**** 改装工事前のホールは、ドアに囲まれているという特殊な造りのせいか、多少の窮屈さを感じさせていた。 そこで、壁の一部を取り壊し、残ったドアをすべてシャレたものに替えた。今は透明なシートで覆われているが、塗り替えた白い壁と天井に囲まれてずいぶん明るくなり、開放感を演出している。 すでに電気工事は終えているので、いい照明を見つけて取り付けてもらえば、さらに雰囲気はよくなるだろう。まだ工事途中のため合板で覆われている床も、タイルを敷き詰めることになっていた。 クリニックらしい内装に関しては、和彦はほとんど意見を出していない。誰の中にもクリニックとはこんなイメージ、というものが出来上がっており、それを再現してもらえばいいのだ。 だが、インテリアとなると、これが難しい。人任せにしてしまえば楽なのだが、一応、ここは和彦のクリニックなのだ。医療機器や備品以外のものに関しても、自分で選ぶべきだろう。 ただし、やはりアドバイザーは必要だ。「――もうかなり進んでますね、リフォームは」 そう声をかけられると同時に、柔らかな香りが和彦の鼻先を掠めた。振り返ると、秦が感じのいい笑みを浮かべて立っていた。 やはり自分の外見をよく把握している男だなと、秦と向き合って改めて和彦はそう感じる。 軽やかな印象のグレーのストライプのジャケットを羽織り、その下は生成りのシャツにノーネクタイで、ボタンを二つほど外してラフな感じにしている。脆弱という言葉とは無縁そうな体を細身のスーツで包んでいるためか、恵まれた体躯が際立って見える。「わざわざ来ていただいて、ありがとうございます」 頭を下げて礼を言った和彦だが、すぐに視線を廊下のほうに向ける。どうやらここに来たのは、秦だけのようだ。 和彦が何を考えたのかわかったらしく、秦はわざわざ携帯電話を取り出し、メールを見せてくれた。「中嶋なら、急に総和会の仕事が入ったといって、約束はキャンセルになりました。あとで本人から連絡がくると思いますけど、先生に謝っておいてほしいと言付かりましたよ」 メールは、中嶋から秦に宛てたもので、親
Terakhir Diperbarui : 2025-11-18 Baca selengkapnya