Semua Bab やり直せますか?冷戦3年越しの愛に謝罪: Bab 351 - Bab 360

433 Bab

第351話

若い頃も、結婚してからも、彼の心に自分はいなかった…… そんな彼が、どうして助けに来るだろうか? 音は両手をきつく握りしめ、爪が手のひらに食い込むのも構わず、意識を保とうと必死に耐えていた。 このまま眠ってしまったら、二度と目を覚ませない気がして怖かった。 朦朧とする意識の中、ドアの外から足音が聞こえた。 だが、もう期待はしなかった。 助けを呼ぶ気力もない。どうせ、通り過ぎていくだけだ。 しかし、今回は違った。 ドアの隙間から、光が差し込んできたのだ。 音は目を瞬かせた。錯覚だろうか。 「音!」 宗也の声が聞こえた。 やはり、錯覚なのだろうか? 彼女は悲しげに目を閉じた。 だが、宗也の声は何度も、どんどん近づいてくる。 次の瞬間、馴染みのある腕に抱きしめられた。 温かい胸。温かい手のひら。それが、そっと彼女の頬を撫でていた。 「音、大丈夫か?」 宗也は腕の中で氷のように冷え切り、息も絶え絶えの彼女を見つめた。血走った目に、痛切な思いが滲んでいた。 彼は素早くコートを脱いで彼女を包み込み、しっかりと抱き上げた。 音はゆっくりと目を開けた。 焦りに駆られた宗也の顔が、そこにあった。 夢か幻のようだった。 彼女は虚ろな瞳で彼を見つめ、か細く呟いた。 「宗也……寒い……」 宗也に嫁いで三年。 これほどまでにすがりつくような、彼を切実に必要とする声色で呼ばれたのは初めてだった。 夢の中でしか、そんな風に彼を頼るなど、なかったから。 宗也はその一言で、心が溶けていくのを感じた。 「音、怖がるな。俺が連れて帰る」 音は微笑んだ。 たとえ夢だとしても、なんて素敵な夢だろう。 この苦しみの後の、唯一の慰めだ。 彼女は力なく顔を宗也の胸に擦り寄せ、彼の体温に包まれながら、安心して眠りに落ちた。 「音、音……」 宗也は気を失った彼女を見下ろした。 急いで抱き上げ、洗面所の出口へと向かう。 真琳の横を通り過ぎる時、彼は足を止め、冷酷な視線を彼女に落とした。 真琳はとうに腰を抜かしていた。 ここへ引きずられてくる途中、亮からはっきりと告げられたのだ。お前が陥れたあの耳の聞こえない子は、噂の藤堂家の嫁だと。 宗也を怒らせた。 人生は
Baca selengkapnya

第352話

「一日だけ猶予をやる。お前を利用した黒幕を死なせろ。できなければ、お前が代わりに死ぬことになる」 宗也は冷酷にそう言い捨て、音を抱いたまま大股でその場を去った。 真琳は呆然とした。 亮が彼女の前を通り過ぎる時、一言だけ告げた。 「うちの社長なら、本当にやるよ」 「私……」 真琳は慌てて飛びつき、亮の足にしがみついた。 「篠原さん、助けてください!本当に私が悪かったんです」 亮はすぐに振り払った。 「私を買い被らないでください。社長から見れば、私の命など奥様の髪の毛一本の価値にも及びませんから」 「奥様……」 真琳は低く呟き、涙を流しながら笑った。 もう後戻りはできないのだと、悟っていた…… …… 音は氷室から這い出たかと思えば、今度は燃え盛る炎の中に放り込まれたような感覚に襲われ、全身が焼けつくように熱くて苦しかった。 苦しさのあまり、服のボタンを引っ張る。 誰かが彼女の手を掴み、代わりに服の胸元を緩めてくれた。 ようやく少し涼しくなった。 だがすぐに、骨まで凍るような寒さが全身を襲う。 暗くて、冷たくて、怖くて、苦しい。 彼女は苦しげに呟いた。「出して……ここから出して……」 「音、もう外だぞ」 宗也の声だった。 音は聞き間違いかと思った。 彼がこれほど優しかったことなど、今まであっただろうか? 状況を確かめようと、彼女は重い瞼をこじ開けた。ぼんやりとした視界に、至近距離から優しく自分を見つめる宗也の顔が映る。 本当に彼なの? 「目が覚めたか?」 宗也は彼女の額に触れた。「少しは楽になったか?」 音はまだ、完全には覚醒していなかった。 彼女は額に置かれた彼の手を掴み、そっと胸に抱き寄せて、再び目を閉じた。 彼がそばにいてくれる。 ようやく、怖くなくなった。 そしてようやく、深く眠ることができた。 音が再び目を覚ましたのは、二日後のことだった。 ひどい冷えから高熱を出し、ずっと意識が朦朧としていたのだ。 だが、苦しくはなかった。 うとうとしながら目を開けるたびに、宗也が病床の傍らで見守っていてくれたからだ。 それは、これまで感じたことのない安心感だった。 午後の日差しが少し眩しい。 完全に目を覚ました
Baca selengkapnya

