若い頃も、結婚してからも、彼の心に自分はいなかった…… そんな彼が、どうして助けに来るだろうか? 音は両手をきつく握りしめ、爪が手のひらに食い込むのも構わず、意識を保とうと必死に耐えていた。 このまま眠ってしまったら、二度と目を覚ませない気がして怖かった。 朦朧とする意識の中、ドアの外から足音が聞こえた。 だが、もう期待はしなかった。 助けを呼ぶ気力もない。どうせ、通り過ぎていくだけだ。 しかし、今回は違った。 ドアの隙間から、光が差し込んできたのだ。 音は目を瞬かせた。錯覚だろうか。 「音!」 宗也の声が聞こえた。 やはり、錯覚なのだろうか? 彼女は悲しげに目を閉じた。 だが、宗也の声は何度も、どんどん近づいてくる。 次の瞬間、馴染みのある腕に抱きしめられた。 温かい胸。温かい手のひら。それが、そっと彼女の頬を撫でていた。 「音、大丈夫か?」 宗也は腕の中で氷のように冷え切り、息も絶え絶えの彼女を見つめた。血走った目に、痛切な思いが滲んでいた。 彼は素早くコートを脱いで彼女を包み込み、しっかりと抱き上げた。 音はゆっくりと目を開けた。 焦りに駆られた宗也の顔が、そこにあった。 夢か幻のようだった。 彼女は虚ろな瞳で彼を見つめ、か細く呟いた。 「宗也……寒い……」 宗也に嫁いで三年。 これほどまでにすがりつくような、彼を切実に必要とする声色で呼ばれたのは初めてだった。 夢の中でしか、そんな風に彼を頼るなど、なかったから。 宗也はその一言で、心が溶けていくのを感じた。 「音、怖がるな。俺が連れて帰る」 音は微笑んだ。 たとえ夢だとしても、なんて素敵な夢だろう。 この苦しみの後の、唯一の慰めだ。 彼女は力なく顔を宗也の胸に擦り寄せ、彼の体温に包まれながら、安心して眠りに落ちた。 「音、音……」 宗也は気を失った彼女を見下ろした。 急いで抱き上げ、洗面所の出口へと向かう。 真琳の横を通り過ぎる時、彼は足を止め、冷酷な視線を彼女に落とした。 真琳はとうに腰を抜かしていた。 ここへ引きずられてくる途中、亮からはっきりと告げられたのだ。お前が陥れたあの耳の聞こえない子は、噂の藤堂家の嫁だと。 宗也を怒らせた。 人生は
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