Masuk朝、いつものように委員会活動という名の服装チェックを校門前でしていると、とある噂話が聞こえてきた。
「あの鉄子が王子と付き合っているらしい」、と。鉄子とはもちろん私、鉄崎柚子のことであり、王子とはそう間違いなく、疑う余地もなく、あの私の推し、沢村悠里くんただ1人である。
沢村くんに告白され、数日。
まだまだ私たちの関係について半信半疑である声もよく耳にするが、私たちは間違いなく、数日前から付き合っていた。 何と幸せな事実なのだろうか。嬉しさと幸せのあまり緩んでしまいそうになっていた顔に、ぐっと力を込める。
すると、人混みの中からとんでもないイケボが私に向けられた。「おはよう、鉄崎さん」
この声は間違いなく沢村くんだ。
せっかく力を入れた表情筋が、思いがけず、緩みそうになる。「おはよう、沢村くん」
しかし私はそれでも、頬に力を入れ、いつもの〝風紀委員長〟の顔を作った。
そして、そんな私の視界に、とんでもなくかっこいい、王子と呼ばれていることにも頷ける、眩しい存在が飛び込んできた。 もちろん、沢村くんだ。 悠里くんは、どこかぎこちなく私に微笑んでいた。 朝日を浴びて微笑む推し、素晴らしすぎて涙が出そうだ。「…そ、それじゃあまた」
「うん、またね」
挨拶もそこそこにその場から離れる沢村くんに、私はにやけそうな顔に、さらに力を入れて、何事もないように対応する。
彼女だからこうやって挨拶してもらえるんだよね!
以前の私は、数ある生徒の1人として、沢村くんに挨拶していたし、沢村くんも私1人に対して挨拶なんてもちろんしてくれていなかった。
そういう関係だった。それが今では目と目を合わせて挨拶する仲だ。
付き合うって本当に素晴らしい。「…あれ、本当に付き合っているのか?」
「誤情報じゃね?」
「えー。でも確かに付き合っているって聞いたけど」
私たちの会話に、何やら周りの生徒たちがざわざわし始めたが、私は特に気にしなかった。
私についての噂なんてよくあることだし、いちいち聞き耳を立てていては仕事にならない。噂話ではなく、集中しなければならないのは、生徒一人一人の服装の確認だ。
ぼーっとただ見ているだけでは、見逃す可能性だってある。隠すように付けているピアス、腕輪、ネックレス。
こっそりしている化粧。入れ忘れたシャツに、付け忘れたネクタイにリボン。間違い探しのようにしっかり見なくては、生徒たちも対策をしてくるのだ。
そう、だからしっかりと…。人混みを睨みつけている私の視界に、集中しなくても、目に入ってしまう存在が現れる。
その存在は、今日も遠くの方から、キラキラと金髪を輝かせていた。 周りと比べて身長も高いので、遠くにいても、よく目立つ。「こらこらこらこら!」
ずんずんと一歩一歩力を込めながら、今日もダイナミック校則違反者の元へと向かう。
そんな私を見てダイナミック校則違反者こと、千晴は「あ、先輩、おはよぉ」と機嫌よく笑ってきた。「おはよぉ、じゃない!今日もなんて格好で登校してんの!」
千晴の元までやってきた私は、まず目に付いたネクタイをギュッと締める。
それから何故か開いているシャツの下のボタンをせっせと留め始めた。「何でこんなところまで開いているかな?あとピアス、それも外して。髪も黒にしなさい」
ボタンを止め終わった後、バンッと千晴の胸を叩いたのだが、千晴は何故か嬉しそうで頭が痛くなる。
コイツには本当に何を言っても響かない。
「もう!このままだと放課後にたんまり反省文書かせるよ!?それでもいいわけ!?」
あまりにも何も響かないので、私はついに千晴を睨みつけて、そう脅した。
もちろん風紀委員長だからといって、一生徒の私が、誰かに反省文を書かせる権限などない。 だが、少しでも脅しになればと思いそう言った。誰だって貴重な放課後に反省文なんて書きたくないだろう。
