている。こんな平和な朝が、どれだけ貴重なものかを、最近になって実感するようになった。「おはよー」後ろから聞こえた声に振り返ると、リリムが教室に入ってきた。今日は珍しく制服のリボンがきちんと結ばれており、スカート丈も規定通り。髪も普通に結んでいて、一見すると「真面目な女子高生」に見えなくもない。「……なんだその格好。どうした?」「何よ、失礼ね。これが本来のわたしよ」「嘘つけ。お前がまともな格好するときは、だいたい何かたくらんでる」「たくらむって何よ! 清楚で真面目な女子高生が、何をたくらむって言うの!」「その『清楚で真面目』を連呼するところが、すでに怪しいんだよ」リリムはぷいっと頬を膨らませながら、隣の席に座った。その動作も、いつもより控えめで上品だった。「……まさか、あの天使の言葉が効いてるのか?」「は? セラフィーネ? あんなやつの言葉なんて、屁とも思わないわよ」「屁って言うな。女子が」「だってムカつくんだもん! 『次は正式に監査する』って、何よあれ! わたしの方が先輩なのに!」あー、やっぱりそれか。総一は苦笑しながら、教科書を取り出した。リリムは機嫌悪そうに頬杖をついている。その様子を見ていると、なんだか「普通の女子高生」みたいで、少し可愛らしく思えた。「……なに見てんのよ」「別に。お前がまともに見えるなって思っただけ」「まともって何よ! わたしはいつでもまともよ!」「はいはい」朝のHRが始まり、担任が出席をとる。いつもの日常。穏やかで、何も起こらない普通の時間。――だが、その平和は昼休みまでしか続かなかった。「総一! 大変だ!」カイが教室に飛び込んできたのは、昼休みのチャイムが鳴って十分後のことだった。手にはスマホを握り、顔は真っ青になっている。「どうした? そんなに慌てて」「これ見ろ! SNSで話題になってる!」カイがスマホの画面を見せる。そこには、昨日の雑居ビルでの「時間停止事件」の動画が投稿されていた。画質は荒く、角度も微妙だが、確かにリリムとセラフィーネが空中で戦う姿が映っている。「うっわ……これ、完全にバレてんじゃん」リリムが画面を覗き込んで顔
last updateLast Updated : 2025-08-09
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悪魔と過ごす休日

土曜日の朝、午前七時。総一は枕元の目覚ましに起こされ、のろのろとベッドから起き上がった。いつもなら学校があるから六時起きだが、今日は休日。もう少し寝ていても良かったのに、なぜか早く目が覚めてしまった。「……ん?」ベッドの隣を見ると、リリムがいない。昨日の夜、いつものように勝手に潜り込んできたはずなのに。リビングに向かうと、キッチンから美味しそうな匂いが漂ってきた。「おはよー」振り向くと、エプロン姿のリリムが鍋を覗き込んでいる。髪は一つに結び、頬にはうっすらと汗が浮かんでいた。「……お前、料理してるのか?」「してるって言うか、挑戦してるって言うか……」リリムの手元を見ると、卵焼きらしきものがフライパンの上で黒く焦げている。「おい、火つけすぎだろ」「え? でもレシピには『中火で』って書いてあるわよ?」「それ強火になってる。というか、煙出てるぞ」慌てて火を止め、フライパンを流しに持っていく。中から出てきたのは、炭のように真っ黒になった卵焼きだった。「……これ、食べられるのか?」「たぶん……食べられる、と思う」リリムは自信なさげに答える。「なんで急に料理なんてしようと思ったんだよ」「だって、今日はわたしたちの初デートでしょ?」「デートって……誰がそんなこと言った」「言ってないけど、そうでしょ? 休日に二人で街を歩くって」「それはただの外出だ」「同じことよ」リリムは得意げに笑う。結局、朝食は近所のコンビニで買ったサンドイッチとコーヒーになった。リリムは「手作りの方が愛情がこもってる」とぶつぶつ文句を言っていたが、総一は命の危険を感じたので強行した。「で、どこに行くつもりなんだ?」「んー、人間界の『定番デートスポット』に行ってみたい」「だからデートじゃないって……」準備を整え、二人で外に出る。リベットにはピンクのワンピースを着たリリムが、総一の腕にしがみついていた。「おい、引っ付くな」「何よ、減るもんじゃないでしょ」「周りの目が気になるんだよ」実際、道行く人々の視線がちらちらと向けられている。リリムの美貌は人間界でも十分に目立つレベルだった。「最初はどこに行く?」「そうね……映画館とか?」「映画館か。何見るんだよ」「恋愛映画!」「却下」「えー、なんでよ」「趣味じゃない」結局、駅前の
