All Chapters of 裏庭が裏ダンジョンでした: Chapter 21 - Chapter 30

47 Chapters

訳ありの子

 ゴラテに返答をはぐらかされたモモは若干不機嫌になるが、早歩きするゴラテに付いて行った。 誰一人息を切らさずに荒れた道を早く歩いていく。ゴラテは2人の体力に少しだけ感心した。 そして、草むらをかき分けて橋を渡ろうとした瞬間、巨大な蛇が木の上からこちら目掛けて落ちてくる。 ゴラテが抜刀してそれを真っ二つにするよりも早く、ムツヤは飛び上がって蛇を蹴り飛ばした。 またやってしまったとモモは右手で頭を抑えた。あれ程新米の冒険者を演じるよう言ったのにと。「やるな兄ちゃん。丁度いい、ここからはこんな事が多くなるから気を付けてくれ」 特に驚くでも無くゴラテが言ってモモは一瞬ホッとしたが。「休憩でも入れるか、ここから先でユーカの実が取れたらしい」 ムツヤの新米冒険者とは思えない動きについて追求してこない事が逆に不気味だった。「あんたもワケありみたいだな。俺もそうなんだ、だから兄ちゃんには何も聞かねえがギルドで見かけた時に相当の手練だってことはわかった」「質問だが、他の冒険者と手を組んで探したほうが効率的ではないのか?」 モモにそう言われるとゴラテは下を向いて話し始めた。「ユーカの実は金にならないんだ、1日持たないぐらいで傷んで食べられなくなる。だからわざわざそんな金にならない物のために依頼を受けるやつなんか居ない」 ふぅとゴラテはため息をついて続けて言う。「子供が病気でな、どんな薬でも良くならなかった。周りからも金を借りて医者や治癒術士に見せて、高い薬も飲ませたんだがどれも効果はなかった……」 ふとゴラテは話し始める。「ただ、1回だけ手に入ったユーカの実を食べさせた時だけは数日苦しくなさそうにしていたんだ」 ゴラテのその表情と声を聞いた瞬間、モモは急にあの大男の背が疲れ切って頼りない物に見えてしまった。 男は遠い目をしていた、その表情はどんな言葉よりもこの男を少しだけ信用しても良いかもしれないと思わせるものだった。「それにみんなも最初は金を貸してくれたんだが、俺が子供の世話でつきっきりだと当然金は入らなくなる。金が返せないと気付かれたら頼れる宛は無くなっちまったって所さ」 次の瞬間、大男はムツヤ達に頭を下げた。「頼む、俺の女房も似たような病気で死んじまったんだ。せめて子供だけでも助けてやりてぇんだが、もう症状が悪くなって虫の息だ。多分もう
last updateLast Updated : 2025-11-13
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いわゆる男の娘

「僕を食べて下さいムツヤさん!」深い森の中でユモトはそう叫んだ。ムツヤは首をかしげて『この子はいったい何を言っているんだろう』と思う。 待ち合わせの時間の10分前、2人は冒険者ギルドの掲示板前の席に座っていた。 1人はこげ茶色の目をし、皮の鎧を着て伝説の魔剣『ムゲンジゴク』のレプリカを腰に下げている。 もう1人はオークの女だ、頭の兜から栗色の髪を一本に束ねて外へと出していた。種族はオークだが、顔立ちは人間からしてみると美女の部類に入る。「すみません、遅れました!」 そう言って息を切らして走ってきたのはローブを着た小柄な魔法使いだ。 白を基調とし、胴回りや袖に青色や金色でアクセントを付けたローブがよく似合っている。 茶色に緑を混ぜたような色合いのくせっ毛のある髪を肩まで伸ばし、肌は色白でくりくりとした大きい目。 男であれば振り返って見つめてしまう小動物的な可愛さがあった。しかし、その魔法使いは男だった。「大丈夫ですよユモトさん、俺達が早ぐきちゃっただげなんで」 ムツヤはそう笑って話しかけた。はぁはぁと息を切らしながら上目遣いでユモトは二人を見つめる。「あのっ、この服変じゃないですか?」 ユモトは家を出るギリギリまでその白いローブを着ようか着まいか迷っていた。 そのローブは母の形見であり、母の一族の血を受け継いでいるユモトが着た時のみ魔法を使う力が増すという代物だった。 唯一の欠点はこれを着ると、どうしてもユモトが女にしか見えなくなる事だった。 悩んだが足手まといになりたくないと決心して着ていくことにした。「大丈夫、似合っでますよ」「良かったぁ」 ムツヤの言葉を聞いてユモトは安堵し、ふぅーっと息を吐いた。今日は初めて3人だけで冒険者ギルドの依頼を受ける日だった。―――――――――――――― 3日前、ムツヤはゴラテの書いた推薦状を持って冒険者ギルドへと足を運んだ。書類の手続きを終えるとモモと同じく戦闘のテストを受けることになる。「あーはいはい、昨日のオークのモモちゃんだっけか、その仲間の子ね。改めて私は試験官の『ルー』よろしく」「ムツヤ・バックカントリーです、よろしくおねがいします」 ルーは片手を差し出して握手を求めてきた、その小さい手をムツヤが握った瞬間にルーは目を見開いて言った。「あーうん、君はもう合格で良いや」
last updateLast Updated : 2025-11-15
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迷い木の怪物