「すみません、それだけはやめてください。明日からちゃんとします」
そう申し訳なそうに言う千晴を期待し、千晴を見つめれば、千晴はどこか楽しそうに笑っていた。
「じゃあ先輩、放課後ちゃんと付き合ってね」
「はぁ?」
何故なんだ。
目の前にいる千晴の考えがさっぱりわからず、眉間にシワを寄せる。何故、楽しそうにしているんだ、この男。
わくわくしていないか?「と、とにかく!次、またこんな格好で私の前に現れたら反省文だから!あとで後悔しても遅いからね!?1日では終わらない量を書かせるから!」
ビシッと人差し指で千晴を指差す。
すると、千晴は嬉しそうにその人差し指に自身の小指を絡めて、「約束だからね」と何故かどこか嬉しそうに笑ってきた。本当に意味のわからない男だ。
***** 次の授業を受けるべく校舎内を移動していると、それは突然始まった。「で、アンタたちって結局付き合ってるの?」
「え、もろちん」
私の隣を歩く雪乃の質問に、私は首を傾げながらも答える。
無表情な雪乃の当たり前すぎる質問の意味が全くわからない。「じゃあ聞くけど付き合ってから何したの、アンタたち」
「え、あ、挨拶、とか」
「とか?」
「め、目を見て挨拶とか…」
雪乃の質問に、同じような答えしか言えず、ついには、言葉を詰まらせる。
私たちは雪乃の指摘通り、何もしていない、と今やっと気がついた。確かに付き合うようになってから、目を合わせて互いに挨拶をするようになったが、それだけで。
よく話に聞く、一緒に登下校だとか、昼食を食べるだとか、そういうことは一切していなかった。それどころかよく考えると連絡先さえも知らない。SNSだってもちろん繋がっていないし、知らない。
何も知らない。 挨拶をきちんとするようになっただけだ。 付き合う前とほぼ状況は変わらない。「…やっぱり何もしていないわよね。アンタ朝は気がつけば校門にいるし、昼は基本教室で私と食べているし、放課後は委員会活動でしょ?隣にいる私でさえもアンタと王子の関係が全くわかんないし」
「あー。うん」
「それでアンタたち本当に付き合ってるの?」
「…うん」
先ほどは、何を当然のことを、と思っていた質問も、今では意味が違って聞こえてくる。
雪乃は改めて私たちの関係を確認しているのだ。 あまりにも変わらない私たちの関係を。「いい?バスケ部の王子こと、悠里くんの恋愛ごとは、誰もが注目するセンシティブな話題なのよ?常にいろいろなところに目があると思った方がいいわ。それでここ数日、アンタたちの関係がどう見られているか知ってる?」
「え?んー。まさか付き合うとは思わなかった意外な組み合わせ、とか?」
「違う。本当に付き合っているのか、よ」
「ええ!?」
雪乃のどこか神妙な言葉に、思わず大きな声を出してしまう。
付き合う以前とそんなに変わらないとはいえ、会えば必ず見つめ合って挨拶をする仲なのに!
そんな姿を見て何故!?それを雪乃に伝えると「友達でも知り合いでも見つめ合って挨拶くらいするでしょうが」と呆れながらツッコまれた。
…確かにそうだ。「でもじゃあ何でまだ付き合っていない、じゃなくて、付き合っているのか、と疑われているのかわかる?それは王子が告白されそうになった時に、アンタと付き合っているからって断っているからよ。それと、バスケ部連中もその事実をとにかく言い回っているみたい」
「…っ!」
雪乃に教えられた事実に私は目を大きく見開く。
それから自分のことを責めたい気持ちでいっぱいになった。私は何の為に推しと付き合うという名誉を授かったのか。
推しを告白の嵐から守る為に、そのついでに幸せなおこぼれを頂く為に、推しと付き合い始めたのだ。 それを付き合っているという事実だけに満足して、普通の生活を送り、本来の仕事もせずに推しを窮地に立たせるなんて。何ておこがましい!