last updateLast Updated : 2025-08-10
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料理は愛情、でも下手すぎる

日曜日の朝、総一は爆発音で目を覚ました。「うわああああああ!!!」リビングから聞こえるリリムの悲鳴と、何かが焦げる匂い。慌てて飛び起き、キッチンに向かうと、そこには煙に包まれたリリムの姿があった。「おい! 何やってんだ!」「そ、総一! 大変なの! フライパンが燃えた!」見ると、フライパンから黒煙が立ち昇り、中の卵らしきものは完全に炭化している。総一は慌てて火を止め、窓を開けて煙を外に出した。「何作ろうとしたんだよ……」「オムライス。昨日テレビで見て、簡単そうだったから」「どこが簡単だよ! 初心者がいきなりオムライスなんて無謀すぎる」リビングのソファからヴェルダが顔を出す。「あー、やっぱり失敗しましたね」「知ってたのか?」「五時頃から台所で格闘してましたから。止めようと思ったんですが……」「なんで止めなかったんだよ」「リリム様があまりにも楽しそうだったので」確かに、煙まみれになってもリリムは諦めていない。エプロンは汚れ、髪は乱れているが、目は輝いている。「次は絶対成功させる!」「おい、待て。まずは基本から教える」総一はため息をつきながら、汚れた調理器具を片付け始めた。「基本?」「そう。料理の基本。火加減、調味料の分量、切り方……全部最初から」「うう……難しそう」「大丈夫だ。俺が教える」なぜそんなことを言ったのか、総一自身にもよく分からなかった。ただ、一生懸命な彼女を見ていると放っておけなかった。「本当? ありがとう!」リリムは嬉しそうに手を叩く。まずは簡単な卵焼きから始めることにした。といっても、昨日も失敗しているので、本当に基礎の基礎からだ。「まず、卵を割る。殻が入らないよう注意して」「はーい」リリムが卵を手に取り、ボウルに割り入れる。案の定、殻の破片がいくつか混入した。「あ……」「大丈夫、取れば問題ない」スプーンで殻を取り除き、次は溶く作業。「泡立て器で、こうやって円を描くように」総一が手を添えて教える。リリムの手は意外に小さく、柔らかかった。「できた!」「じゃあ次は火加減。これが一番大事だ」フライパンに油を引き、中火にかける。リリムは真剣な表情で見つめている。「温まったら卵を入れて……」ジューッという音とともに、卵がフライパンに広がる。「わあ、いい音!」「今度は菜
last updateLast Updated : 2025-08-11
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新しい契約者の影

月曜日の朝、総一は妙な胸騒ぎで目を覚ました。空が曇っており、どんよりとした灰色の雲が空を覆っている。なんとなく嫌な予感がしていた。「おはよう、総一」リリムはいつもと変わらない様子で起きてきたが、その表情はどこか緊張していた。「おはよう。どうした? 顔色悪いぞ」「ちょっと気になることがあるの」「気になること?」リリムは窓の外を見つめながら答える。「昨夜から、妙な魔力の波を感じるのよ。それもかなり強い」「契約者か?」「たぶん。でも今までとは質が違う。もっと……深い感じ」総一も窓の外を見る。確かに空気が重く感じられた。「とりあえず学校に行こう。何かあったらその時考える」「そうね」二人は準備を整えて家を出た。通学路の途中で、カイと合流する。彼も何となく浮かない顔をしていた。「よう。なんか今日、変な感じしない?」「お前も感じてるのか」「ああ。なんか空気が重いっていうか……」リリムが振り返る。「カイも魔力波を感じてるの?」「魔力波ってより、なんか『嫌な予感』って感じかな。昔からこういうのは当たるんだよ」学校に着くと、その予感は的中していることが分かった。「おい、聞いたか? 昨日の夜、駅前で変死体が見つかったらしいぞ」クラスメイトの会話が聞こえてくる。「変死体?」「ああ。二十代の男性で、外傷は全くないのに死んでたって」「怖いな……」総一とリリムは顔を見合わせる。明らかに普通の死ではない。昼休み、三人は屋上に集まった。「やっぱり契約関係の事件ね」リリムがスマホで死亡事件の詳細を調べている。「被害者は田中健太、二十四歳。フリーター。目立った
