Alle Kapitel von 氷の令嬢の転職計画〜私を追放した祖国が破産寸前ですが、今は皇帝兄弟からの過剰な愛情表現の処理で手一杯です〜: Kapitel 11 – Kapitel 20

51 Kapitel

第10話『一方その頃、祖国では(1)』

その夜、グランゼール王国の王城は、文字通り「暗黒」に包まれていた。 建国記念祭の華やかな熱気は完全に冷え切り、城内の魔導灯は一つ残らず沈黙している。予備の古びた燭台から放たれる頼りない炎だけが、冷たい石造りの廊下を薄暗く照らしていた。 「……寒い。おい、暖炉の火はどうした! なぜ火の魔石を補充しない!」 執務室の豪奢なデスクに突っ伏していた王太子アルフォンスが、苛立ちに任せて声を荒らげた。 彼の隣のソファでは、自称聖女のミリアが安物の毛布に包まり、ガタガタと震えている。あの婚約破棄の夜、エルゼに最高級の特注ドレスを没収された彼女は、今や侍女の予備着のようなみすぼらしいワンピース姿だった。 「アルフォンス様ぁ……ひどいですぅ。お城のベッドも冷たいし、お湯も出ないなんて。私、お肌がガサガサになっちゃいますぅ……」 「我慢してくれ、ミリア。すぐに復旧するはずだ。おい、誰かおらんのか!」 アルフォンスの怒鳴り声に応えるように、バタンッと勢いよく執務室の扉が開いた。 転がり込むように入ってきたのは、顔面を蒼白にした王国財務大臣だった。その手には、震えるほどの厚さの報告書が握られている。 「で、殿下ァァッ! た、大変でございます! 国家の非常事態です!」 「うるさい、大袈裟な奴だな。どうせエルゼの嫌がらせだろう。あの女が管理していた魔力回路の権利を、力ずくで国庫に没収すれば済む話ではないか」 「それが、不可能なのです! ブラウベルト公爵家は、すでに王都の全インフラ設備の『所有権』を他国へ売却し、一族郎党を連れて領地へ引き払ってしまいました! 今、この城の魔力回路を勝手にいじれば、それは『帝国』への明確な器物損壊(敵対行為)とみなされます!」 「なっ……なんだと!?」 アルフォンスは弾かれたように立ち上がった。 エルゼが自分の元を去ったことなど、彼にとっては「生意気な女が消えて清々した」程度の認識でしかなかった。少し不便にはなるだろうが、王家の権力さえあればすぐに代わりなど見つかると思っていたのだ。 だが、現実は違った。 「そ、それだけではございません!」 財務大臣は涙目で報告書をめくった。 「王都に続く主要な物流網である『ブラウベルト運河』および『東部街道』が、公爵家の私兵によって完全封鎖されました! 理由は『通行税の
Mehr lesen

第11話『不採算部門(腐敗貴族)のリストラを開始します』

アウグスト帝国は、圧倒的な実力主義を掲げる超大国である。 しかし、どれほど巨大で優良な企業(国家)であっても、組織が大きくなれば必ず「淀み」は生まれる。 「……なるほど。見事なまでの粉飾決算ですね。旧態依然とした手口ですが、監査の目を誤魔化すための帳簿の二重化プロセスだけは評価してあげましょう」 帝国財務卿の執務室。 私はうず高く積まれた過去十年分の『地方関税報告書』を前に、冷たい笑みを浮かべていた。 先日、ルカ殿下のインフラ整備事業によって物流コストが大幅に削減されたにも関わらず、西部関税区からの税収が私の計算(シミュレーション)と大きく乖離していたのだ。 不審に思った私が、セバスと監査局の精鋭を動員して内偵を進めた結果、一つの巨大な「不正の温床」が浮かび上がった。 「セバス。西部関税区を統括しているのは、ボルマン伯爵でしたね?」 「はい、お嬢様。建国以前から続く名門貴族であり、保守派の重鎮の一人です。……以前から黒い噂は絶えませんでしたが、帝国軍部にも顔が利くため、歴代の財務官僚も手出しができなかった厄介な御仁でございます」 「手出しができない? 呆れた怠慢ですね。会社に寄生して利益をチューチュー吸い取るだけのダニを放置するなど、経営者に対する背信行為です」 私はバインダーに証拠書類を挟み込み、立ち上がった。 「有能な経営者の仕事は、新しい利益を生み出すことだけではありません。会社の屋台骨を腐らせる『不採算部門』を、物理的かつ徹底的にリストラすることです。……さあ、大掃除を始めましょう。ボルマン伯爵を第一会議室へ」 ◇◇◇ 帝城の一角にある、重厚な大理石で囲まれた第一会議室。 そこには、たっぷりと脂肪を蓄え、高価な宝石をこれでもかと身につけた中年の貴族——ボルマン伯爵が、不機嫌そうに葉巻を吹かして座っていた。その後ろには、威圧感を放つ数名の私兵が控えている。 「ふん。わざわざ辺境から呼び出してみれば……帝国財務卿というのは、小国から逃げてきた小娘だったな。女の細腕で帝国の金庫番とは、レオンハルト陛下もご冗談がお好きだ」 私が会議室に入るなり、ボルマン伯爵は鼻で笑い、あからさまな侮蔑の視線を向けてきた。 同席している若手の財務官僚たちが、伯爵の威圧感に飲まれて青ざめている。 「ご足労いただき感謝します
Mehr lesen

