**** ウェイトマシンのコーナーに中嶋の姿を見つけた和彦は、さっそく歩み寄る。約束しているというほどではないが、互いに次の予定を聞いて、スポーツジムに通う曜日や時間帯を合わせるようになっていた。 そうやって顔を合わせては、情報交換を行っている――というわけではなく、まだ和彦のほうが、中嶋から一方的にあれこれと教えてもらうことが多い。 汗だくになってバーベルを持ち上げていた中嶋が、和彦に気づくなり、危うくバーベルを落としかける。照れ笑いを浮かべて無事にバーベルを置くと、汗を拭きながら和彦の側にやってきた。「みっともないところを見られました」「大げさだな」 笑みをこぼした和彦は、中嶋に促されるままレッグマシンに腰掛ける。 さっそくマシンを動かし始めると、中嶋に言われた。「先週はすみませんでした。約束していたのに、仕事が抜けられなくて」「もういいよ。気にしてないし、君が忙しいのはわかっているから。それに、秦さんが来てくれた」「ああ、あとで一緒にメシを食ったんですけど、さんざん言われましたよ。お前なんていなくても、なんの問題もなかったって。あの人、先生の前ではものすごい紳士でしょうけど、基本的に意地悪ですからね。俺はいつもイジメられてますよ」 そう言う中嶋の口調に陰湿なものはなく、当然、冗談として話しているのだ。和彦は慎重に両足でマシンを押し上げながら、実は内心で緊張していた。 先週、待合室のインテリアについて秦に相談したとき、千尋との甘ったるいやり取りを聞かれてしまった。中嶋の言う『紳士』だからこそ、あの場ではなんでもないよう装ってくれたのだろうが、抵抗がないはずがない。「……秦さんと会ったとき、何か言ってなかったか?」 和彦の控えめな問いかけに、中嶋は不思議そうな顔をする。「何か、ですか?」「いや、ちょっと現場でバタバタしたから、秦さんに不愉快な思いをさせたかもしれないと思って……」 そんなことかといった様子で、ちらりと笑った中嶋は首を横に振った。
最終更新日 : 2025-11-20 続きを読む