last updateLast Updated : 2025-08-12
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感情を失った少女

放課後の薄暮が街を包み込む頃、四人は山田真理のアパートの前に立っていた。古いアパートの二階。インターホンを押すが、返事はない。「おかしいわね」リリムが魔力を展開して内部を探る。「……いる。でも、反応が弱い」「弱いって?」「生きてはいるけれど、意識がほとんどない状態」総一は迷わずドアノブを回した。鍵は開いていた。部屋の中に入ると、薄暗い中に女子高生が倒れていた。山田真理だろう。「真理ちゃん!」美月が駆け寄る。真理は意識はあるが、うつろな目をしていた。まるで魂が抜けたような状態だ。「これは……」リリムが真理の額に手を当てる。「恐怖を取り除きすぎた結果ね。感情のバランスが崩れて、すべての感情が希薄になってる」「恐怖を取り除く……まさか」総一が振り返ると、部屋の隅に影が立っていた。仮面をつけた男。いつもの黒装束姿。「よく来たな。待っていたぞ」「お前か! また契約を撒き散らして!」「撒き散らす? 違うな。私は彼女の願いを叶えただけだ」男が指を鳴らすと、真理がゆっくりと立ち上がった。その目は虚ろで、表情には一切の感情がない。「恐怖がなくなって、とても楽になりました」真理の声は抑揚がなく、機械的だった。「でも、恐怖と一緒に他の感情も消えてしまった。愛も、怒りも、悲しみも、喜びも……すべて」「そんな……」美月が呟く。「これが君たちの言う『救済』か?」男の仮面の下で、口元が歪む。「感情など、人間を苦しめるだけの無駄なもの。なくなれば楽になる」「違う!」総一が叫ぶ。「感情があるから人間なんだ! それを奪う権利はお前にはない!」「権利? 彼女自身が望んだことだ」「本当にそうなのかよ!」総一は真理に向き直る。「山田さん、本当にこれで良かったのか? 感情がなくて幸せか?」真理は無表情のまま答える。「幸せ……という感情が分からないので、答えられません」その言葉に、美月の目に涙が浮かぶ。「真理ちゃん……」リリムが前に出る。「元に戻す方法はあるの?」男は首を振る。「一度消した感情は戻らない。これが契約の結果だ」「嘘よ! 契約には必ず解除方法があるはず!」「あるかもしれんな。だが、教える義理はない」男が再び指を鳴らすと、真理の体から黒いオーラが立ち昇る。「さあ、次は君たちの番だ。恐怖を感じるがいい」突
last updateLast Updated : 2025-08-13
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仮面の男クロウ

帰り道、リリムが総一の袖を引いた。「ねえ、さっきの力……」「ああ、あの黒い炎のことか?」「あれ、普通の契約魔力じゃない。もっと深い、根源的な力よ」「根源的って?」「人間の持つ『原初の感情』から生まれる力。愛とか、怒りとか、そういう根本的な感情エネルギー」「よく分からないな」「つまり、あんたの中にある『大切な人を守りたい』っていう気持ちが、直接的に力になったのよ」総一は立ち止まる。「大切な人って……」リリムは頬を赤らめながら俯く。「わ、わたしのことじゃないわよ! きっと他に大切な人がいるんでしょ!」「いや、たぶんお前のことだと思うけど」「え?」「だって、お前が消えるって想像したら、すごく怖くなったから」リリムの顔がさらに赤くなる。「そ、そんなこと言わないでよ……恥ずかしい」「事実だから仕方ないだろ」二人のやり取りを見ていたカイが呟く。