 かいつまんで、今までのムツヤの生い立ちを話し始めるとユモトは真剣に聞いてくれていた。「そうだったんですか、とても信じられないような話ですが」 しかし、ムツヤとモモの話を真剣に聞いたがユモトは話がいまいち頭に入っていないようだ。だが、無理もない。「ユモトさんに飲ませた薬も本当はたくさんあるんですよ、嘘ついてごめんなさい」 そう言ってムツヤはペコリと頭を下げて謝った。「い、いえいえ! あのお薬のおかげで僕が助かったのは事実ですし、感謝していることに変わりはないですよ!」 ユモトはあたふたしながら命の恩人に言う。「そうでずか、それならよがっだですが」「ムツヤ殿、説明も終わりましたし何か食料を取り出しては頂けませんか?」 気まずい雰囲気を変えるためにもモモは話に割って入った。ムツヤは「そうでじたね」と言いカバンから何かを取り出そうとする。「あ、そうだ。野宿するならこれがありました」 そう言ってムツヤが取り出したものは……。 森の奥にその魔物は居た。 迷い木の怪物と呼ばれるそれは上半身が人間の女の形をしている。 緑色の髪をし、服のように樹木の葉っぱを身にまとっているが、露出している部分のほうが多い。 下半身は大きな木と融合している。「マヨイギ様、彼等の偵察が終わりました」「ご苦労さま、いい子ねヨーリィ」 ヨーリィと呼ばれた女が膝を地につけて報告をした。 年は12か13歳ぐらいで、ゴシック調の黒いドレスを着ている。 そのドレスと同じぐらいに黒い髪。濁った紫の瞳はまっすぐに眼の前の主人を見つめていた。「それで、奴等は何をしていたの?」「はい、家を作ってそこで寝ています」 迷い木の怪物はその報告を聞いて固まる。今なんと言ったのだ、家だと? だがヨーリィが冗談を言うことは決して無い。状況が全く理解できなかった。「家とは何だヨーリィ、ただの寝床じゃないのか?」「はい、家ですマヨイギ様」 迷い木の怪物はいまいち状況が飲み込めないでいた。この森で人間1人ぐらいの養分を吸収しようと思い、下調べをした時には小屋の1つも無かったはずだ。「わかったわヨーリィ、私をその場所に案内しなさい」「かしこまりました、マヨイギ様」 迷い木の怪物はメキメキと音を立てて木から体を剥がす。 木から離れると疲れる上に魔力も弱まってしまうので、なるべくなら
last updateLast Updated : 2025-11-16
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ヨーリィ