第353話

「ねえ、あんたまたあいつの甘い言葉に絆されたんじゃないでしょうね?」 彩羽は指で彼女の額を小突いた。 「違うわよ。ただ、夢で彼を見たから……」 「夢にまで出てきたっていうの?」 彩羽はわざとらしく不機嫌そうな声を上げた。「音、私が今まで言ってきたこと、全部右から左へ聞き流してたわけ?夢にまであのクズ男が出てくるなんて!」 音はどう説明していいか分からなくなった。 本当は、この数日間宗也がずっと病床の傍らにいてくれたのが、夢だったのか現実だったのか、それが知りたかっただけなのだ。 だが、彩羽はわざと教えようとしなかった。 音はお人好しで、優しすぎる。それに、幼い頃から宗也のことを想い続けてきたのだ。 そんな性格では、恋愛で痛い目を見るに決まっている。 彩羽は彼女にこれ以上傷ついてほしくなかった。 「分かったわ、私が悪かった。目が覚めてすぐにあんなこと聞くべきじゃなかったわね。じゃあ改めて聞くけど、今回の出張、成果はあった?」 「当然よ」 彩羽はピースサインを作った。「あんたのコンテストっていうあんな大事な日に欠席したんだから、成果の一つもなきゃ、あんたにも私の良心にも申し訳が立たないわよ」 「ってことは、大きな契約を取ってきたの?」 「そうよ」 「よかったわね、おめでとう」 「おめでとうはこっちのセリフよ」 彩羽は興奮気味に言った。「音、知らないでしょうけど、ここ数日うちのスタジオ、大繁盛なのよ。みんなあんたに服をオーダーしたくて殺到してるんだから。私、言ってやったの。これからはうちの大物デザイナー、音のオーダーメイドは高くつくわよって。もちろん、既製品の量産もするけどね」 「気をつけなさいよ。賞を取った途端に天狗になってるって叩かれるわよ」 「調子に乗ってるんじゃなくて、実力よ」 彩羽はポンと手を叩いた。「これからはあんた自身のブランドを持って、自分の会社を立ち上げて、提携工場も持つことになるのよ。そうすれば、宗也だっておいそれとあんたをいじめられなくなるわ」 「はいはい、夢を見るのはいいことだけど、たかが一つの賞で、そんな大それたこと考えられないわよ」 「そうね、謙虚にいかないとね」 彩羽は笑って同意した。 音は目が覚めたばかりで、処理しなければ
Baca selengkapnya