第12話『脅しは無意味です、数字は嘘をつきませんから』

ボルマン伯爵の『魔石鉱山への強制出向(終身労働)』が決定してから数日後。 帝国財務卿の執務室の隣に急遽設けられた「特別監査室」は、さながら地獄の裁判所と化していた。 「次の方、どうぞ」 私が冷徹な声で呼びかけると、青ざめた顔で大量の汗を流す太った貴族が、近衛騎士に両脇を抱えられながら入室してきた。帝国南部の穀倉地帯を牛耳る、ギースラー侯爵である。 彼の背後には、同じく監査の順番を待つ十数名の貴族たちが、まるで死刑台の順番を待つ罪人のように震えて列を作っている。 「エ、エルゼ卿……いや、エルゼ様! どうかご慈悲を! 我が家が帳簿をいじったのは、ほんの出来心で……っ」 「慈悲? 監査に感情を持ち込まないでください。時間の無駄です」 私は手元の分厚いファイルを開き、一切の容赦なく事実(数字)だけを突きつけた。 「ギースラー侯爵。貴方は過去五年間、南部で収穫された小麦の三割を『凶作による損失』として虚偽申告し、闇市場に横流ししていましたね。その売却益、推定で金貨八百万枚。さらに、農民から不当に搾取した特別税が金貨二百万枚。合計一千万枚の不正蓄財です」 「そ、それは……っ!」 「すでに闇市場の元締めからの証言も、貴方の隠し金庫の帳簿も押さえています。言い逃れは不可能です。よって、貴方の爵位を剥奪し、全財産を没収の上、南部干拓事業の土木作業員(無給)として再就職していただきます。労働による社会貢献で、横領分をきっちり償ってください」 私が淡々と判決(リストラ通告)を下すと、ギースラー侯爵の顔が絶望から一転、怒りで真っ赤に染まった。 彼はバンッと机を叩き、血走った目で私を睨みつける。 「ふざけるな、この若造が! 私が南部の流通を止めたら、帝都の食料価格がどれだけ跳ね上がるか分かっているのか!? 私の息のかかった大商会が一斉にストライキを起こせば、帝国は三日で兵糧攻めになるんだぞ!!」 侯爵の恫喝。 自分の既得権益を盾にした、古典的かつ悪質な脅迫だ。待合室にいる他の貴族たちも「そうだ! 我々を怒らせれば、帝国の経済は回らないぞ!」と同調して騒ぎ始めた。 しかし、私はため息を一つつき、手元の計算機(魔導具)をカチャリと鳴らした。 「脅しは無意味です。数字は嘘をつきませんから」 「……何?」 「貴方が流通を止めた場合のシミュ
Mehr lesen

