「母さんには今、お前たち兄妹しか家族がいないのよ。お前たちに何かあったら、母さんは生きていけないわ」「何を言ってるんだ。これからは孫の面倒だって見てもらわなきゃならないんだから、余計なことは考えるな」その言葉に、琴子はふっと息をのみ、静かに口を開いた。「どうしても素羽と関わり続けるつもりなの?」素羽が外で起こした騒動は、琴子もすでに知っていた。黄瀬家の息子が命を落とした。どちらが先に手を出したにせよ、結果として人が素羽の手によって死んだことに変わりはない。黄瀬家そのものは恐れるに足りない。だが、黄瀬家の傍系に嫁いだ娘の夫だけは警戒すべき相手だった。今、司野が素羽をかくまっているということは、自ら厄介事を抱え込んでいるようなものだ。しかも、それは並大抵では済まないほど大きな火種だった。司野の瞳に、揺るぎない決意が宿る。「母さん。俺の気持ちは、今まで一度だって変わったことはない」素羽は彼の妻だ。これまでも、そしてこれからも。琴子は静かに言った。「今のあなたたちは、釣り合っていないわ」以前からそうだった。だが今は、なおさらだった。素羽は司野に、果てしない災いしかもたらさない。司野は迷うことなく答えた。「俺は釣り合っていると思ってる」それだけ言い残すと、彼はこの話をこれ以上続けることなく車を走らせ、旧邸を後にした。景苑別荘。今やこの場所は、司野だけが自由に出入りでき、ほかの者は誰一人として外へ出ることを許されない状態になっていた。車を降りた司野がふと視線を上げると、バルコニーに座る素羽の姿が目に入った。毎日の傷の手当てがしやすいよう、彼女はゆったりとした脱ぎ着しやすいロングワンピースを着ている。どこにでもあるような何の変哲もない服だったが、司野にはそれがどこか穏やかで、温かな光景に映った。素羽は一人掛けのソファに体を預け、その胸には、森山が丸々と太らせた毛艶のいい「だんご」が気持ちよさそうにうつ伏せになっている。その手つきはどこまでも優しかった。もし二人の子供に何事も起こらなかったなら――彼女はきっと、子供にもこんなふうに惜しみない愛情を注いでいたのだろう。編みかけのセーターが脳裏によみがえり、司野の胸は張り裂けそうなほど痛み、激しい罪悪感が押し寄せた
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