ニセ夫に捨てられた私、双子と帝都一の富豪に溺愛されています のすべてのチャプター: チャプター 71 - チャプター 80

98 チャプター

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 薫子が取り押さえられる中、屋敷の外が突然ざわつき始めた。「帝都警務局より、邏卒(らそつ)※警察の前身 が参りました!!」 使用人の叫びが、さらに場の空気を引き締める。 一成は険しい表情で言い放った。「薫子の罪は浅野家の子供誘拐したことだ。虚偽の行いも含めて、我が妻に危害も加えようとした。これは重罪だ」「いや……いやぁ……一成……助けて……! わたくしじゃないの! これは……なにかの間違いでっ」 泣き崩れながら手を伸ばしてくる薫子。しかし、一成は迷いなくその手を払いのけた。「間違いなんかあるわけないだろう! 僕の家族を傷つけた姉さんのこと、ぜったい許さない。さっさと罪を認めたらどうだ」  薫子は呆然とその場に崩れ落ち、手錠をかけられた。  玄関にはすでに数十名の邏卒が整列していた。「浅野家のご子息誘拐事件! 容疑者確保を確認!」「桐島京も関係者として連行します」「なっ……!? お、俺は関係ないっ!!」 京は驚きの声を上げるも、完全に抵抗できる状況ではなかった。  一成が鋭い眼差しを向ける。「桐島京にも聞きたいことがたくさんある。薫子を巻き込み、何を企んでいた?」 京は唇を噛み、悔しさを押し殺す。「俺はなにもしていない!!」(くそ……浅野家の権力はやっぱり桁違いだな……だが……まだ終わらない……! 俺はなにもやってないんだ。潔白を証明すれば、逮捕は免れる……!! まずはこの状況を乗り切らないと!)「なにもしていないなら、詳しく話せるだろう。連れて行ってくれ」 騒がしい京も連行された。 巡査たちの騒音や激しい足音に驚いて、咲良と咲真は泣き出してしまった。「大丈夫。もう怖くないわよ」  美桜はそっと体を揺らしながら背中をトントンと叩いた。様子を見ていた一成が、美桜の肩を優しく抱いた。「美桜、お手柄だね。君のおかげでふたりは救われた。それに、姉さんの悪事も暴くことができた。これはもう言い逃れできない」「ありがとう。でも、あの子たちが……私を呼んでくれたのよ……」「そうかもしれないな。だが聞きつけられたのは母である君だけだ。間違いなく美桜が子供たちを救ったんだよ」 美桜は涙の中でかすかに微笑んだ。 巡査に両腕を押さえられながら、薫子は美桜を睨みつけた。「どうして……どうしてあなたばかり……! 私は……私は京様に必要とされ
last update最終更新日 : 2025-12-05
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 そのときだった。屋敷の外から、さらに大勢の足音が迫ってくる。  門のほうがざわつき、厳しい声が響いた。「――浅野子息誘拐事件につき、桐島家屋敷の全面差し押さえを命じる!」「邏卒隊、調査班、配置につけ! 関係者を逃がすな!」 指揮官の声が堂々と響き渡り、桐島家の使用人たちは青ざめる。 一成は美桜を守るようにそっと肩を抱いた。 「帝都が本気で動いてくれた。これはもう、家同士の揉め事では済まない」 咲真を抱く美桜の腕がわずかに震えた。 「そんな……大ごとに……」「僕たちの大切な子を攫ったんだ。当然だよ。ま、僕が本気で怒っているって証拠ともいえる」 さらりと恐ろしいことを言ってのける帝都一の富豪。  なんと頼もしいことだろうか。 巡査たちが屋敷の外壁までずらりと並び、取り囲んでいた。まるで桐島家全体が巨大な罪を犯したような、緊張と怒号の空気に包まれていた。 奥から京が引きずり出されてきた。彼は連行されながらも必死に叫んだ。 「俺は違う!! 誤解だ! 俺は関係ない! 手を出してもいない!! 信じてくれ!!」  だが指揮官は冷淡だった。 「現場にいた以上、尋問は免れぬ。詳しく話を聞かせてもらう」 「くそ……くそっ……!!」  