All Chapters of 裏庭が裏ダンジョンでした: Chapter 11 - Chapter 20

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襲撃者 1

「お目覚め下さいムツヤ殿」 そんな声で起こされたムツヤが目にしたのはエプロン姿で長い栗色の髪を後ろで結ったモモの姿だった。「おはようございます、お食事の準備が出来ましたのでこちらにお越しください」 柔らかな表情で微笑んでモモは部屋を出ていく。 ムツヤが後に連れられて出ると、美味しそうなスープの匂いが漂ってきた。 ヒレーとも朝の挨拶を交わしムツヤは椅子に座る。「お口にあうかわかりませんが、どうぞお召し上がり下さい」  ムツヤの目の前には豆と野菜を煮込んだスープ、丸いパンと何かの果実のジャムが置かれていた。「美味じそうですねー頂ぎます」 ムツヤはスプーンでスープを口に入れる。 柔らかく煮込まれた豆と溶け込んだ野菜と崩れかけのジャガイモがコンソメスープによく合っていた。「本当に美味しい、モモさんはお料理が上手ですね」「あ、いえ、それほどでも」 ムツヤに料理を褒められるとモモは顔を赤くして視線を逸らす。 そんな二人を見てヒレーはずっとニヤニヤと笑っていた。「それで、ムツヤ殿。大きな街までの案内の話なのですが」 言いにくそうにモモは話を切り出す、何となく悪い話なのだろうなとムツヤも感じ取る。「私としてもムツヤ殿にご恩返しをしたいのですが、村でこれ以上犠牲者を出すわけにもいかないのです。大きな街まで歩いても1日はかかります。その間村を留守にする訳には……」「そうですか……」「もしお待ちいただけるのであれば犯人を捕まえるか、治安維持部隊が来るその日まで私の家でお世話をさせて頂くのでお待ちいただけないだろうか」」 最寄りの治安維持部隊の駐在所へは使いを出した。 早ければ今日、遅くても明日には腕の立つ者が来るだろう。 治安維持部隊にオークの問題だと戦力を出し渋る者がいなければの話だが…… いずれにせよそれまでは自警をする他は無い。 モモの職業は猟師兼この村の警備だ。 モモは流石に力のぶつけ合いでは負けるが、剣を持たせればこの村の戦士として戦うオーク達の中ではかなりの実力者だった。 そんなモモが今この村を離れるわけにはいかない。「そんな事情があるのでしたら待つのは良いんですけど…… そうだ、その犯人がわかれば良いんですよね? それじゃあ俺も手伝いますよ」 ムツヤの提案にモモは目を丸くする。その提案は嬉しいものだった。「それはあ
last updateLast Updated : 2025-11-04
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襲撃者 2

 男の斬撃を2回3回とかわしてムツヤは思う、何ていうか物凄く遅い。 さっきは相手が後ろを向いていたので勢いで殴りつけてしまった。 だが、その後に不意打ちでなければ歯が立たないぐらいに強いのではないのかと不安があったのだが。「ウォッブ!!」 4回目の剣撃を難なくかわすとムツヤは手刀で男の腹を思い切り叩いた。 瞬間、男は横に吹き飛んで、木にぶつかり動かなくなる。「あれ、あれ? も、モモさんあれって死んじゃったりしてないかな?」 ムツヤの戦いに加勢するタイミングを伺っていたモモは、あっさりと決着が付いて呆気にとられたが、我に返って返事をする。「えっとー…… 触ってみないとわかりませんが、全然動きませんね」「やっべー!! 人殺しはダメだっでじいちゃん言ってた!!」  昔、祖父から言い聞かされていた外の世界で絶対に破ってはいけない決まりごと。 それは人を殺すことだった、人を殺そうと思ったことがないムツヤはその決まりごとを不思議に思って話半分に聞いていたのだが、さっきの怒りで理解が出来た。 人は怒りが頭のてっぺんまで来てしまうとうっかり相手を殺してしまうのかもしれないと。 カバンに手を伸ばしているムツヤを見てモモはハッとする。「ムツヤ殿何を考えている! その男は我々の仲間を殺してムツヤ殿まで殺そうとしたのだぞ!?」「うーんと、それはわかっているんだけど…… 何が俺のせいで人が死んじゃうって思うど、ドキドキして…… 震えが止まらなくなっで」 ムツヤは自分の手で人を殺めてしまうかもしれないという事実にパニックを起こしていた。 胸の鼓動は止まらず、まるで耳の隣で太鼓を鳴らされているかのようにうるさい。 手はガタガタと震えだして小瓶の中で薬が激しく波をうっていた。「ムツヤ殿……」 モモは目を閉じて軽く一呼吸して言う。「薬を飲ませる前に動けないように拘束をしてください、それからじゃないとまた戦うことになります」 そうかとムツヤは『貼り付けると自分では剥がせなくなる札』を男の腕と足に貼り付け、薬を飲ませた。「ピイイイエエエエエエ!!!!! ポッポポイポッポポイ!!!!」 ヒレーに呼ばれて駆けつけたオークの戦士達が聞いたのは別種族の男から放たれた奇声だ。 斬られ、倒れていたバラも本来であれば致死量の出血だったが薬が間に合い命を取り留める。
last updateLast Updated : 2025-11-05
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はじめての武器屋 1