沢村くんを推す者として恥ずかしいの極み!「ちょっとケジメつけてくる!」
自分の失態に気がついた私は、雪乃にそう言うと慌てて、沢村くんの教室へと向かった。
そして沢村くんの教室を見つけると勢いよく、ドアを開けた。「沢村くん!」
いるかいないかわからないが、とりあえず沢村くんの名を呼んでみる。
すると「え、鉄崎さん?」と驚きながらも、不思議そうにこちらを見る沢村くんと目が合った。 不意を突かれてきょとんとしている沢村くんもかっこいいし、可愛い。「ちょっと今いい?」
「え、うん、大丈夫だけど」
沢村くんの元へと向かおうとしたが、それよりも早く沢村くんが、私の元までやって来てくれる。
私たちは沢村くんの教室の出入り口で向き合った。「どうしたの?急ぎの用事?」
突然現れた私に、ただならぬ何かを感じたのか、少しだけ心配そうに、私を沢村くんが見る。
沢村くんにとっては意味のわからない状況だろうに何と優しいのだろうか。 私の推し、やはり人間として素晴らしい。「今日の放課後、一緒に帰らない?」
「え」
私の突然の誘いに、沢村くんは、驚いたように、瞬きを繰り返す。それと同時に、またあの可愛いきょとんとした表情を浮かべた。
そして私たちの様子を見ていた生徒たちはというと、「…わざわざここに来るなんてやっぱり付き合っていたのか」
「一緒に帰ろって言ってない?」
「うぅ、私、本気で悠里くんが好きだったのに…」
と、様々なことを口にしていたが、そこに私たちの関係を疑うものはなかった。
よし、とりあえず、私たちの関係を見せつけられた!…かな?
放課後、いつものように風紀委員室へと向かっていると、バスケ部の顧問、冨岡先生に声をかけられた。『鉄崎!ちょうどよかった!俺、これから会議だから、これ、バスケ部の部室まで届けてくれないか?』そう言われて渡されたのが、この大きな茶封筒だ。どうやら練習スケジュール等が入っているらしい大事な封筒を抱えて、私は今、バスケ部の部室へと向かっていた。その道中、ちらりと封筒の中身を見てみたが、さすが強豪校なスケジュール内容で、私は驚嘆した。スケジュールによれば、悠里くんの休みはほぼないに等しかった。一度、校舎外に出て、部室棟へと歩みを進める。階段を上がり、左から三つ目の部屋こそが、バスケ部の部室だ。辿り着いた扉の前で、私は扉をノックしようとした。「いやぁ、鉄子さまさまだな!」だが、部室内から聞こえてきた明るい声に、つい反射でその手を止めた。…一体、何の話をしているのだろうか。それも私について。特に気にせず入ってもいいのだが、何故か今はその気になれない。部室の扉の前で何となく止まっていると、部室内のバスケ部員たちは、私に聞かれているとも知らずに、私についての会話を続けた。「鉄子に玉砕大作戦がここまで成功するとはな!」明るい声は引き続き、楽しげに声を弾ませている。「今やお前ら2人は誰もが認めるカップルだもんな。ファンたちもお前たちを応援してるし、そのおかげで結果も出たし」「ウィンターカップベスト8達成はやっぱでかいよなぁ。去年は2回戦敗退だったし。先輩たちも最後は負けたけど、いい顔してたよな」「鉄子のおかげで悠里が練習に参加できていると言っても、過言ではなぁい!」それから他の部員たちも、その声に応える形で、様々なことを口にしていた。扉の前で、私は思った。これは聞いてはいけない会話だったのではないだろうか、と。今、ここでこの扉を私が開ければ、気まずさMAXだ。それどころか〝鉄子に玉砕大作戦〟が本人である私にバレた以上、作戦続行は不可能と判断され、作戦終了のお知らせがくる可能性だって十分にある。そんな惜しいことしてたまるか。まだ悠里くんの壁という名の彼女でいたい私は、その場で何とか息を殺して、ゆっくりと後ろへと下がった。ーーーその時。「あれ?鉄崎先輩?」「…っ」突然、誰かから声をかけられて、私は大きく肩を揺らした。喉まで上がっ