京は悔しげに唇を噛んだ。まずいことになった。家宅捜索みたいなことをされてしまえば、東条家の没落に関わったことが明るみにでてしまう……!!  ここは大人しく従い、誤解を解いて自分だけでも免除されなければ!  西条に連絡を取るように、召使に指示した。 薫子は取り押さえられながら叫び続けた。「離して!! 私は浅野家の娘よ!! どうしてこんな扱いを……京様助けてっ。いやぁああ……!!」 しかし京は内心苛立っていた。それもそのはず。  初恋だから特別な感情を抱いていたが、こんなハズレ女だとは思わなかったのだ。「薫子。これ以上浅野家を汚すな」 一成の声が鋭く刺さる。「……っ! 一成ッ。あんたのせいでしょ! ここまで大事にして! わたくしを解放なさい!! 家庭のもめ事ををこんな大事にしてッ!!」 「なんの反省もしていないんだな」 「京様っ、助けてくださいな。わたくしは……」 「ふざけるなよ薫子! こんなもめ事を起こしやがって……どうするつもりなんだ!!」 面倒ごとに巻き込まれた京はかなりイ
last update最終更新日 : 2025-12-06
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 薫子の顔から、血の気が引いた。あれほど愛してきた男から、あろうことか 「美桜のほうがマシだった」 とまで言われたのだ。 侮辱でもなく、嘲笑でもなく――本音として。 「……ぁ……あ……」  声にならない声が喉で溶ける。 京は苛立ちのあまり、もはや薫子がそこにいることすら邪魔だと言わんばかりに顔をそむけていた。「くそ……なんで俺がこんな女に巻き込まれなきゃいけないんだ。浅野の子なんか攫って……正気の沙汰じゃないだろ」  巡査たちが京を押さえつけ、外へ連れ出す。 薫子は震える手で自分自身を掴んだ。 (わたくしが……このわたくしが……!! どうして……どうして報われないの……!? どうしてこの女が……!!)  その叫びは心の中だけで消え、口からは弱々しい嗚咽しか漏れなかった。 一成は冷めた目で薫子を見下ろした。 「姉さん、最後にひとつだけ言うよ」 「……っ……なに……よ……?」 「君は浅野を名乗る資格を、この瞬間に失った」 「!!」 「浅野家は正義も理も重んじる家だ。身分を偽り、わざと子供を攫い、危険な目に遭わせるような人間は、この家にはふさわしくない。二度と家門を汚さないよう、浅野家の名を名乗るのはやめてくれ。絶縁を言い渡す」 「ちょ……っ……待ちなさい……! わたくしは――」 「もう違う。これからはただの国家反逆級の誘拐犯だ」  薫子の目が、恐怖で大きく見開かれた。 邏卒の指揮官が敬礼し、一成に報告する。 「浅野様。本件は帝都議会にも即刻上奏されます。浅野家の後継者誘拐となれば、国家案件です」「わかった。すべて任せる。薫子は徹底的に取り調べてくれ。彼女に協力した夫役の人間も捕まえてくれ。いずれ見つかるだろう。ネズミ一匹逃すな!」 「はっ!」  巡査たちに引きずられ、薫子は足元の力を失いながら叫び続けた。 「いやぁあああ!! 美桜のせいよ!! 美桜が来てから全部狂ったの!! わたくしの人生も……京様も……全部!!」  しかしその悲鳴は、もう誰の心にも届かない。 美桜は赤子を抱きながら、静かに告げた。 「……薫子さん。あなたが壊したのは、私じゃない。自分自身よ」  薫子の顔が、ぐしゃりと歪んだ。 浅野の威光も、桐島の地位も、京の愛情さえも失った女の絶望。 その姿はあまりにも
last update最終更新日 : 2025-12-07
