白亜の豪華魔導客船『アウグスト・グロリアス号』が、紺碧の海を切り裂き、アウグスト帝国の帝都ガルデアの専用港へと滑り込んだ。 他国の一大商業国家をわずか数日で完全買収(M&A)するという、大陸の歴史を塗り替える偉業を成し遂げた帰還である。しかし、港に詰めかけた文武百官や侍女たちの間に、勝利を祝う歓声はなかった。あるのは、張り詰めたような緊張感と、慌ただしく行き交う治癒士(メディカル・エグゼクティブ)たちの足音だけである。「お、お嬢様……っ! このセバス、お嬢様が船内でシステムダウン(昏倒)されたと聞き及び、心臓が停止するかと思いましたぞ……っ!」 帝城の奥深く、花嫁衣装の身支度を整えたあの思い出の最高級寝室。 ベッドの傍らで涙をボロボロと流すセバスを筆頭に、本国の財務省本局の若手官僚たちも一様に青ざめ、手元のマニュアルを握りしめてエルゼの無事を祈っている。 当の本本人であるエルゼ——『エルゼ・フォン・アウグスト』は、シルクの寝具に身を包み、背中にいくつものクッションを当てがわれた状態で、ひどく不満げに眉をひそめていた。「セバス、過剰な労い(アナウンス)は不要です。私は先ほど申し上げた通り、一時的な過労によるマイナートラブル、あるいは自律神経の一次的なバグだと推測しています。体調(コンディション)はすでに七割方復旧(リカバリー)しておりますので、今すぐ旧ゼムリア領の税率統合法案の最終決裁を——」「却下だ、エルゼ」 低い、しかし絶対的な重みを持った声が、エルゼの言葉を冷徹に遮った。 ベッドの右側に立ち、エルゼの細い肩をやさしく、しかし拒絶を許さない力強さで抑え込んだのは、皇帝レオンハルト様である。その漆黒の軍服からは、いつもの大人の余裕は消え失せ、底知れぬ焦燥と心配がその黄金の瞳に張り付いていた。「これ以上の残業(デスクワーク)は私が皇帝権限、いや、夫としての絶対命令で禁ずる。君のその小さな身体に何かあれば、私がこの手で手に入れた帝国の黒字など、一シリングの価値もなくなる」「そうだよ、エルゼ! お前、自分の身体のパラメーターを過信しすぎなんだ!」 左側からベッドに滑り込んできたルカ様が、エルゼの左手を両手できつく握りしめ、顔を真っ赤にして怒鳴るように言った。白い皇子服を乱れさせた彼は、今にも泣き出しそうなほどに目を潤ませている。「僕の魔力回復
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