第13話『二人きりの残業(皇帝の策略)』

 夜の帳が完全に降りた帝城。 帝国財務卿の執務室では、魔導灯の青白い光の中、私一人だけがデスクに向かって猛烈な勢いで計算機を叩いていた。「……不正蓄財の総額、金貨一千五百万枚。これを東部の農業特区と北部の魔石鉱山のインフラ整備に六対四の割合で再投資した場合の、向こう五年の想定利回り……よし、完璧です」 ギースラー侯爵をはじめとする腐敗貴族たちから没収した莫大な資産。これをただ国庫に眠らせておくのは、経営者として三流のやることだ。私は「生きた金」として市場に還流させるための緻密な再分配計画を、今夜中に組み上げるつもりだった。 しかし、ふと顔を上げて違和感に気づく。「……セバス? お茶のおかわりをお願いします。それから、資料室のBの棚から過去の農地開発のデータを——」 声をかけても、返事がない。 いつもなら私の影のように控えているはずの有能な専属執事も、遅くまで残っているはずの若手官僚たちの姿も、執務室には一切なかった。不自然なほどの静寂だ。「おや、誰もいませんね。全員で夜食の買い出しでしょうか?」 私が首を傾げた、その時だった。「彼らなら、もう帰したよ。『今日は財務卿に極秘の特命を言い渡すゆえ、何人たりともこのフロアに近づくことはまかり通らん』とね。皇帝直々の絶対命令だ」 カチャリ、と執務室の扉が内側から施錠される音が響いた。 振り返ると、そこには漆黒の軍服の胸元をだらしなくはだけさせ、片手に最高級のヴィンテージワインのボトルと、二つのクリスタルグラスを持ったレオンハルト陛下が立っていた。 普段の隙のない冷酷な為政者の顔ではない。 ほんのりと酒の匂いを漂わせ、伏せられた長い睫毛の奥の黄金の瞳には、ひどく甘く、ねっとりとした熱が孕んでいる。完全に「夜の男」の顔だった。「へ、陛下? なぜ皆様を帰してしまわれたのですか。明日の朝までにこの再分配計画を——」「仕事の話はもう終わりだ、エルゼ」 レオンハルト陛下は流れるような足取りで私のデスクに近づくと、私が広げていた計算書の上に、ドンッと無造作にワインボトルを置いた。 そして、椅子に座る私の真横に立ち、その長い腕を背もたれに回して、私の逃げ場を完全に塞いだ。「昼間、君は私のティーブレイクの誘いを『予定が詰まっている』とすげなく断っただろう? だから、君の予定が空くまで待っていたのさ。この
Mehr lesen

第14話『年下の特権』

 帝都ガルデアの東の空が、白み始めていた。 徹夜の激務を終えた帝国財務卿の執務室に、清々しい朝日が差し込んでくる。「……ふぅ。完璧な夜明けですね」 私は大きく背伸びをして、凝り固まった肩をほぐした。 デスクの上には、昨夜レオンハルト陛下という「最強の事務員(CEO)」を酷使して完成させた、厚さ三十センチにも及ぶ決裁済みの書類の山が、誇らしげにそびえ立っている。 本来であれば数日を要する莫大な再分配計画の承認プロセスが、たった一晩で完了したのだ。これで本日から即座に、帝国の各事業へ資金を投下することができる。これ以上の喜び(カタルシス)はない。「さて、始業時間までに顔を洗い、身だしなみを整え——」 私が席を立とうとした、その時だった。「エルゼ! おはよう! 朝一番で東部の農地改良の……って、お前、まさか徹夜したのか!?」 バンッ! と勢いよく扉が開かれ、朝の光とともに第二皇子ルカ殿下が飛び込んできた。 手には分厚い魔導回路の設計図が握られている。朝早くから私のところに成果を報告しに来たのだろう。まるで、ご主人様に褒めてもらおうと尻尾を振って駆け寄ってくる大型犬のようだ。本当に健気で優秀な部下である。「おはようございます、ルカ殿下。ええ、少しばかり残業を。ですが、おかげで今日のインフラ予算はすべて決済が下りましたよ」「少しばかりって、お前、目の下にうっすらクマができてるぞ! 倒れたらどうするんだよ! だいたい、セバスはどうしたんだ。なんでお前一人で……ん?」 私を心配して駆け寄ってきたルカ殿下の足が、ピタリと止まった。 彼の黄金の瞳が、私のデスクの端に置かれたままになっていた『最高級のヴィンテージワインの空ボトル』と、『二つのグラス』を捉えたのだ。 途端に、ルカ殿下の顔からスッと表情が抜け落ちた。「……エルゼ。なんで、執務室にワイングラスが二つあるんだ?」「ああ、それですか。昨夜、レオンハルト陛下が慰労のために持参してくださったのです。お気遣いはありがたかったのですが、アルコールは業務効率を下げますから、私はほとんど口をつけていませんよ」「あ、兄上が……昨夜、ここで、二人きりで……!?」 ルカ殿下の声が、ギリリと歯を食いしばるような低いものに変わった。 周囲の空気がビリビリと震え、彼の体から黄金色の魔力が漏れ出しそうになっている
Mehr lesen