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 あれから薫子は厳重な警備のもと、連行されていった。もちろん桐島京も事情聴取を取るために。  結果、桐島家は後継者とその夫人が逮捕されるというセンセーショナルな展開となった。  そして翌朝、帝都の主要新聞の朝刊に、太い活字が踊った。『元浅野家令嬢・現桐島薫子夫人、誘拐未遂容疑で逮捕!』『桐島京氏も事情聴取へ 上流階級に波紋』 記者たちは屋敷前に押し寄せ、社交界は静かなざわめきに包まれた。  帝都最大財閥・浅野家の名は大きい。  だが、美桜や赤子に関する情報は一切出ておらず、詳細は伏せられている。一成が手を回したからだ。 あくまで世間に伝わっているのは―― 「浅野家の内々の揉め事で、令嬢が身勝手な行動に走り、誘拐未遂事件を起こして逮捕された」 という程度。 社交界で格好の話題性となった。「まぁ……あの薫子様が?」 「浅野のお家も大変ね」 「桐島家も巻き込まれているとか……?」 上品な紅茶の香りの奥で、ひそひそ声が飛び交う。 しかし噂はそこで止まる。  誰も浅野家の赤子が攫われかけたなどとは知らない。  一成が方々に手を回し、浅野家が徹底的に伏せたからだ。 今回の事件は、薫子の暴走だという形に沈静化させていた。 連日紙面をにぎわせている新聞を見ていた美桜は、咲良と咲真を胸に抱いたまま呟いた。「大事にしすぎたんじゃない?」「いや。姉さんはそれだけのことをしたんだ。絶縁だけじゃすまいないし、これでも足りないくらいだよ」 一成は紅茶を置き、美桜の肩にそっと手を置いた。「でも、これで姉さんは世間から完全に外れる。しばらくは刑罰を受けて、静かにするだろう」「……ごめんなさい、一成くん。あなたのお姉さんなのに」「謝るのは姉さんの方だよ。君は悪くない。守るべきものを必死に守っただけだ。それに血が繋がっていない僕のことを疎んでいるのはあっちの方だよ。だったらこっちも徹底的にやる。それだけのことさ。僕の大切な美桜や子供たちを巻き込んで恐ろしい目に遭わせたんだ。それ相当の報いは受けてもらわなきゃ」 美桜は目を伏せる。その静かな空間を破るように、早瀬が部屋に入ってきた。「旦那様……桐島京ですが、先ほど釈放されました」「そうか。動向を見張っていてくれ」 「承知いたしました」 早瀬がすぐに去っていく。扉が閉まるのを見届けた美桜は心配そう
last update最終更新日 : 2025-12-08
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 主人の仰せのとおりに早瀬は業者に変装し、街にその身を溶け込ませた。 桐島京を乗せた質素な馬車は、西条家の屋敷裏門へ滑り込んだ。 (やはりな) 早瀬は早速一成に知らせを送る。そのまま屋敷の外から内部に入り込めるよう、室伏洋子に手引きを頼んでおいたのだ。  実は洋子が再び西条家に出向き、動向を探ってくれると申し出てくれたのだ。自分なら再び西条家に入り込むことができる、と。  西条家はかなり散財の末、家が借金まみれで傾いているため、給仕係は誰でもよかった。安い賃金なら簡単に雇い入れてもらうことができたため、現在洋子が入り込み、浅野家に内通している。 「こっちよ」 「よし、案内してくれ」  早瀬も給仕の服に着替え、ふたりで京の動きを見た。ちょうど桐島京が周囲を見回しながら、帽子を深くかぶり、その姿とわからないようにして屋敷の中へと入っていく。洋子と早瀬は頷き合い、応接室の隣の部屋に滑り込んだ。壁にぴたりと体を付け、聞き耳を立てる。低くよく通る声だから壁越しに彼の声が伝わってきた。「……遅かったな」 威圧的な声で迎えたのは、西条家当主・西条鷹臣(さいじょうやすおみ)。かつて美桜の父と兄弟で、美桜の叔父に当たる人物だ。悪がしこそうな顔をしている。  温厚そうな笑みを浮かべているが、その瞳は氷のようだった。「出てくるのに手間取ったんだ」「お前を釈放するのにいくら使ったと思っているんだ。時間くらい守ってもらわないと」「面目ない」  早瀬たちは頷き合った。順調に声が聞こえる。「それより、もう薫子夫人は助からんな。さっさと離縁した方がいいんじゃないか」「とんだハズレ女を掴んでしまった。初恋だと思っていたのにな」「それは夫人が金を持っているから好きになったんだろう。女なんか胸があって子供が産めたらなんでもいいんだよ。金もあったら尚よしだ」 とんだ発言を繰り広げる康臣に怒りが沸いた。洋子はこぶしを固く握って怒りを堪えた。「まあ、あんたにはまだ巻き返しの道がある。だから金を投じたんだ」「巻き返し……?」「東条美桜を殺せ」 京はぎくりと肩を動かした。「い、いや俺は……」「なに、女をひとり殺るだけだ。今さら東条家を没落させた証拠を持ちだされても困るだろう? 俺たちはも