 大きな街『スーナ』へと続く道を歩く男女二人組が居る。 男の名前は『ムツヤ・バックカントリー』だ、肩まで伸ばした黒髪と茶色い目。 彼の住んでいた家は裏庭が裏ダンジョンで、小さい頃からそこで遊んでいる。 なので反則級の強さと、この世の理をひっくり返しかねない道具を山程持っていた。 腰に下げている剣は斬ると相手が燃え上がる。 いわゆる魔剣だ。銀色の鎧はどんな高温にも低温にも耐性があり、快適だからといつも着ていた。 女の名前は『モモ』、オークは種族全員が家族という思想があるので名字はない。 緑色の肌で、頭に被った兜から結った栗色の長髪をしっぽのように出している。 見た目はオークと言うよりも人間に近い。 朝にオークの村を出て夕暮れまでには街に付く計算だったが、2人共体力には自信があったのと、荷物はカバンに仕舞ったので身軽な事があり、だいぶ予定より早く街に着きそうだった。 二人は取り留めもない雑談をしていたが、その話題が尽きた頃、何か話題をと考えたモモは一番重要な質問をしていなかった事に気が付く。「ムツヤ殿、私が言えることではないが、街に付いた後で当面の生活はどうなさるおつもりですか?」 ムツヤはカバンから取り出したパンをむしゃむしゃと食べながら答える。「とりあえずそーでずねー、店って奴でカバンの物を何個か売っでバレシってのに変えようがなと思っでまず」 バレシはこの国の通貨で10バレシで丸いパンが1つ買えるぐらいの価値だ。 オークの村からは感謝の気持ちとして「今の村にあるだけです」と30000バレシ程の金を送られたが、ムツヤは辞退した。 今だに亜人は人の見た目からかけ離れるほど差別を受ける。 オークが就ける職業は少なく、そうでなくても、畑と狩りで必要なものを必要な分だけ自給自足する事を好む彼らにとってそれは大金であった。 村を出る前に集会所でその謝礼金の事を告げられたが、惨劇が起きた事に付け込んでいる様で気が引けたムツヤはそれを受け取らなかったのだ。 村長とムツヤの間で受け取ってくれ、要りませんとのやり取りが2,3回続いた後にモモからこんな提案をした。「しかし、薬代と村を救ってくれたお礼をしなくては一族の恥だ。なので30000バレシには遠く及ばないと思うが、私をしばらくムツヤ殿の従者にしては頂けないだろうか?」「従者っで言うど…… 一
last updateLast Updated : 2025-11-06
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はじめての武器屋 2