 朝が来た。どうやら無事に一晩を過ごすことができたようだ。 モモは髪を梳かしてその長い茶色の髪を後ろに束ねる。 部屋から出るとムツヤとユモトはまだ寝ているようだった。それならばと3人分の朝食を作ることにする。 緑色の殻という見たことがない卵で少し不安になるが、目玉焼きを作ることにした。 コンロの使い方は、レバーをひねると魔導書が開いて火が出てくる仕組みだ。これはこの世界にもある。 油をしいたフライパンに卵を落とし、それと同時に街で買ってムツヤのカバンに入れておいた見慣れた食材を料理していく。 朝食はウィンナーと目玉焼き、昨日仕込んでおいた野菜のスープ、川魚の塩焼きと山盛りのサラダ。食べればどんなに朝が弱い人間でも機嫌が良くなるだろう。 モモは未だ寝ているご主人を起こしに行く、ノックをして部屋に入る。「失礼しま……」 半分ほどめくれ上がった掛け布団、その下ではユモトがムツヤの背中に抱きついて眠っていた。「な、なな」 誰かの気配を察したのかユモトは目を開ける。「うーん? あっ、あぁ!!」 目の前にあるのはムツヤの後頭部、そして自分の腕はムツヤに抱きつくように置かれていた。「す、すみませんすみません!!」 ユモトは急いで手をどけて距離を取る。 その声を聞いてムツヤも目を覚ます。まだ回ってない頭のまま目でモモを捉えると「あぁ、モモさんおはようございます」と間抜けた声を出した。 硬直しているモモとユモトを見て頭に疑問符が浮かぶ。「何かあったんですか?」「そ、そうだ、ユモト何かあったのか!?」「何にもな、ないですよ!」 慌ててユモトは答えた、ムツヤは単純なので何もないならいいかと考えていた。「そ、そうか、何も無ければ良いのだ。そうだ、ムツヤ殿、ユモト、朝食は私が作っておいたので食べませんか?」「あ、すみません寝過ぎちゃいました。ありがとうございます」 モモとユモトの2人はなんだかぎこちない会話をしていた。モモが部屋から出た後2人は着替えて1階に降りる。美味しそうな匂いが漂っていた。 3人は食事を終えて気力も充分に回復していた。ムツヤは皮の鎧とレプリカの剣を仕舞い、裏ダンジョン仕様の装備に着替える。 支度を終えてさぁ歩き出そうと玄関のドアを開けた。3人が出終わると家は小さくなり魔導書に変わる。 その魔導書を仕舞おうとした瞬間
last updateLast Updated : 2025-11-17
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むかしばなし 1

 それは遠い遠いはるかな昔、少女は生贄に選ばれた。 村人は迷い木の怪物と交渉するための手土産に奴隷の子を選んだ。生贄を渡すからこの森から出ていって欲しいと。 その時、怪物は腹が減っていなかったので少女を食べることをしなかった。 会話を聞くに少女の名前はヨーリィというらしい。 交渉とは後ろ盾があるから出来るものであって、本気を出せば1日で村を滅ぼせる力を持つ怪物は森から出ていくつもりはなかった。 怪物は魔力を使わなければ動物や人間を捕食することはない。大きな木と同化して養分を分けてもらえればそれだけで生きていけるのだ。 そう、人が怪物の根や魔力の詰まった体を求めて戦わない限り本来は無害な存在なのだ。「迷い木の怪物様は、は、わ、私をた、食べないんですか?」 少女は震えた声で絶え絶えに言ったが、怪物は返事をしないでいた。だが、少女が泣き続けるのが耳障りだったので短く答える。「お腹空いてないからいらない」 少女はホッとして笑顔になる。しかし少女に帰る場所はない。 その夜は怪物の木の下で寝た。寒さに震えながらだ。朝になると落ち葉に少女は埋まっていた。少女は落ち葉って暖かいんだなと初めて知る。「やっと起きたのね、あんたの食べ物を取りに行くから一緒に来なさい」 メキメキと音を立てて怪物は木から出てきた。 初めて見るその光景にヨーリィは目を丸くする。生き物を閉じ込める結界魔法を張り、イノシシに木の杭を数発刺して絶命させる。「そう言えば人間って火で焼かないと肉食べられないんだっけ」 そう怪物が尋ねるとヨーリィはコクコクと頷いた。「はぁ、面倒くさい生き物ね」 半分木のような存在の怪物は火が嫌いだったが、魔法で使えないわけではない。数十年ぶりに怪物は火を起こして雑にイノシシを解体して焼き始める。「ヨーリィ、で合ってたかしら」 怪物が言うと少女は軽く頷いた。「あの、迷い木の怪物様のお名前は何ていうのですか?」「私は名前なんて持ってないわ」 イノシシの肉をかじりながら怪物は答えた。ヨーリィはそうなんだと納得し、またイノシシの肉を食べ続けたがもう1つ疑問が浮かんだ。「それでは何とお呼びしたら良いのでしょうか?」「好きに呼んだら良いわ」 少女は腕を組んでうーんと考えてみる。「怪物様…… じゃなくて、マヨイギ様、マヨイギ様とお呼びしていいです
last updateLast Updated : 2025-11-18
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むかしばなし 2