last update最終更新日 : 2025-12-09
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(……クソ……! どうしてこうなった……!) 京は額にじわりと汗を滲ませた。  薫子を見捨ててでも自分だけ助かるつもりだった。  だが西条康臣は、そんな京の浅ましい計算などお見通しだと言わんばかりに追い詰めてくる。「西城さん、さすがに人殺しなんて……」「よく考えてみたまえ。東条の娘が生きている以上、我々は永久に縛られる。お前の父が東条家に仕掛けた工作……忘れてはいまいな? アレが表沙汰になったらどうするのだ。昔のことを嗅ぎまわる連中は潰しておくに限るだろう? 今がその時なんだよ」「……っ」京は唇を噛んで瞳を伏せた。反論はできなかった。「わかるなら話が早い。美桜を始末しろ。今度こそ東条家の血を絶つんだ。あの子供――浅野の跡継ぎは、もともと君の子供なんだから、取り返す名目で引き取ればいい」 京の喉がひゅっと鳴った。「……いや、できない……。もう事件に巻き込まれたくないんだ。俺は……普通に生きたい……」 弱々しいその声に、康臣は鼻で笑った。「普通? お前にそんな未来が残っていると思っているのか?」  断った途端、彼の態度が急変した。威圧的な喋り方に一層拍車がかかった。かなり苛立っている証拠だ。なんとしても京に実行してもらわねば、康臣も終わる。 彼は机の引き出しを開け、一通の書状を取り出し、京の前に投げた。「東条家没落の本当の証拠が、浅野側に渡りかけている。あと一手遅ければ、お前の父も、桐島家そのものも終わるんだよ。薫子夫人どころの騒ぎじゃない」「証拠が浅野に……」 いよいよまずいところまできているようだ。冷汗が流れる。「そうだ。東条家を破滅させた仕掛け人の存在――その証が浅野家へ渡れば、帝都どころか国を追われるぞ。わかるな?」 京の顔色が泥のように濁った。(父が東条家没落に加担していた証拠……。もしそんなものが浅野に渡ったら、俺はどうなってしまうんだ……) 震える両手が膝の上で握り込まれる。「……わかった……。やるよ」 その言葉に康臣はゆっくりと笑みを深めた。「そうこなくてはな。薫子夫人の件も、いずれ手を回して軽くしてやれる。……お前が使える駒であるうちはな」 低く、冷酷な声だった。 それを隣の部屋で聞いていた早瀬と洋子が頷き合った。密やかにやり取りを交わす。(東条家没落の証拠……やはり西条家と桐島家が関わっていたのね)
last update最終更新日 : 2025-12-10
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 二人は裏門から抜け出すと、闇に溶けるように人通りの少ない路地を駆け抜けた。風が肌を刺すほど冷たい。だが胸の奥は燃え上がるように熱かった。(急がなくては……!!) 早瀬も、洋子も、全身で感じていた。 美桜に危険が迫っている。時間がない。一刻も早く知らせなければ。 足音を響かせながら、浅野邸の門へ飛び込む。 「旦那様! 旦那様ッ!!」  早瀬の声が屋敷中に響き、書斎から一成が勢いよく出てきた。「どうした。そんな慌てて……」 そこへ、息を切らしながら洋子が深く頭を下げ、矢継に語った。「旦那様……! 美桜様の……命が危険です! 西条康臣が――美桜様を殺すよう、桐島京に命じておりました……!! それをたった今、私と彼で聞いたのですッ!!」 一瞬で一成の瞳の色が変わった。「なんだと!」 低く、震えるような声。その目は怒りで燃えていた。「さらに、東条家を没落させた証拠が手に入るやもしれません。