「後はその装備も人前ではダメよ、もちろん塔で拾った他の物も人前ではダメ。駆け出し冒険者がそんな剣と防具を持っているなんて目立っちゃうでしょ? 人前で使っていいのはその指輪だけ、じゃないとあなた文字読めないだろうし……」「えー、駄目なんでずか?」 カッコイイ燃える剣と快適な鎧を着てはいけないと言われ不満の声を漏らすが、サズァンの言うことなので大人しく従うことに決めた。「でもお金がないと当分の間大変でしょうし、塔の1階で拾えるモンスターを切っても何も起こらない剣あるでしょ? アレなら1本だけ売っていいわよ」 塔の1階で拾える剣と首を傾げながらムツヤはカバンから1本剣を取り出す。 それはモモが見ても業物だと分かるぐらいに立派な剣だった。「そうそう、それそれ! でねー…… 親がいないムツヤに言わせるのもひどい話だけど、親の形見って言えば大概はどうにかなるからそう言って売ってきなさい」「親の形見かー」と小声で呟いた後わかりましたとムツヤは返事をした。 隣で事情を聞いていたモモも少し酷なのではないかと思ったが、代案を思いつかなかったので黙っている。「ごめんねームツヤ、寂しかったら私をお姉ちゃんかお母さんだと思って甘えて良いのよ? もう魔力が切れちゃうからまたね!」 そう言ってサズァンはムツヤを抱きしめた、抱きしめると言っても幻影なので感触は無い。 最後の邪神とは思えないような行動にモモは驚くが、そのままサズァンはスーッと消えていった。 ムツヤが「じいちゃん以外と話した事が無い」と言っていたので察しは付いていたが、こういう時になんと言えば良いのかモモは言葉に詰まってしまう。 ムツヤの顔からは笑顔が消えてしまって気まずい、何か間を持たせなくては。「ムツヤ殿、実は私も5年前に母を病気で亡くしたのです」 言ってしまってハッと後悔した。元から居ない事と、小さい頃には親が居たことはまるで別の話だろう。 ムツヤは遠い目をしたままだ、やはり余計な一言を言ってしまったのだろうか。「モモさん……」「はい……」 モモは次のムツヤの言葉が怖くて、目を逸らして返事をしてしまう。「サズァンさまにこう、こう抱きづがれるっで奴ですか!? されちゃいましだよ! 感触が無いのが残念ですけんども!」 興奮して鼻息荒くムツヤは言った。空元気で道化を演じている…… 訳ではない
last updateLast Updated : 2025-11-07
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はじめての武器屋 3

「まずはその剣を売りに行きましょうか、良い武器屋は知っています。少し店主の性格に難はありますが……」 街道の人目が無い時にカバンから取り出して持ち歩いていた1本の剣、これを売ってムツヤは冒険のための金策をする。 大通りにはきらびやかな武器がずらりと並んでいた。しっかりと磨き上げられた剣や鎧から、フトコロ事情の良くない者の為の質素な物までだ。 そんな大通りを素通りして裏路地へモモは行ってしまう。ムツヤは不思議に思うが黙って付いていくことにした。「モモさんあっちの店じゃダメなんですか?」「えぇ、ムツヤ殿はこの街が初めてで、私はオークですから。値段の付いている商品を買うなら良いですが、売るとなると足元を見られると思います」 足元を見られる? ムツヤは首を傾げた後に自分の靴を、次にモモのブーツを眺めてみる。それでモモは察する。「申し訳無いムツヤ殿、足元を見られるというのは慣用句でして」「え、かんよう? 何ですか?」 そうか、足元を見られるという意味を知らないのに慣用句という言葉を知っているわけがないとモモは反省した。 ムツヤは馬鹿ではないが、人との関わりが無かったため常識がところどころ欠けている。 それは仕方のない事なので少しずつ自分が教えていこうと思った。「そういった事は後でご説明しますので…… とにかく通りの店ですと本来の価値よりも安く買い取られてしまう可能性があります。なので私の知っている武器屋に行きましょう」 なぜ安く買われるのか、『かんよう』と『足元』とは何か、ムツヤは疑問に思うことだらけだったが、ひとまずそれは後でモモに教わることにした。 大通りの賑やかな声が遠くになった頃に目的の店に着いたようだ、モモは足を止めて看板を見上げる。『ギルスウドパンゼ』  ギルスのいい武器屋という意味だ。 いい武器屋を名乗る割にはこじんまりとして、お世辞にも繁盛しているとは言いにくい。 武器屋には大きく分けて2種類あり、1つは鍛冶場を持っている大きな武器屋。 そして、もう1つは武器を仕入れて売り買いする仲介屋に近いこの店のような小さな武器屋だ。 ドアを開けるとカランカランと心地よいドアチャイムの音が迎えてくれた。 それとは対照的に気だるそうな男の声が聞こえる。「あーはいはいお客さんチョット待ってねー」 よっこらせとカウンター後ろの部屋
last updateLast Updated : 2025-11-07
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はじめての武器屋 4