「お前ら、もう付き合えよ」「付き合うって!」「だってどう見ても恋人同士じゃん」総一とリリムは同時に赤面した。「違うわよ! わたしたちは契約関係で……」「契約関係以上の関係だろ、どう見ても」「そ、そんなことないもん!」リリムは恥ずかしそうに総一の後ろに隠れる。総一も恥ずかしそうに頬を掻く。「まあ……そういう話は後にしよう」「そうね。今は真理ちゃんのことを考えましょう」でも、二人の間には確かに特別な絆があった。それは契約を超えた、もっと深いつながり。家に帰ると、ヴェルダが待っていた。「お帰りなさい。今日の事件、聞きました」「もう知ってるのか」「天界と地獄の情報網は侮れませんからね。感情剥奪型の契約……厄介ですね」「元に戻す方法はないのか?」ヴェルダは少し考える。「理論上は可能です。でも、非常に高度な魔術が必要になります」「どんな?」「『感情復元術』。失った感情を、記憶から再構築する術式です」「それって、リリムにできるのか?」リリムは首を振る。「わたしのレベルじゃ無理。少なくともA級悪魔か、上位天使じゃないと」「上位天使……セラフィーネか?」「彼女なら可能かもしれません」ヴェルダが頷く。「でも、天界の規則上、人間の感情に直接介入するのは禁止されています」「じゃあ、どうすれば……」その時、窓の外から光が差し込んだ。セラフィーネが現れる。「呼ばれた気
last updateLast Updated : 2025-08-14
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感情を取り戻す術式

翌朝、総一は桜井美月に電話をかけた。「もしもし、桜井さん? 昨日の件なんですが……」「はい! 何か分かったことがあるんですか?」「感情を戻す方法があるかもしれません。ただし、あなたの協力が必要になります」電話の向こうで、美月の息を呑む音が聞こえた。「私の……協力?」「はい。詳しくは直接説明したいので、放課後、真理さんのお見舞いがてら病院で会えませんか?」「分かりました! 絶対に行きます!」電話を切ると、リリムが心配そうに見ている。「本当に大丈夫なの? 感情共有術なんて、わたしもやったことないわよ」「でも、他に方法はないだろ」「そうだけど……リスクが大きすぎる」総一は制服のボタンを留めながら答える。「リスクがあっても、やらなきゃいけないことってあるんじゃないか」「……そうね」リリムも制服に着替え始める。「でも絶対に無理はしないで。何かあったら、すぐに術式を中断するから」「分かった」二人で学校に向かう道中、カイが合流してきた。「よう。今日も事件の続きか?」「ああ。お前も手伝ってくれるか?」「もちろん。俺も気になってるしな、あの仮面野郎のこと」学校では、山田真理の件がちょっとした話題になっていた。「原因不明の感情麻痺だって」「怖いよね、急にそんなことになるなんて」「ストレス社会の弊害かな」クラスメイトたちは様々な憶測を語り合っているが、誰も真実を知らない。知っているのは、総一たちだけだった。「やっぱり隠蔽されてるのね」リリムが小声で言う。「当然だろう。本当のことを知ったら、みんなパニックになる」「でも、このままじゃ被害者は増える一方よ」「だからこそ
last updateLast Updated : 2025-08-15
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地獄への召喚状

「彼女は以前、ある人間と契約を結んだ。その人間は、彼女に恋をした」クロウの声が病院の廊下に響く。総一の顔が青ざめる。「そして彼女も、その人間に情を抱いてしまった。それが契約違反だ」「嘘だろ……」「事実だ。彼女は感情に流されて契約を破綻させ、その人間を死なせた」「嘘よ!」リリムが叫ぶ。「わたしは彼を死なせたりしてない!」「では、彼は今どこにいる?」リリムが言葉に詰まる。「答えられないだろう? なぜなら、彼はもういないからだ」「それは……」「君の感情が、彼を破滅に導いたのだ。そして今度は、総一も同じ道を辿る」「させない!」総一が叫ぶ。「俺は絶対にリリムを信じる! 過去に何があろうと関係ない!」クロウは意外そうな顔をする。