第15話『建国祭のパートナー選び』

 アウグスト帝国の最大行事である『建国祭』まで、あと三日に迫っていた。 帝国財務卿の執務室において、私のデスクの上はかつてないほど綺麗に片付いていた。「……完璧です。各国の要人接待リスト、パレードの警備配置、夜会の予算配分、すべてにおいて一シリングの無駄もなく手配が完了しました。あとは当日のプログラムを滞りなく進行させるだけですね」 私は最後の手順書に承認印を押し、満足げに息を吐いた。 有能な経営者たるもの、大型イベントの直前になってバタバタと走り回るような真似はしない。すべては事前の緻密なシミュレーションと、圧倒的な前倒し進行によって処理されるべきなのだ。 しかし、私の完璧なスケジュール管理とは裏腹に、ここ数日の帝城内は異様なほどの熱気と、殺気立った騒がしさに包まれていた。「……セバス。なんだか外の廊下が随分と騒がしいですが、警備隊のストライキでも起きましたか?」 私が尋ねると、窓際で書類の整理をしていたセバスが、深く、ひどく深いため息をついた。「いいえ、お嬢様。ストライキではありません。……現在、宮廷の貴族たちが真っ二つに割れ、大論争を引き起こしているのです。今朝などは、大広間で両派閥の文官たちが掴み合いの喧嘩にまで発展したとか」「掴み合い? 帝国の頭脳たる文官たちが、なんという非生産的な。議題は何ですか? 来期の関税率の引き下げについてですか? それとも北部開拓の優先権?」「……『建国祭のメインイベントにおける、お嬢様のエスコート権はどちらの殿方にあるか』でございます」「は?」 私は思わず、羽ペンを持ったままポカンと口を開けてしまった。 私のエスコート権? そんな個人の些末な問題で、国家の中枢が真っ二つに割れているというのか?「事の発端は、お嬢様の圧倒的な業績にあります」 セバスが静かに説明を始めた。「お嬢様が財務卿に就任されてから、帝国の国庫は空前の黒字。さらに腐敗貴族の一掃により、空いたポストや新たな利権が大量に発生しています。貴族たちにとって、お嬢様はまさに『富と権力の象徴(金の卵)』。……そのお嬢様の隣に立つ者が、今後の帝国の実権を握る派閥のトップになると、皆が思い込んでいるのです」 なるほど。 つまり、これは純粋な『社内政治(派閥争い)』というわけだ。「現在、宮廷は『皇帝派』と『第二皇子派』に分断されています。
Mehr lesen

第16話『合理的な解決策』

 帝国財務卿の執務室は、水を打ったような静寂に包まれていた。 皇帝派と第二皇子派の貴族たちが固唾を飲んで見守る中、私は手元のバインダーをパチンと閉じ、皇帝レオンハルト陛下と第二皇子ルカ殿下、その両名に向かって堂々と宣言した。「極めて合理的かつ、社内(宮廷)の派閥争いを一瞬で終結させる解決策。それは——建国祭の昼のメインパレードにおいて、私が『右腕にレオンハルト陛下、左腕にルカ殿下』の腕を取り、三人横並びで帝都の大通りを歩くことです」「「…………は?」」 またしても、最高権力者兄弟の完璧なハモリが執務室に響き渡った。 廊下で聞き耳を立てていた貴族たちも「さ、三人で……!?」と目を丸くしている。「待て、エルゼ。お前、自分が何を言っているか分かっているのか?」 ルカ殿下が、信じられないものを見るような目で私に詰め寄った。「僕が徹夜で設計したパレード用の特製魔導馬車は、最高級のクッションを敷き詰めた『二人乗り(ペアシート)』なんだぞ! そこにむさ苦しい兄上が乗ってきたら、狭くてせっかくのロマンチックな雰囲気が台無しじゃないか!」「お前こそ何を言っているのだ、ルカ。皇帝であるこの私が、たかがエスコートの役割を弟と『共有』するなど、帝国の威信に関わる。他国の要人たちに、私が独り占めする力もないと笑われるではないか」 レオンハルト陛下も、額に青筋を浮かべながら極めて不服そうに腕を組んだ。 二人の言い分は、個人の感情(独占欲)とプライドとしては理解できる。 だが、有能な経営者である私の視点は、もっと高く、そして広い『利益』に向いているのだ。「お二人とも、視野が狭すぎます。これはロマンスや個人の面子の話ではありません。国家の『プロモーション戦略』と『コスト削減』の重大なプロジェクトです」 私は黒板(魔導ボード)の前に立ち、チョークを手に取って流れるような図解を書き始めた。「まず、第一のメリット『警備コストの劇的な削減』についてです。通常、皇帝陛下と皇子殿下が別々の馬車に乗るか、離れた位置を行進した場合、それぞれに近衛騎士の護衛部隊と、魔力結界の展開要員を配置しなければなりません」 私はボードに二つの円を描き、その周りに無数の点を打った。「しかし、帝国のトップ3(CEO、現場トップ、財務卿)が密集して陣形を組んだ場合、必要な警備の警戒円(ペリメーター
Mehr lesen