 旅の疲れからか、ムツヤがウトウトし始めた頃に大きなひと仕事を終えたとばかりにギルスは二人に声を掛けた。「お待たせーお二人さん、いやー時間掛かっちゃったよ、流石にこれは。回りくどいことは嫌いだからハッキリ言わせてもらうけど、今の俺の持ち合わせじゃ買い取りが出来ないな」 一瞬モモは驚いて目を丸くしたが、ムツヤの持ち物だと思えば納得もいく。「なるほど、素人目にも業物だとは思ったが」「本当ですかギルスさん!?」 ムツヤも驚いていた、あれって塔の1階に毎回2本3本は落ちてるから最近は見向きもしなかった剣だったのにと。「あぁ、これは武器としての価値はもちろんあるが、どちらかと言うと骨董品としての価値があるね~」 続けてギルスは言う。「今から200年前のパン・トーテ戦争時にこの国の部隊長が持っていた剣だね。ってことは君のご先祖さんはパン・トーテ戦争に参加してたのかもね」 剣の由来までギルスは解説を入れてくれた、あの剣にそんな歴史があった事をムツヤはもちろん知らなかった。「まーそれほど珍しい剣じゃないけどこれは保存状態も良いからウチで買うなら80000バレシかなぁ。前もって言ってくれれば金は用意しておくんだけど平日じゃそこまで現ナマ置いとかないからなーウチは」「8万バレシ!?」 安物の剣でも売値が3000バレシ程度だとするとかなりの高値だ。予想以上の値段にモモは驚きの声を上げる。「どうしてもって言うなら今の俺の手持ちで買ってもいいけど3万バレシが限界かなー。鑑定料は初回サービスでまけておくから古物商に持って行ったほうが良いよー」 そう言ってギルスはコーヒをすすり、タバコのパイプに草を詰め終えていた。「それでも良いです、買って下さい」 オイルライターを持つギルスの手がピタリと止まり、そして顔を動かさないで目線だけをパイプの先からムツヤへ向ける。「それ、親の形見なんだろう? そんなに安売りして良いのかい? まるでその辺で拾ったみたいにさ」 ムツヤはドキリとし、流石にモモも冷や汗をかいた。 モモは今の情報を元に、適当な作り話をして古物商にでも売り渡そうかと考えていたので、突然のことに思考が停止する。 ムツヤは別に後ろめたい事は無かったが、拾ったという事を当てられて言葉が出てこなくなった。「お、俺はその剣を売っで鎧とが剣とが、冒険者の必要なもの
last updateLast Updated : 2025-11-08
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冒険者になろう 1

「そう落ち込まないで下さいムツヤ殿……」 ムツヤは落ち込む時、それはもう分かりやすいぐらいに落ち込む。 どこでも座り込んで三角座りをしてコンパクトムツヤになる。 ムツヤは冒険者のギルドに加入をしようとしたのだが、何故かモモだけが冒険者になってしまったのだ。 時は2時間前までさかのぼる。 ギルスの店から追い出された二人、モモは何とか誤解を解こうと考え、ある事を思いついた。「そうです、ムツヤ殿! 冒険者ギルド付属のレストランへ行きませんか? あそこは一般にも開放されていますし、昼食の時間も過ぎていますからそこまで混んでいないと思います」 この世界では一般的に朝と夕に食べて、昼間は気分次第だ。 だが、肉体労働者や冒険者といった体を動かす人間は昼もガッツリと食べていく。 ムツヤとモモも道中パンをかじってはいたが、どことなく腹が空いた感じはあった。「でも、モモさんは俺の事嫌いなんじゃ……」 ムツヤはまだ面倒くさい勘違いをしている、しかしモモは面と向かってムツヤに好きだと言うことが恥ずかしくて出来ない。もちろん友人としての好きではあるが。 ムツヤに好きだと言うか、1人で熊と戦えと言われたら後者を選ぶだろう。「私がムツヤ殿の事を嫌いなわけがありません。これだけは誓います」 ムツヤは疑いの目を向けてくるが、冒険者ギルドと聞いてソワソワしていた。 これならば冒険者ギルドで昼食を食べさせれば機嫌も戻るだろうとモモは考える。なぜならムツヤは単純だから…… と、一瞬ムツヤを馬鹿にしかけた自分を戒める。「とにかく、冒険者ギルドへ向かいましょう。そこで誤解を解かせて下さい」 モモはムツヤの手を引いた。頭を下げてしょぼくれているとムツヤの方がモモよりも背丈が低くなる。 種族は違えど、いじける弟とそれを引っ張っていく姉のような光景だ。 通りが近くなり、モモは気付く。勢いで握ってしまったが、街の中をムツヤと手をつないで歩いている。 それを意識すると急に顔が熱くなった。後どれだけ握っていれば良いのだろうか。通りの喧騒がまた近づく、このままでは人に見られる。「ムツヤ殿! 手を繋いでいると目立つので、その、そろそろ……」「あ、すいまぜん……」 手を離してモモはホッとした様な少し残念なような、複雑な気持ちになったがこれで良いのだろう。 目指す先は立派な茶色
last updateLast Updated : 2025-11-09
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冒険者になろう 2