やはり彼ら西条、桐島家が深く関わっていたようです」「西条家と桐島家が――東条家の破滅を仕組んでいた、と……思った通りだな」「はい。彼らが会話している所を聞きました」 早瀬が詳細に一成に語った。それを聞き終えた彼は、拳を強く握りしめた。「ようやく尻尾を出したな」 その声は静かだが、相当な怒りが含まれていた。美桜を傷つけ、長きに渡って虐げてきた彼らを、絶対に許すわけにはいかない。「早瀬、洋子。命を懸けてよくやってくれた」「旦那様、これからどうなさるおつもりですか? 美桜様を……」「大丈夫だ。僕が必ず守る。今度こそ、美桜を手放さない!」 決意に満ちた彼の顔は頼もしく、どんな敵が来たとて跳ね返してくれそうなほどだった。  彼は早瀬を使って屋敷の警備に当たっている者、屋敷に従事している者、全てを呼び立てた。「みんな、よく聞いてくれ。美桜と子供たちの命が狙われている。早瀬や洋子たちがそのことを突き止めてくれた」 高らかに宣言し、情報共有を行った。「いいk、美桜や子供たちには、何人たりとも近づけないでくれ。特に桐島京、西条の者を見つけ次第、即刻拘束して構わない。僕が全責任を取る。拘束するにあたっては、どんな手を使っても構わない。うまく捕えてくれたなら、褒美を取らせよう」 早速屋敷中の使用人や警護隊が一斉に動き出す。 その速度と迫力は、浅野一
last update最終更新日 : 2025-12-11
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 一成は深呼吸をしてから部屋に入った。  美桜は双子の寝顔を見つめていたが、夫の気配に気づくと優しく微笑んだ。「一成くんどうしたの? 少し顔色が悪いみたいだけれど……」 一成は少し躊躇った。  だが隠すべきではない。美桜の身に直接関わるのだから、きちんと伝えておこうと思った。「美桜、落ち着いて聞いてほしい。さっき、早瀬たちが西条家に潜入して、重要な事実を掴んだ」 美桜は瞬きをし、一成に向き直った。「重要な事実……?」「西条康臣と桐島京が結託して、東条家を滅ぼしたというような内容を仄めかしていたそうだ。それが理由で、君の命を狙っている。君だけじゃない。子供たちを攫おうとしている」 美桜の指が、布団の端をぎゅっとつまんだ。「私を殺しに……? それに、子供たちまで……」「早瀬や洋子が直に聞いた。間違いない。ただ、今は落ち着いていい。まだ計画段階だ。すぐに襲ってくるという状況ではない」 一成はあくまで冷静に、ゆっくりと語った。  急かすような調子ではなく、美桜が状況を理解できるように努めた。「まずは、守りを固めよう。美桜、これからは外出は控えて欲しい。屋敷には私兵を増やし、夜間の見回りも強化する。美桜が不安にならないよう、僕も当面は屋敷に滞在する」 美桜は胸に手を当て、小さく息を吸った。  恐れはある――だが一成の言葉が、その恐怖を少し和らげてくれる。「ありがとう、一成くん。……でも、迷惑じゃない? 私のせいで、あなたに重荷を背負わせてしまっているんじゃないかって……」「迷惑?」 一成はやわらかく笑った。「夫婦なんだよ。支え合うのは当然だろう。君と咲良、咲真のことは、僕が必ず守る。それに、君たちになにかあったらそっちの方が仕事どころじゃなくなるから」「確かに。それもそうね」 最近美桜は夫を信頼し、甘えたり頼っても良いのだと少しずつ思えるようになってきた。  この調子でもっと頼って欲しいと一成は思った。 しばらくして、早瀬が控えめに扉をノックした。「旦那様、準備が整いました。屋敷の周囲に見張りを追加し、正門と裏門も二重警備にしました」「ありがとう。今後は特に注意してくれ」「承知いたしました」 早瀬が退室すると、一成は窓の障子を少し開いた。  外は深い夜。月明かりが庭を白く照らしている。美桜もそっと並んで外を覗いた。「いつ
last update最終更新日 : 2025-12-12
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