第17話『氷の令嬢の微笑み』

 抜けるような青空の下、アウグスト帝国の首都ガルデアは、かつてないほどの熱狂と歓声に包まれていた。 帝国全土を挙げての最大の行事、『建国祭』の幕開けである。「うおおおおっ! 皇帝陛下、万歳!」「ルカ殿下! 東部の運河、本当にありがとうございます!」「財務卿閣下! 美しい! まるで女神のようだ!」 帝都を貫く大通りを、一台の巨大な特別製オープン馬車がゆっくりと進んでいく。 沿道には身動きが取れないほどの民衆が押し寄せ、色とりどりの紙吹雪が空を舞っていた。 私が提案し、強行採決した『帝国トップ3による相乗りパレード』は、私の事前のシミュレーション(計算)を遥かに超える大成功を収めていた。「……素晴らしい。沿道の観客動員数は昨年の百五十パーセント増。屋台の売上予測も最高数値を叩き出しています。他国の使節団も、我々のこの『強固な一枚岩の陣形』を見て、完全に圧倒されているようですね」 私は馬車の中央の席で、完璧な姿勢と営業スマイルを保ちながら、手元の小型魔導計算機を弾いていた。 この馬車の座席は、ルカ殿下が徹夜で設計変更した特別製の『三人掛けベンチシート』である。「……エルゼ。君は、何十万という民衆の熱狂を浴びているこの馬車の上で、まだ計算機を叩いているのか?」 私の右側に座るレオンハルト陛下が、引きつった笑みを浮かべながら小声で囁いた。 漆黒と金の正装に身を包んだ皇帝が手を振るたびに、沿道の女性たちから黄色い悲鳴が上がる。「当然です、陛下。この熱狂は『プロモーションの成功』というデータに過ぎません。この熱をいかにして来期の税収と経済成長に繋げるかが、経営者の腕の見せ所なのですから」「お前のそういうブレないところ、本当にスゲェよ……。でもさ、エルゼ。ちょっと狭くないか? 兄上がわざと僕の方に幅寄せしてきてるんだけど」 私の左側に座るルカ殿下が、不満げに唇を尖らせた。 純白の皇子服を着崩した彼は、先日のインフラ大工事の噂が広まっていることもあり、平民たちから熱烈な声援を浴びている。「気のせいだろう、ルカ。私の肩幅が広いだけだ。それより、お前こそエルゼの肩に触れすぎではないか? 少し左へ寄れ」「兄上が寄ればいいだろ! これは僕が設計した馬車なんだぞ!」「お二人とも、笑顔です。使節団の視察用魔導カメラがこちらを向いていますよ」 私が小声で
Mehr lesen