 料理が届くまでの待ち遠しい時間を感じる間もなくサズァンが現れて、そして消えた。 それから間もなく二人のもとにペペカグというパスタが届いた。 食欲をそそるニンニクとオリーブオイルの香ばしくいい香りとパスタの中に見え隠れしているエビとイカ。「これがペペカグですかー、それじゃいただきます」「いただきます」 二人は同じ挨拶をした。そこにモモは疑問を感じる。 食事の作法は神を信じる者か、食材の命に感謝をする自然崇拝者で大きく別れており、前者は各々が信じる神に祈りを捧げ、後者は自分の為に犠牲になった命にいただきますと言う。 オークは自然と共に生きる事を良しとするので、自ずと自然崇拝者になるが、ムツヤは邪神だが神であるサズァンの庇護下に居るようなものなのでサズァンに祈りを捧げるものだと思っていたからだ。 当時は疑問に思わなかったが、よく思い返すとモモの家で食事を振る舞った時も同じだった。 しかし、深く聞いてもあのムツヤ殿とサズァン様の思考なんて自分には理解できないし、想像するだけ無駄なのだろうと、フォークを手にとってパスタに挿し、くるくると巻き付けた。ムツヤもモモのそれを見て真似をする。 ムツヤは見よう見まねで食べた、にんにくとオリーブオイルの風味は今まで味わったことのない感じで、少し辛味がある。 フォークの先に刺さっていた白い奴、エビは知っているのでこれはイカだろう。これも不思議な歯ごたえの中にほのかな甘みがあった。「モモさん、これメッチャ美味いですね!」 上機嫌なムツヤを見てモモはホッとする、やっと機嫌を治してくれたらしい。モモは笑顔でそうですねと相づちをして食べていた。 食事と会計を終えた二人は一度冒険者ギルドのレストランを出た。 オークの村の村長に口止めを頼むためにどこか人気のない場所を探す。しかし街中で使えばどこで誰に見られるか分からないので宿を取る事にする。「私が街に来る時、使っている宿があります。そこで空き部屋が無いか聞いてみましょう」 モモに案内され少し道を歩いてたどり着いた宿屋を見たムツヤの感想は「お世辞にも綺麗とは言えない」というものだった。 しかし、それは経年劣化でサビや塗装が剥がれてそう感じるだけで、決して不衛生ではない。 扉を開けて中に入ると掃除が行き届いたフロントがそれを物語る。「誰かと思えばえーっと、あぁ、
last updateLast Updated : 2025-11-10
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身分証明 1