第354話

「中島さん、まさか本当に食べたの?」「食べざるを得なかったのよ。聞いた話だと、食べた後、床に転がって丸一日吐き続けて、精神状態までおかしくなったらしいわ」「駄目、私も吐きそう」音は急いでベッドから降り、洗面所へと駆け出した。長く寝込んでいたせいか、両足から力が抜け、体がふらついて床へと倒れ込みそうになる。次の瞬間、彼女は男の力強い腕に抱き留められた。馴染みのある香りが、微かな外の冷気を纏って、彼女の鼻腔をくすぐる。愕然として顔を上げると、そこには宗也の端正な顔があった。「目が覚めたばかりで、そんなに急いでどうした?」宗也は両手で彼女の細い体を抱きしめ、眉を微かにひそめた。「洗面所か?連れて行ってやろう」「違うの……ちょっと吐き気がして」「どうした?胃の調子が悪いのか?」「そうじゃなくて……」音は彼を見上げた。「……本当に中島さんに、あれを食べる動画を配信させたの?」宗也は至極真面目な顔で頷いた。「ああ。賭けには従うべきだからな」「……」音は心の中で呆れて白目を剥いた。「じゃあ、もし私が負けてたら、私も食べなきゃいけなかったの?」「お前は負けを認める必要はない」「どうして?」「俺がいるからだ」宗也は浅く笑った。「俺の妻でいる限り、お前は好き勝手にしていいんだぞ」「はっ!」彩羽は聞いていられなくなった。「宗也、少しは恥を知りなさいよ。音が死にかけたのは、そもそもあんたのせいでしょ。あんたの妻でいる限り、好き勝手どころか野垂れ死にさせられるのがオチよ」宗也は病室の中を見て、眉をひそめた。「お前、まだ帰ってなかったのか」「親友のそばにいて何が悪いの?邪魔だとでも?」つい先ほどまで、次に宗也に会ったら少しは丁寧な態度をとろうと自分に言い聞かせていた彩羽だったが、このクズ男の顔を見た途端、そんな気はどこかへ吹き飛んでしまった。その上、あんな人でなしみたいなセリフを聞かされては。音が何度も彼に丸め込まれてしまうのも無理はないと理解できた。「どう思う?」宗也の大きな手は優しく音の腰を支えていたが、彩羽に向ける視線には嫌悪が滲んでいた。「葉山さん、音はもう目が覚めた。青浜へ帰っていいぞ」「私が帰ったら、あんたが音をいじめるかもしれないじゃ
Baca selengkapnya

第355話

「俺がこいつに遠慮していたら、遅かれ早かれ妻を奪われてしまう」 「……」 音は彼の言葉に、怒りが半分ほど引いた。 彼女の口調も和らいでいく。「そんな言い方しないでよ。彩羽も私のことを思ってくれてるんだから」 「本当にお前のことを思っているなら、今は空気を読んでさっさと帰るべきだろう」 「帰るわよ」 彩羽は元々わざと宗也を刺激していただけなので、潮時と見て、すぐに引き下がった。 「音、ゆっくり休んでね。また日を改めて来るから」 「彩羽、気にしないでね。藤堂さんはいつもああなんだから」 音は彼女が気を悪くしないかと心配で、その手を握った。 「どうせ私の夫じゃないんだから、気になんかしないわよ」 彩羽は彼女の肩を軽く叩き返し、くるりと背を向けて病室を出て行った。 彩羽が帰った後。 音は指で宗也の腰をツンと突いた。「全然男らしくないじゃない、どうしていつも彩羽に突っかかるのよ?」 彩羽が帰ると、宗也は確かに、空気が澄んだように感じた。 彼が彩羽を嫌うのは、口が悪いからでも、いつも音の味方をするからでもなく……彼女が常に音を独占しているからだ。 青浜にいた時から、音が彩羽と過ごす時間は、彼と一緒にいる時間より長かった。 京ヶ丘市に来ても、彩羽は追いかけてきて、病床の傍らを丸一日も陣取っていたのだ。 とっくに叩き出してやりたかった。 音は、不機嫌そうに曇った宗也の端正な顔を見つめた。 「あいつがいつも邪魔ばかりするからだ」 宗也は身をかがめて音をひょいと抱き上げ、病床の方へと歩き出した。 「医者がもっと休めと言っていた。ベッドに戻って横になっていろ」 体が不意に宙に浮き、音は慌てて両手を伸ばして宗也の首にしがみついた。 「なぜ……」 彼女は何か言いかけて、口をつぐんだ。 宗也は彼女を見下ろした。「どうした?」 「ううん、何でもない」 音はただ、彼に優しくされることに慣れていないだけだった。 口にしなくても、宗也には分かっていた。 彼は彼女をそっとベッドに寝かせ、長身を屈めて額にキスを落とした。 「音、すまなかった。お前を守りきれなかった」 彩羽の言う通りだ。 今回、音がこれほどひどい目に遭ったのは、すべて宗也のせいなのだ。 清華は彼
Baca selengkapnya

