もうお互い、赤の他人だ。「俺はお前の父親だ!」達也は免罪符でも手にしたかのように、同じ言葉を繰り返した。「それだけは、何があっても変わらない事実だろうが」杏奈は足を止め、射殺すような冷ややかな視線を向けた。「……何が言いたいの?」こみ上げる復讐したい衝動をここまで抑えられているのは、我ながら大したものだ。ようやく本題に入る気になったか、杏奈の態度からそう察したのか、達也はにやりといやらしい笑みを浮かべた。「その……杏奈ぁ……」「その呼び方はしないでと言ったはずよ」「わかった、もうやめる。実はな、今ちょっと困ったことになってて、お前に助けてほしいんだ。娘として、親孝行くらいしろ!まさか断らないよな?」家族の情に訴えかける陳腐な手口。笑えるほど見え透いている。「藤本達也。情で私を縛れるとでも?私たちの間に、そんなものがあると思う?」杏奈は冷ややかに言い放った。縛るものが何もなければ、そもそも相手にする義理すらない。「俺はお前の……」「もういい」杏奈は静かに、だがピシャリと遮った。「何を頼まれても、答えは『ノー』よ。困ったことがあるなら、愛する娘の紗里に頼めばいいじゃない。私には来ないで」言い終えると、杏奈は達也を避けて歩き出した。達也がまた立ちふさがろうとしたが、裕司の大きな体が再び壁となり、達也は弾き飛ばされて無様によろめいた。「杏奈!聞けよ!紗里は、俺が困ってれば絶対に見捨てない。お前みたいな恩知らずとは違うんだ。実の父親に向かってその態度はなんだ!」このレストランはルミエールから近く、昼食に来る客の多くは会社の幹部たちだ。達也はそれを知っていて、わざと大声で騒いでいるのだ。杏奈の評判を傷つけ、社内で孤立させようと目論んで。「親不孝」という烙印は、「人でなし」というレッテルを貼られれば、世間の目は冷たくなる。しかし、達也が次の言葉をわめき散らすより先に、店員が物理的にその口をふさいだ。屈強な警備員が二人がかりで男を取り押さえ、そのまま店の外へ引きずり出していく。そう、このレストランは裕司の出資先でもあった。共同オーナーとして、店内の「不要なもの」を排除するように指示するのは、当然の権利だ。「先輩、ありがとう」杏奈が振り向くと、裕司は軽く肩をすくめた。「俺たちの間で、そんな言葉はいらな
Read more