**** 別に、やましいことはしていないのだ。 誰に対してなのか、和彦は心の中で言い訳する。やましいことはしていないはずなのに、どうしてこう、悪いことをしているような妙な罪悪感を覚えるのか――。 ガラス張りのショールームをぐるりと見回した和彦は、落ち着かない気分で髪を掻き上げる。自意識過剰のつもりはないが、この店に着いたときから、誰かに見られているような気がして仕方ない。 原因はわかっている。和彦についている、長嶺組の護衛のせいだ。「――佐伯先生、どうかしましたか?」 秦に声をかけられ、和彦はハッとする。今日は、護衛だけでなく、秦も一緒なのだ。むしろ同行者としては、秦がメインだ。「いえ……。クリニックのインテリアを見にきたのに、つい、自分の部屋に置けるものを探してしまって……」 苦し紛れではなく、本音も入っている和彦の言葉に、秦は柔らかな微笑を浮かべる。「だったら、ここにお連れした甲斐はあったということですね」「十分。オシャレなのに値段も手ごろで、おかげで買うのに臆しなくて済みます」 家具店というより、インテリアに関するものをトータルで置いてあるインテリアショップと呼ぶほうが相応しいこの店は、秦が気に入ってよく通っているのだという。和彦も、外からよく見えるショールームを覗いたときから、買い物好きの血が騒いでいた。 お気に入りの店に案内するという約束を、忘れず実行してくれた秦に感謝すべきだろう。おかげで、クリニックの待合室だけでなく、賢吾の趣味で統一されている和彦の自宅も、多少は模様替えができそうだ。 それを思えば、護衛つきの外出であることも、我慢できるというものだ。 秦に促されてソファーのコーナーに移動しようとして、和彦はもう一度辺りを見回す。 見られている感じはするのに、肝心の護衛たちの姿が見えないのだ。こんなオシャレな場所では、スーツ姿の自分たちがうろついていては目立ってしまうだろうから、車で待機していると言っていたが――。 ああは言っていたが、やはり物陰から見
最終更新日 : 2025-11-22 続きを読む