「真実を知ってもまだ彼女を信じるというのか?」「当たり前だ! 俺にとって大切なのは、今のリリムだ!」リリムの目に涙が浮かぶ。「総一……」「俺は絶対にお前を見捨てない」クロウは首を振る。「愚かな人間め。やがて後悔することになる」「後悔なんてしない!」「それでも君が彼女を信じるなら……」クロウが再び仮面を着ける。「今度は君自身に選択させよう。彼女を取るか、周りの人々を取るか」「何だって?」「やがて分かる。君の『愛』がどれほど重いものか、思い知ることになる」クロウが姿を消す。残された四人の間に、重い沈黙が流れる。リリムは涙を流しながら俯いている。「リリム……」総一がそっと肩に手を置く。「今度、ちゃんと話そう。全部」「でも……」「大丈夫だ。俺は絶対にお前を責めたりしない」リリムは小さく頷いた。「……半分は本当よ」「半分?」「わたしは確かに、以前契約者に感情を抱いたことがある。でも、彼を死なせたわけじゃない」リリムの声が震える。「彼は……自分から契約を破棄したの」「契約を破棄?」総一が眉をひそめる。「そんなことできるのか?」「通常はできない。でも彼は特別だった。人間でありながら、契約の核に直接干渉できる力を持っていた」「それで?」「彼はわたしに言ったの。『君を地獄のシステムに縛られたままにしておくのは間違いだ』って」リリムの目から涙がこぼれる。「そして、契約を破棄して、わたしを自由にしてくれた。でもその代償として……」「代償として?」「彼の記憶と存在が、世
last updateLast Updated : 2025-08-16
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地獄での審問

審問の前日。リリムは一人でベランダに出て、夜空を見上げていた。星が綺麗に輝いている。人間界の星は、地獄から見えるものとは全く違った。温かく、優しく、希望に満ちている。「もうすぐお別れかもしれないのね」小さく呟く。明日の審問で、最悪の場合は存在消去。もう二度と、この星空を見ることはできなくなるかもしれない。「リリム?」後ろから総一の声がした。振り返ると、彼が心配そうな顔でこちらを見ている。「どうして起きてるの?」「眠れなくて。明日のことを考えると……」リリムは再び空を見上げる。「怖いのよ。消されてしまうのが」総一がベランダに出てきて、隣に立つ。「大丈夫だ。俺が絶対に守る」「でも相手は地獄よ? 人間が立ち向かえる相手じゃない」「それでもやる」総一の目に強い意志が宿っている。「お前は俺の大切な人だ。そんな簡単に諦められるか」「大切な人……」リリムの頬が赤くなる。「そんなこと言われると、ドキドキしちゃうじゃない」「事実だから仕方ない」二人は並んで夜空を見つめる。風が優しく吹き、リリムの髪を揺らしていく。翌朝、地獄からの使者が現れた。「リリム=アズ=ナイトメア。地獄最高審問会への出頭命令だ」現れたのは、黒い翼を持つ男性の悪魔。階級章から見て、かなり上位の存在らしい。「分かったわ」リリムが立ち上がる。いつもの制服ではなく、地獄時代の正装を着ている。黒いドレスに金の装飾。威厳がありながらも、どこか寂しげだった。「待てよ」総一が前に出る。「俺も一緒に行く」「人間が地獄に入ることは許可されていない」使者が冷たく答える。「でも契約者なら別だろ?」「契約者? 君とリリムは正式な契約を結んでいない」「じゃあ今結ぶ」総一がリリムに向き直る。「リリム、俺と正式に契約してくれ」「でも……」「お前を一人で行かせるわけにはいかない」リリムは迷った後、小さく頷いた。「分かった。でも、これで総一も危険に巻き込まれることになる」「構わない」総一がリリムの手を取る。「俺の願いは、お前を守ること。それ以外に何もいらない」「総一……」二人が手を繋いだ瞬間、光の輪が現れた。正式な契約の証。使者は驚いたような顔をする。「……契約が成立した。ならば、契約者として同行を許可する」「やったな」カイが手を叩く。「俺たちも行
last updateLast Updated : 2025-08-17
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