その夜、グランゼール王国の王城は、文字通り「暗黒」に包まれていた。 建国記念祭の華やかな熱気は完全に冷え切り、城内の魔導灯は一つ残らず沈黙している。予備の古びた燭台から放たれる頼りない炎だけが、冷たい石造りの廊下を薄暗く照らしていた。 「……寒い。おい、暖炉の火はどうした! なぜ火の魔石を補充しない!」 執務室の豪奢なデスクに突っ伏していた王太子アルフォンスが、苛立ちに任せて声を荒らげた。 彼の隣のソファでは、自称聖女のミリアが安物の毛布に包まり、ガタガタと震えている。あの婚約破棄の夜、エルゼに最高級の特注ドレスを没収された彼女は、今や侍女の予備着のようなみすぼらしいワンピース姿だった。 「アルフォンス様ぁ……ひどいですぅ。お城のベッドも冷たいし、お湯も出ないなんて。私、お肌がガサガサになっちゃいますぅ……」 「我慢してくれ、ミリア。すぐに復旧するはずだ。おい、誰かおらんのか!」 アルフォンスの怒鳴り声に応えるように、バタンッと勢いよく執務室の扉が開いた。 転がり込むように入ってきたのは、顔面を蒼白にした王国財務大臣だった。その手には、震えるほどの厚さの報告書が握られている。 「で、殿下ァァッ! た、大変でございます! 国家の非常事態です!」 「うるさい、大袈裟な奴だな。どうせエルゼの嫌がらせだろう。あの女が管理していた魔力回路の権利を、力ずくで国庫に没収すれば済む話ではないか」 「それが、不可能なのです! ブラウベルト公爵家は、すでに王都の全インフラ設備の『所有権』を他国へ売却し、一族郎党を連れて領地へ引き払ってしまいました! 今、この城の魔力回路を勝手にいじれば、それは『帝国』への明確な器物損壊(敵対行為)とみなされます!」 「なっ……なんだと!?」 アルフォンスは弾かれたように立ち上がった。 エルゼが自分の元を去ったことなど、彼にとっては「生意気な女が消えて清々した」程度の認識でしかなかった。少し不便にはなるだろうが、王家の権力さえあればすぐに代わりなど見つかると思っていたのだ。 だが、現実は違った。 「そ、それだけではございません!」 財務大臣は涙目で報告書をめくった。 「王都に続く主要な物流網である『ブラウベルト運河』および『東部街道』が、公爵家の私兵によって完全封鎖されました! 理由は『通行税の
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