第356話

音は自分の手をサッと引き抜いた。 「何ですって?」 宗也は彼女の急変した表情を見て、少し後ろめたさを感じた。 「怒らないって約束だっただろう?」 「どうして教えてくれなかったの?私が馬鹿みたいにいじめられるのを、ただ黙って見てたってわけ?」 音が怒らないわけがなかった。 自分の何がそんなに憎まれるのか、なぜ真琳たちがあそこまで執拗に自分を陥れようとするのか、ずっと腑に落ちなかったのだ。 まさか、黒幕がいたなんて。 しかも、その黒幕は自分をよほど憎んでいるらしい。 死に追いやろうとするほどに…… 「すまない、音。俺が京ヶ丘に来る前から、あいつは俺に付きまとっていたんだ。言わなかったのは、お前に誤解されたくなかったし、余計な心配をかけたくなかったからだ。 まさか神崎があそこまで狂っているとは思わなかった。自分の将来も名声も顧みず、お前を陥れようとするなんて」 音の表情が少しも和らがないのを見て。 宗也は彼女を優しく腕の中に抱き寄せた。 「もう怒るな。これからは雌の蚊一匹近寄ってきても、全部お前に報告するから」 「必要ないわ!」 音は力を込めて彼を突き飛ばした。 彼が一日にどれだけの女に追いかけられているかなど、そんな色恋沙汰を毎日聞かされる趣味はない。 「ただ、ここまで執着してくる女がいるなら、前もって教えてほしかっただけよ。そうすれば、こっちも心構えができたのに」 「分かった、改める」 宗也は素直に約束した。 「今回は俺の配慮が足りなかった。次からは気をつける」 「腹が減っただろう?少し何か食べないか?」 宗也はテーブルに届いたばかりの雑炊を手に取り、自ら彼女に食べさせようとした。 音は彼に食べさせてもらうことに慣れていなかった。 自分で雑炊を受け取ろうとしたが、彼に軽くかわされてしまう。 「俺にやらせてくれ」 音は落ち着かない気持ちで、彼がスプーンで運んできた雑炊を一口食べた。 どうにも居心地が悪かった。 まだ、自分に優しくしてくれる宗也に慣れることができなかった。 気を紛らわせるために、音は何気なく尋ねた。「それで、神崎さんは今どうなってるの?見逃すつもり?」 「見逃さない」 宗也は淡々と答えた。「中島がすべて吐いた。傷害罪だ。神
Baca selengkapnya

第357話

「しない」 宗也はきっぱりと言い切った。 音は少しだけ安心した。 「なら約束して。今後どれだけ私を憎んでも、あんな場所にだけは絶対に放り込まないって。もし私が本当に死に値するなら、いっそ殺してちょうだい。ひと思いに終わらせて」 宗也の顔から、少しずつ笑みが消えていった。 複雑な眼差しで彼女をじっと見つめる。 「だから今、また何を企んでいる?また心の中で家出の計画でも練っているのか?」 「してないわ」 逃げてどこへ行けるというのか? 以前でさえ彼から逃げ切れなかったのに、今は仕事も軌道に乗り始めている。逃げ切れるはずがない。 彼女は今、ようやく悟ったのだ。 家出をしたところで、何も解決しないということを。 「ならいい」 宗也は笑みを浮かべながら彼女を腕の中に引き寄せ、大きな掌で後頭部を優しく撫でた。「音が家出さえしなければ、俺がお前を憎むことはない」 …… 音の心がふっと柔らかくなった。 少しだけ、温かかった。 彼女には、宗也にどれだけの本心があるのか分からなかった。 だが今この瞬間、彼は確かに自分にとても優しくしてくれている。 これこそが、少女時代からずっと夢見ていたことではないか。 彼女はそっと、彼の腕の中へともう少し体を寄せてみた。 彼を驚かせないように。せっかく叶った夢から覚めてしまわないように…… 「どうして変わったの?」 彼女は小さな声で尋ねた。 「どこが変わった?」 「以前、私にこんなこと言ってくれるような人じゃなかった」 宗也はしばらく黙り込んだ。 「お前が言っていたのを覚えている。愛情は育てていけるものだと。俺が愛するようになるまで、根気よくそばにいて待つとな。 あの時は信じていなかった。だが、後になって……信じるようになった」 「それって、私のことを愛するようになったってこと?」 音は恐る恐る尋ねた。 宗也は再び沈黙した。 今度の沈黙は、先ほどよりも長かった。 彼女の心も、宗也の沈黙と共に少しずつ谷底へと沈んでいった。 彼女は笑ってその場を取り繕った。「本当は、人を愛するなんてそんなに簡単なことじゃないわよね。もしそんなに簡単に愛せるなら、その人はきっと気が多い人だわ」 「お前の言う通りだ」 宗也は
Baca selengkapnya