「悠里くん、おはよう」悠里くんの姿に、嬉しくて嬉しくて、つい緩くなってしまった口元に力を込め、私はいつも通り悠里くんに挨拶を返した。しかし悠里くんは突然、どこか暗い表情を浮かべた。一体、この一瞬で何が悠里くんの表情を曇らせてしまったのだろう。このままではいけない、と何が原因なのか突き止めようとした、その時。私は悠里くんの暗い視線の先に気がついた。悠里くんの視線の先には、我が物顔で私のマフラー(過去)を巻いている千晴の姿があったのだ。まさかあれが原因なのか?私が千晴にマフラーを貸していると思って、嫌な気持ちになってる?せっかく築き上げてきた、私と悠里くんの関係が疑われる要素になるから、とか?「ゆ、悠里くん。千晴のあれはね、もう私のマフラーじゃないんだよ?貸してるわけじゃないの」「…え?」おずおずと千晴のマフラーについて切り出した私に、悠里くんが不思議そうに首を傾げる。よく状況を飲み込めていない表情だ。「これいいでしょ?先輩が使ってたやつ、クリスマスプレゼントでもらったんだよね」そんな悠里くんに私が詳しく説明するよりも早く、千晴は何故か勝ち誇ったように笑った。千晴の笑みの理由はよくわからないが、千晴の説明に便乗して、私は「そう!」と明るく頷く。「ふーん。そっか…」すると、悠里くんはどこか面白くなさそうに、小さくそう呟いた。あ、あれ?何で?「先輩、クリスマスは楽しかったねぇ。これ、貰えて、めっちゃ嬉しかったし。俺があげたクリスマスプレゼント、先輩、ちゃんと付けてる?」様子のおかしい悠里くんなど気にも留めず、千晴が楽しそうに笑う。そんな千晴を無視するわけにもいかないので、私は一旦、悠里くんのことは置いといて、千晴に応えることにした。「付けてません。校則違反になるからね」「そっかぁ。じゃあ、一回くらいは付けてくれた?」「まぁ、うん。あれ可愛いし、付けれる時には付けてるよ。ありがとね、千晴」「ふふ、どういたしまして」淡々と答える私に、千晴は柔らかくその綺麗な瞳を細める。その微笑みがどこか眩しく感じて、私は首を傾げた。ーーーその時。「柚子」悠里くんに優しく名前を呼ばれて、私の思考は一瞬で、千晴から悠里くんへと引き寄せられた。「俺たちも年末、少し遅れたけどクリスマスしたよね。これ、めっちゃ着心地いいよ。俺のこと考えて
あっという間に年末年始が過ぎ、冬休みが終わった。寒空の下、新学期を迎えた校内の下駄箱前で、私は今日も朝から生徒たちの波に厳しい視線を向けていた。もちろんここに立っている理由は、朝の委員会活動でだ。生徒たち一人一人をじっくり見つめながら、私は充実していた冬休みに思いを馳せていた。ウィンターカップでの私の推し、悠里くんのかっこよさが忘れられない。コートを縦横無尽に走り回る勇姿にどれほど感動し、またその姿に少しでも彼女という名の壁として貢献できたことがどれほど誇らしかったことか。少し遅れた悠里くん一家とのクリスマスは最高に楽しかったし、クリスマスプレゼントまでもらえて、最後にはキ、キスまでしてしまった。なんと幸せな冬休みだったか。私は前世でどんな徳を積んでいたのか。悠里くんのことで頭がいっぱいだったが、ここでふと冬休みといえばと、千晴の顔も思い浮かんだ。この冬休みで何かと謎の多かった千晴を、私は少しだけでも知れた気がしていた。家庭環境や今までしてきた苦労、きっと私が知らない千晴の一面はまだまだたくさんあるのだろうが、それでも少しでも知れたことに意味がある。どこか寂しげで独りぼっちな千晴を、私はもう1人にはしたくない、と思った。それに千晴とのクリスマスも案外楽しかった。2人でゆっくりと過ごした時間は暖かく穏やかで、とても優しい時間だった。千晴のことを考えると、胸がぎゅう、と締め付けられる。温かくて、でもどこか苦しくて切ない。原因はわからない。