 二人は石造りの立派な建物の前に再びやってきた。1時間前には食事を摂るために来たが今度は違う。 ムツヤは愛刀であり魔剣『ムゲンジゴク』のレプリカを腰に付け、裏ダンジョンで拾った鎧からしたら見劣りはするが、充分に立派な皮の鎧を着ている。 まず、この世界で冒険者になる為にはこの冒険者ギルドで登録を済ますことがほぼ必須条件だ。 何故ならば冒険者としての登録がないと各地から集まる依頼を受けることが出来ず、つまりは生計を立てることが出来ないのだ。 ムツヤは興奮を抑えられずに居た、ここから自分の冒険者としての旅が始まるという事と。 そして、念願のハーレムを作る第一歩を踏みしめることが出来る喜び。 受付に並び、そしてムツヤは自分を落ち着かせて言った。「あのっ、冒険者になりだいんですが!」 すると受付の女性はにこやかに言葉を返す。「はい、それではこちらの用紙へ記入と身分証をご提示頂けますでしょうか?」「みぶん?」 しまったとモモは思う。自分の中でもまだムツヤが隔離された別世界から来たという事を甘く見ていたことを痛感した。 正直に話したらサズァンの言う通り良からぬ輩に目を付けられるだろう。ここは言葉を濁しながら話すことにする。「こちらのムツヤ殿は異国の地から来たのです」「それでしたら外国人登録証をお持ちですか?」 決して嘘は言ってないが下手なことは言うものじゃなかったと頭を抱える。 このままでは冒険者としての登録どころか不審人物としてムツヤ殿が目を付けられてしまう。どうしようかと考えていると後ろから声が掛かる。「なんだ、お前冒険者になりたいのか?」 大柄で立派なヒゲを蓄えた男がそこには居た。種族は人だがその見た目は背の高いドワーフと言われてもおかしくはない。「ゴラテさん……」 受付嬢があまりいい顔をせずにその男の名前を呼んだのをモモは見落とさなかった。理由はわからないが、いい話にはならない気がする。「まぁ、困ったことがあったら俺に言いな。悪いようにはしないからよ」 モモは返事をしなかった、いくらなんでも胡散臭いというか、なるべく関わり合いになりたくないタイプの人間だ。しかしムツヤは違う。「本当で」 モモはまた後ろから抑え込むようにムツヤの口を抑え、そして男に言った。「いや、結構だ」「そうかい、まー気が変わったら来てくれや」 男は
last updateLast Updated : 2025-11-11
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身分証明 2

「よし、それじゃ取っておきの方法がある。とある森にある『ユーカの実』を俺と一緒に、1ヶ月だけでいい。探す手伝いをしてくれたら推薦状をやろう」 モモは聞いたことがあった。ユーカの実は万病に効く言われている。それも伝説などではなく実在するらしいが本物は見たことがない。「冒険者としての経験にもなるし悪い話じゃ無いとは思うんだがな」「それで、それでお願いします!」 ムツヤの中ではユーカの実を探すことはもう決定事項らしい。モモはため息が出そうになるが、自分は従者だと言い聞かせムツヤの意見に同意することにした。「ムツヤ殿がそう言われるのであれば、わかりました」「決まりだな、明日の5時にこのギルドの入り口に集合だ。ユーカの実が出来る時期は決まっていて、痛みが早いから幻の実って事になってるんだ。俺の調べた秘密の場所ではここ数日で実が成るはずだ」 そう言い終わった後にゴラテはムツヤに手を差し伸ばして来る。「改めて、俺はゴラテ・サンドパイルだ。よろしく頼むぞ」 ゴラテのさっきまでの怪しい雰囲気が急に消え去り、面倒見の良さそうな中年の様になる。何か絶対に裏はあるにせよ、それでモモの警戒心も少しはほぐれたようだった。 モモとムツヤは宿屋へと戻った。そこで新たな問題に直面した、というよりは思い出した。この部屋にはセミダブルのベッドが1つだけしか無い。 宿屋のグネばあさんにもう一つ部屋を借りようとしてみたがどこも満室だよと断られる。「なんだいあんたら、恋人どうしならいいだろう?」「だーかーらー! それは勘違いでムツヤ殿とはそういう関係ではない!」「どっちにしろ良いじゃないかい、細かいことは」 ヒッヒッヒと老いた魔女みたいにグネばあさんは笑ってまた二人を出迎えた。「いや、おばあさん。オークと人間は恋愛をしないらしいですよ」 ムツヤがフォローに入るが、より大きくグネばあさんは笑って返す。「愛があれば種族も年も関係ないんだよお兄ちゃん」「そうなんでずか!?」「もう良いから部屋へ行きましょう」 そう言ってモモはムツヤの手を引いた、部屋に入るとまたセミダブルのベッドが出迎えてくれた。「ムツヤ殿、明日は早いですし夕食を早めに食べて寝ることにしませんか?」「わかりましたモモさん」 とりあえずモモは問題を先送りにした。夕食も食べ終え、宿屋の小さな風呂で汗を流し
last updateLast Updated : 2025-11-12
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