 ムツヤの剣は迷い木の怪物の喉元でピタリと止まった。「降参しろ!!」 一瞬、怪物は自分は何を言われたのかわからなかった。降参をしろ? 生け捕りにするつもりだろうか。「強いみたいだけど本当ぬるいのね、あなたって」 怪物は地面から根っこを伸ばしてムチのようにムツヤを殴打した。鎧にバチンとぶつかり良い音がなる。 そして、背後では真っ二つに切られたヨーリィが再生し、モモとユモトと交戦中だった。「人間と魔物の戦いはどちらかが死ぬまで終わらないの、さぁ殺し合いましょう」 覚悟を決めたのかムツヤは根っこを切り払い、本体に斬りかかるが、死の息で目眩ましをされる。 怪物も怪物で根っこでムツヤを絞め殺そうとするも、魔剣で燃やされ苦戦をしていた。 そんな時だった。ヨーリィと呼ばれている少女が突然地面に崩れ落ちた。それを見て怪物は声を上げる。「ヨーリィ!! それ以上はダメッ!」 魔力切れだ、このままではヨーリィの体は全て枯れ草になってしまう。 怪物はメキメキと木から飛び出して少女の元へと向かおうとするが、ムツヤが行く手に立ちはだかる。「わかった、降参でも何でもするからその子を助けさせて!!」 怪物の必死な様子にムツヤは戸惑うが、返事をする前に怪物はヨーリィの元へと走っていき、後ろから体を抱きしめた。その場にいる全員がその光景を黙って見ていた。「ヨーリィ、いい子だから…… よく頑張ってくれたね」 怪物は青白く光る、魔力を分け与えているのだろう。薄っすらと目を開く。「マヨイギ様……」 どんどん体が枯れ葉になっていく、そこで藁にもすがる思いで怪物は3人の敵達に取引を持ちかける。「私はあなた達を殺そうとした。だから殺される覚悟も出来ているわ」 そう言って立ち上がった姿はA級クラスの魔物らしく凛として美しさすらあった。「私達はお前に勝てない、だけどこの子は見逃して。迷い木は生け捕りにすれば死体の何倍もの値が付くんでしょう?」 モモは罠だと思った。話す魔物は狡猾で話を聞いてはいけないことは常識だ。しかしムツヤはそう思わなかったようだ。 ムツヤは2人に歩み寄るとヨーリィの手を握り、規格外の魔力を注入した。目が完全に開いたヨーリィは飛び起きてムツヤに杭を投げようとする。「ヨーリィ!! もういい、もういいの!!!」 マヨイギがそう言うとヨーリィはピタリと止
last updateLast Updated : 2025-11-19
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飲みに行こう 1

 4人はまた街を出て、周りに誰も居ないことを確認してからモモが話し始めた。「ヨーリィと私達の関係をどの様に皆に説明するか考えないといけません」「さっき起きたことをそのまま話すのはダメなんですか?」 えぇ、と返事をしてモモは右手を頬に当てて悩ましげな顔をする。「我々新米の冒険者がA級クラスの魔物と戦ったなんて言っても誰も信じないでしょうし、ヨーリィの正体をよく思わない者も多いでしょう」「確かにそうですよね」 ユモトもこの1件については何かを考えなくてはいけないと思っていた所だ。 そして「そうだ」と言ってある提案をする。「ヨーリィちゃんは記憶喪失になっているって事にしませんか?」 うーんとモモは手を組んで唸る。少し無理のある言い訳だと思ったが、それ以上の案は何も思い浮かばない。「後は、ムツヤさんとヨーリィちゃんは髪の色が似ていますし、妹って事にするのはどうでしょう?」「それもありだな」 その後も数回言葉を交わしたが、話し合いの結果、ユモトの提案通りヨーリィはムツヤの妹だが、記憶喪失だという設定で通す事にした。 それならば多少街で不自然な行いをしても強引に通すことができる…… と思う。「かしこまりました。私はムツヤ様の記憶をなくした妹という事にするのですね」「えぇ、よろしくおねがいします」 ムツヤがペコリと頭を下げるとヨーリィは癖なのか顔を近づけて言葉を出す。「ご主人様、私に敬語は不要です」「あー、それじゃえーっと…… ヨーリィそれでよろしく」 ムツヤが目線を外してしどろもどろに言うと、抑揚のない声で「かしこまりました」とヨーリィは言った。「あのー、人前ではご主人様でなくて『お兄ちゃん』って呼んだほうが良いかもしれません」「わかりました、ムツヤお兄ちゃんですね」 ユモトの提案に素直に従うヨーリィ、外の世界で呼ばれたい言葉の上位に入る『お兄ちゃん』を言われてムツヤはニヤケ顔になる。「大部屋は空いてないねぇ、というよりお兄ちゃんその女の子はどうしたんだい?」 メガネを掛けた白髪の老婆、グネばあさんはまるで生きた人形の様なヨーリィを見て言った。「えーっとですね…… 俺の妹なんでずが、記憶喪失になっていまして」「それで記憶が戻るまで一緒にこの街に居ることにしているんだ」「ヨーリィと言います」 メガネの位置を手で調整し、改め
last updateLast Updated : 2025-11-20
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飲みに行こう 2