第18話『皇帝の宣戦布告』

 建国祭の夜。 帝城の奥深くにある皇帝専用の豪奢な控室は、凍りつくような、それでいて火花が散るような極限の緊張感に包まれていた。「……ルカ。お前の今日の働きは見事だった。昼のパレードの馬車の設計変更、そして群衆を魅了した完璧な魔法の制御。帝国の第二皇子として、立派に役目を果たしてくれた」 漆黒の夜会服を完璧に着こなし、胸元に皇帝の証である大粒のルビーを輝かせたレオンハルト陛下が、クリスタルグラスを傾けながら静かに口を開いた。 その声は、いつもの「余裕のある兄」のものではない。どこまでも冷徹で、絶対的な支配者としての重圧(プレッシャー)を孕んでいた。「だが、お前の妥協はここまでだ。今宵の夜会、エルゼのエスコートは私一人で行う。お前は皇族の席でおとなしく来賓の相手をしていろ」「……断るよ、兄上」 対するルカ殿下は、純白の夜会服の襟元を少しだけ乱し、黄金の瞳に猛烈な反抗心を燃やして兄を睨み返した。 かつて引きこもっていた頃の、ただ怯えて暴走するだけの魔力ではない。彼が今放っているのは、エルゼという『明確な目的』を与えられたことによる、鋭く研ぎ澄まされた強大な意志の力だった。「昼のパレードは百歩譲って三人で歩いてやった。でも、夜会のファーストダンスまで兄上に独占させる気はない。エルゼのあの『金貨八十万枚のドレス』、確かに金を出したのは兄上かもしれないけど、彼女の心を動かしてるのは僕だ」「……ほう?」「エルゼは僕の価値を一番最初に認めてくれた。僕の魔法を『利益になる』って言って、一緒に土にまみれてインフラを造り上げたんだ。ただ権力と金で上から目線で囲い込もうとしてる兄上なんかより、僕の方がずっと彼女の役に立ってる。彼女にとっての『最高の投資先』は、僕だ」 ルカ殿下の真っ直ぐな、そして一歩も引かない宣言。 それを聞いたレオンハルト陛下は、グラスをテーブルにコトリと置き、ゆっくりと立ち上がった。「買い被るなよ、愚弟。彼女がお前を構うのは、お前が『手のかかる出来の悪い現場作業員』だったからに過ぎない。優秀な経営者(彼女)が、不良債権の処理に手間をかけるのは当然の業務だ。それを『愛』だと勘違いするとは、やはりお前はまだ子供だな」「なっ……!」「いいか、ルカ」 レオンハルト陛下は、弟の目の前まで歩み寄り、その長身から見下ろすようにして、絶対的な宣告を
Mehr lesen

第19話『最高権力者たちからのプロポーズ?』

 建国祭のメインイベントである夜会。 帝城の巨大な大広間は、数千個の魔導シャンデリアの光と、着飾った国内外の貴族たちの熱気でむせ返るようだった。「……皇帝陛下、ならびに第二皇子殿下、帝国財務卿閣下のご入場です!」 豪奢な両開きの扉が開き、私たちが姿を現した瞬間。 ざわめいていた大広間が、水を打ったように静まり返った。 右手に絶対的な支配者であるレオンハルト陛下、左手に天才たるルカ殿下。そしてその中央で、金貨八十万枚の『月光蜘蛛の糸』と『海神の涙』を纏った私が歩みを進める。 圧倒的な権力、財力、そして魔力。 他国の使節団たちは、私たちが放つ「一ミリの隙もない陣形」を見て、完全に気圧されたように道を開けていく。(素晴らしい……! これぞ宣伝効果の極致! 私が身につけているこの制服(ドレス)の資産価値と、両脇のトップエグゼクティブたちのカリスマ性が合わさることで、アウグスト帝国のブランド力は今、ストップ高を記録しています!) 私は完璧な営業スマイルを浮かべながら、内心で利益計算を弾き出していた。「さあ、エルゼ。約束のファーストダンスだ。他国の連中に、君が誰の所有物であるかをはっきりと刻み込んでやろう」 レオンハルト陛下が優雅にひざまずき、私の手を取った。 ルカ殿下が「ちっ……後で絶対代わってもらうからな」と舌打ちをして引き下がる。 オーケストラが、緩やかで甘美なワルツを奏で始めた。 私はレオンハルト陛下に手を引かれ、大広間の中央へと進み出た。 彼の大きな手が私の腰に回り、グイッと強く引き寄せられる。二人の距離はゼロになり、彼の高い体温と、高価な香木の香りが私の理性をくすぐった。「……驚いたよ、エルゼ。君は計算機を叩くのと同じくらい、ダンスのステップも完璧とはね」 ステップを踏みながら、レオンハルト陛下が耳元で低く囁く。「当然の嗜みです、陛下。ダンスは相手のリード(経営方針)に合わせて最善の動きを返す、究極のコミュニケーションツールですから」「君は本当に、どんな時でもブレないな。だが……」 レオンハルト陛下の腕にさらに力がこもり、私を抱きすくめるように密着した。 黄金の瞳が、私を逃げ場のない熱で射抜く。「もう、ただの『ビジネスパートナー』という肩書きでは、私のこの渇きは満たされない」「……陛下?」「国庫の鍵だけじゃない。私の
Mehr lesen
ZURÜCK
123456
CODE SCANNEN, UM IN DER APP ZU LESEN
DMCA.com Protection Status