信行の皮肉に、智昭は彼が自分を当てこすっているのだと気づくが、意に介さず、大らかに笑って答える。「分かりました。では、まずはお礼を申し上げます、片桐社長」そう言って、また真琴の方を向いて言い渡す。「辻本さん、君に渡したあの数冊の本だが、もし分からないところがあれば、いつでも私に聞きに来ていい」その態度は、まるでまだ大学にいるかのようだ。「はい、高瀬さん。しっかり読ませていただきます」そう応えながら、真琴は信行の方を向き、彼がまだ智昭と張り合おうとしているのを見て、慌てて割って入る。「フライトの時間が、もうすぐではありませんか。そろそろ、皆さん車に乗りましょう」真琴が言い終えると、由美がさっと歩み寄り、自ら智昭に挨拶する。「高瀬社長、私、峰亜工業の社長を務めております、内海由美と申します。弊社もここ二年、ワイヤレス電力について研究を重ねております。東都市に戻りましたら、一度お話しする機会をいただければと存じます」智昭は差し出された由美の手を握り返さず、代わりにアシスタントを振り返って確認する。「峰亜工業だと?高倉(たかくら)、聞いたことあるか?」若いアシスタントは首を横に振る。「いえ、私も存じ上げません、社長」由美は気まずそうな顔をするが、自分の手を引っ込めた後、すぐに普段通りの落ち着きを取り戻し、笑顔で智昭に名刺を差し出した。「高瀬社長、これが私の名刺です。お戻りになりましたら、弊社のことを少し調べてみてください」「分かった」名刺を受け取ると、智昭はそれをアシスタントに手渡し、高倉がそれをしまう。「片桐社長、辻本さん、それでは私たちは先に失礼しますので、また後ほど」「片桐社長、それでは」その後、互いに挨拶を交わしながら、皆それぞれ車に乗って空港へ向かった。真琴と信行が乗るのはメルセデス・ベンツのビジネスカーだ。二人が後部座席に乗り込み、祐斗が助手席に乗り込むと、信行は全く遠慮することなく口を開く。「さっき俺を引っ張ったのはどういう意味だ。高瀬を庇ったのか?」「そういう意味ではありません」真琴はそう言うと、また穏やかな声で説明する。「高瀬さんは研究者の考え方で、思ったことをすぐ口にするし、世間体を気にしない方なのです。ただ、あなたが彼と事を荒立てる必要はないと思っただけ
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