 仲間たちの笑顔を見たモモは酒もたまには良いものだなと思い飲んでいた…… はずだった。「ムツヤさーん! モモさーん! ヨーリィちゃーん! 飲んでますかー?」 ユモトは普段の大人しさはどこへやら、ワインのボトルを片手に持って叫んでいる。そしてムツヤは何故か号泣している。「うええええユモトさん、俺は本当にハーレムを作るごどができるんですが」「大丈夫れす、きっとムーツヤさんになら出来ますよぉ」「ユモトさん」「ムツヤさん」 そう言ってムツヤはユモトに抱きついた。ユモトはよしよしと抱きしめたまま頭を撫でる。どうしてこうなったと、モモは頭を抱えた。「ムツヤ殿は泣き上戸で、ユモトは陽気になるんだな……」「モモさん、俺は立派なハーレムを作ってみせますよ」 ギルドの新参者なのにこんなに騒いで周りに目をつけられないか心配だったが、周りも大概騒がしかったので大丈夫そうだった。「ムツヤ殿、人前でハーレムと騒いだらダメだと言ったではないですか」「ごめんなさいモモさん捨てないでぐださい」「うっ……」 酔っ払っているとはいえ、子犬のように覗き込んでくるムツヤを見てモモは照れて顔をそむける。「わ、私はムツヤ殿の従者です。ムツヤ殿が私を必要としなくなるまでお側にいますよ」「それじゃあ一生ずーっと一緒に居てくれるって事ですね、やったー!!!」 モモは飲んでいたウィスキーを口から吹きそうになった。酔ってもあまり顔に出ないモモだったがそれとは別で顔が火照ってしまう。「ムツヤ殿酔い過ぎです! それにそういう恥ずかしいことはその」「やっぱりモモさんは俺と一緒に居たくないんだ!!うわああああ」「大丈夫れすムツヤさん、僕はずっとムツヤさんと一緒れすお!!」「ユモトさん」「ムツヤさん」 2人は見つめ合ってまたムツヤがユモトに抱きついた、これ以上は何かがまずいとモモが止めに入ろうとしたその瞬間。 火のような赤髪の女がドンとジョッキをカウンターに叩きつける、するとムツヤ達だけではなく冒険者ギルドの食堂に居る他の客にも一瞬の静寂が訪れる。「ったく、イチャついて馬鹿騒ぎしてんじゃないよ」 女はそう言ってムツヤとユモトを睨みつける。が、2人の勢いは止まらなかった。「あの人『赤髪の勇者アシノ』ですよ!」 赤髪の勇者と言えばモモも聞いたことがある。かつて魔人を倒せるのでは
last updateLast Updated : 2025-11-21
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悲劇の勇者