第358話

宗也は本当に、音がどんな花を好きなのか知らなかった。 考えた末、結局、世間で人気のある花を適当に見繕うよう亮に指示した。 夕暮れ時の空はとても美しかった。 茜色の残照が、大きな窓ガラス越しに部屋いっぱいに降り注いでいる。 彩羽と音は一緒にローテーブルにうつ伏せになり、タブレットで写真を見ていた。 「見てよこれ、前よりもっとイケメンになってない?」 彩羽はタブレットを音に差し出した。 音はちらりと目をやった。 「確かにイケメンね」 彼女はそれほど真剣には見ておらず、視線は先日亜美から届いたメッセージに落ちていた。 コンテストの当日にトラブルがあり、ここ数日ずっと入院していたため、亜美からお祝いのメッセージが届いていたことに気づかなかったのだ。 今、ようやく目にした。 だが、返信すべきかどうか迷っていた。 彼女と翔太がどうなったのかも分からないし、翔太がまだ彼女に無理強いしているのかも分からなかった。 「音、ここにもう一枚あるわよ」 彩羽は彼女の心ここにあらずな表情には気づかず、袖を引っ張って見せた。 音はもう一度タブレットに目をやった。 写真に写っている立花家の長男である敏明は確かにかっこよかった。横顔の写真ばかりで、しかもすべて車椅子に座っている姿だったが、その雰囲気や顔立ちは宗也に全く引けを取らない。 彼女はスマホを置き、振り返って彩羽を見た。 「彩羽、私に付き添うために京ヶ丘に残るなんて綺麗事を言ってるけど、本当は立花家の長男に会いに来たんでしょ?」 彩羽は秘密を見透かされたような顔をした。 えへへ、と笑い出す。 「バレちゃった」 「じゃあ、彼と会う約束でもできたの?」 音は驚いた。 「まさか。家族や絶対に会わなきゃいけないクライアント以外、立花さんは部外者とは一切会わないのよ」 「会う約束もできないのに、京ヶ丘に残って何をするつもり?」 「来週末にある立花グループの新製品発表会に行けるじゃない。彼のお顔をこの目で一度でも拝めたら、もう思い残すことはないわ」 「あんたって本当にしょうもないわね」 音はあからさまに呆れた顔をしたが、彩羽は言い続けた。 「彼、ペアリング不要の新型補聴器を開発するチームを立ち上げてるらしいのよ。もし開発に成功したら、
Baca selengkapnya