最近よくある正体不明の不調だ。…いけない、いけない。今はこんな考えてもわからないことに、時間を割いている場合ではない。私は軽く首を横に振って、私の思考からさっさと千晴を追い出した。今は生徒たちの服装チェックの時間だ。冬休み明けは夏休み明け同様、生徒たちの気が緩む。少し気を抜くと、すぐに校則違反生徒を見逃してしまう。気持ちを切り替えて、再び生徒の波に厳しい視線を向けていると、その波の奥から朝日を浴びてキラキラと無駄に輝く金髪が現れた。あの堂々としたダイナミック校則違反は間違いなく、紛うことなく、100%、千晴だ。「華守千晴!」人混みの中から厳しい声で千晴を呼ぶ。すると、千晴は嬉しそうにこちらに歩み寄ってきた。「おはよぉ、先輩」「おはよぉ、じゃない!今日も今日とて違反が多すぎる!」
すっかり日も暮れ、沢村一家とのクリスマス会はお開きとなった。暗くなり始めた空には、ポツポツと輝く星が見え出している。もうすぐ夜だ。名残惜しくも悠里くんの家から帰ることになった私は、寒空の下、悠里くんと共に並んで駅まで向かっていた。私の横を歩いてくれている悠里くんを、チラリと盗み見る。吐く息は白く、鼻先が少し赤い。寒そうな悠里くんに私は申し訳なさと、それから嬉しさでいっぱいになった。推しをこんな寒い中、歩かせたくない。今すぐにでも暖かい場所に戻ってほしい。けれど、まだ一緒に居られることが嬉しい。幸せな気持ちを噛み締めながらも、肩にかけてあるトートバッグの紐をぎゅう、と握る。この中には悠里くんへのクリスマスプレゼントがある。別れ際に絶対に渡さなければ。「…ねぇ、柚子。ちょっと寄り道してもいい?」突然、伺うように悠里くんに瞳を覗かれて、一瞬、その尊さに息を呑む。何をさせても絵になる罪な男。それが私の推しである。「う、うん。もちろん」この胸の高鳴りを悠里くんには絶対に悟られまいと、私はいつも通りの平静を保って、笑顔で頷いた。*****悠里くんに連れられてやってきたのは、駅からほんの少し離れた、とある広場だった。ビル群の中にあるその開けた場所には、普段は住民たちの憩いの場として自然が広がり、ベンチや子どもたちが遊ぶ広いスペースがある。だが、今日はそこが少しだけ違った。生い茂る木々には、暖色のイルミネーションが施されており、その他にも様々なクリスマスに関するオブジェが並べられている。もちろんそのオブジェたちも木々のイルミネーションのように暖色の光を放っていた。もうクリスマスは終わってしまったが、ここはまだクリスマスのままだった。「…うわぁ」広がる光の海に、思わず感嘆の声を漏らす。するとそんな私を見て、悠里くんは柔らかく笑った。「ここ綺麗でしょ?柚子と一緒に来たかったんだ」私をじっと見つめて離さないその瞳には、どこか甘い熱がある気がして、心臓がゆっくりと加速し始める。すごくすごく反則な視線だ。心臓に高負荷がかかってしまう。このままではムキムキな心臓になってしまう。イルミネーションよりも眩しい推しに、つい瞳を細めていると、悠里くんはダウンのポケットから何か小さな箱を取り出した。「これ、クリスマスプレゼント」悠里くん
それから私たち4人でのクリスマスパーティーは始まった。リビングの大きなテーブルには、悠里くんと私が作った料理が並べられており、それをみんなで食べながら、話に花を咲かす。時間を忘れて楽しいひと時を過ごしていると、机を挟んで向こう側に座る里緒ちゃんが、ふと、明るい顔で口を開いた。「ねぇ、柚子ちゃん。柚子ちゃんはお兄ちゃんのどんなところが好き?」「え?」里緒ちゃんの可愛らしい質問に私は目を丸くする。「んー。いっぱいあるなぁ…」そして箸を置き、視線を左上へと向けた。正直、好きなところをあげるとなると、一日中でもあげ続けられる。しかし、それは流石によくないだろう。重要な部分だけでも伝えなければ。