 今更自分の能力は「ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力」だとは言えなくなってしまったアシノは、その泥で作られた助け舟に乗ることにする。「あ、あぁ、何ていうか、魔人も倒せるけど世界も滅ぼしかねないっていうかーその、うん」 その噂は広まりに広まって『悲劇の勇者アシノ』は生まれる。ちなみに魔人はアシノが能力を授かった三日後に後輩の勇者に倒されてしまった。 アシノは荒れに荒れた。毎日の様に酒を飲み、イライラとしていた。はじめは同情していた仲間たちも愛想を尽かしてどこかへ消えていく。―――――――――――――― その元仲間の蹴りでアシノは今吹き飛ばされていた。木に思い切り叩きつけられて呼吸が出来ない。「おい、裏の住人。この国での殺人は10人中3人が家族や親類によるものなんだ」 突然ウートゴは語り始める。「家族ですら分かりあえず殺し合うってのに他種族と分かり合えるなんて出来ると思うか?」 そして、ニヤニヤと笑って言う。地面を這いつくばるアシノは息も絶え絶えにそれを否定する。「お前の考えは独りよがり…… だ……」「あぁ、独りよがりで結構。俺は他種族を滅ぼしたい、だからキエーウに入った」 今になってユモトとモモとヨーリィの3人が追い付く。ムツヤから預かっていた病気の治るポーションを飲んだので全員酔いはすっかり醒めていた。「女みたいな男と、下劣なオーク。そして死体がお仲間とは、相当変な趣味を持っているようだなお前は」 モモは激しい怒りの顔を作りウートゴを睨みつける。 自分を侮辱されたからではない、オークという種を侮辱されたこと。そして男が自分の村を襲った組織の一員だからだ。「皆のごどを悪く言うな!」 魔剣ムゲンジゴクを構えたムツヤはウートゴに斬りかかる。だがその一撃はかわされてしまった。「無駄だよ、確かに実力で言えばお前のほうが遥かに上だが」 木の枝に飛び乗ってウートゴは続けて言う。「お前、人を斬ったことないだろ? 今のは殺す剣じゃない、恐いか? 人を斬るのは」 うっとムツヤは言葉に詰まってしまった。確かにウートゴは憎いが本当に殺す気はムツヤになかったのだ。「おしゃべりはこれぐらいにしておくか、じゃあな。裏の住人と悲劇の勇者よ」 悲劇の勇者と言われ、アシノは落ちていた石をウートゴに投げつけるが、それは明後日の方向へ飛んでいった。「
last updateLast Updated : 2025-11-23
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勇者と裏の住人

 正論を突き付けられてモモも押し黙ってしまう。ヨーリィはちびちびとオレンジジュースを飲み続けるだけだ。「アシノ殿はもう一度剣の鍛錬や魔法を学び直すつもりは無いのですか?」 モモがそう言った瞬間、アシノは歯を食いしばり恐ろしい表情を作った。「私が何もしなかったと思うかい? あの日から手が血まみれになるほど剣の鍛錬も、頭がおかしくなるほど魔法の勉強もしたさ」 グラスを強くテーブルに置いて続けて言う。「しかし、剣は素人以下、魔法は使おうとすると頭にモヤがかかったみたいになってどうする事もできない! お前にこの気持ちが分かるか!?」 言われてモモは自分の思慮の浅さを後悔した。「申し訳ありません! 今の私の発言は軽率でした」 モモは立ち上がり、深々と頭を下げる。「いや、私もちょっと気が立ってたよ、悪かった。座りなよ」 そう促されてモモはまた一礼して椅子に座った。アシノは酒のおかわりを頼んだ。「あ、もしかしていい手があるかもしれません」 ムツヤは急に声を出した、皆の視線がムツヤに集中する。「ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力でも戦えるかもしれません!」「なーに馬鹿なこと言ってんだよ」 酒で赤い顔をしたアシノがグラスをつまんで持ち上げながら全く興味が無さそうに言った。「これ、じいちゃんは子供のいたずらに使うものだろうって言ってたんですけど」 そう言ってムツヤはカバンから1本のワインボトルを取り出す。「このビンのフタって何度抜いても次々生えてくるんですよ」 それを聞いたアシノはピクリと反応しムツヤを見た。「それは本当か?」「えぇ、本当でずよ」 半信半疑に机の上に置かれたワインボトルを見る。じーっと眺めること数秒、その後にアシノはワインボトルを手にした。「物は試しだ、店の外で飛ばしてみよう」 アシノは立ち上がると店の外に出る。皆もそれに付いて出ていく。「とりあえず真上に飛ばしてみるぞ」 そう言ってアシノは能力を使った、瞬間音が響く。通常ビンのフタを抜いた時のスッポーンという音ではなくパァンと何かが弾けるような音とともにビンのフタは夜空に消えていく。 肝心のワインボトルはと言うとまたフタが付いていた。アシノは2発3発とビンのフタを打ち上げた。 次に、木に向かって飛ばす。コルクがぶつかった瞬間。粉々に散ってその威力の高さが分かった
last updateLast Updated : 2025-11-24
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