第359話

宗也は無造作に花束を傍らの執事に手渡し、表情を変えずに告げた。「長谷川さん、ここ数日世話になったな。これは贈り物だ」 半世紀以上を生きてきた初老の執事は、突然腕いっぱいの花束を押し付けられ、恐縮して目を丸くした。 「旦那様、こ……これを私に?」 「ああ、長谷川さんにだ」 宗也は付け加えた。「そうだ、夜は音と外で食事をする。誰かに葉山さんをこの屋敷からお引き取り願ってくれ」 「かしこまりました、旦那様」 執事は腕いっぱいの薔薇を抱えて下がっていった。 音は急いで歩み寄った。 「藤堂さん、数日だけでも彩羽をこの屋敷に泊まらせてあげられない?女の子が一人でホテルに泊まるのは危ないわ」 「駄目だ」 宗也は冷ややかに口を開いた。「あいつは随分と図太い。誰かにいじめられるようなタマじゃないだろう」 「藤堂さん……」 「それ以上言うな」 宗也は音の手を優しく握った。「行こう、外で食事だ。退院祝いだ」 「どうして外で食べなきゃいけないの?家で食べるんじゃ駄目?」 「出かけたくないのか?」 「あまり気が進まないわ」 「なら、シェフを呼んで家で作らせよう」 宗也は穏やかな声で言った。「和食がいいか、それとも洋食か?」 「和食がいいわ」 音は浅く微笑んだ。「いっそ、私が作ろうか?ついでに彩羽も残って一緒に食べればいいじゃない」 宗也の顔色が変わった。 その口調には少しの諦めが混じっていた。「音、俺たちがゆっくり二人きりで食事をしてから、もう随分経つだろう。どうしてもこの家に、口の悪いお邪魔虫を置いておきたいのか?」 「彩羽は私の親友よ」 「分かっている。あいつがお前の親友でなければ、今頃とっくに北の無法地帯にいるはずだ」 彼は極めて平然と言い放った。 音の耳には、それが背筋も凍るような脅しに聞こえた。 彼女は慌てて彩羽を引っ張り、外へと向かった。 彩羽は歩きながら、わざと不機嫌そうに尋ねた。「どうしたの?音、あんたまで私を追い出す気?」 「彩羽、やっぱりホテルに泊まって」 音は彼女の両手を掴み、怯えた顔で言った。「あの神崎さんのこと、知ってるでしょ?藤堂さんに北の無法地帯へ放り込まれたのよ」 「私もあそこに放り込まれるのが怖いって
Baca selengkapnya

第360話

「好きじゃないなんて言ってないわ。花は花よ、人と同じで、それぞれ違った美しさがあるもの」 「だが、お前は誰彼構わず好きになるわけじゃないだろう」 宗也はタブレットを彼女の目の前に差し出した。「言ってみろ、どんな花が好きだ?次はそれを買ってやる」 音は伏し目がちに、タブレットに映し出された様々な生花を見つめた。 どれもとても美しい。 本当は、全部欲しかった。 だが、彼女はこうやって人に花をねだるのは好きではなかった。 「藤堂さんは昔からこういう風に恋愛してきたの?」 宗也は一瞬呆気にとられた。 彼女と一緒にタブレットに目を落とす。 そして正直に答えた。「女を口説いたことがない。どうやって口説けばいいのかも分からん。俺のやり方は、相手の好みを正確に把握して、その好みに合わせて動くことだ。そうすれば、基本的には半分の労力で倍の成果が得られる」 そうなのだろうか? かつて彼が「夏川さん」に接していた時も、そうだったのだろうか? 音は聞いてみたかった。 だが、人の過去を詮索するのは気が引けた。彼女は聞くのを諦めた。 結局、一言だけ口にした。「これはビジネスの交渉じゃないのよ」 宗也は自分が少し無粋なことを認めた。 彼は少し考え込んだ。 そして真面目な顔で言った。「しっかり学ぶとしよう」 音は彼がそんなことを学ぶとは思わなかった。 彼が学ぶことなど期待もしていなかった。 彼女は何も言わなかった。 ちょうどその時、スマホが鳴った。 画面を見ると、心彩からの電話だった。 少女は音が賞を取ったことだけを知っており、その後に起きた出来事については何も知らなかった。興奮気味にお祝いの言葉を述べた後、真剣な声で尋ねてきた。 「音お姉さん、来週卒業パーティーに来てくれないかな?」 「卒業パーティー?」 音は少し驚いた。 「うん、みんな家族を連れてくるんだけど、施設の院長先生は来週、外せない用事があって来られないの。だから、音お姉さんに来てもらえないかなって……」 心彩の声が小さくなった。 「音お姉さん、今すごく忙しいよね?こんなお願い、ちょっと迷惑かな?」 「ううん、迷惑なんかじゃないわ」 音は即座に承諾した。「来週末ならちょうど時間が空いてるか
Baca selengkapnya
Sebelumnya
1
...
3435363738
...
44
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status