そう思い、じっくり思案していると、隣にいた悠里くんは「無理に答えなくてもいいよ」と、気遣うようにこちらを見てきた。里緒ちゃんの隣にいる里奈さんは「いい質問だねぇ」と楽しそうだ。全員の視線を浴びながら、私はゆっくりと話始めた。「えっと…、まずは誰にでも優しいところが好きで、周りをよく見てて、気配りができるところも好き。あとはバスケをしているところもかっこいいし、笑顔も眩しいし、たまに見せてくれる男の子っぽいところも好きだし、見た目も非の打ち所がなくて…」「ま、待って!もういい!もういいから!」まだ重要な部分を全て伝えきれていないのだが、真っ赤な顔の悠里くんからストップが入り、もう喋れなくなる。強制終了だ。まだまだ言い足りず不満げに悠里くんを見ると、悠里くんは恥ずかしそうに、フイっと、私から視線を逸らした。…か、可愛い。耳まで真っ赤だ。ついつい可愛らしい悠里くんに頬が緩む。すると、今度は里奈さんが怪しく笑った。「柚子ちゃんだけ悠里の好きなところを言うのはフェアじゃないよね?悠里も言おうか」ふふふ、と笑う里奈さんに、少しだけ悠里くんが嫌そうな顔をする。だが、すぐに「…わかった」と小さく頷いた。おおおおおおお、推しが!?私の好きなところを言ってくれるぅ!!!!????今まさに大決定されたとんでもないことに嬉しさのあまり、叫び出したくなる。もちろん、表向きはあくまで冷静に、にこやかにしているが、内なるリトル柚子は喜びで大はしゃぎだ。今から悠里くんが言ってくれる私の好きなところを、一言一句聞き逃してはいけない。今日からそこが私のウィークポ
「…やったぁ」無事に完成したクリスマスケーキに、ホッと一息つく。そこで私はやっと息を吸えた。するとそんな私を見て、悠里くんは「ふ、ふふふ」と耐えきれない様子で笑い出した。…可愛い。ではなく。一体どうして急に可愛らしく笑い出したのだろうか?不思議に思いつつ、じっと悠里くんを見ていると、悠里くんは笑いながら、私の顔に手を伸ばした。そしてそのまま、クイッと悠里くんの親指が私の頬を拭った。「ついてたよ」おかしそうにそう言い、私に見せてきた悠里くんの親指には、かなりの大きさの生クリームが付いている。何故、その大きさの生クリームが今の一瞬でついたのかわからない。だが、あれこそが悠里くんが急に笑い出した原因なのだと、私は理解し、赤面した。恥ずかしすぎる…。穴があったら入りたい。自分の失態に頭を抱えていた、その時。「やだぁー!わたしもお姫様とクリスマスパーティーするのー!」扉の向こうから何やら抗議している様子の里緒ちゃんの声が聞こえてきた。 「だからダメだって!クリスマスパーティーは昨日したでしょ!?それに今日はもうお出かけしていっぱい遊んだじゃん!」「嫌だ嫌だ嫌だぁ!わたしもお姫様とパーティーしたいぃぃぃ!」それからそれを跳ね除ける里奈さんの声と、それでも抗議をやめない里緒ちゃんの声が続いた。2人の声に、一気に気持ちが明るくなる。今日は会えないと思っていたので、嬉しいサプライズだ。「クリスマスパーティーするの!」「ダメ!」「ダメじゃないもん!」「ダメです!」未だに続く2人の言い争いに、悠里くんは「あー。姉ちゃんたち帰ってきたね」と慣れた様子で苦笑いを浮かべていた。2人の可愛らしい口論は、どうやら悠里くんにとっては日常みたいだ。「里緒、柚子のことすっかり気に入って…。あれからまた会いたいて、ずっと言っててさ」困ったように笑う悠里くんに、心がほんわかする。なんと可愛らしい妹さんなのだろうか。「悠里くんさえよければみんなでクリスマスパーティーやらない?」里緒ちゃんの可愛らしい抗議に、私は気がつけばそう悠里くんに提案していた。そんな私に悠里くんは驚いたように目を見開く。だが、その目はすぐに私の様子を伺うものへと変わった。「本当に?里緒、すごい喜ぶと思うけどいいの?」「うん。多い方が賑やかで楽しいだろうし」微笑む私に